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とりあえず魔剣が封じられた空間を体験してみない?

 なん……だっ!?


 シュリが開けた扉の先の光景は、俺も、きっと誰もが見たことがないものだった。


 空間そのものが、ありとあらゆる絵の具で混ぜ合わせたような歪な色を出して、円なのか曲線なのか、直線なのか決まったものが何もない。


 まだ扉の先に足を踏み入れたわけではないはずなのに、自分が今いる場所、立っている場所すらよくわからなくなってくるような感覚。


「っと、大丈夫リオン?」

「え、あ、あぁ」


 俺の背中をテッドに支えられて、そこで自分の重心が崩されたことに気付いた。


「これは、驚いたね」


 俺を支えるテッドもあまりの光景に冷や汗を垂らしていた。


「ここにはたくさんの魔剣が保管されています」

「保管、ということはやっぱり封印されているわけではなかったのね」


 ケイラの質問にシュリは黙って頷き、ケイラも特段驚いている様子はなかった。まるで自分の予想が確信に変わったように、どこか納得しているようにも見えた。


「封印はできません。が、このように隠すことはできます」


 シュリはそう言って扉を閉めると、先ほどのように手を軽く扉に触れたあとに、もう一度開けた。


 すると、先ほどの光景がまるで嘘のように、何もない大広間がそこにあった。


「同じ座標にあっても、別の空間にあれば影響は受けません」

「そうね。知識で知っていても、それを目にすることは初めてだったから少し驚いたわ」


 俺にはまったくそうは見えないのだが、ケイラはつまらない意地で嘘をつくような女じゃない。


 本当に少しだけ驚いていたのだろう。


「これから皆さんには先ほどのねじ曲がった空間に入ってもらうことになります」

「え、それって大丈夫なの?」


 テッドが当然の質問をする。


 足を入れる前から、自分の立ってるかもどうかもよくわからなくなるくらいだ。


 実際に足を出したら奈落の底に落ちていく、なんてシャレにもならない。


「意識だけしっかり持っていただければ大丈夫です。私達の視界が空間の中では歪になっているだけで、地面もあれば壁もあります。最悪、私の回復魔法で精神を回復させることもできます」

「その最悪があるかもしれないように聞こえるな……」


 回復するから大丈夫なんて、死にかけるけど死なないから大丈夫、と言われるのと同じようでなんとも気が引ける。


 しかし、シュリの話はさっきの空間に入らないと続けられないのだろう。


 ……どうしたものか。


 なんて考えていると、そんな俺をずいっと押しのけたのは。


「なにそれっ、楽しそう! いってみたいっ!」

「おま……っ!?」

「リオン、ここは即決でしょ! こんな楽しいこと体験してみないとね!」

「楽しいことってお前なぁ」

「別に死なないならいいじゃん」

「だから死なないならいいとかの話じゃないんだが」

「リオン、ここで迷ったところで意味はないのはわかってるでしょ」

「ケイラ」

「どのみちあなたは進む。答えが変わらないのなら即決した方が話が早いわよ」


 確かに言ってることは間違ってないんだろうが、そんな簡単に割り切れるほど俺はお前らみたいな天災じゃないんだ。


 バカ馴染み、ケイラに続いてそれぞれ覚悟を決めたように扉の前に立つ。


 あとは俺一人だけ。


「あぁもう、わかったよくそっ」


 やけくそ気味に足を前に踏み出すと、シュリがドアを閉めた。


 あぁ……行きたくねぇ。


「では、開けますよ」


 再びシュリがドアを開け、どこまでも続きそうな異次元の空間が目の前に広がった。


 何度見ても慣れそうにない景色に、思わず腹の中から気持ちの悪い酸味がこみ上げてくるが、口から出さまいとグッと堪える。


 先ほどまでとはうって変わり、最後列にいる俺は仲間達の様子が自然と見えるのだが、コイツら、さっきのたった一回でもう慣れたかのように平然とした顔をしてやがる。


 化け物らめ。


「あ、じゃあついでだからさ!」


 と、その中でも一人だけ満面の笑顔を浮かべるバカ馴染みは、思い出したかのように俺達に振り返って。


「みんなであれやろうよ! はじめのい~っぽ、ってやつ!」


 ……みんなって誰だろうな。お前にそんなやついたか?




 ★☆★




 歪んだ空間を歩きながら、シュリは話の続きを始めた。


「魔剣が世界の歪みが集まったもの、とまで先ほど言いましたね」

「おおぅ……」

「なので、魔剣の周囲は世界の法則から大きくねじ曲がったものとなり、それがいわゆる魔剣のデメリットというわけです」

「うおぅ……」

「その魔剣が集まれば、世界はさらに歪み、結果今のこの空間ができあがってしまうわけです」

「うぷっ……」

「ちょっとリオン、この気持ち悪い場所でさらに気持ち悪いもの吐き出さないでよね?」

「……」


 わ、悪いなケイラ……。


 今はそれにツッコむ余裕もなければ、それをしないという保証も俺にはない。


 つうか、マジで具合悪い。なにこれ。ずっと酔わされてるみたいな奇妙な感覚だ。


 歩いているはずなのに、歩いているとは思えない。


 景色が変わっているなら前に進んでるなんてよく言うが、歩いていなくても景色は常に一定じゃないからその言葉は今の状況に当てはまらない。


 地面に足をつけているはずなのに、奈落に落ちているような、重力がまったく感じられない奇妙な感覚。


 シュリ曰く、剣の重さを無くそうとした結果の魔法が、私達に重力を感じさせなくさせたとか、頭がうまく回らないから「そうなのか」としか言い返せなかった。


 正確にはそれすらもきちんと言えていないのだが。


「……はぁ。今のリオンにもわかりやすく言うと、要は、聖剣は聖剣に触れた者の魔力を吸うだけだけど、魔剣は触れていなくても周りの人達にも悪影響を及ぼすってこと」

「な、なるほど……」


 ケイラが「しっかりしなさい」とでも言いたげな目でわかりやすく説明してくれた。


 疑問が一つ解決できて、俺の頭はほんの僅かスッキリしたような気がした。


 しかし、実のところ、俺はこの空間に入ると同時に一つの疑問が浮かび上がってしまったせいで、どちらかというとプラマイゼロに戻っただけなのだ。


 で、その疑問とはいったいなんなんだ、ということなのだがそんなの……。


「ははははははっ! なにこれっ、すご~いっ! 身体ぐにゃぐにゃで変な感覚! ぶよぶよ~んのほにゃらら~ってっ。あははははははっ! たっのしぃ~!」




 バカ馴染みがこの異常空間に染まってやがるんだが?




 見るだけで気持ち悪いこの空間。


 色ですら安定していない。青や緑、黒などの不気味な色ならまだしも、赤や黄色などの一般的に言われる暖色ですら人に不快を与えるこの空間内で。


 バカ馴染みは身体を適応させやがった。


 揺れる空間に合わせてバカ馴染みの身体も合わせて揺れて、にもかかわらず色はいつも通りであたりまえの色を持っている。


 認めたくはないが、バカ馴染みの異次元にも勝る異次元さのおかげで、俺の精神面が多少緩和されているのは間違いない。


 だが、いったいぜんたいどういう身体してんだよ、いやホントマジで。


「歩いてないのに勝手に身体が進むんだけどっ! ……はっ!? これを部屋に取り入れれば歩かずして生活できるのでは!?」


 俺なら一日と経たずに気が狂ってしまいそうだが、はなから気が狂ってる狂人ガールにはそんなの関係ないよな。


「……いっそ、家全体そうしてしまえばみんな楽なのでは? 私、天才だ!?」


 やめろバカ、そんなことした時点でテメェの首は俺が切り落とす。


「セラフィ、それはさすがに私も止めるわ」


 さすがに今のバカ馴染みの発言に同意する者はいない。


 バカ馴染みの顔がどうなっているかは歪んでいるので直接確認できないが、おそらく不満そうな顔をしていることだろう。


 バカか。


「やるならせめてこの変な歪みを解消する方法は考えないといけないわ。あとで私とトーカで考えてみるから、それからにしてちょうだい」

「い、いや……うっ」


 それもちょっと違くねぇか?


 なんて話をすること数分。


 俺達は自分達が今どこをどのように歩いているのかわからないままシュリの後ろをついていく。


 しかし、突然先頭を歩いていたシュリの足が止まった。


「着きました」


 と言われ、周りを確認するもやはり俺達には何もわからない。


 ねじ曲がった空間が広がっているだけだ。


 というか、ここには魔剣が無数に置かれていると聞いていたのだが、今のところ魔剣らしきものなんて一本も見ていない。


 しかし、バカ馴染みだけがこの言葉にきちんと反応した。


「あ、確かにここにだけ魔剣ないね?」


 と。


 それはつまり、俺達は気付かなかったが、俺達は見ず知らずのうちにいくつかの魔剣の横を歩いていたことになる。


「シュリ、悪いけど私達にはまったくわからないわ」


 それについて、ケイラが代表するようにシュリに聞いた。


「す、少し待ってください」


 シュリはそう言うと、杖に向かって何かを詠唱すると、僅かに白い膜がシュリを中心に広がった。


 するとその半球の中の景色が、僅かに色を変えた。


「多少魔剣の力を弱めました。景色はそのままですが、魔剣が見えるようになったのではないでしょうか?」

「あ、あぁ……」


 シュリの言うとおり、空間は未だに気味の悪い色とねじ曲がりを見せているが、僅かに俺達の周りに剣の形がいくつかあるようにも見える。


 それらの剣を中心に歪みが強いことから、どうやらこれらが魔剣ということなのだろう。


「本当は、ここにも魔剣があるはずなんです」


 シュリがそう言って指差したのは、俺達の真正面だった。


 そこには魔剣の形の歪みはなく、そこに魔剣があったのかどうか、俺達にはわからないが、バカ馴染みだけが納得しているかのように頷いている。


 それがなんだかムカついたのは言うまでもない。


「ここにあった魔剣はここに置かれている中でも、最も凶悪で強力な魔法が込められた魔剣なんです」


 凶悪で強力な魔剣、ねぇ。


 こればっかりは仕方ないが、言葉だけではどうにも実感が湧かない。


 すると、バカ馴染みがゆらゆらと揺れながらシュリの前に移動した(んだと思う)。


 そして(おそらく)何かを覗き込むような仕草をすると。


「【インストール】」


 どうやらそれが今回行方不明になった魔剣の名前らしい。



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