とりあえず誰が主人公か教えてくれない?
【妖精の大樹】の根が魔法陣の魔力を吸い、花を咲かそうとしていた。
「クソ。クソッ。クソッ!」
必死に全身に絡みつく根から解放されようともがき続けるゲンケイを、私は冷たい表情で見た。
「なぜ儂の邪魔ばかりする! どうして私の研究の偉大さがわからない!」
ゲンケイは一つ大きな勘違いをしている。
「私はあなたの研究が間違いだとは思っていない」
「ふざけるな! ではなぜ邪魔をする!?」
人を魔法で解明しようとするのはすごいことだと思う。実際にそれができたら、偉大なことだと讃えられるのは間違いじゃない。
誰も解き明かせない問題を解き明かすのは、科学者、研究者にとっての夢だ。
それは私だって同様だ。
だから、研究自体は間違いじゃない。
だけど。
「あなたのやり方が間違っている」
たとえ、それで命の在り方がわかったところで、誰も褒め称えない。
研究のためだからと、人の命を奪ったり、人に不幸を押しつける理由にはならない。
「儂は人の命を平等に扱っただけだ! お主はモルモットを実験に使うことすらも悪というのか!?」
命を粗末に扱うのがいけない。
それを言うのであれば、人は動物を実験の道具にすることはできないということになる。
しかし、実際は他の動物を実験に使うことで、人はいろいろなことを解明してきた。
「それすらも悪というのか!? お主は過去の偉人すらも馬鹿にするのか!?」
だから同じように人間を実験に使って何が悪い。
自分は平等に動物を扱うのだと。人も人以外も関係ない。
自分は正義だと、そう言いたいのか。
「正義なんて人によって変わるものよ」
「詭弁だな!」
詭弁。お前がそう言うのなら、そうなのだろう。
だが、私は詭弁とは思わない。
「あなたの正義と私の正義は違う。私は過去の偉人をバカにしない。人間以外の動物を実験に使うことを私は悪とはしない。私だってかつて生きていたお肉を食べるわ。それを受け入れている時点で、私は生物を殺して生きているようなもの。だけど、人間は違う」
「何が違う!?」
「私は同じ人間を実験に使うことを、人の命や生活を奪うことを悪とする」
「だからなぜそれを悪とする!」
「理由なんてないのよ」
「なん……っ」
ゲンケイは私の言葉に驚き絶句した。
けど、これは本当のことだ。
「深い理由なんてない。ただ悪と私の中で定めただけ。それだけのことよ」
きっとそういう考え方も過去が繋がってできたものなのだろう。
周りがそれを正義としなかったから。
なんとなく人を殺したくなかったから。
そういう積み重ねがきっと私にこんな正義を咲かせた。
「アンタの正義と私の正義がたまたま対立しただけ。だから私はアンタの邪魔をして、アンタは私の邪魔をした」
人が争う理由なんてそんなものだ。
互いの正義を貫けばいずれ争いが起きる。
「だから私はアンタを許さない。ここで終わらせる」
「……この偽善者が」
「アンタがそう思うなら勝手に思えばいい」
人の感情は誰にもわからないし、誰かに変えられるものじゃない。
結局、この男とは最後まで相容れなかった。
たったそれだけのこと。
「だけど、アンタに一つだけ感謝することがある」
「なんだと?」
「アンタのおかげで私は次のステップにいけた」
この男も私の過去にいて、今の私を作り上げた一つの要素であることには変わりはない。
だから、最初で最後の弟子からアンタに贈る。
「五重魔法!」
私は止まれない。止まってはいけない。
私はコイツよりも厄介な相手が待ってるから。
もう、絶対に負けない。越えてやる。
「【黒白が交わる剣舞】【劣等なる魔法の下克上】【紅に止まる時計】【終わらない旅の銃弾】【消滅した記録本】!!」
ゲンケイにねらいを定めるように魔法陣が小さい魔法陣から順に宙に浮かぶ。
あの日から何度の失敗を繰り返してようやくたどり着いたこの五重魔法。
だけど、それから何も変わらない日々を繰り返した。
それじゃ、ダメだというのに。
だから今日こそ越える。
「ま、待て……。何をしている?」
ゲンケイが私に何かを尋ねてきたが、私はそれに答える余裕はない。
この魔法には、尋常でない集中力が必要なのだ。
五つの魔法陣の互いの距離をどんどん近づけていく。
その距離が限りなくゼロに近いものとなったとき、それは一つの魔法陣のように重なる。
「……はぁ。……はぁ」
これだけでも頭の血管が切れそうな感覚がするが、これで止まってはいけないんだ。
「お、お主……まさか!」
ゲンケイの声なんて耳に入っているけど、頭に入ってこない。
「この五つの魔法陣を……一つの魔法陣として記憶」
「そんなバカな!」
五つの魔法陣が眩い光とともに雷を放ち、一つの魔法陣として重なる。
――【空高く雷鳴轟く】
頭が痛い。今にも割れそうだ。
……だからどうした。そんなもので私を止められるものか。
「【謎を裁く武の力】【輪廻の魔法】【孤高の群れ】【零が喚ぶ一つの剣】!!」
残りの四つの人格で魔法陣を呼び、先ほどと同様に魔法を重ねる。
新緑の色に染まった魔法陣は先ほどよりも一回り小さく、先ほどの魔法陣の上に乗せる。
――【豊かな地は自然を育む】
「【盤を支配する龍の王】【迷宮を彷徨う勇気】【宇宙の愉快な神】」
空色の魔法陣がまた重なる。
――【空高く羽を広げる】
「【想いを繋げる試練】【過去を変える野望】」
白い光の魔法陣ははまるで日差しのように下の魔法陣を照らす。
――【希望の光が未来を映す】
そして、最後。
「【明るい憂鬱を胸に抱いて】」
最後に赤い魔法陣が頂上を飾る。
これが今の私が生み出す最高の魔法陣。
「十五重魔法」
計十五個の魔法陣によって作られたこの魔法は、普段の五重魔法とは違い、地面に近いほど魔法陣が大きくなっている。
五重魔法は一点に魔法を集める虫眼鏡とようなものだが、十五重魔法は徐々に魔法を強くさせる。
これを外から見たとき、それはきっと大樹のようで。
「――終わりよ」
この魔法に名前をつけるとするならば……やっぱりこれしかない。
「【魔法の世界樹】」
ほんの一瞬だけ、この国には二つの大樹が咲いた。
★☆★
ケイラが何をしたかわからないが、どうやらこの【妖精の大樹】は俺達に害を及ぼさない。
だからこそ、シエンが出した壁を突破できない状況に四苦八苦しているようだった。
「シエン、大丈夫だ! それはお前を襲うものでもないし、カミュラさんだって助かる!」
あとはシエンが壁を解除すれば、【妖精の大樹】の根がカミュラさんに触れ、カミュラさんの命は助かる。
それは理屈ではなく、直感から来ているもので説明できるものではない。
だから、そうシエンに説明したのだが……。
「うるせぇ、黙って見てろ」
それでもシエンは決して立方体に張ったスクロールを解除しようとしない。
それどころか、むしろ決して解除するものかと意固地になっているようにも見えた。
「な、何やってんだよ!? 早くしないと――」
「だから今やってんだろ!」
「は、はぁ!?」
シエンが何を言いたいのかまったくわからない。
早く助けたいという想いは俺もシエンも同じのはずだ。
それなのに、どうしてその道を自ら封じるようなことをする。
シエンは俺に敵意を、いや、もしかしたら殺意すら向けていた。
「テメェみたいになんでも諦めるようなやつが、俺の何がわかる」
「諦めるって……」
「俺がここまでやってきたのはアイツらのためじゃねぇんだよ。全部、俺のためにやってきてんだ。そのいいところだけ取られてたまるかよ」
「き、気持ちはわかるけど……」
「自分の手に負えないものを他人に押しつけるテメェと一緒にすんな」
たしかに、俺はアイツらに頼りっきりだし、それが悪いことかと言われれば、よくないことだとは思う。
だけど、自分がアイツらのような天才ではないことも確かで。
だから、まして今の状況ならアイツらを頼っても悪くはないはずだ。
しかし、それすらもシエンは『諦め』と言いきった。
「別に悪いとは言わねぇよ。目の前に助かる道はある。けど、俺はテメェじゃねぇんだ。俺がテメェと同じ選択を取るとは限らねぇ」
「じゃあ、どうすんだよ?」
「俺の選択はハナから一つしかねぇ」
シエンはそう言って、懐に手を伸ばした。
スクロールを書くための筆を取り出すのかと思ったが、それは間違いで、シエンが取りだしたのは小さな花だった。
その花は、中心が橙の花びらと同じ色で。
それは俺が華夕でなくした花ではなかっただろうか。
「お前が持っていたのか!? いつから!?」
「手癖の悪い盗人に聞いてみろよ」
「……テッドかよ!」
まさかこんなところでその花を見つかるとは思わなかった。
しかし、その花をシエンが取りだした理由なんて考えるまでもなく。
「邪魔すんな、ってか」
「……あぁもう。くそ」
ヴォルガが同じ答えを導き出し、俺はそれを受け入れた。
あぁ、そうだよ。仕方ねぇなぁ。
俺は何でも『諦める』人間だからよぉ!
しかし、シエンはその花をもういらないものだとばかりに投げ捨てた。
花は【障壁】に阻まれぽとりと地面に落ちた。
「……もう見ているだけってのは嫌だからよ」
シエンはそう言うと、一枚のスクロールをカミュラさんのお腹の上に乗せた。
「こんな花がなくたって俺は……」
シエンが何かを言いかけて止めた。
そのままシエンはスクロールに線を書き始めて。
「魔力と命は繋がっている。植物が魔力とともに生命を吸い込むなら。逆に言えば、純粋な魔力だけがなくなれば、植物は枯れ、アンタも死ぬことはない」
それはつまり、ゲンケイの固有魔法である【魔力操作】をスクロールで再現するのと同じ。
固有魔法を一般魔法と同等に扱う。
そんなことができるのか?
固有魔法に魔法陣が存在するものだってある。しかし、それだって本人にしか扱えないものであるし。そもそもゲンケイの固有魔法に魔法陣は存在しない。
存在しない魔法陣を描くなんて無理に決まっている。
「そん、な……。無理、だよ……」
助けられようとしているカミュラさんも俺と同意見だった。
「普通に考えたら無理……だが」
ヴォルガも同じ意見だった。
しかし、全員がシエンを黙って見ていた。
「俺を誰だと思ってやがる。紙の魔女と呼ばれたキュリアス=カスミの一人息子にして、一番弟子だぞ」
それはまるで自分に言い聞かせているようでもあった。
「魔法陣がないからできないなんて誰が言った。逆に考えてみろ。魔法陣が存在しないからこそ、オリジナル性がなく、誰でも使える魔法とも言える」
それは屁理屈なのかも怪しい言い分だった。
シエンはそれでも手を止めることなく淡々とした様子で続けた。
「どうして俺がアンタを助けるかわからねぇか? ……答えは簡単だ」
シエンはいつものように鼻で笑った。
「アンタが好きだからだ。誰にも邪魔されるわけにはいかねぇんだ」
……………………。
「「……え!?」」
ちょ、ちょっと待ってくれ。
今、聞き逃せないこと言ってなかったか!?
俺はヴォルガに確認の意を込めて見ると、ヴォルガも同じ表情で俺を見ていた。
やはり、俺の聞き間違いじゃなかったらしい。
そして、カミュラさんも目を見開いて驚いていた。
「ど、どうして……? 私なんかを……?」
自分が死にかけということも忘れて、カミュラさんはそう尋ねていた。
シエンは、ピタッと手を止めると、カミュラさんの目を見た。
「アンタが、俺を救ってくれたからだ」
その目は今までも、そしてこれからも見ることのない目をしていた。
「アンタの夢が俺を救ってくれたから」
「……え?」
「『枯れた花を咲かす』」
「そ、それは……っ!?」
シエンとカミュラさんの過去に何があったのか、俺は知らない。
しかし、シエンにとってそれは何よりも大事な思い出なのだろうということは伝わってきた。
「その言葉で俺はここまで来たんだ。アンタの夢を叶えるために。ここまで」
――それなのに、とシエンは続けた。
「俺はバカだった。アンタの夢を叶えた気になって、アンタをずっと見ていたのに。気付いていたのに。何もしなかった」
花を見るだけで、咲かせる努力なんて一切しなかった。
自分が咲けば、アンタの夢と一緒に咲いてくれると思っていたんだ。
それはまるで懺悔のようで。
無意識のうちにシエンはカミュラさんの手を握っていた。
「ようやくここまで来たんだ。ようやく触れることができたんだ」
だから。
「ここまで来てアンタを諦めるわけにはいかねぇんだ。アンタを渡したくねぇんだ」
シエンはまた筆を取って線を描く。
迷いを振り切った線は何よりもきれいで、力強く見えた。
「咲いてくれ」
「っ」
シエンの願いに、カミュラさんの頬は赤く染まった。
俺もヴォルガも、口を挟むことなんてできなかった。
ここにいることが間違いだとすら思った。
「今になってやっと、アンタの夢がわかったんだ」
それでもシエンは邪魔な俺達を気にせずにカミュラさんの手を握った。
「好きな花が枯れると儚くて、苦しいんだ。ずっと綺麗に咲いていてほしいんだ」
その言葉が合図だったかのように、一枚のスクロールから文字や線が飛び出して二人を包んだ。
それらは二人を中心に回転を始め、徐々に一カ所に集められていく。
「……っ」
いつの間にかカミュラさんの涙は温かいものへと変わっていた。
「あのときのアンタの顔が忘れられねぇんだ」
シエンの顔も、カミュラさんの顔も見えなかった。見てはいけなかった。
文字や線の色が度々変わり、二人の顔を隠して……。
「これって……」
「花言葉は……言うまでもねぇだろ?」
スクロールに花が咲いていた。
技説明
全部わかったらすごいです。
・【黒白が交わる剣舞】
→黒と白の二つの剣、オープニングの映像
・【劣等なる魔法の下克上】
→劣等、魔法、下克上。だいたいもうわかるのでは?
・【紅に止まる時計】
→紅、時が止まる、フレイムといえば
・【終わらない旅の銃弾】
→旅、銃弾
・【消滅した記録本】
→記憶が消滅、本(書物)
※『空高く雷鳴轟く』→雷マーク
・【謎を裁く武の力】
→武力で謎を解く人のことを
・【輪廻の魔法】
→何度も生き返る、時を戻す魔法
・【孤高の群れ】
→孤高、クラブ(部)
・【零が喚ぶ一つの剣】
→ゼロが喚んだ、一人の剣士
※『豊かな地は自然を育む』→緑のイメージ
・【盤を支配する龍の王】
→竜の王、盤
・【迷宮を彷徨う勇気】
→迷宮、勇気ある者
・【宇宙の愉快な神】
→宇宙の神、面白い感じの……san値ピンチ
※『空高く羽を広げる』→なんとなく空のイメージ
・【想いを繋げる試練】
→愛の試練。想いを繋げる
・【過去を変える野望】
→過去に行く。野望
※『希望の光が未来を映す』→特に深い意味はないけど、なんとなく白。
・【明るい憂鬱を胸に抱いて】
→赤いイメージ、憂鬱
【魔法の世界樹】
→いろんな魔法、仮想物語が集まったイメージ
せっかくだから二つ目のユグドラシルを作ってみました。
追記
シエンとカミュラの物語?
それはリオンの物語には登場しないけど、きちんと考えてます。
今のところ書く気はないですけど。




