とりあえず作戦会議だけはした方がよくない?
王様……じゃなかったな、フェリアの依頼を引き受けた俺達は、セラフィとケイラの怒りのこともあって、早々に王城を後にした。
「納得いかないわ!」
「まったくだよ!」
俺達のホームに帰ってからも、二人は怒りを静めることはなかった。
別に俺は気にしていないんだがな……。
と、言うだけ無駄か。
「そんなことは後だ。それよりもクエストの内容について考えようぜ」
こういうときはとにかく無理矢理にでも話を進めた方が早い。
「オメルガといや、たしかアレだよな? 魔法大国って言うアレだよな?」
それに乗ってきてくれたのがイグスだった。
バカは都合がいいときと悪いときの差が激しい。
「イグス、魔法大国じゃなくて魔動大国だよ」
「どっちだって同じだろ?」
「う~ん。ちょっとというか、かなり違う気もするけど」
テッドの言うとおり、オメルガという国は魔動大国と呼ばれている。
『魔動』というのは、いわゆる魔動器具のことを指していて、基本は魔動具と呼ばれている。
簡単に言えば、魔力を流して使うことができる道具のことだ。
そもそも魔力とは、誰もが持っている天から与えられた力のことだ。
その魔力を使って、人は魔法を使ったり、また、生み出してきた。
しかし、この魔力を自らの意志で伸ばすには個々の限界があった。
基本的には、十八歳までが限界と言われている。
このイカレた奴らのように、十八を過ぎても未だに魔力を増やす者もいるが、俺のような普通の人達はそういうことができない。
それどころか、十五で限界に達する者までいるくらいだ。
魔力を増やす方法の一つに、ひたすら魔力を使い続ける、というやり方がある。
ただし、全員が同じく増えるとは限らない。
筋肉と同じだ。
筋肉がつきやすい人もいれば、そうじゃない者もいる。
これも、ある意味で才能と言えよう。
「この魔力の差は生活にも影響を与えているってことはいいよね?」
「あぁ。俺は火をつけるのにも一苦労するしな」
「そうだね」
まぁ、お前の場合は魔力の量自体は問題ないんだけどな。
イグスは圧倒的に魔力操作が下手だ。
そのせいで、必要以上の火を出してしまうだけ。
魔力操作さえできれば、何の問題もない。
物理でも魔法でも本当脳筋バカだよな。
そう思っていることは秘密にしておこう。
とにかくだ。
このままでは魔力の少ない者が生活しづらいのは確かなわけだ。
電気を使ってもよいのだが、近年はその電気を生み出すのにもいろいろ苦労がある。
「そこでオメルガが生み出した魔動具は、まさにそういう人たちにとっては、救いの糸だっただろうね」
その魔力を使うこともなく、生活できるようにしたのだから。
魔動具は魔力を使って何かをする道具というより、何かをするための魔力消費を少しでも節約させるための道具だ。
例えば、先ほどの火に関しては。
調理に火の魔法を使うのには、火の魔法とその魔法操作のふたつの工程が必要になる。
火だけ起こせても、その熱を全体に広げなければ調理はできないのだから。
それを、魔動具によって魔力操作する手間を省いて、かつ、火を全体に行き渡らせるようにする。
「……わからん」
「えぇ……。長い説明をしたのに……」
「イグスには難しかったかなぁ……」と何気なくひどいことを呟くテッドを哀れに思いながら、俺は頭をガシガシと掻いた。
「オメルガは魔動具の兵器を開発したって話だが本当なのか?」
「まぁ、ありえそうな話だよね」
俺が聞いたところによると、少ない魔力で強力な魔法を撃つことができる戦車とか、人造人間を造ろうとしている、なんて話があったが……。
「さすがに人造人間に関してはないとは思うが……」
あまりに非道だから、というそんな概念的な理由ではなく。
「未だにAIが完璧にできていないのに、人造人間ができるとは思えねぇ」
「となると、やはり戦車とかかな? だとしたら、遠隔操作型の兵器ってところかな?」
「だろうな」
テッドは気楽そうに答えるが、これが本当だとすれば、なかなか厄介なクエストとなってきそうだ。
「え、なんで?」
ようやく怒りを収めたセラフィが話に加わってきた。
「遠隔操作型の兵器ってのは、操作主がどこにいるかがわからないんだよ。それに加えて、相手は機械。生み出そうと思えばほぼ無限に湧きあがってくる」
しかも、それが強力な魔法をバカスカ撃ってくるともなれば……。
そんな俺の不安に対して、コイツらは一斉に首を傾げた。
「……? でも逆に言えば相手の戦力は均一化されてるってことでしょ? 相手が何をしてくるのかも大体わかってくるんだし、そんな大したことなくない?」
「それはお前らだけだ」
そんな魔動兵器が出てきても、お前らは笑って破壊し尽くすかもしれんが、俺をお前らと一緒にするな。
俺にとっては、ボスと連戦し続けるようにしか感じねぇよ。
「でも、ということはさ。オメルガの不審な動きってそれに関連したことなのかな?」
「かもな」
本格的に魔動兵器の開発に取り組み始めたことなのか。
とっくに魔動兵器が完成して、この国を攻撃する準備をしているのか。
「今の段階ではまだ何とも言えねぇな」
「まぁ、そこはよ。わかった時点で考えりゃいいだろ」
「……だからって考えを放棄しちまったら世話ねぇよ」
でも確かに今のところはイグスの言うとおり、何もわかっていない。
何もわかっていないところでゴチャゴチャ言っても、コイツらに心配のしすぎと言われるのがオチだ。
とりあえずこの問題は調査次第ということで。
「オメルガはその魔動大国という他に何かあるんですか?」
すると、今度はシュリがそう質問した。
「商業が盛んな国でもあるな」
じゃないと、せっかく開発した魔動具が無駄になってしまう。
「おい、ちょっと待ってくれ。その割にはその魔動具ってもんを俺は知らねぇぞ」
「あぁ。それはね、イグス」
この国とオメルガは交易を行っていない。
そりゃ、敵国に資金を送るような国なんているわけないわけで。
イグスが見たことがない、と言うのも無理はないように思えるが……。
「いやいや。俺達がこれまで旅してきた町とかにいろいろあったからな?」
「そうだったか?」
「まぁ、イグスはそういうことに興味ないから」
「筋トレばっかりしてた気がするぜ!」
「気じゃなくて、それしかしてねぇよ」
どこでもいつでも筋トレのことしか頭にねぇ。
少しは周りにも目を向けろ。
「街灯に関しては、電気より魔力の方が長持ちするって評判だっただろ?」
「いや、知らねぇ」
「コイツ……!」
「まぁまぁ。リオン、おさえておさえて」
そんなことをしていると、セラフィが珍しく核心を突くことを聞いてきた。
「ねぇ、オメルガに私達って入れるの、リオン?」
「あ? ……あ」
「え?」
しまった……。まったく考えていなかった。
そうだ。当たり前のことを忘れていた。
敵国にそうやすやす入れるわけがない。
「なんだよ、普通に入ればいいだけだろ」
「イグス、お前は少し黙っててくれ」
敵国の冒険者である俺達が玄関から普通に入れるわけがない、となぜわからないのか。
セラフィでもわかったのに。
「なんか今誰かに馬鹿にされた気がする」
さすが野生人……、などと言っている暇はなく。
調査する以前の問題だぞこれは。
「潜入するしかないか」
「シュリはどうにかできないの?」
どうにか、というのはつまり教会を通して入れないか、ということだろう。
確かに、国で敵対していても教会となれば可能性が……。
と、思ったものの。
「すいません。オメルガに教会はないんです」
「別に謝ることじゃないわ」
教会も頼れない、となるとやはり潜入しかなくなる。
「テッド」
「うん、わかってる」
俺がテッドを見ると、テッドは笑顔で頷いた。
作戦はこうだ。
テッドをまずオメルガの内部に侵入させる。
方法はいつも通り。
馬車が門をくぐる瞬間を狙って、テッドがその持ち前の速度で侵入。
あとは裏側から門を開けるなり、ロープを垂らすなりで俺達を入れる。
馬車に関しては問題ない。
オメルガは先程言ったように商業の国。
外部との交易のために、馬車が行き来するのは分かりきっている。
「毎回思うけどよ。テッドだけでいいんじゃねぇか?」
「それはあなたが単に壁を登りたくないだけでしょ、イグス」
「お前らが思っている以上にこの鎧と剣って重いんだからな?」
「大剣と大盾を片手で振り回す方がどうかしてると思うけど?」
「そうかぁ?」
普通は振り回すどころか持つこともできねぇわ。
まぁ、確かにイグスに関しては潜入には向かない武器をしているのは事実だ。
だが――。
「お前らを一人だけ置いていけるか」
「わぁ、リオンって優しいんだね!」
違ぇわ。
お前らを単独行動させてみろ。絶対何かをやらかす。
王様の城であれだけ自由に動き回っていた奴らだぞ?
監視役がどう考えたって必要だろ。
そして、このパーティの監視役はどう考えても俺なわけだ。
「放っておくと一国を滅ぼすかもしれん」
いや、ホント。マジで。
嘘だと思うか?
残念なことにもう経験済みなんだよ。
「いいか。今回は特に調査が目的であって、基本的には潜入だからな?」
「え、でも調査次第では、って……」
「知らん。絶対に騒ぎを起こすなよ?」
「え、でも」
「いいから言うことを聞け!」
「でも」も「もしも」もいらん。
どうせお前らは我慢しきれなくなって暴れるに決まっているんだ。
少しは抑えてもらわなきゃ困るんだ、俺が。
お前らが今まで起こしてきた被害の数々、誰が責任を取っていると思っているんだ。
お前らが思っている以上に、俺の額には土や泥が付いているんだよ。
「リオンが言うなら仕方ないか」
「……まぁ、いいや」
あえて強く言うことで反感を買い「あわよくばパーティを……」と思ったのだが無理だったか。
もういいよ。
「さっさと仕事を終わらせて帰るぞ」
「「「「おお!」」」」
こういうかけ声だけは最高なんだがな、お前ら。




