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皆で情報交換してみない?

 リオンが不名誉これ以上ない称号を授かったという情報を受けた後、僕はある場所にいつものように侵入していた。


 学園王国軍事施設の中にある、第一機密魔導隊。


 特に数字によって順位付けされているわけではないが、この第一機密魔導隊に限ってはそれは異なる。


 選りすぐりのエリートの中でも特に優秀な人材が集められた隊だ。


 そんな第一機密魔導隊の部屋近く、僕は物陰に隠れながら、ある人物を待っていた。


 壁によりかかって息を殺していると、その壁を挟んだ向こうから誰かの気配を感じ、合図を待つ。


 数度コンコン、と爪で壁を叩く振動が伝わってきたので、僕も同様の方法で返事を返した。


 そしてしばらくの沈黙の後、再度コンコンと返ってきたので、僕の待ち人で間違いなさそうだ。


「元気かい、トーカ?」

「……普通」


 トーカらしい受け答えに僕は軽く笑った。


 リオンが相手ならもうちょっと違う反応を返すんだろうなぁ、と思いながら。


「何か情報は掴めた?」

「全然」

「そっか」


 トーカは機密魔導隊の中で早くも一目置かれる存在となり、最速でこの隊に配属された。


 しかも、まだ入ったばかりと言うことで、まだ一隊員だが、実力だけで見ればこの隊のリーダーを任されてもおかしくない。


 そんなトーカには、日夜いろいろな情報が入ってきており、それを分析し、僕が皆に共有する。


 だが、ここに来てから一度も大した情報は来ていないのだとか。


 分析に特化したトーカが見落とすわけもないことから、本当に入ってきていないのだろう。


 その理由は……。


「もしかして警戒されてる?」


 入隊において歴代最高の得点と適性を叩き出した上に、それなりの結果も出しているのだ。


 怪しまれてもおかしくはない。


 そう思ったのだが。


「それをさらに上書きするほどに活躍したと思う」


 トーカはそう言って僕の考えを否定した。


 一時は何かの事件の黒幕、もしくはそれに近い関係なのではないか、と怪しまれることもあったらしい。


 実際はそれに近いことはしているが、この国と敵対しているわけではない。


 トーカが来てからこの国で起こった問題は、本当に解決している。


 そんな疑惑はもう取り除かれているらしい。


 となれば。


「本当に、何も起こってない。けど、それが不気味」

「僕も同意見だよ」


 とっくにもう何かが動き始めていることは、前回のケイラの聞き込みで判明している。


 しかし、トーカですらその動きを掴めない。


 トーカの言うとおり、異常すぎて気持ちが悪い。


 本当は何か起こっているんじゃないだろうか。僕達が見逃しているだけじゃないんだろうか。


 そういった疑心は失敗に繋がってしまうため、あまり考えないようにしているが、それでも人間は不器用なものだから。不安になってしまう。


「何をどうすればいいのか、ここまでわかんないのは初めてだよ」


 問題は明らかだけど、どうすればその問題を解決できるかわからない、そういう任務を受けたことは今までだって何度かある。


 しかし、今回はそれとは違う。


 今足に付いている地面が、本当に存在しているかどうかわからない。坂を登った記憶がないのに山の中間にいるような、ただただ不気味な感覚。


「みんなはどう?」


 今度はトーカから僕に質問が来る。


「皆にも聞いたんだけど。やっぱり何もないね。リオンなんて心なしか、学園を楽しんでいるみたいだった」

「私も行きたかった」

「それを僕に言われても困るなぁ」


 この役割分担をしたのはトーカなわけだし、そのトーカ本人がそんなことを言うなんて。


 まさかとは思うけど、トーカも情報が掴めなくてイライラしているのかもしれない。


 こういうときは、ちょっと話を変えてみるのもいいかもしれない。


「何かあった? 珍しいじゃん。そういうこと言うなんて」

「……ちょっと寂しくなっただけ」


 へぇ。本当に珍しい。おかしくなってしまったのかも、そう思えるほどに。


「話なら聞くよ。リオンにも伝えておくからさ」


 こういうとき、僕じゃなくリオンに伝える、と言った方がトーカは話しやすいだろう。


 そう思って言ったら、僕の作戦通りトーカは話してくれた。


「……さっき任務で指名手配犯を捕まえるってことをしたんだけど」

「うんうん」

「その任務に限った話じゃないけど、隊のみんなの動きがすごくよかった。チームワークがすごかった」

「でもトーカの分析力ならそのチームの輪に入ることも簡単じゃない?」

「うん。でも、それは私の分析力があるからこそ。でも、彼らがあんなに動けるのは、長年、あのチームで動いているからだと思う。お互いを知り尽くして、信用して……ううん。確信しているような、無駄のない動きをしている」

「なるほどねぇ」

「それが重なって感じた。【神の心臓】の一員の私と」


 そうか。そこまで言われて、僕はようやく気付いた。


 トーカと魔導隊の人達の関係と同様に、僕達とトーカの関係も、出会ってそんなに長い時間ではない。


 トーカの分析力があって、トーカも僕達とチームワークが取れているように思えていたけど、トーカがいなくても、僕達はお互いを知っているからこそ連携が取れる。


 どちらかと言えば、僕達という一つのチームがあって、トーカがそのチームの中にうまい具合に入っている。


 そんな関係のように思えたんだろう。


 それは僕達が意図してやっていることではもちろんないし、トーカにだって非はないし、そう思ってしまうのも筋違いだ、と僕達なら言える。


 でも、トーカの心はそうじゃない。


 どこかで疎外感を感じているのだ。


 どうやってもそれはすぐに解決されることではなく、長い時間をかけて積み上げていくものだ。


「そっか」


 だからこそ、僕から言えることは何もなくなる。


 これがリオンならどう答えるだろう、そんなこと考えてみるが、リオンの考えはもちろん僕にはわからない。


「……ごめんなさい。変な話をして」

「ううん。全然おかしくないよ」


 話を聞いておいて、何も返せないなんて。僕の方が謝りたい気分だ。


 でも、これだけは言っておかないといけない。


「君がどう感じようと、僕達は君を受け入れているよ。仲間だと思っている」


 形ではなく、本当に。


「だからあまり抱え込まないでほしいな。抱え込む方がきっと目的から遠ざかるだけだよ」


 僕はそう言って壁から離れる直前。


「……ありがとう」


 その言葉に僕は「大丈夫だよ」と聞こえないくらい小さく笑った。




 ★☆★




 次に僕が向かったのはある教会だった。孤児院としての活動をしている教会だ。


 教会の周りには強力な結界が張られており、許可された者だけが入ることができる。


 もちろん、その中に僕はいる。


「やあ」


 結界の中に入ると、教会の庭で数人の子どもたちと遊ぶ大きな身体をした男の姿が見えた。


 その男は、僕の存在に気付くと「おっ」と言って。


「テッド、お前も筋トレするか?」

「遠慮しておくよ」


 開口一番に筋トレの話題を出すのは、さすがイグスと言うべきか。


 ……それにしても。


「また、ずいぶんと大きくなったね?」

「おう! 暇だから筋トレしてたからな!」

「いや、イグスもそうなんだけどさ……」


 僕はそう言って、斜め下に視線をずらした。


「ここに来たときはみんな痩せてたんだけどなぁ」

「シュリが飯をたくさん食わせて、俺が鍛えているんだぞ。そりゃ、こうなるにきまってる! ガハハ!」

「僕がイメージする孤児院とはかけ離れてすぎて……」


 もっと食料困難に悩まされていて、経営にも困って、子どもたちもなんとか必死に生きている、それが孤児院のイメージだったんけどなぁ。


 リオンが前に言っていたように、貴族の子どもたちよりも裕福な生活をしている孤児とはいったい……。


 シュリだけなら肥満が溜まった孤児になるのだが、イグスの影響でその肥満が筋肉になっている。


 なんかもう孤児を引き取って軍人にでも仕立て上げようとする軍事施設のように思えてきた。


「テッドさん。こんにちは」

「やぁ、シュリ。相変わらずだね」


 孤児という名の小さな軍人の成長に戸惑っていると、教会からシュリが出てきた。


 その手には子どもが食べるとは思えないほどの量の料理。


 こりゃ、肥満も溜まるわけだ。


「シスターのご飯だぁ!」とはしゃぐ子どもたちに、どんな目を向ければいいか困っている間に、食事が始まる。


 その食事だって、誰が一番食べるか、という競争をしているし、その中にはイグスも混じっている。大人げない。


 しかも、それを幸せそうにシュリが見ているのも、なんかもう不気味だ。二人には申し訳ないけど。


「ちなみに聞くけど、何かあった?」


 食事を終えて、食器の片付けをしているシュリに聞いてみた。


「いえ、特に何もないです、かね?」

「なんで疑問系?」

「実は……」


 食器を洗う手を止めてシュリだったが、僕達の前に一人の男の子が歩いてきた。


 この教会の中では一番に歳の低い男の子だ。そういえば、この子は庭にいなかったけど、どうしたんだろう。


 そう思っていると、男の子は、ずぅっ、ずぅっ、と鼻をすすりながら、目を擦って言った。


「お腹減ったよ、シスター」

「今持っていきますから、食べたら寝ましょうね」


 シュリはお粥らしいものを持つと、男の子と一緒に部屋に入っていく。


 入ってしばらく、シュリの声が時折聞こえていたが、一度だけくしゅん、という可愛らしい声も聞こえた。


 それから少しして、シュリが空になった茶碗も持って帰ってきた。


「あの子は風邪?」

「そうなんです。三日前くらいから」

「その前の日に、確か街に出てたよね。もしかしてそれが原因とか?」

「あの日は少し寒かったですから。他にも何人か同じ症状があって……」


 悲しそうな様子からおそらく、自分が気を付けないといけなかったのに、とでも思っているのだろう。


 僕からしてみれば、子どもなんて風邪を引くのは当たり前だし、気にすることでもない。


 でも、シュリはそういうのを気にしちゃう性格だ。


「シュリの魔法で治せないの?」

「治せないこともないんですけど、そうすると免疫がつかないので」

「まるでお医者さんだね」


 そこいらのお医者さんなんてとっくに凌駕しているんだけど。


「あ、あの。セラフィさんはまだ見つからないんですか?」

「まあね。でも、リオンからも探さなくていいって言われているからね。あまり気にしないようにしているけど」

「そうなんですか……」


 そうこうしているうちに、遊びという名の訓練、もしくはトレーニングを行っていたイグスと子どもたちが帰ってきた。


 やりきったような、充足感に満ちあふれた表情をしている。


 身体を強化して、お互いに見せつけ合う様子は、まるで子どもがするようなことじゃない。


「イグスみたいに頭の中まで筋肉にならないことを祈るよ」


 ぼそりとそう言うと、シュリが苦笑いを浮かべた。


「もう手遅れかもしれないですけど」

「……」


 何気にシュリって辛辣だよね、リオンがいないときだけ。




 ★☆★




 最後に、僕は国の中心部から少し離れた場所に位置している、とある一軒家に足を踏み入れた。


 こういう言い方をするのはなんだけど、暗い雰囲気のある家だ。


 しかし、家の中はスッキリしており、むしろ何もない。


 あるのは本棚と多少の本。あとはテーブルや椅子などの、必要最低限の家具のみ。


 掃除されたばかりの宿屋みたいに、なんとも殺風景な光景だと思ってしまう。


 そんな中、一人椅子に座って本を熱心に読む女性。


「ケイラ、来たよ」


 そうケイラに声をかけると、ケイラは本をパタンと閉じて僕を見た。


「何か情報はあったかしら?」

「それが全然。まるで何もない」


 僕がそう答えても、ケイラは特に何の感情も浮かばない様子で「そう」とだけ言った。


 聞く前からある程度、いや、かなり予想していたようだ。


「あの男はそんなヘマはしない。昔からものを隠すのが得意なのよ」


 ケイラはそう言うと、手元の本に目を戻す。


「それは?」

「あの男がかつて行おうとしていた研究について書かれた本よ」

「命を魔法で解明しようとすることだっけ?」


 魔力と生命は切っても切れない関係がある。


 リオンが使う体術【無壁(ブレイクスルー)】も然り、魔力を使う度に身体に疲労が溜まることも然り。


 それは研究でわかったことである。


 その研究の延長線上に提唱されたのが、生命という抽象的なものを、魔力という具体的なもので表すことができるのではないか。


 もし仮に、生命を魔力で解き明かすことができたのなら、魔法で人を生み出すことができるようにいずれはなるかもしれない。


 そしてそれは、さらにその先にある人間の誕生について、僕達が決して見ることのできない過去を知ることができるかもしれないということにも繋がり。


 最終的には、この世界の成り立ちにも繋がるのかもしれない。


 そういった探究心という魔力に取り憑かれた研究者達の中の一人がゲンケイという今回の親玉である。


 でも、僕が唯一気になっていることがある。


「結局のところだけど。ゲンケイは命の研究で何をやったの?」


 皆で最後に会議したときは、詳しい内容を教えてはくれなかった。


 その前にセラフィが話に飽きてしまったと騒いだから。


『どのみち、今から行くんでしょ? 早く行っちゃおう!』


 と、言っていた本人が今いないわけだけど。


「ゲンケイは命を研究するにあたって、生きた人を使おうとしたのよ。身体を解体して、でも死なせないように。動いたままの人を無理矢理スキャンさせて、仕組みについて理解しようとした。ゲンケイは入念な準備を行うことで、一人の被害しか出さないようにする、そう言っていたわ。でも、それは最低でも一つの命を疎かにするということでもあった」

「非人道的な行いに多少の慈悲を入れたところで悪は悪。変わらないね」

「ゲンケイがそれを実行しようとしたところで、私が実験に使うつもりだった奴隷を逃がしたのよ。そして、奴隷制度を厳しく取り締まることで、ゲンケイも研究を断念することになった」

「そして追放に繋がるわけか」


 ケイラが追放される経緯はわかった。けど。


「カミュラさんはなんで逃げなかったの?」


 あのケイラが親友と呼ぶほどだ。相当仲が良かったはずだ。


 僕も用務員として学校に潜入していると、彼女は僕にですら話しかけてくる。


 挨拶程度しか交わさないが、彼女だけがいつも明るく元気に挨拶してくれていた。


 そんな彼女がこんな危ない国にいることを、ケイラが許すとは到底思えない。


「もちろん説得したわ。でも、カミュラは頑なに首を横に振ったのよ。私みたいに強い人じゃないから、外の国では生きていけないからって。魔法の研究もしたいからって。実際、そのときのカミュラは何かがうまくいっているみたいでもあった。それについて、教えてはくれなかったけどね。でも、たぶん花のことね」

「そういえば、カミュラさんの固有魔法は現実に存在する花を生み出す魔法だったっけ?」

「昔は自分が知らない花を生み出す方法がわからなくて悩んでいたのよ」


 自分の固有魔法がどんどん成長していく過程は確かに面白い。


 僕だって最初から【速度調整】を自由に使いこなせたわけじゃない。


 速すぎて手に負えない時期もあったし、速い遅いを同時に使うこともできなかった。


 けど、一度コツを掴むと楽しくなって、いろんなことに挑戦してみようとも思える。


 その結果、ここに繋がっているわけだし。


「……あれ、そういえば――」


 ――ケイラの固有魔法を知らないんだけど。


 そう聞こうとしたところで、玄関のドアが勢いよく開けられる音がした。


 何事かと思って、二人で見に行くと、トーカが珍しく焦った様子で立っており、ただ一言。


「リオンが危ない! 今すぐ呼んで!」


 ……何かが動き始めたみたいだ。


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読んでいただきありがとうございます
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― 新着の感想 ―
[良い点] シュリとイグスに任せた孤児院がブートキャンプみたいな感じになってるw [一言] テッドの出番が増えるたびにリオンの上位互換だなぁって実感する
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