とりあえず過ぎ去った過去は戻ってこなくない?
久し振りに仕事がない連休だというのに、物騒なニュースが毎日流れてくることにため息が尽きない。
囚人の大量虐殺に、国家転覆。
表も裏も物騒なことばかり起きて、もはやどこも安心とは言えないな。
……なんて言えている今が充分安心できてるんだよなぁ。
そんなことを居間でゆったりと考えていると、二階のほうでズドンズドン、と重い音が聞こえてきた。
「今度は誰だよ……」
いつものことだと思えてしまっている自分が少し残念に思わないわけではないが、慣れてしまったものは仕方がない。
「おい、うるさいぞ」
無駄と知りながら二階に向けて声をかけるが、その予想通り重い音は止むどころか、天井を揺らすほどに強くなる。
ふむ。ここまで長くうるさい音が続くとなると……。
「今度はどんな模様替えを作る気だ?」
バカ馴染みの二ヶ月に一度訪れる『部屋の模様替え』という名の『家の大改造』。
どういう原理かは知らんが、半年前は部屋に土と天井ギリギリまで延びる巨木をいくつか植え『ジャングル』を築き上げ。
四ヶ月前には、やっぱりスッキリした部屋にしたいと『砂漠』を築き上げ。
二ヶ月前はなぜか部屋全体が暑くなったような気がしたからと部屋全体を『海』を(ちなみに海底神殿も)築き上げ。
大量の木にも砂にも負けず、雨漏りも一切しないこの家はどうなっているんだ、と常々思わなくもないわけだが、それはまぁ……、バカ達が建てた家だからで解決する。
最近はこの家の改造にトーカも加わって、いかに効率的な設計をできるか、なんて考えたりしているようだ。
「……あぁ、うるせぇ」
せっかくの休みくらい、一人ゆったりとした空間を楽しませてくれ、と切に願う。
そんなことを思っていると、急にピタリと音が止んだ。
どうやらバ改造が終わったようだ。
となれば次は。
「リオン~!」
ほれ来やがった。
「ちょっと部屋の模様替えしたんだけどさ~」
「知ってる」
「ちょっと見てみてよ」
「断る」
「いいじゃん、暇でしょ?」
「暇だからこそだ。暇な時間をお前のために潰す意味がわからん」
つうか、厳密に言うと暇じゃない。
ちゃんと「ゆったりとした時間を過ごす」という予定がある。
「もぉ~。んじゃあ、いいよ」
「……なん、だと?」
あのバカ馴染みが押しもせずに引くだと?
ありえん。
今日の俺は死ぬよりも辛い不幸が訪れるかもしれん。
しかし、バカ馴染みが帰り際。
「せっかくリオンの部屋も模様替えしてあげたのに」
「おい待てふざけんなこの野郎殺すぞ」
俺の予想の一回転斜め上をいくこの野郎。今、なんて言いやがった?
改造したのか? 俺の部屋も? ……は?
不幸なことが訪れる前に、訪れていたんだが? どゆこと?
「え、リオンの部屋も改造してあげたのに、その言い方はなくない?」
「なんで上から目線なんだというかよく上から言えるな。つうかなぜ勝手に改造しやがった」
「前に模様替えしようかって言ってたじゃん」
「言ってねぇ。一言たりとも言ってねぇ」
この家を建ててから、自分の部屋を持ったときから、部屋の模様替えなんて考えたこともないし、ましてや言ったことなんてあるわけない。
コイツついに耳までおかしくなりやがったな。
「言ってたじゃん。まだ、私達が冒険者になる前に。ゆったりできる部屋を絶対に持ってやるって。あのときはリオンの実家だったけど、充分なお金が入ったら模様替えするって」
「……」
絶句。絶句しかない。
何年前の話してるの、コイツ。
冒険者になる前ってことは、俺がまだ成人すらしてない。というか、まだガキンチョの時の話だろ。
怖い。
普段から恐ろしい奴だとは思っていたけど……なんかダメだ。
いつにも増して怖い。あまりのわけわからなしさに、鳥肌? いや、これ蕁麻疹だ。
「こ~~~~~~っわ」
「え、どうしたの急に?」
サイコパスですら全裸で逃げ出すような異次元っぷり。
ヤバさがヤバくてヤバすぎヤバめんご。
「と、とりあえず部屋を見せてください。というか確認させてもらっていいですか?」
「なんで急に敬語使うのさ?」
「部屋を確認次第、金輪際私と関わりを持たないように約束させていただけませんか?」
「なんだか今日のリオン変だよ?」
誰の所為だと思ってやがる、このイカレゴミ!!
「それに結局見るんじゃん。だったら最初から言ってよね」
「すいません、先ほどの言葉撤回させていただきます。……殺してやるよ」
「殺害予告!?」
ふざけたことを言いやがるこのバカ馴染みに否応なしについていくと、バカ馴染みは俺の部屋ではなく、自身の部屋の前に立った。
いや、俺が見たいのはそっちじゃねぇから。
「おい、俺の部屋を確認させろって、俺は言ったんだが?」
「え、うん。だから……ほら、ね?」
「……は?」
何を当たり前なこと言ってるの、という顔を見せてくるバカ馴染みの手はどう見ても俺の部屋のドアノブを掴んでいない。
俺の部屋はもう一つ隣の部屋だ。
耳だけでなく、数も数え切れなくなったのか。
と、思うほど俺はコイツを理解していないわけがない。
……コイツ、まさかと思うが。
「私とリオンの部屋を合体させてみたの!」
「プライバシーとか、男と雌の関係とかそういう話にすらならんわ」
「待って、さりげなく私を女じゃなくて雌扱いしなかった!?」
「……?」
「何を言ってるんだ、っていう顔しないで!」
何言ってるんだ、コイツ。頭おかしく……おかしいか。いつものことだな。
「理由を想像したくもないが、自分の部屋をもっと大きくしたいっていうのと、俺の部屋を改造してやあげるっていうはた迷惑な親切心、そして部屋を一つ一つやるよりだったら二つ一辺に変えた方が楽だからっていう理由か?」
「そうそう! でも、改造じゃなくて模様替えだよ?」
「今すぐ元に戻せ」
「まだ見てないじゃん!」
見なくてもわかる。見たくもない。
怒り、不安、恐怖、悲しみ。ありとあらゆる負の感情がごちゃまぜになって酔ってしまいそうなこの感覚を誰かわかってもらえないだろうか。
俺じゃなかったら百回死んでるね。
「とにかく! まずは見てから、だよ!」
「……はぁ」
吐きそうになる気持ちをグッと抑えて、バカ馴染みが開けたドアを潜る。
さて、いったいどんな景色が俺を待ち構えているのだろうか。
「……ふぅ。はいはい、なるほどね」
「ほら、別に問題なくない?」
このバカ馴染み、多少なりとも人の心に真似たものを真似できるようになったようだ。
俺が望んだ落ち着いた空間、をそれなりに考えたような痕跡がほんの僅かだけある。
「どう?」
「え、当然没だけど?」
「なんで!?」
逆に聞きたい。どうしてこれでいいと思った?
部屋に入るなり無数の鉄の棒でできたドアが目に入り、それが何かと全体を見渡すと、二部屋の中に鉄の棒で囲まれた二つの部屋。
部屋と部屋の間には鉄の壁があるので、お互いのプライベート守ったような気なのかもしれないが、この部屋の入るドアは一つなので、片方の部屋は必ず見ないといけないわけで。
さらに鉄の棒で囲まれた部屋の中には電球、テレビ、そして布団の三つだけ。
もう言わんとすることがわかったと思うけど、正解発表。
「ただの牢獄じゃねぇか」
「落ち着いた空間ってなんだろうなって考えたとき、前は砂漠にしたらうまくいかなくて。じゃあほかにどこがいいだろうなぁって考えたら、あ、牢屋の中だったら何もないし落ち着ける、って思って」
あれ、また私なにかやっちゃいました、とでも言いたそうな顔するな。
地獄の底に叩きつけたい気分になっちゃうじゃないか。
「いいか。ここは『ゆったりできる』場所じゃない。『何もできない』場所だ」
「同じようなものじゃない?」
「全然違ぇ。よし、戻せ」
「えぇ~……」
なんでこんなにも不服そうな顔ができるのか。
「そんなにダメ?」
「当たり前だ。ていうか、部屋の中でどうして窮屈な思いをしないといけないのかわからん」
「えぇ~、でもな……」
「まだ、あるのか? 言っておくが、今さら何を言ったところで答えは変わらねぇ。今すぐ元に戻せ」
「そうじゃなくてさ……」
あぁん?
「リオンのもとの部屋がどうだったかもう思い出せなくて」
…………。
「どうすればいい?」
「……」
……今日も世界が壊れてるなぁ。
なんだろう、景色が潤んできた。
感動的なものを見たわけでもないのに涙が出てきた。なんでだろう。
「リオン?」
「お前もう黙っててくれる?」
無理。今日は無理。今日だけで何度心折る気だよ。
折られて、ハンマーで粉々にされて、焼かれて、土に埋められた気分だ。
ここから起き上がれるのはゾンビくらいだって。
「テメェをこの牢獄の中に叩き込みたい気分だが、もういい。お前にもう何も期待しない。そもそもしたことなんてないけど」
「いやいや、それはさすがに嘘だってわかる」
「口を開くな、息をするな、死ねと俺は言ったはずだが?」
「言ってないよ!?」
もういい。とにかく俺の部屋はなんとかしないと。
コイツにやらせたらどうなるかわかったものじゃない。
となれば方法は一つだけ。
部屋全体を過去に戻す。これしかない。
「となれば……」
今、昼食の買い出しに向かっているシュリを呼んで……、と思った矢先だった。
「リオンさん、セラフィさん。すぐに来てもらっていいですか!?」
そう言って牢獄の部屋に入ってきたのは、なぜか焦ったような顔をしているシュリだった。
今度はなんなんだ……。
今さらですけど、ここ二ヶ月で恋愛の短編を二つほど書いてみました。
ファンタジー作品に少し飽き始めた方は手軽に読んでみてください……と言いたいところなんですが、片方の短編はエグい文字数になってます。




