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とりあえず俺とテッドで変装してみない?

『【罪の裁判官】は正義である』

『ダークヒーローの誕生!』

『【神の心臓】は偽善な存在。悪を許すな、撲滅運動』


 街を歩いていると、度々そのような紙や看板を持つ人々を見る。


「変わっちゃったねぇ」


 俺の隣で感慨深そうにそう言ったのはテッドだった。


 しかし、目を向けた隣にはテッドの姿はなく、代わりにいるのはまったく見知らぬ若い少年。


「……おい」

「大丈夫だよ。声くらいじゃバレないよ」


 見知らぬ少年はテッドの声色でそう言った。


「それでもだ。敵がどこにいるのかもわかんねぇんだから」

「心配性だなぁ」


 そう答える少年を横目に、俺は店の窓に映る自身の姿を見直す。


 そこには俺ではない俺がいた。


 いつもの服でも、俺がよく知る顔でもない。


 まるで異国から来た観光客のように、微妙にズレた服を着こなすすらっとした青年。


「もしかして自分に見とれちゃってる?」

「んなわけねぇだろ」


 テッドの馬鹿げた質問に片手を頭に当てる。


 そんなことよりも俺が気になるのは。


「なんなんだよ、これ?」


 そう言って俺は下げている方の腕を見る。


 そこには少年に扮したテッドが、気持ち悪いくらいに俺にぴったりとくっついている。


 具体的に言えば、俺の腕に抱きつくように、あるはずもない胸に押しつけるようだった。


「ダーリンは照れ屋さんだなぁ」

「マジでやめてくれ……」


 女に見えなくもない少年の笑顔に、俺の背筋が凍る。


 マジで嫌なんだけど。


「僕達はこの国に観光しに来た男同士のカップルっていう設定だよ? これくらいやらないと」


 わざわざ恋人らしく、俺の耳元でそうささやくテッド。


 耳が吐息でこそばゆいし、ゾワッと来た。


「なんでこんな設定をつけたんだよ。普通でいいだろうが……!」

「もう、拗ねないで。ダーリン」

「おい、それはマジでやめろ」


 俺の頬に人差し指をクイクイするのをやめろ。周りの人も引いてんじゃねぇか。


「周りから引かれるくらいがちょうどいいよ。僕達を無意識に避けようとするからね。僕達が多少違和感のある動きをしても、周りはそれに気付かない」

「ホントだろうな、それ?」

「僕がどれだけ変装してきたと思ってるの? それともリオンはセラフィの方がよかった?」

「考えたくもない」


 だからといってなんで男同士でこんなわけわかんないことをしなきゃいけないんだ。


「ケイラは何かすることあって、シュリは大聖堂でレーナの行動に対する対応に追われている。トーカはトーカで気付いたらいなくなってたし。イグスはこういうの向いてないわけで。そしてセラフィは絶対に嫌なんでしょ? なら、こうするしかないじゃん」

「ぐ……」


 それはそうなんだが、理屈はわかっていても納得はしないんだ。


「……話は戻すけど」


 どこか腑に落ちない俺を横目にテッドはそう言うと、改めて周囲をさりげなく見渡した。


「最近はどこに行っても【罪の裁判官】を養護する声っていうか、僕達を邪魔者扱いしてるね」

「まさかここまで影響があるとは思わなかった」


【罪の裁判官】が立てた建前が急激な速度で王国に浸透し始めていた。


 罪を犯した者を許すな。


 罪人は一人残らず死んでしまえばいい。


 罪人を裁ききらない【神の心臓】は偽善者で悪である。


 最初は小さな波だったものが、気付けば大きくなって、俺達を敵対視する人らが現れた。


「こうして変装しなきゃ街も碌に歩けないなんて。セラフィがあんなにも焦っていた理由が今ならよくわかるよ」


 作戦会議のあの日、バカ馴染みは街で【罪の裁判官】の話に賛成する者を見たらしい。


 それからすぐに俺達にそれを報せたわけだが、まさかそんな小さな火がここまでになるとは当初は誰も思わなかった。


 今や俺達の家は少なくない数の人達に囲まれている。


 シュリの結界のおかげで、部外者である彼らが俺達の家に侵入することはできないが、俺達はテッドがこっそり作っていた裏通路以外で家を出る方法がなくなった。


「ほら、これ見てよ」


 テッドは懐から新聞を取り出すと、ある一面を俺に見せた。


 そこにはまた、どこかの国や監獄で罪人が殺されたという話だった。


「僕達が身動きを取れないことをいいことに、彼らはこうして挑発するように事件を起こしていく」


 それに見てよこれ、とテッドが指差したところには「正義の鉄槌」という文字が書かれていた。


「彼らが正義だって、マスコミが認めちゃったら、それこそ僕達の居場所がなくなっちゃうよ」


 かつては聖女だったレーナの影響もあるのだろう。もはや【罪の裁判官】は一つの宗教のように世界に広まっていく。


 それなのに、俺達は彼らの手がかりを掴めないまま。


「まったく嫌になっちゃうよ」


 テッドがぷくっと顔を膨らませていると、俺達の足下に一枚の紙がひらりと落ちてきた。


「あ、あの……!」

「ん?」


 それは俺達がよく知る冒険者ギルドで発行される依頼書(クエスト)だった。


 そしてこれを落としたであろう女性が俺達の前にオドオドとした様子で立っていた。


 女性は俺達が拾った依頼書を指差して。


「あ、あの。そ、それ。いいでしょうか?」

「え? あ、あぁ」

「別に取る気はないよ」


 女性に依頼書を渡すと、女性はホッとしたように笑った。


 そこまで大事なものだったのだろうか。


「チラッと見えたんだけど、お姉さんってもしかして冒険者?」

「え、あ。は、はい!」


 テッドが自然な様子でそう尋ねると、女性は力強く頷いた。


「今のそれ。かなり高い報酬額だったけど大丈夫なの? かなり強そうな魔物を倒すものだと思うけど」

「そ、そうですね。サーベルナイトデッドの討伐ランクはAなので」

「サーベルナイトデッド!?」


 その名を聞いたテッドは大げさに驚くと、全身を大きく乗り出した。


 サーベルナイトデッドは人と同等、もしくはそれ以上の剣術を身に付けた人型の魔物だ。


 見た目は全身ミイラになった人のようで、枯れた腕で持ち上げるそのサーベルは、見た目以上に重い。


 その強さにも個体差はあるが、とあるサーベルナイトデッドは魔物ながらに百人切りを達成したなんて話があるくらいだ。


 俺も何年か前にサシで戦ったことがあるが、かなりギリギリの戦いだった。


 ケイラは、サーベルナイトデッドはもとからいる魔物ではなく、賢い魔物が剣士と戦い続けた結果生まれる魔物ではないか、と言っていた。


 その定かはわからないが、そう言われてもおかしくない強さで、俺だってサシでは戦いたくない相手だ。


「それってたしかAランクの冒険者が数人集まってようやく討伐できる魔物じゃないの!?」

「は、はい。そ、そうですね」

「うわぁ、すごいなぁ。お姉さんのパーティは強いんだね」

「あ、いえ。そうではなくて……」


 と、なぜか女性は何かを言い淀んだかと思うと、ぼそっと。


「わ、私……その。ひ、一人しか、い、いなくて……その」

「……は?」

「ぱ、パーティ。く、組めなくて。……うぅ」

「一人でサーベルナイトデッドを倒そうってのかよ?」

「ご、ごめんなさい……!」

「いや、別に謝んなくてもいいんだけど……」


 正直言ってしまうと無茶だ。無謀だ。


 この人がどれだけの実力を持っているのかはわからないが、本当にあの魔物の強さは並大抵のものではない。


 別にこの人と会ったのは偶然で、この人のことを知っているわけでもない。


 こういう言い方はアレだけど、この人がこのクエストで命を散らしたところで俺には関係ないとも言える。


 冒険者たるもの、死ぬ覚悟があってこそできる職業だとも言えるし、実際、そうやって命を落としてきた人だっている。そういう話だって俺耳に直接入ってくることだってある。


 だが、だからこそこうして偶然だとしてもあって話した人物が、死地に行くことを知らないふりして見過ごすことなんて俺にはできない。


「……っ」


 止めようとしたところでハッとする。


 俺達に今、こんなことをしている暇があるのか。


 俺達が余計な行動をして、敵に動きがバレたらどうする?


 俺の一つの行動が、パーティの全滅に繋がる可能性だってある。


 そういったことが頭をよぎってしまった。


「……? あの?」


 不自然に動きを止めた俺に、女性は首を傾げ、心配そうに手を伸ばした。


 するとそこで、テッドが間に割って入った。


「お姉さん、()達もそのクエストを受けちゃダメかな?」

「え?」

「お姉さんのパーティに入れてよ」

「え、え?」

「このランクのクエストを受けようとするお姉さんほど強くはないだろうけど、それでも何かの役には立つかもしれないよ。ダメ、かな?」

「え、えっと……」

「あ、言い忘れてたね。()達も実は冒険者なんだ。ランクはどっちもBだけど」


 矢継ぎ早に言葉を重ねるテッドは、すっとギルドカードを見せる。


 それは俺達が持っているこの国のギルドカードではないけれど、確かに俺とテッドの偽名を用いたギルドカードだった。


「Bランクの人、なんですか?」

「うん、このとおり」


 ギルドカードにBランクと書かれているのを確認した女性はほんの少しホッとした表情を浮かべると、戸惑ったように俺達を見た。


「で、でもどうして?」

「ここで会ったのも縁だってよく言うじゃん。あとはAランクのクエストを受けようとしてるってことは、お姉さんはAランクなわけでしょ? Aランクの人の戦い方を見て参考にしたいし。あとはやっぱりお姉さんが心配だから、かな?」


 テッドがそう言うと、女性は少し嬉しそうに笑った。


 トーカみたいに表情が乏しいわけではないが、笑うこと、優しくされることに慣れていない。そんな感じの笑い方だった。


「あ、あのう、嬉しいです。よければ私からもお、お願いしたいです」

「うん、決まりだね」


 テッドはそう言って無邪気な笑顔を浮かべると。


「改めて()はメルシャ。そしてこっちのダーリンが」

「そのダーリンっていうの恥ずかしいからやめてくれよ……。ドリューだ」

「よろしくね~」


 呆気に取られていた俺だったが、テッドの気を遣った恥ずかしいパスのおかげで何事もなかったように名前を言う。


「わ、私はキキョウと申します。よろしくお願いします」


 それからクエストの内容を再確認し、集合時間などを決めた俺達は「また明日」と言って別れた。


 最後まで俺達に手を振っていたキキョウを真似するように、俺達も姿が見えなくなるまで手を振ると、ボソッと俺は言った。


「……いいのかよ?」

「ん? でも、リオンが顔に出したんだよ? 見過ごしたくないって」


 そう答えたテッドは、気を取り直すかのように俺の腕に身を絡ませる。自然すぎて本当に気持ち悪い。


「それに、一応やるメリットはあると思うよ? 他の冒険者と仲良くなれば新しい情報、手に入るかもしれない」

「なるほどな」

「そういうこと~」


 なんてテッドは言うが、そんな理由はとってつけたものだということは目に見えていた。


 また、気を遣わせちまったか。


「時には頼ることも大事だよ」

「頼ってばっかだっつうの。あと心を読むな」

「ひどいな~、ダーリンは」

「気持ち悪い」


 そんな感じで俺達は来た道を引き返す。


 とりあえずやってしまったものは仕方ない。この結果がどう動くのかは天に任せるとして。


 ……作り物の胸を腕に当てるな。その谷間に吐瀉物ぶちまかせてやろうか。



ゲンケイの紹介の際にも書いたのですが、サイコパスってすごいというか、私は憧れてますね。

もちろん人を殺めることに関して興味があるというわけではなく、個性の固まりだなぁ、という意味です。


自分が好きな小説だったり、アニメだったりのキャラを見直してみると、特にファンタジー系では主人公に関しても悪役に関しても、異常かと思えるくらいぶっ飛んでることに気付きまして。

有名な「ONE PIECE」だってそうじゃないですか。

夢のため(夢を諦めるくらい)なら何の躊躇いもなく死ねる、なんてサイコパスじゃないと無理ですよ。


なので私が今回キャラ付けする上でとにかく気を遣っているのがキャラがサイコパスであること、異常であること、ぶっ飛んであること、ですかね。

参考になるかはわかりませんが、キャラに一本の筋を作っちゃうんです。それで、何があってもその筋だけは絶対に曲げないようにするのがコツなのかなぁ、なんて思ってます。


そうすると、自然と「あ、このキャラはこんなこと言わねぇわ」と途中で気付くのだから面白いです。

セラフィなら、「書いてる途中でも一番先に感じたことをそのまま表現する」ですかね。これ難しいですw


だから今回みたいにキャラが多いと筋作りが大変なんですよ……

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読んでいただきありがとうございます
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― 新着の感想 ―
[良い点] テッドとリオンが男同士のカップルで来るとは予想外だった。かと思ったら谷間があるくらいの女装をしたりとやっぱりさすがだなぁ
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