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とりあえず脱獄してみない?

お久しぶりです。

まさか投稿に1ヶ月かかってしまうとは…

 華夕の一件から、一週間を過ぎた頃。


 俺とヴォルガはというと――。


「ねぇ、あれって」

「最低最悪の人間よ」

「ミジンコの恥でしょ?」

「恥ずかしいと思わないのかしら」


 と、特に女子達からのバッシングの日々に追われていた。


 面と向かって直接言うのではなく、陰口のように、しかし聞こえるように言ってくる。


 前にケイラが言っていたことを思い出す。


『女っていうのは、リオンが思っているよりも怖いものよ。セラフィとは違った怖さというのかしら。陰湿なのよ、いろいろと』


 周りにはおかしな女ばかり集まっていたせいで、それがどういうことかわからなかったが、今ならわかる。


 これは……地味に少しずつ辛くなるやつだ。


 チクチクと、そして、治りにくい傷をつけられているような。そんな感覚。


「かなり嫌われてるな。俺達」

「お前が落とさなきゃこんなことにはならなかったんだぞ?」


 それはまぁ、悪いと思ってる。


「結局、見つかんねぇし。どこに落としたんだよ」

「わかんねぇよ」


 イベントが終わった後に、カミュラさんが改めて女子寮を探したようだが見つからなかったようだ。


 もちろん、俺達も自分の制服を再度探したが見つからなかった。


 誰かが持っているかもしれないと思ったのだが、それも違った。


 本当に行方不明になったのだ。


「ま、人の噂も七十五日っていうし。いつかは収まることを願うしかない」

「噂じゃなくて、本当のことだけどな」

「それを言うなよ……」


 だが、ヴォルガには悪いが、俺は事件が解決したらこの国をおさらばする。


 よかったな。この称号はお前が独り占めだ。


「……なぁ、リオン」


 そんなくだらない話をしていると、不意にヴォルガが急に止まり、真剣な声色で話しかけてきた。


 どうした、と思って振り返ると、真剣な表情で窓の外を見ていた。


「なんだ?」

「どんなに抗おうとしても、抗えないときってあるか?」

「……はぁ?」


 急に何の話だ、そう返そうとしたが、ヴォルガはどこか悲しそうに横顔で続けた。


「悪いことだとはわかってても、そうしないといけないって思っちまったこと、あるか?」


 今までのヴォルガから、それは華夕のことについて言っているのかと、最初は思った。


 すぐに冗談っぽく「なぁんてな」とおどけたように笑うのかと思った。


 だがしかし、いくら待ってもヴォルガは外から視線を外さない。


 いくらなんでも、何かがおかしいことに気付いた。


「……そうか。もう……いや、ようやく……か」

「お、おい。ヴォルガ? どうした?」


 ヴォルガがようやく顔を戻したと思ったら、壊れた機械を直すように、ガンガンと自分の後頭部を叩く。


 なんだ。何が起こっている?


 さっきまで、いつものように雑談を交わしていたはずだ。


 しょうもなく、でも、ありきたりで馬鹿な話をしていたはずだ。


 なんの前兆もなく、突然歯車がズレたような……いや、そもそもの歯車が別のものに入れ替わったみたいな。


「なんだ……これ?」


 俺の身体が何かの危険信号を察知した。


 このピリついた空気は、さっきまでなかったはずだ。


「っ……!?」


 周りを見てみると、気付けば周りの人達が俺達をジッと見ていた。


 さっきまで汚物を見るように見ていたはずなのに、今の目はそれとは少し違う。


 というか、俺達ではなく()だけを見ている……?


「まさか取り憑かれることになるなんてな。思ってもいなかった」


 ヴォルガがこれまでとは違う不気味な笑みを浮かべていた。


「でも悪い気分じゃないんだ。それは俺達が当たり前に持っているものだし。その対象がちょっと変わったっていうかよ。抗えるわけもないんだよな」

「さっきから、何を言ってんだよ?」

「探究心という魔力の話だ」


 ヴォルガがそう言って右腕を前に出すと、周りの生徒達が一斉に詠唱を始めた。


 それに即座に反応して身構えたが、その必要はなかった。だが、ある意味それよりも悪いものだった。


「結界魔法?」

「あぁ。外を見てみろよ」


 ヴォルガにそう促され、外に目を向けると、学園全体を透明な黄色い何かが覆っていた。


 しかも、それは何重にも張られており、学園の外にある街が黄色に染まっているように見えた。


「これで、外からの侵入はもちろん。中から出ることもできなくなった」


 閉じ込められた、その事実に気付いたとき、ヴォルガが小さく呟いた。


「やれ、アオイ」


 背後っ、いつの間に!?


()()()()()()()


 そこにいたのはこの場所に似つかわしくない、着物を着た一人の女の子だった。


 俺が背後を取られたこともそうだが、何よりも驚いたのは、その女の顔には爬虫類のような鱗のようなものがあること。


 まさかコイツ、アオイか!?


 咄嗟にその少女が誰なのか気付けたのは、経験からなのだろうか。


 魔物が人間化できるなんて聞いたことがない。いや、そんなことを考えている場合じゃねぇ!


 自分の中の余計な思考をグッと抑えて、目の前の敵を見る。アオイらしき女性は俺の顔一〇㎝もない距離から手を向けている。


 何をされるかわかるわけもないが、どんな結果に陥るかは明白だった。


切り裂く暴風(カッティングストーム)


 咄嗟に顔を横に逸らすと、俺の頬を何かが切った。


「逃がさないよ」

「うっ」


 その女は向けた手のひらを、俺の顔を追尾するように動かす。


 今の一瞬でなんとなく察した。


 今のはおそらく風。しかも斬れる。見えない刃!


 手のひらを避けるため、身体を横に倒すように足を地面から離すと、左足をそのまま振り抜く。


「ぐぅっ」


 アオイの横腹に確実に入ってはいるが、足場もないし、咄嗟の行動のため大した威力にはならない。


 それでもアオイを吹き飛ばすには充分な威力だったらしく、アオイは苦しげな声をあげるもその手のひらはまだ俺を狙っていた。


「アオイ!」

「大、丈、夫っ!」


 主であるヴォルガの声に返事をしながら、俺の胴体を狙って振り下ろしてくる見えない刃。


【置換】した剣で防ごうとするが、その寸前で気付いてしまった。


 上から来るのは剣のような、だが風だ。


 剣という表面積の小さいもので防げるわけがない。


「しまった……」


 風に押し潰されるような感覚と同時に、ガリガリッと俺の腕を切り裂く。


「んぎっ……!」


 腕の痛みに声をあげている場合ではない。このままでは胴と脚とで分かれちまう。


 俺は痛みを堪えて懐に手を伸ばす。


「風は壁で塞がねぇとなっ」


【障壁】のスクロールを貼ると同時に、見えない壁が風を阻み、僅かにできた時間で風の射程距離から素早く距離を取る。


 だが、休んでいる暇はない。


 周りの生徒達が遅れてだが詠唱を始めたのだ。今度は正真正銘、攻撃魔法だ。


「くそっ」


 俺はすぐさま立ち上がって、窓へと走る。


 学校の中といい、女子寮といい、廊下は狭すぎて戦いにくい。


 単純に動きの幅が少ないのは、今の俺にとって致命傷なのだ。


 俺は、窓を蹴破って外へと脱出する。


 ここは三階だが問題ない。


 着地する瞬間に風の魔法で自分を持ち上げて勢いを落とす。


「外に逃げるか。そりゃそうか」

「追うよね?」

「当然だ」


 三階にいるアオイ、そしてヴォルガと目が合う。


 完全に敵意、殺意しかない目だ。


「いったいなんだってんだよ……」


 情報の理解が追いつかない。


 ただわかることは、どうやら俺はこの学園全体を敵に回したということ。


 華夕の規模じゃない。


 さっきまで授業をしていた教師までもが俺を見るなり、手を向けて詠唱を始める。


「シエンと合流? いや、まずはみんなと……結界があるのかクソ」


 何が起こっているのかまったくわからないが、今はとにかく身を隠すことが優先だろう。情報収集はそれからだ。


 シエンが少し心配だが、まずは自身の安全を確立することから。


 そう決めて、周囲から放たれた魔法を利用して砂埃を立てる。


 砂埃で俺が見えなくなっているうちに俺は走り出した。




 ★☆★




 階段を誰かが降りてくる音がする。


 ここに閉じ込められてからしばらく経つが、こんな音は聞いたことがない。


 憎き弟子でもなければ、見回りの看守でないのは明らか。


 となれば、そうか。無事成功したようだ。


「お迎えに上がりました、ゲンケイ様」

「うむ、ご苦労」


 その男は持っていた鍵で牢を開けた。


「ふむ」


 牢を出た儂は、改めて男を見た。


 男はまさにどこにでもいそうな顔と服装をしていた。


 どこかの店で普通にものを買って、普通に家に帰って、何事もなく生きていそうな男である。


 まさに、ただの一般人のようだ。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「我々の大願を果たしてください。お願いします」


 男は儂にすべてを託すように手を握った。


 まるで十年ぶりに恩師に出会ったように目に涙まで浮かべているこの男を私は知らない。


 どこで何をしているのかはもちろん、何をしていたのか、だって。


 本当に初対面なのだ。


「ふむ。知りもしない、会ったこともない男に涙を流されるのも困ったものだな」


 逆に、よくもまぁ、初対面の相手をここまで信用して涙を流せるものだ。


 儂がそうなるよう仕向けたのだが、目の前にすると少し興醒めだな。


「準備はできているのだな?」

「はい、一切のぬかりなく」

「ならいい」


 階段を登り、久し振りに浴びた日光に、目が慣れるにしたがって、身体が喜びをあげる。


 いや、きっとそれだけではないのだろうが。


「さて、邪魔者に介入される前に終わらせるとしようか」

「はい」


 さぁ、見てみろ、世界よ。


 この私が作る新世界を。



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