とりあえず魔剣が盗まれた大聖堂に行ってみない?
たいへんお久しぶりです。
休んでいたわけじゃなく、むしろその逆でずっと二ヶ月ほど考えてました。
あとストックが6つほどあるので安心して(?)お読みください。
ホルワイト大聖堂。
先日、ここに封印してあった魔剣が行方不明、盗まれたという噂もある、いま最も警戒が厳しくなっている場所の一つだ。
周りの目が特に厳しくなっているこの大聖堂の廊下を、俺達はシュリに率いられるように歩いていた。
聖女であるシュリの付き添いということもあり、かなり俺達に対する目は厳しくないがまったくないわけでもない。
聖堂に入るときに腕に取り付けられた腕輪によって逐一位置は特定されているらしく、この腕輪を外すには特別な魔法による解除が必要らしい。
……と、言っても。
『もう分析終了したよ。外そうと思えばいつでもできるけどどうする?』
トーカが取り付けたすぐにそんなことを言うものだから、あのときはさすがに俺以外の人達もヒヤッとしたと思う。
ただ一人、シュリだけは重い表情を変えることがなかったが。
ここに来るまでの馬車の中でもシュリはそうだった。
頑なに事情を説明しようとはしなかった。
シュリと特に仲がいいケイラが話を聞こうとするも「すぐにわかりますから」の一点張り。
……はぁ。
どうしてこのパーティはいつも急に事件が舞い込んでくるのか。
「……申し訳ございません」
歩いていると、シュリが俺達の先頭から突然、謝罪を口にした。
しかし、それが何に対しての謝罪なのかはわからない。
「何の説明もなくここに戸惑うのも無理がないと思います」
「……いやまぁ、それはいいんだけどよぉ」
シュリ、悪いがそれはもうちょっと早く聞きたかった。
聖堂に入る前にそれを聞くことができたのなら、もうちょっと事態はよかったと思うんだ。
なぜなら……、とチラリと後方を見ると。
「閃いた! 次はこれくらいキラキラした部屋にしよう!」
「大聖堂全体に部外者を招き入れないための魔法陣が張られている。……けど、これじゃ甘いわね。これだと魔法陣を知っている者に突破されちゃうわ。私ならもっと厳重な――」
「この建物と俺の強度、どっちが頑丈か勝負だ!」
「大聖堂かぁ……。話聞き終わったら探索しよっと」
「リオン、新しく作ったこのスクロールを見て。それと、今師匠は旅行に行ったからしばらく店やってないって。で、このスクロールなんだけど――」
……『空気読み』の『く』の字どころか、『k』の字もないバカどものせいで、今の俺の耳にまったく話が入る気がしない。
もちろん、シュリにも事情があったんだろうし、ただ事ではないのはわかってるつもりだ。
しかしだ。
そういう話は早めに切り出しておかないと。
コイツらは常に自分自身の興味にしか関心を示さないから。
こんな特別性の聖堂に入ってしまったばかりに、もうコイツらは話を聞かないだろうな。
俺も俺だ。
普通じゃないことに慣れすぎて、もはやこれが普通に感じちゃってる自分がいて、マジ普通じゃない。俺が望む俺じゃない。
つうか、子どもの遠足じゃないんだよ。
いい歳って言えるほどの年齢ではないけどさぁ……。大人の歳じゃん? トーカは微妙だけど。
なんで俺が同じ年齢の奴らの引率の先生をやらないといけないのか。
お前らのみっともない行動が、とてつもな~く俺に恥ずかしい思いをさせてんのわかんねぇのか。わかんねぇよな、こんちくしょう。
シュリもシュリでそんな後ろの俺達の様子などまったく目にも耳にも入っていないみたいだし。
前からは寂しい月明かりのような重い空気、後ろからは太陽顔負けのうるさい空気。真逆の挟まれている俺はどういう反応を、誰に返せばいいのか。
頼むから統一感を出してくれないだろうか。
「これから皆さんに言うことは秘密厳守でお願いします」
「……おう」
シュリに案内された場所はやけに大きなドアの前だった。
見るからに普通ではない魔法陣がドア全面に施されており、いかにも聖域に続く扉、と言わんばかりの妙な迫力があった。
……というのに、変わらず俺に話しかけてくる後ろのバカども。
「いい加減うるせぇぞ。少し黙れ」
「「「「「「……」」」」」」
「……いや、シュリは話してくれよ」
「え、あ、はい」
もうやだ、このパーティ! 何もかもが噛み合わないっ。ホントにもう! 食パン口に挟んでぶつかった人に全部あげちゃいたい。運命の出会いとやらはないのだろうか! ホントに、マジで!
俺じゃないちゃんとした主人公ならコイツらもきっとまとめてくれるさ。白馬の王子様という伝説が本当にいるのなら頼む。今すぐ現れてくれないだろうか。
今なら顔だけはいいバカ馴染みを特典に、賢者と聖女、ボディガードの戦士と諜報員、分析官まであげちゃうから。嘘偽りなく一国築ける人材だから安心して引き取ってほしい。
「ここに皆さんを呼んだ時点でもうお気づきかと思いますが……ここで起きた事件、知っていますか?」
なんて現実逃避したところでいるわけないよなぁ、そんな英雄。
「それって魔剣が行方不明になったってやつよね?」
「はい」
バカ馴染みだけが首を傾げていたが、さすがにそれ以外の奴らはそこまで仲間に無関心ではないようだ。
「つうかよぉ、そもそも魔剣ってなんなんだ?」
おぉ、珍しくイグスが至極まっとうな質問をしている。
俺個人としては。なんとなく『使用者の魔力を消費して使用者を強くするもの』そんなイメージがある。
しかしそれは、バカ馴染みが持っている聖剣に関しても同じようなイメージがある。
選ばれた者以外が使えば、聖剣は使用者の魔力を吸う。
前に一度経験したことがあるが、あのときですら五分経たずに俺は立ち上がれなくなったくらいだ。
バカ馴染みの聖剣だって見方を変えれば、魔剣と言われてもおかしくない。
聖剣と魔剣、互いに対の存在と言われていても、どこか似ていて。
それぞれの明確な違いは俺にはわからなかった。
「簡単に言うと魔剣は、聖剣をもとに、聖剣に憧れた人が作ったものなんです」
「それは聞いたことがあるわね。聖剣は天然物で、魔剣は人工物だって」
「ん~、でもそれって明確な違いっていうわけでもないよね」
シュリの答えに、ケイラが反応し、テッドが感想を述べた。
固定概念があるせいだとは思うが、テッドの言うとおり魔剣というからには、やはりなんらかの制約はないとおかしいように思えてしまう。
自分の寿命を削ってしまう、だったり。理性がなくなってしまう、だったり。
俺達が思う聖剣はすごいものであり、魔剣は危険なもの、そういった違いがないとどうにも腑に落ちない。
そんな俺達の疑問に対し、シュリは首を縦に振った。
「私達の教えでは聖剣は神様によって作られたもの、とされています。この世界に石や水、火が当たり前に存在するように、聖剣はただ一つ存在するものだと」
「この世界を構成する一つの物質として考えているってこと?」
今度はトーカが質問した。トーカなりに分析していたうえでの疑問だろう。
「はい、そのように捉えてもらって構いません。しかし、それがわかったからこそ、聖剣は作れないことが判明したのです」
いったいなぜかと考えるまでもなく、バカ馴染みが「あっ!」と両手をポンと叩いた。
「そっか! 聖剣は一つしかないから、聖剣を作ることはできないんだ!」
いや、どういうことだよ、と思ったがそこでシュリがまたもや頷いた。
「私達は石を使って石像を作ることはできますが、石を使わず石像は作れません。それは聖剣も同じで、聖剣を使わずして聖剣という物質は生み出すことができず、また、聖剣で聖剣を作ったところで、それは改良とか改造という言葉になってしまいます」
……。うん、よし。
要は、聖剣は作れないってことだな。それだけわかれば充分だろ。
「しかしそれでも人はなんとしてでも聖剣を作り上げようとしました。本物でなくとも、偽物の聖剣なら作れるのではないか、と」
そこで、後ろでケイラが小さく「なるほどね」と呟くのが聞こえた。
振り返ると、ケイラだけでなくトーカも納得したように頷いていたが、未だ俺達男組は理解できていない。
「魔法を使ったのよ」
ケイラがシュリから引き継ぐように言った。
「石がなくても、石のような強度にする方法ならあるわ。魔剣も同じよ。聖剣の特性、つまり強度だったり、切れ味だったり、魔法のような光を放つように、いくつもの魔法を重ねることで聖剣を作ろうとした」
作ろうとした、という口ぶりからうまくいかなかったことはわかる。
だが、何がどううまくいかなかったのかはわからない。
「……魔法は世界の歪み」
「え?」
ぼそりとトーカが発した。
「リオン、あなたシエンの授業で習ってなかった?」
「……そうだっけ?」
「はぁ」
そんな目の前で失望されても……。
正直、学園の授業なんてただの呪文にしか聞こえんかった。
授業中にもずっと詠唱してんのか、とすら思ったほどだ。授業に追いつけるどころの話じゃねぇって。わからんもんはわからんよ。
なんて開き直ってる自分が情けなさすぎて涙の一滴も出ん。
「魔法っていうのは一般的に世界の歪みなのよ。正確に言うと、魔法陣そのものだったり、それを発声させる詠唱なんだけど」
「う、う~……ん」
なんかシエンに言われたような、言われてないような……。
「とにかく!」
「お、おう……」
ご、ごめんな。俺も悪いと思っているんだが。とりあえず、俺の隣でクスクス笑ってるこのバカ馴染みだけは殴ってもいいだろうか。
テメェもわかってねぇだろ。あぁん?
「魔剣というのは、剣にあらゆる魔法をかけたもの。つまり魔法の集まりなのよ。魔法=世界の歪みというわけだから……もういいわね?」
「つ、つまり魔剣は世界の歪みが集まったもの、ってことでお、オッケー?」
「そういうことよ」
「な、なるほどなー」
……えぇっと。だからどゆこと?
なんて言ったら今すぐにでも殺されそうなほどケイラの目が鋭い。……ぴえん。
「この扉を開けたらリオンさんもわかると思います」
そこで助け船を出してくれたのが聖女のシュリ。
おぉ、初めて聖女らしいところを見た気がする。
「普段は封印によってただの大広間なのですが……その封印を解除すると」
シュリが扉に手を伸ばすと、扉の気配が急に変わった。
先ほどまではいい意味で迫力のあった扉が、なんと言えばいいのか、禍々しい迫力とでも言えばいいのか、突然不気味に思えてくる。
「先ほどまで皆さんが見ていたのは裏世界の扉、今私達が見るのは本来の向こう側です」
「同じ座標に、別の次元を二つ存在させる表裏一体の魔法ね」
ケイラが魔法の解説をしてくるが、俺は目を離さずにはいられない。
それは恐怖を前にして、前にも後にも引けなくなっている動物の本能だ。
「覚悟して見てくださいね」
シュリがゆっくりと扉を開けた向こう側は。
世界の歪みだけが存在した。
ツイッターを初めて一日も保たなかった人に成り果てました




