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とりあえず俺以外の二人すごくない?

 茂みからゆっくりと歩いてくる音。


 また一つ、また一つとその音が近づいてくる度に、俺は身体を起き上がらせようと力を込めるが、ピクリとも動かない。


 そして――


「やぁ」

「テッド?」


 茂みの中から現れたのはメルシャ、もといテッドだった。テッドはメルシャの姿で俺の前に現れると、呑気に片手を振った。


「お疲れ様、相当やられたみたいだねー」


 と、軽口を叩きながらも、どこか気にした様子で俺の身体の傷を確認した。


 そして、重傷であるも命に関わるほどのものではないと判断すると、俺の下で囚われている蜘蛛型に視線を移した。


 そして、自身の愛刀であるゲイルアンサラーを鞘からゆっくりと抜いた。


「リオン、やってもいいよね?」

「……おぉ」


 テッドはにこやかにそう言うと、俺の身体を持ち上げ、近くの木に寄りかからせてくれる。


 見た目は俺よりも細身に見えるが、どういう原理なのか、実際は俺よりも力があり、俺をわざわざお姫様抱っこで持ち上げたのには絶対ふざけてやってる。


「いやぁ、うずうずしてたんだよね」

「知ってる」

「今なら邪魔もいないみたいだし」


 テッドという元盗賊の大将は、ありとあらゆるものに対する好奇心がパーティの中でも一番を抜けている。あのバカ馴染みが一つのものに対して拘り続けるなら、テッドはさまざまなものに異様な執着心に近いものを見せる。


「イレギュラーのサーベルデッドナイト。こんなに面白そうなもの戦わないなんてもったいない」


 普段は他のバカどもの影に隠れているが、コイツもコイツで度を超えた戦闘狂だ。


「あ、もしかして僕のために残してくれたとか?」

「そんな余裕ねぇよ」


 テッドはゲイルアンサラーを軽く振ると、俺が作った【壁】の牢獄に近づいた。


 当たり前のように太刀筋の見えない速度でスクロールをすべて切り裂くと、わざわざ回復薬をサーベルデッドナイトにふりかけた。


 蜘蛛型は困惑した目をテッドに向けたようだが、あれはたぶん戦慄というものだろう。


 目の前の女(実際は男)が獣顔負けのぎらついた目で、吸血鬼かと思えるほど鋭い歯を向けて笑っているのだから。


「楽しませてね。大丈夫。ちゃんと加減はするから」


 その言葉に蜘蛛型は本能に従った。


 相手にするのはマズい。殺される。生きなければ。生き残るためにできること。今自分ができることは何か。


 蜘蛛型と俺の目が合った。


 その目を俺は何度も見たことがある。感情などないはずの魔物が、まるで動物のような目をする。縋るような目。


 だが、それに俺は答えられない。


 俺がコイツらを止めることなんてできるわけがない。できたらとっくにこんなパーティ抜けてるっつうの。


「ガガァッ!」


 蜘蛛型は動けない俺にねらいを定める。俺を人質にでもしようとしているのだろうが。


「そんなのはつまらないよ」


 その間に高速で割って入ったテッドはゲイルアンサラーの切れない部分を蜘蛛型に叩きつけた。


 ゴキゴキィッ。


「うへぇ、いたそっ」


 骨の割れる音に顔を顰めると、蜘蛛型はあっさりと地面をバウンドした。


 だが、さすがはイレギュラーと言ったところか。蜘蛛型は数度のバウンドで、着地を決めると、思い切ったように茂みの中に姿を隠す。


「うん、いいね!」


 テッドの速度なら茂みの中に隠れた蜘蛛型を見つけることも、蜘蛛型以上に気配を消して、蜘蛛型の首をあっさりと取ることもできるだろう。


 それをしない理由は単純で、ただつまらないから。


「全力を知り、全力を叩いてこそ僕の経験値になる」


 意味不明な理論だが、テッドがそう言うのだからツッコんだところで無駄。


「……っ!」


 静かな森の中から聞こえてくる些細な音。


 この音を頼りに蜘蛛型の位置を特定する。それを妨害するように蜘蛛型はブラフを入れてくる。


 いくらテッドでもそれを見破ることは難しい。……わけもなく。


「んー……」


 それではつまらないとばかりにテッドは腕を組んだ。どうやったら楽しめるかを考えるその余裕、身体を動かせるのなら今にでもドロップキックをぶちかましてぇ。


「うん、決めた」


 テッドは突然手をポンと打つと、耳栓を取りだした。どっから持ってきたのか、なぜ持ってきているのか、聞くだけアホ。


 キュポッと耳栓をすると、テッドは目をつむった。


「おいおいおいおいっ!」


 いくらなんでもそれは無茶だろっ。そう思ったが、それを口にしたところで耳栓をしてしまった今、どれだけ叫んだところで聞こえないだろう。


 案の定、バカにされた蜘蛛型が怒りの表情で茂みの中から飛び出してきた。


 音も目も使えないテッドはそのことに気付くわけがない。


 バカ馴染みなら空気を感じて、空気の変化に対応してそのことに気付くだろうが、テッドはその域には達していない。ってか、あのバカ馴染みの野郎マジでイカれてる。


 とにかく、襲撃に気付かないテッドはあの攻撃にさすがに対応できるわけが……。


 そう思いながらも動けない俺は、蜘蛛型の剣がテッドに突き刺さるその瞬間を見ることしかできなくて。


 ザシュッ。


 その音が何の音か理解できなかった。それは俺だけでなく、きっと蜘蛛型も同じだったはずだ。


 バタリ、と倒れたのは、いや落ちたのは蜘蛛型の上半身と下半身だった。


「ガ……ガガ?」


 何が起きたのか理解する間もなく絶命した蜘蛛型はきっと一番の不幸だったに違いない。


「いやぁ、やろうと思えばできるもんなんだね」

「……いや、いやいやいやいやっ!」


 気付けば俺は動かないはずの身体を起こして、なんなら腕も振っていた。


「なにやってんの!? いや、なにやったの!? は、はぁ!?」


 俺の中の疑問ラッシュに対して、テッドはキョトンとした様子で首を傾げると。


「ん? 歯が触れた瞬間にカウンターを決める練習だけど?」

「な!? なぁ……」


 あ、ダメだ。これ理解しちゃいけないやつだ。


「ぶっつけ本番って怖いじゃん? だから練習」


 いや、その本番が今だったんじゃねぇのかよ。ツッコみたい、ツッコみたいけど……!


「もういいや。それより……おい」

「ん?」


 俺が手のひらをテッドに向けると、テッドはまたしてもキョトンと首を傾げて犬のように俺の手のひらにポンと手を置いた。んなわけねぇだろ。


「あ、もしかして起き上がらせてほしいの?」

「違ぇわ。お前、回復薬持ってたんじゃねぇか。寄こせ」


 蜘蛛型にかけるまえにまず俺から回復してくれない?


「え、でも満身創痍の方が接戦だったリアリティあるよ?」

「リアルで動けねぇんだよ!」


 なるほど、と頷いたテッドから回復薬をもらうと、一気に回復薬を飲み干す。冗談抜きで生き返った気分だ。


 多少痛みは残っているが、これならキキョウのところにも帰れるだろう。


「ってか、回復薬持ってきてたのかよ」

「ううん、持ってこなかったからさっき取りに行ったよ」

「……もういいよ、もう」

「?」


 どうりでここに来るまでに時間が掛かってると思ったら、お前街に帰ってんのかよ。


「あ、サンドイッチいる? ケイラが作ってくれたよ」

「お前ちゃんと街でゆったりしてたよな!?」

「あ、そういえばあのスクロールの店長さん? しばらく店閉めるって」

「なんの情報だよ!? いや、結構大事な情報じゃねぇか!」

「元気出てきたね」

「うっせぇわ!」


 ってか、マジでスクロールどうすんの?


 トーカに作らせてもいいけど、アイツそのとき倍の金額むしり取ってきやがるし。俺の周りにいる奴ら、ホントにクソだなっ。


「なんなんだよ、もう……」

「まぁまぁ、どうどう」

「お前に言われたくねぇの」


 こっちが死にかけてるときに、そっちは優雅に街に帰ってるとか。俺報われなさ過ぎる。


「それで、キキョウさんはどこに行ったの?」

「キキョウは人型の方と戦ってるよ」

「えぇ? もう片方もやりたいのになぁ」


 もしものことがあったらそうしてくれ。


 と、そんなことを言い合いながらキキョウと分かれたところにたどり着くと、鉄同士がぶつかり合う音が少し離れたところから聞こえてきた。


「おっ、やってるね」

「あまり顔を出すなよ?」

「わかってるって」


 キキョウに気付かれないところから戦闘を観察してみると。


「へぇ、意外と、っていうか普通に優勢だね」

「そのようだな」


 キキョウは一本の剣で四本の剣と互角以上の戦いを繰り広げていた。


 その一本一本が流派の違う剣技を繰り出す相手を前に、冷静にその技を分析し、いなすところはいなし、躱すとこは最小限の動きで躱し、四本の剣の隙を狙って攻撃にまで転じる。


 Aランクの冒険者を何人か見てきたが、彼らとは一線を画す強さと言ってもいい。


 もしAランクよりも上のランクにSランクというものがあったはずだ。


 俺達【神の心臓(ゴッドハート)】はSSランクに位置し、その下のSランクには誰もいない。


 なぜなら常人や天才でもない天災である俺達のために作られたのがSSランクであり、Sランクは俺達の影響で作られた存在しないランクだ。


 そのSランクに彼女は充分に入るのではないだろうか?


 サーベルデッドナイト、しかもイレギュラーを相手にあれだけ戦えるのならば……。


「でも、なんだかあっちのサーベルデッドナイト、動き悪くない?」

「疲れと、俺が手榴弾ぶち当てたからな?」

「あ、なるほど。それでリオンはあんなにボロボロだったわけで」


 だが確かにテッドに言われて気付いたが、あの人型、俺と戦ったときより少し動きにぎこちなさというか、攻撃と攻撃の間に最初はなかった隙が生まれているような気がしなくもない。


「これで、終わりですっ」


 そのあとも戦闘は続いたが、次第にキキョウが完全に押し始め、人型の腕は二本斬り飛ばされ、ただのサーベルデッドナイトと化していた。


 そして、懐に潜られたサーベルデッドナイトはキキョウから胸を貫かれ、背中から倒れて動かなくなった。


 キキョウの周りを見てみると、木々が倒れており、俺と分かれた後に壮絶な剣のぶつかり合いがあったのだと察する。


「ホント……すごいねぇ」


 俺の隣で、テッドも納得したように頷いており、テッドも彼女の強さに珍しく感嘆しているようだった。


「行くか」

「そうだね」


 俺が立ち上がると、テッドも立ち上がり、俺の右腕を自分の肩に乗せるように回した。


 いかにも戦いに疲れたドリューに肩を貸しているように演技を始める。


「……よぉ、そっちも終わった、みたいだな」

「ドリューさん! と、メルシャさん!? なんでここに!?」

「私も冒険者だよ? 二人に任せっきりじゃいられないよ」


 スッと切り替わるこの速度なんなん?


「でも女性に無理をさせるのはちょっと……」

「あれ? 言ってなかったっけ? 私、男なんだけど?」

「……ふぇ?」


 ポカンとした表情を見せるキキョウ。


 つうか、俺も今思い出した。そんな設定だったな。


「ふふっ、女性よりも女の子っぽいでしょ? この胸も頑張ったんだからね? 男の子だって膨らませられるんだよ?」

「え、え? ……え?」


 キキョウが「本当ですか?」とでも言いたそうな目で見てくるので、俺は照れ隠すように頷く。なんでこんな演技を俺がしなくちゃなんねぇだよっ! と、心の内では叫んでいる。


「本当の名前もメルギウス・ドルーシャなんだけど、可愛くないし。最初と最後の文字を取ってメルシャって今は名乗ってるの」


 よくもまぁそんなにもポンポンとでたらめを思いつけるものだ。


 いや、そういう設定だともとから頭に叩き入れているのか。俺にはわかっていても無理な芸当だ。


「あ、あはは……。そ、それも……ま、まぁ。おかしく……そういうのも、い、いいですよねぇ……」


 何度も言葉を選ぼうとするキキョウに罪悪感だけが募るばかり。


 あぁ、キキョウが死ななくて本当によかったと思う。


 ……よし。


 俺はついに覚悟を決めた。帰ったらアイツらに報告しよう。




 俺はキキョウとパーティを組むって!




 こんなやつらよりもっとまともな人と組む権利が俺にはあると思うんだっ!



メルシャが女性のような男の設定だったって?

お、憶えてましたよ?

決して読み直してたらたまたま気付いたわけじゃないよ?

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