表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/100

魔女の過去と現在

 二人と別れてすぐ、私はミヌスへ向かった。


 リオンも言っていたが、ミヌスという国は悪い国ではないと聞く。


 学園にいた頃、このミヌスから入学してきた生徒の話をたまたま聞いたことがある。


 なんでもこの国にやってくる観光客も多いそうだが、その分、外部から悪さをしに来る人もいるんだとか。


 それは自然の摂理とも言うべきで当たり前のことなのだが、何よりもすごいのはそのあとらしい。


 人々の優しさにつけ込み悪事を働こうとする彼らだが、数ヶ月滞在するにつれ、その気は失せ始め、最終的には過去を忘れたかのようにこの国に馴染んでいく。


 なんだそれは、と聞いた当時は思ったが、実際に目の前にしてみるとなんとなくそれについてわかったような気がした。


 入国する前から、私の目に飛び込んできたのは人の笑顔だった。


「ようこそ、ミヌスへ!」


 門番は私や他の人に対しても笑顔で対応する。


 厳重な入国検査があるわけではなかった。


 数人の門番が私の持ち物を検査して、問題なしとすると、先ほど以上のとびきりの笑顔で私達を迎え入れる。


 まるで人を疑うことを知らないようで、検査されるこっちが「それでいいのか」と思わず言ってしまいそうになるほどだった。


 門をくぐり抜けた後も、一番最初に見るものは笑顔だった。


 誰もが笑顔で隣人か、知り合いかと話している。


 かといって、無理矢理笑顔を作らされているような、そんな様子は一切見られない。


 心の底から楽しそうに、嬉しそうに笑っている人々がいた。


「すごい国ね」


 あまりの賑やかさに、来たばかりの渡しまで心が浮き立つような感覚がした。


 そんなときだった。


「……()()()()()?」


 どこかで聞き覚えのある声に私は顔を向けた。


「やっぱりケイラさんだ!」


 その人物が誰か確認する前に、その声の主は私の胸に飛び込んできた。


 そしてようやく私に顔を見せたことで、私は「あっ」と思わず声をあげた。


「サイモン? サイモンよね!?」

「うん、そうだよ!」


 サイモンという少年は私に名を呼ばれると嬉しそうに二カッと笑った。


 まさか、ここで会えるとは思っていなかった。


「どうして、あなたがここに?」

「うん、まぁ。いろいろあってね。ここにたどり着いたんだ」


 サイモンはどこか遠い目をして、濁すような言葉を紡いだ。


 彼の経緯(いきさつ)を考えればなんとなくは予想できる。


 最後にサイモンと会ったのは一年と少し前。


 短いようで長い期間があれば、サイモンだっていろいろなことがあっただろう。


「僕も驚いたよ。どうしてケイラがここに?」


 サイモンは私を心配するかのような目でそう尋ねた。


「少し前に国を出たのよ。今は冒険者ではないけれど、冒険者みたいなことをしているのよ」

「……もしかして僕のせい?」

「いいえ、()()()()()()()よ」


 悲しそうに俯くサイモンを励ますと、サイモンはどこか後ろめたさがあるようであったが、少し驚いた表情をしていた。


 そして、私も自分の言葉に驚きを隠せないでいた。


 まさか、自分が人にこんな言葉を返せるようになっていたとは。


「ケイラさん、なんだか少し柔らかくなった?」

「……そうかもね」


 サイモンの言葉を私は否定しなかった。


「もしかして好きな人でもできたの?」

「バカ言うんじゃないわよ」


 好きな人、というのはきっと特別な意味で言ったのだろう。


 だが、私にそんな人ができるわけがない。


 何をやろうとしても、何をしていても、私は魔法一筋の人間だ。


 そんな私に好きな人?


 恋だの愛だの。そんな非魔法的なものが存在するわけがないとまで思っていた。


「じゃあさ、僕が大人になったら結婚してよ」


 だからこそなのか、サイモンの口から出た言葉に胸がチクリと痛んだ。


 そういうものを一切信じていない私と結婚だなんて、サイモンが可愛そうだと。


「言ったでしょ。私に好きな人はいないのよ? 作る予定もないの。そんな私と結婚なんてしない方がいいわよ」


 それに、私は愛よりも魔法の研究に時間を費やしてしまうから。


 そう最後に付け足した。


 しかし、サイモンは「だからこそだよ」と首を横に振った。


「ケイラさんはケイラさんのままでいいよ。僕が好きになったのはそのケイラさんだから。それに、好きな人がいないなら、僕と結婚しても関係ないよ。僕が勝手に幸せになるだけ。ケイラさんにも迷惑かけないからさ。ね?」


 そう早口でまくし立てるサイモンの目は真剣だった。


 真剣だったからこそ、私は首を横に振っていた。


「やめた方がいいわ。私だけは」


 幸せというのは片道だけじゃ手に入らないものだと思い始めていた。


 あの二人を一度見てしまったから。


 実際の幸せというのは、口で言う幸せとは非にならないものなんだと思うようになってしまった。


「それより案内してくれない? とりあえずは冒険者ギルドと今夜休む場所がほしいの」


 話を変えるようにそう提案した私を、サイモンは不服そうに見つめていたが、すぐに諦めたのか私の手を引いた。


「冒険者ギルドはこっちだよ。泊まる家は僕の家を使えばいいよ」


 サイモンに手を引かれながら、一つだけ自分の明らかな嘘について考えていた。


「魔法一筋……か」


 いつからだっただろう。


 私が魔法以外のことを考えるようになっていたのは。


 あの二人について考えるようになっていたのはいったい……。




 ★☆★




「まるであの日と同じね」

「……え?」


 結界を壊そうと躍起になる人々に応戦しながらぼそりと呟いた言葉に、耳聡いテッドが反応した。


 ……別に隠すものでもないか。


「テッド、そういえば私に聞こうとしていたわね。固有魔法のこと」

「え、あ、うん」


 この乱戦中にいきなりどうしたのかとテッドが眉を寄せるが、私は言葉を続けた。


()()()()()()()()()()()()

「え、えぇ……?」


 戸惑うのも無理はない。


 固有魔法は本来誰もが生まれ持っている自分だけの魔法であり、セラフィを除けば一人に一つだ。例外はない。


 それなのに、私は持っていないのだと言う。


「正確にはなくなったのよ。私の固有魔法は」

「なくなった?」


 それがあの日だ。


 あの日も今とまるで同じ状況だった。


 私達を倒すためだけに、何の関係もない人々を操って。


 あれから変わろうと、変わったと思ったのに。


 なんにも変わってないじゃない。


「ケイラ?」


 心配そうに私を見つめるテッドが、あの少年と重なって見えた。


「っ……」


 私はいつも手遅れだ。


 助けた気になっているだけで、全然助けられていない。


 リオンに対してもそうだ。


 いつもリオンには重い役ばかりを任せてしまっている。


 本当はリオンが強くないことを私は知っている。


 私達以外と比べても、確かに強い部類に入るけど最強ではない。


 私達と比べてしまったら、リオンはなおさら強くない。


 でも、このパーティの中で誰よりも頼りになる人だ。


 それに甘えてしまって、私達はいつも彼に頼ってしまって。


 彼に不釣り合いな役を彼に与えてしまう。


 それに気付いているくせに、気付かないふりをして。


 彼を傷つけてしまう。


 私がしたかったのはこんなことだっただろうか。私が変わろうとしたのは誰のためだったのか。


 わかっているのか。わかってないじゃない!


「……ラ。ケ……イラってば!」

「え?」


 自責の念に囚われているとテッドが焦った声で私を呼んでいた。


 何があったのかと尋ねる前に、テッドは教会の入り口を指差した。


「トーカが呼んでるよ」


 テッドの言うとおり、トーカが私を見つめていた。


「……私?」

「だからそうだって言ってるじゃん。どうしたのさ、もう」


 珍しくテッドが不機嫌そうな顔をしており、申し訳なく思っていると、私の前にイグスが盾になるように躍り出た。


「ここは俺とテッドがなんとかする。ケイラに託すぜ」

「あの様子だとゲンケイの居所を掴んだみたいだけど、悲しいことに僕はこの場を離れることはできないみたい」


 テッドの速度があって、全方位を守り切っている状況だ。


 今、テッドが離れるわけにはいかないのだろう。


 だが、それにしたってどうして私なのだろうか。


 別にトーカ自身がその場所に向かっても問題ないはずだ。


 しかし、トーカの下に向かうとトーカは第一声に。


「これはケイラが片付けなきゃいけない問題だから。きっとリオンはそう言う」


 トーカはリオンがいる学園に目を向ける。


 いつの間に結界が形を変えていたのか、リオンが生み出したであろう隕石を包み込むように結界が張り直されていた。


 そして、おそらくその隕石の上に立っているのはリオンだろう。


「ゲンケイの思想の根本は復讐だよ」


 その言葉に私はハッとした。


「ケイラだけじゃない。ゲンケイは自分より頭のいい天才に嫉妬していたんだよ」


 それが、トーカが子どもたちから読みとったゲンケイの思考の欠片だというのか。


「天才を見返したいんだと思う」


 ゲンケイは現代魔法の根本を整理した男だ。


 だがそれは、裏を返せば土台を真っ平らにしただけで、そこから何かを積み上げたわけではないということ。


 その土台を利用して新しい家を建てたのは、ゲンケイではなくまた違う人物。


 ゲンケイがいなかったら現代の魔法の半数以上は存在しなかっただろう。


 しかし、ゲンケイだけがいたところで、現代の魔法は存在し得なかった。


 それがゲンケイにとっては面白くなかったのだろう。


 天才と言われながら、何も生み出せない自分に。そんな評価を下してくるだろう未来の人々に。


「だからたぶんゲンケイは見せつけたいはず。天才に。自分の研究のすべてを」


 トーカがそこまで言って、少しずつが繋がり始めた。


「普通なら私達という自分の研究の邪魔になるだろう人達を呼ぶわけがない。だけど、わざわざカミュラを利用したのはおかしい。たしかにカミュラは適材だったけど、代わりを見つけようと思えばいたはず。それでもカミュラを選んだのはたぶん私達、いえ、ケイラを呼ぶためだとしたら」


 トーカの言うことが、私の頭の中にも浮かび上がる。


 まるで、私の思考をトーカが代弁するように。


「なによりも、そこには自分の過去の研究がすべてある。下手に研究室に向かうより、ずっと安全で確実に研究を行える場所」


 そんな場所は一つしかない。


 いつから。ここまですべて計算されて、誘導されていた?


 トーカは無慈悲な答えを突き出す。


「ケイラの家。たぶん、改造されてケイラも知らない部屋がある」




 ついさっきまで私がいたはずの家に、ゲンケイはいる。




伏線貼って、回収するまでも長いし、回収するのも長いし、戦闘描写も長いし、過去までやったりと。

これ、いつになったら終わるんですかね?


キャラが独断で動きすぎなんですよ。もう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます
よければ、ブックマークと評価
☆☆☆☆☆ → ★★★★★
をして頂けると幸いです
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ