とりあえずスクリーンを見てみない?
「――なるほど、そんなことがあったのですね」
国に帰ってきて、俺が最初に今回の件を話したのはフェリアにだった。
といっても、フェリアからこの件について話し出してきて、それに俺が答えただけなのだが。
さすがは貴族の頂点にいるだけはある。情報の収集が早い。
国家間だけでなく教会とも情報を随時交換しているようで、こういうのってやっぱり王家直属の機密部隊とかそういうのがいるのだろうか。
「リオン様方に挑戦状なんて身の程知らずもいいですね……とも言っていられない状況ですね」
「まったくだ」
フェリアからの言葉に俺は素直に頷いた。
いくら俺達への対策がしっかりされていたとはいえ、あのバカ馴染みに傷を負わせた相手だ。
天災の中の天災とも言えるバカに傷を負わせるなんて、当然レーナという女性はただ者じゃない。もしかしたら彼女はコチラ側の……いや、アイツら側の人間なのかもしれない。
クソ。どうしてこの時代にはこんなにも化け物じみた奴らがウジャウジャといやがる。
当のバカ馴染みはこの事態に「面白い」だのと興奮していたが、こっちからしてみれば何にも面白くはない。それどころか、幸先悪いというか、不安ばかりが募ってしまう。
「あのバカが負けるとは思っていない」
「信頼してられるのは変わりないのですね」
「そういうのじゃねぇし、たとえ俺とあのバカがそういう関係だったとしても、万が一にもそんな可能性がないが、そうだとしても、今のはいい意味じゃねぇよ」
あのバカ馴染みが傷をつけられるのは珍しいことではあるが、前例がないわけじゃない。
昔、といえるほどの歳ではまだないのだろうが、冒険者に成り立ての頃はいくらあのバカ馴染みが異常だと言えど怪我をすることはザラにあった。
その原因がわざわざ相手の策の中にド直球で突き進んだから、というのは言うまでもないことなのだろうが。
とにかく、だ。
俺が危惧しているのはそんなことではない。
それよりも問題にしたいのは、アイツに傷を負わせた相手に俺達が勝てるのか、だ。
「俺はアイツら全員を『天災』なんてひとくくりにしているが、ずば抜けて突出しているのはセラフィだ。逆に言えば、セラフィとそれ以外の奴らの間には少なくとも差があるということでもある」
「……その差に今回の敵がいるかもしれない。そう言いたいのですね?」
「そういうことだ」
俺が勝てないことは、まぁよくはないのだがまだいいとして。他の五人が勝てないとなるといろいろな問題がおそらく生じてしまう。
もしかしたら結果だけ見るのなら、事件は解決するのかもしれない。
他の五人、そして俺が今回の敵に負けたとしても、絶対的な強さを誇るバカ馴染みがいれば最終的には一人ですべてを解決してしまうのかもしれない。
しかしその後はどうだ?
これまで苦汁を舐めてきたことがあっても、本当の敗北を知らない五人にとって今回の敗北は自信の消失になる恐れがある。
アイツらの強さの根本は自信と言っても過言ではない。
自分が負けるはずがない。自分ができないはずがない。
そう言った傲慢とも言えるプライドがこれまでアイツらを支えてきたように俺は見えている。
もちろんアイツらのことだ。
折れてしまったとしても、そこからまた立ち上がってくる可能性はある。
だが立ち上がらなかった場合は?
立ち上がってきたとしても、事件や問題はいつだって突然出てくる。もし、それらに間に合わなかったら?
俺は……知らないんだ。
俺の隣、いや俺がこれまで見てきたのはバカ馴染みの背中だけ。
これまで怪物しか見てこなかった俺は、普通の人が心を折られたとき、どのように立ち上がってくるのか、どれだけの時間をかけて立ち上がるのか、そういうことを俺は知らない。
だからわからない。
アイツらの自信の源がぽっきりと折れてしまったら……そう考えて、やっぱり俺には為す術がない。
まったくもってひどい話だと思う。
こうして俺が悩んだところで、これは絶対に解決できないことで。合理的に考えれば考えない方がいいことだ。
だが俺はどうしてもその可能性を考えてしまって、でも答えは絶対に出なくて、結果、俺がただ一人悩んでいるだけの現状。
……くそ。
「大丈夫ですよ」
そんな俺の心情をやすやすと見通してくるフェリアが優しく微笑んだ。
母性、とは違うのだろうけど、温かい笑みだ。
「トーカにも同じことを言われた」
「でしょうね」
「情けない限りだ」
「そんなことはありませんよ」
フェリアは断言した。
「確かにそういうことは考えない方がいいのかもしれません。考えるだけ無駄だって、簡単に捨てることができるのならいいのかもしれません」
フェリアはそう言うと、手に持つ紅茶を置いて窓の外を見た。
王国を陰から支えるように立つ一本の大樹が遠くからでも見える。
「でもそれを考えてしまうのが人であって、そういう想いが皆さんを支えているんです」
「俺がアイツらを支えてる、ねぇ?」
「誰かに心配されているって、嬉しくありませんか?」
「時と場合による」
「捻くれていらっしゃいますね」
「ほっとけ」
フェリアのおかげで、ほんの少し空気が軽くなったときだった。
「……それよりも――」
と、フェリアが何かを言おうとした矢先。
「た、大変ですっ」
フェリアの侍女であろう女性が勢いよくドアから飛び出すように入ってきた。
その表情は鬼気迫るもので……何かはわからない。だが、俺の全身が何かに反応した。
なんだ? 恐怖? 悪寒? これは、違和感か?
今までに感じたことのない感覚が俺の内部から湧きあがる。
「今すぐ来てくださいっ」
そんな衝動のようなものもあってか、俺とフェリアは侍女に促されるがままに席を立ち移動を始めた。
案内されたのは街を見渡せるほどの大きなバルコニーだった。
そこにはすでに騎士がいくらか集まっていたが、俺達の姿を見ると同時にサッと場所を空けた。
いったいなんだっていうのか。
そんな問いを尋ねる前に俺達の目に映ったのは、街の上空に映し出される奇妙な映像。
「あれは……」
「大型魔動映像機、ですね」
かつてトーカが囚われていたオメルガが得意とする魔動具。
これは、空気中の魔力を使って、遠く離れた景色や風景、音を、今を映像として空気中に映す道具だ。
オメルガと同盟を交わし、それに伴い、俺達はオメルガの産業の一部を受け入れた。
受け入れたというよりは寄こせと脅迫したに近いが。
ともかくその甲斐あって、今やこの国には魔動具が普及し始めている。
しかし映像機自体はこの国にもう導入されているもののまだ家庭用の小型のみで、この大きさの映像機はまだこちらに運ばれていない。
「どうやらオメルガから流しているようですね」
「いくらなんでも離れすぎているだろ。できるわけがない」
トーカが言うには、あれが映し出せる映像の距離は決まっているという話だったはずだ。
いくらかの中継地点があれば別の国同士でも可能らしいのだが、もちろんオメルガとこの国にはまだそんなものは張られていない。
「それをなんとかしてしまっている。……不気味ですね」
「あぁ。だが不気味っていうなら」
映像にはいくつもの十字架が映し出されていた。
十字架は地面に乱雑に突き刺さっており、誰が見てもただの布教活動ではないことは見て取れた。
『よぉ。久し振り、って言えばいいのか?』
その声は聞き覚えのあるものだった。
「今の声って」
「……はい。私も立場上、何度か聞いたことがあります。間違いないと思います」
俺に続き、フェリアも頷いた。
そうか、確かにフェリアという立場なら何度か会っていてもおかしくない。
ってことはやはり。
『聞こえてんだろ? 神の心臓ども♪』
まるで声と口調が合っていないようなこの話し方。
「先代の聖女、レーナ様ですね」
フェリアがそう言って映像を睨むと、それに応えるように映像の横から姿を現わした。
肩に掛かるかかからないかくらいの短めの黒髪に、獰猛な獣のような目。しかも片方は橙の色をしているのに対して、もう片方は紫というオッドアイ。
あのときは状況に混乱していたこともあったのだろう。しかし、こうして改めて見るとどことなく男のようにも見える顔だ。
だからこそ、余計に女性声であることに違和感を覚える。
『あ~、まぁ安心してくれ♪ 別に俺達は悪い奴らじゃねぇよ♪』
レーナは姿を見せて開口一番にそう言った。
『俺のことを知っている奴もいるんだろ? そうだ、間違いねぇよ。俺は先代の聖女だ♪』
今さら隠す気なんてさらさらない、とばかりに自身のみをバラすレーナ。
いったい何を企んでいる?
『ここ最近、いろいろなニュースがあるだろ? 魔剣が盗まれたやら、どっかの監獄の囚人どもが死んだ、とか♪』
コイツ……!? 本当に何企んでんだ!?
思わずバルコニーの手すりから身を乗り出しそうになる勢いで映像を見入る。
『まぁ、なんだ? 全部とは言わねぇけどよ、今日騒がれている事件だけどよ。実は、あれ、俺達の仕業なんだよ』
ざわっ、と街の声が聞こえたような気がした。
まさか自分が犯した罪を自分で、ましてやこんな大勢の前で暴露だと? まさか自首するわけでは当然ないだろうし。
くそ、敵のねらいがまったくわからない。
いや、つうかちょっと待て。こいつ、さっきから……。
「俺、『達』ってことは……?」
「ケイラ様の予想通り、敵は一人じゃないってことですね」
フェリアが映像を見ながら俺の隣に立った。
「リオン様、彼女の後ろに映る十字架よく見てください」
「あん?」
フェリアにそう言われ目を凝らす。
どれもバラバラに地面に突き刺さる十字架。それ以外は特に変わったところはないように見える……が、よく見てみれば、どこか違和感を感じる。なんだ? 逆光、か? 十字架のシルエットのみが見えるのだが、そのシルエットにどうも違和感を覚える。
十字架の……頭の方だろうか? 僅かに丸みを帯びているがそういう十字架だって別におかしくはない。だが、違和感というのはあれだろうか。普通なら、頭の方が丸みを帯びているなら、手の部分とでも言うのだろうか。横の部分も丸みを帯びていなければ……っ!?
「おい、まさかあれって!」
「頭、ですね」
あれは先端が丸い十字架じゃない。先端に取り付けているのか!? 頭を!?
「幸い、私達以外はまだ気付いていません」
「そういう問題じゃねぇだろ!」
「えぇ、おっしゃるとおりです」
『俺はなぁ、悲しいんだ♪』
映像の中のレーナはわざとらしげに顔に手を当てると、左右で色の違う目だけをこちらに見せる。
『聖女をやめてから、いろいろな国を回っていろんなものを見た。いろんな奴を見た』
その目と合ったような気がした。
『俺は悲しくなったよ。一度罪を犯した奴らが平然と街中を歩いていて、平然と笑って生きているんだ。まるで何事もなかったかのように。もう自分は罪を償いましたと言わんばかりに』
ふと周りを見てみると、俺だけじゃない。周りにいる騎士達もフェリアもその目に見入っていた。
『教会は罪を許す場所だ。だがよぉ、罪がなくなるわけじゃねぇんだ♪』
マズい、と思った。何かを察知したのだ。
『一度罪を犯した以上、一生償わなければならない。それ以降の幸せなんて望んではいけねぇ。にもかかわらず、幸せそうに笑っている奴もいれば、そもそも償う気なんてさらさらねぇクズ野郎がいる始末だ♪』
ザッ、と頭の中に砂嵐が吹き荒れるような感覚がした。
『ダメだと思った。やっぱり人間はそういう生きもんだからしょうがねぇ。だからよ――』
これ以上これを聞いてはいけない。……違う! この場にいちゃいけねぇ!
「フェリアッ!!」
「……っ!?」
『罪人は誰だろうが全員殺すことにした。その邪魔をするってんなら……【神の心臓】ども』
――喧嘩しようぜ♪
その瞬間。
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
フェリアが悲鳴をあげた。
まったくどうでもいい話ですが。
ツイッターを始めました。
……そして一日でやめました。
正確には+3日ほどやってはいたのですが、投稿を消しているので現在のツイート数はまさかの1。
何を呟けばいいのかもわからないし、ツイッター開くのも面倒くさいし。
「独り言を世界に発信するってなんや?」と今に乗れないおじいちゃん的なことを考え始め。
結果的に。
「あ、自分ツイッター向いてないな」
という結論で人知れずツイッター人生を終わらせましたw
そこで思ったのが「もうあとがきで言えばいいじゃん」となったので、これから何か話があったらあとがきに載せることにします。
……今を乗れない若者の叫びでした。
では、また!




