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とりあえず男と男の勝負ってやつをしてみない?

「どうやってここに来たんだ?」


 そう聞かれるだろうな、と思っていた。


 といっても、俺がしたことは難しいことじゃない。


 空を飛んだり、瞬間移動したり、物理法則を無視した動きはできない。


 魔法を使えばできないことはないが、今ここで魔力を浪費するのは得策ではない。


 ヴォルガと戦うだけならその手も考えた。


 しかし、ヴォルガの後にはカミュラさんもいる。


 俺の勝利条件はヴォルガに勝つことじゃない。カミュラさんを止めることだ。


「これを使わせてもらった」


 そう言って俺が取りだしたのは、大きな針のついた長いワイヤーだった。


 先端についている針の周りは、引っかけたものを決して放さないように、さらに細かい針がびっしりと飛び出している。


 そしてそのワイヤーはイグスの特別性で、鉄のように硬く、しかしゴムのような柔軟性を併せ持っている。


 人三人くらいでも軽く持ち上げられるだろう、とイグスが自慢気に話していたのを覚えている。


 そして、このワイヤーはこれまたイグスが作った小手から発射されるようになっている。


 トーカ救出作戦で使われたものをさらに改良したものだ。


「女子寮の隣に高い木があったものだから、それを利用させてもらった」


 女子寮の最上階と木の両方にワイヤーを引っかけて、女子寮から飛び降りることで、ゴムのような反発力を活かして高く宙に舞い上がる。


 それでも高さは足りなかったが、今度は隕石に向かってワイヤーを射し込み、ワイヤーを回収することで、勝手に俺の身体は隕石に引き寄せられる。


「あとは引き寄せられる勢いを利用してさらに高く飛ぶ。その結果、今に至るってわけだ」

「なんだよそれ。まるでサーカス団じゃねぇか」

「間違ってないかもな。俺は曲芸を得意としているんだから」


 一般的に神業と呼ばれる技を、俺はすることができる。


 だが、結局のところ人間にしては神業っていうだけだ。


 思考を五つに分裂させたり、魔法も何も一切使わず空を走れるわけじゃない。


「それだけでも充分化け物の域だっての」

「それは本物の化け物に言ってやれ」

「謙遜なんだか、本気なんだかわかんねぇな」


 話に聞いただけでアイツらのヤバさは伝わらない。


 世紀最大の大災害と言われても、実際にそれを体験した人としていない人との差があるように、ピンとは来ないだろう。


「やるんだろ?」


 俺は話を打ち切るように剣を顕現させる。


 状況が状況だ。一刻を争うときだ。


「いいねぇ。俄然燃えてきたぞ」


 ヴォルガが右腕をかざすと、光とともにアオイが人の姿で現れた。


 アオイの顔はどこか俺に同情している様子で、それでも敵意のようなものは伝わってくる。


 そんな顔されちゃ、こっちが戦いにくくなるっての。


「こっちも久しぶりの強敵だ。悪いが最初から全力でいかせてもらうぜ?」


 さて、いったいどうしようか。


 ヴォルガとアオイは風を使った攻撃をしてくる。


 剣との相性は悪いし、風なんて目に見えるものでもない。


 射程距離はなんとなく掴んできたが、一瞬でも見誤ったら終わりだ。


 にしても、見えないのに防御しづらい攻撃ってなんだよ。チートかよ。


 今までチートの塊みたいな奴らと一緒に居すぎたせいか、等身大のチートに逆に戸惑いを隠せないんだが。


「一瞬で片がつくなんてことはやめてくれよ?」

「そんなことにはならねぇよ……って、あ?」


 初手の動きに備えようと身構えてところで、ヴォルガの身体が不気味な光を放つ。


 と言っても、身体全てから光を放っているのではない。


 左腕と両足からだ。


 しかもこの光、アオイを呼び出す際に放つ光に似ているような……。


「……まさかと思うんだが」


 その考えが杞憂であってほしいと願う。しかし、こういうときに限って、俺の願望は当然のように打ち砕かれるものだ。


「俺は遠い国の出身なんだが、そこでは四方向の方角を守る四聖獣と呼ばれる魔物の話がある」


 自然、すなわち天候を操り、森羅万象を統治する。東の青龍。


 炎の中で生まれ、輪廻転生を繰り返す。南の朱雀。


 生命の祖と呼ばれ、すべての熱を支配する。西の白虎。


 不死でありながら、この世に存在するすべての陰を受け止める。南の玄武。


「おいおいおいおい……っ!?」


 話として聞いたことはある。


 バカ馴染みの固有魔法に関わることでもあったから。


 だが、そんなものは結局のところ逸話。作り話だと思っていた。


「来い。クレナ、ハク、コクヨウ」


 ヴォルガがそう呼びかけると、さらに光は激しさを増し、気付けばヴォルガの近くに四人の美少女が立っていた。


 この状況で言うことじゃないけど、ハーレムリア充野郎じゃねぇか。


 よくこれで、女子の部屋についてあれだけ語れたな。


「言いたいことはわかる。だがしかし、男にはロマンってのがあるんだよ!」

「さらっと心の内を読むな」


 こんな軽口を叩いているが、状況はかなりマズい。


 つうか、反則だろ。なにが一対一だ。


 五対一って普通にイジメだろ! この反則!


「それに……」


 おそらくあの四人は同格。つまり、一人でさえ厄介なアオイレベルの強さが四人もいるのだ。


 しかも、三人の特徴はわからないときた。


「安心しろ。四人全員顕現させても、俺の魔力は一つしかない。予想よりも強いわけじゃねぇよ」


 だからなんだというのだ。五人を同時に相手しなければいけないことに変わりはない。


 だが、そこでまたヴォルガの身体が不気味な光を放った。


「だが、俺達が互いに一つにまとまればその制限はなくなる。全員の力を最大限に引き出すことができる」


 おい、嘘ついてんじゃねぇよ! 何に安心すれば良かったんだよ!


 俺が心の中で悪態をついていると、見るからにヴォルガの身体に変化が起きた。


 両腕には魚や蛇のような鱗があり、その手には鋭い爪。先日の赤い龍の腕を思い起こさせる。


 両足は獣のようにつま先立ちで、真っ白な脚へと変わっており、先端も鋭い腕とは違う爪が映えている。


 顔以外の部分は黒く染まっていた。僅かに見える肌がまるで亀の甲羅のような模様をしている。


 背中にはゴウゴウと炎の翼が生えているとまで来た。


 姿形は人間みたいであるが、全然人間っぽくない。どっちが化け物だよ。


 そうツッコミたい気も失せるほどの圧迫感が、今のヴォルガから滲み出ていた。


「これで一対一、だな」

「よく言えるな、そんな台詞」


 急な冷や汗が全身を伝う。心なしか、身体が震えているような気もする。


 あぁ、これは……本当にマズいやつだ。


 武者震いなんかじゃない。これは、恐怖だ。本物の、正真正銘、恐怖だ。


「でも」


 逃げるわけにもいかないし、そもそも結界に覆われているんだ。逃げる場所はない。


 覚悟を決めるしかない。


 おそらく仲間のバカ達は助けに来ない。来れるならとっくに来ているはずだから。


「っ……」


 自然と剣を掴む手に力が入り、腰をしっかりと落とし、ヴォルガを睨みつけるように顎を引いた。


 その反応に、ヴォルガは嬉しそうに笑った。


「俺のこれにビビらず戦闘態勢に入ったのはリオン、お前が初めてだ」


 うっせぇ、ビビってるっての。嫌みか。


 ヴォルガの一挙手一投足に全神経を捧げる。


 こっからは一瞬の気の緩みが命取りになる。


 そう思っていたのだが――。


「っ!?」


 気付けばヴォルガは()()()()()()()()()()()()()()()


 まったく……見えなかった!?


 躊躇なく俺の顔面に向けて放たれた拳を、寸前のところで顔をずらすことでギリギリ避ける。


 だが、切られるような痛みが頬から伝わってきた。


 拳からほんの少し付きだした爪にでも引っかかったのだろう。


「くっ」


 とりあえず牽制と距離を取るために、左足で腰を狙う。


 しかし、そこでまたしても。


「い、っつ……!」


 蹴ったはずの俺の足が逆に悲鳴をあげた。


 蹴りは入ったはずなのに、ヴォルガの皮膚を歪ませるどころか、俺の足が硬い何かにぶつかったように潰れた。


 その痛みに顔をしかめっ面にしている間に、ヴォルガが視界の端で動いた。


「うおらぁっ!」


 突きだした拳の甲でそのまま俺の顔の横を狙っていたのだ。


「いぎっ……」


 咄嗟に両腕をクロスして衝撃に備えたが、そんなものを無視するかのような豪腕に、俺はあっけなく吹き飛ばされた。


 地面に転がりながら感じるのは、転がる痛みではなく腕の痛み。


 まるで骨が折れた、もしくは骨にひびが入ったような痛みだ。


「なんつう力だ」


 幸いと言うべきか、腕は折れていないし、ひびが入ったわけでもなさそうだ。


 だが、何度も受け続ければいずれはそうなってしまうだろう。


「おいおい。こんなもんじゃねぇぞ!」


 受け身を取った俺の耳にヴォルガの楽しそうな声が届いた。


 咄嗟にヴォルガを見ると、今度は手のひらを俺に向けていた。


 その手の意味に気付いた俺は。


切り裂く暴風(カッティングストーム)


 そう言われる前に、横へ跳んだ。


 すると、ゴウッという音ともに、さっきまで俺がいた地面に、真っ直ぐな亀裂が起きた。


 それだけじゃない。


陰から這い寄る影の槍(シャドウランス)


 その亀裂から俺に向かって、真っ黒な槍が飛び出してきた。


 自分でも良く反応できたと思うほどに、咄嗟に剣で槍を弾いたと思ったら。


「余所見している暇はねぇぞ」

「うげぇっ!?」


 槍に気を取られている一瞬で、俺との距離を詰め切ったヴォルガは俺の腹に向かって鋭い爪を突き出していた。


 腹に風穴を開けられたらさすがに死ぬ!


「【障壁】!」


 ギリギリのところで【障壁】のスクロールを出して、難を逃れるもののペースは未だにヴォルガのまま。


 反撃のチャンスどころか、自由な行動すら許してもらえない。


 このままでは時間の問題なのは明らかだった。


「落ちろ」


 その意味に気付けたのは奇跡としか言いようがなかった。


 咄嗟に上に剣を振るうと、バチバチィッという音ともに腕が震えた。


 空は青いのに、なぜか俺の真上にだけ黒い雲があった。


 天候……そりゃそうか。風だけじゃねぇよな。


 そこでようやく、俺の思考が俺の行動に追いついた。


 それがどうした。


余炎地獄(ヘルモード)


 すると今度は俺の足場から火が立ち上がり、どれだけその場を移動しても俺の足下から発火が始まる。


冷却付与(クールエンチャント)!」


 しばらく足下の火から逃げていた俺だったが、魔法を唱えるとたちまち火は消えた。


「よくわかったな。お前の足から出る僅かな熱から炎を生み出していると」


 感心したようにヴォルガが笑みを浮かべ、俺は悔し紛れに笑うしかなかった。


「勘だ、勘」

「今の攻防でやはりお前がただ者じゃないことはわかった」

「攻防? 俺がいつ攻めたんだよ?」

「最初の蹴り、悪くなかったぜ?」

「ふざけんな」


 足は痛ぇし、腕はビリビリする。


 何もできずに一方的だった。これが攻防と言えるわけがない。


 そんな俺に、同情するような口調でヴォルガが言った。


「今のでわかった。リオン。お前は俺には勝てねぇよ」

「はい、そうです、って言ったら何か変わるのか?」

「諦めたら苦しむことはない」

「確かにな。諦めなかったら、俺はアイツらに振り回される日々に戻ることになるからな」

「そんな日々は来ねぇって言ってんだ」

「その日々に戻るから、そう言ってんだ」


 俺とヴォルガの視線が火花を散らす。


 その火花が花粉を飛ばし、この国はさらに花を咲かせていく。



長い…長すぎますよ、この章。

いつになったら終わるんですか…

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