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とりあえず不名誉な称号を授かってみない?

連続投稿はもう少し続く……

 ()()()見た女子の部屋に、俺が真っ先に感じたことは「ほぅ」と感動に似たものだった。


 女子の部屋に入ろうと、男子学生達が躍起になる気持ちが、今さらながら多少わかったような気がした。


 特別おかしなところはない。


 確かに、女子特有の、とでも言うべきだろうか、薄い桃色をベースとした壁に、花柄模様が入った家具など。


 男の部屋ではあまり見ないようなものがたくさん見受けられる。


 しかし、それでも男にだって女性が好きそうな色が好きな人も、花が好きな人だっているし、逆に、女性でも男っぽい部屋を好む人だっているだろう。


 そういう人を特に俺は差別することはない。


 だからこそ、所詮は「ただの女子の部屋だろ」と思っていたのだが。


 それとは別に何か違う特別な感情を抱いたことに、不思議に思うと同時に、どこか当然とも思えるような、そんな奇妙な感覚だった。


 それは、この部屋全体から漂う甘い匂いの所為なのだろうか。


「すごいですね、リオンさんは」


 そんな呆然とする俺の前に立って、カミュラさんは柔らかい笑みを浮かべた。


「もしかしたら、とは思っていたんです。リオンさんは自分を大したことないって言いますけど、それでもやっぱり最強のパーティの一員なので。まさか、本当に極致魔法を打ち破るなんて」


 笑みの中に驚いた表情を見せるカミュラさんに悪いが、俺は極致魔法を打ち破ってなどはいない。


 俺では、極致魔法を打ち破ることなんて生まれ変わっても無理なんだ。


「打ち破ったのではなく、防いだんだ」

「同じことではないんですか?」

「防いだのは俺でもないし」

「どういうことでしょう?」


 首を傾げるカミュラさんに苦笑いを返すと、ますます困ったような笑みを浮かべる。


 アレを防げたのは偶然であり、必然でもあったとも言える。


 しかも、その場の発想がただ単に思い浮かんだだけ。


 冷静になった今になってみれば、防げて当然だと思うが、あの瞬間では「たぶん防げるだろう」という淡い期待というか、希望でしかなかった。


「あの極致魔法が見えた瞬間に、廊下の端に寄ったんだ」

「あの魔法はたしか、廊下を埋め尽くすほどの広範囲の攻撃だったと思いますが……?」

「魔法を躱すために寄ったんじゃない。あるものに触れるためだ」

「あるもの?」


 正確に言うと、触れるのではなく()()するためだ。


「俺の固有魔法は【置換(リプレイス)】。設定したものを自分の手の中にあるものと、交換して出現させる魔法」


 剣から弓矢に、弓矢から杖に、など。


 普段は動きやすさのため【空気】を設定することで、素手にしており、空気と武器を交換することで戦闘等を行っている。


「俺は今回、自分があらかじめ設定していた【空気】を破棄し、あるものを設定して【置換】を行った。そのあるものが、俺とヴォルガを守ったんだ」

「その、あるもの、というのは?」

()()だよ」


 俺は廊下の端に行くことで、廊下の最中になる誰かの部屋のドアに触れ、設定を行った。


 そのドアが極致魔法という最大の魔法を防いだのだ。


「ドアがいったいどうやって……あ」


 一瞬だけ疑問を浮かべたカミュラさんだったが、さすがは生徒会長で優秀な人だ。すぐにその理由がわかったようだ。


「そう。この寮全体には、ものが壊れないようにと強力な結界がかけられている。手榴弾すら傷一つつけられない強力な魔法が」


 それは当然、ドアにもかけられている。


 そりゃ、男子狩りしている途中で自分の部屋、もしくは違う女子生徒の部屋のドアが壊れたり、外れたりしてしまえば大問題だ。


 部屋に入らずに、部屋の中を見てしまえるなんて。そんなことはあってはならないことだ。


 だから、アイツがそれに気付かなくて本当によかったと思う。


「でも、極致魔法の威力が結界の魔法を越えてしまう、という可能性はありませんか?」


 そう。それこそ俺が考える余裕もなかったこと。


 だが、今ならはっきりと答えられる。


「それなら俺達が防げなかった極致魔法は寮を破壊し、一部の女子の部屋も絶賛大公開になってしまう。そんなヘマを女子達もしないだろうし、教師達もさせない。本当に強力な結界なんだろう?」

「は、はい……」


 極致魔法を撃つ作戦を立てた時点で、そういう検証をしていてもおかしくはない。


 あのときは防げるか半々だ、と思っていたが、よくよく考えてみれば絶対に防げるわけだ。


「だが、極致魔法を防げたのは俺であって、俺じゃない。そんな強力な結界を張った先生達だ」


 極致魔法を防げたのは、偶々、強力な結界がドアに張られていたから。


 何もない実戦では、俺は骨の形も残らずお陀仏だっただろう。


「でも、瞬時にそれを思いつけるのはすごいことだと思いますよ?」

「かもな。運がよかったのもあるが、それは経験というものもあったかもしれない」


 過程がどうであれ、俺はカミュラさんの部屋にたどり着いた。


 これでこの下らないイベントも終わりだ。


「早くこの華夕ってのを終わらせよう。疲れた」

「わかりました。それでは花をもらえますか?」

「ちょっと待ってくれ……。……ん? ……おい?」


 制服の内側のポケットに手を入れて、三階に上がる直前まではあった橙の花を探すが、どういうことでしょう。


 どれだけ指を動かしても花の感覚がない。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ?」

「え、はい……?」


 待て。なんでだ。確かにここに入れたはず。


 間違いなくあった。あるんだって。ないとおかしいんだって!


「ある! あるよな? あってくれよおい!?」

「り、リオン……さん?」

「だ、大丈夫だから! あるんだって! あらないと困るんだって!!」


 もしかしたら俺の勘違いで、違うポケットの中にあるかもしれない。


 そう思ってすべてのポケットに手を入れて探してみるが、案の定見つからない。


 それでも往生際悪く、制服を叩いて花の感触を探してみるが答えは変わらない。


「……え、マジで?」

「あ、あの……もしかして、ですけどぉ」


 ビクリ、としてカミュラさんを見ると、彼女もどこか焦った様子を見せている。


 ま、マズい。あんなにも偉そうに語っておいて、これはマズい。


 引いていた冷や汗が、思い出したかのように俺の額に浮かび上がる。


 そんな俺にカミュラさんが、肩を縮ませて恐縮ですとでも言うかのように語りかけてくる。


「もしかして……失く、され、ました?」

「え、あ……。いやぁ……ねぇ?」


 俺は後頭部を掻いて、苦笑いを貼り付けると。


「ごめんなさい!!」

「え、あ! リオンさん!?」


 全力で後ろのドアを開け、飛び出すように部屋を出た。


「お? リオンじゃん。終わったか?」


 部屋の外では、ヴォルガがニヤニヤと天井に張りついた女子学生達を見上げていたが、俺は見向きもせずにヴォルガの隣を駆け戻った。


「お、おい、どうしたんだよリオン!」


 俺の表情からただ事ではないと察したのか、ヴォルガが俺の後ろを追ってくるが、もうお前に構っている余裕はないのだ。


 本気で逃げて、本気でこの寮から脱出するしかない。


 いや、待て。もしかしたらがあるかもしれない。一応聞いてみるか。


「お前、俺の花持ってねぇだろうな!?」

「あぁ? 持ってるわけねぇだろ……って、まさかお前!?」


 俺の質問の意味と意図を瞬時に理解したヴォルガは顔面を真っ青にした。


 それと同時に、天井に張りつくように浮かび上がった女子学生らが一斉に本来の地面に着地した。


 ヴォルガの集中力が切れた所為だろう。


「あの二人を殺しなさい!」


 リーダーらしき女子学生の怒りの声が背中に届き、俺達の走る速度はさらに増す。


「お前、落としたのか!? 落としたんだな!?」

「わかんねぇよ! なぜか消えたんだよ!」

「それを落としたっていうんだろうが!」


 言い争って走る俺達の前に立ちはだかるのは。


「今度は逃がさないわよ」


 と、俺達がこれまで抜いてきた女子学生達の群れ。


 もしかしたら帰り道に花を見つけるかもしれない、そう思ったが、前からも後ろからも詠唱の声が聞こえる。


 そんなことをしている暇はない。


「おい、どうすんだ! このままだと捕まるぞ!?」

「また、お前がアイツらを浮かび上がらせるのは!?」

「もう魔力が残ってねぇよ!」

「使えねぇな!」

「落としたテメェが言うんじゃねぇよ!」


 そうこうしている内に、両方向から魔法が飛んでくる。


 これを避けたところで逃げ場はない。


 前の群れを飛び越えるという作戦はもう対策されて、失敗してしまうことは明確だ。


 かといってこのままならいずれは捕まる。


「手榴弾は!?」

「そんなポイポイ使うもんじゃねぇよ!」

「あの煙出るやつは!?」

「そっちの方が使いたくねぇ!」


 シエンが作るスクロールはどれも高い。


 だが、値段以上にアイツからまたグチグチ言われる方が問題だ。


 ましてや、ここで使ったら。


『下らねぇことに使いやがって。スクロールの値段を倍にしてやるよ』


 と言われてから、そのあともずっと言われるに違いない。


 アイツに借りとか貸しとか作りたくない。どのみち俺が責められる。


「じゃあ、どうすんだよ!?」

「……あぁ、もうクソッタレ!」


 俺は懐に手を入れて、手榴弾を取り出す。


 残る手持ちは三つ。おそらくすべて使えば、ギリギリ三階からは抜けられるだろう。


 他の男子への警戒もある故に、彼女らも一階までは追ってこないはず。


 そうなれば、なんとか寮から脱出することができるだろう。


 しかし、この手榴弾はお金以上に、手に入る機会が少ない。


 ここで使うにはあまりにも惜しすぎる。


 しかし、これ以上スクロールを使うわけにもいかないし、もちろん、捕まるわけにもいかない。


 仕方ねぇよなぁ、チクショウ!


「こんなイベントなくなっちまえ!」


 そう叫んで、手榴弾を放り投げると爆発と共に煙が舞う。


 その隙に俺とヴォルガは彼女らの隙間をかいくぐる。


 だが、抜けた先にはまた女子生徒らの群れ。


「クソ、クソッ、クソォォォォォ!」


 二つ目、そして三つ目と同様に投げて、俺達は階段を駆け降りる。


 あまりの慌てように二人して階段を踏み外して心臓をヒュッとさせることもあったが、なんとか一階に降りると、そのまま寮の玄関まで直行。


 逃さん、と相手も壁を張るが、火事場の馬鹿力というのは、文字とは裏腹に馬鹿にできない。


 これ以上ないほどの連係プレイを駆使して彼女らを無力化して玄関を出る。


 門番である四人組が最後の壁として立ちはだかるが、それすらも無力化して校舎に避難。


 このあとも「絶対に俺達を許さない」という女子追撃隊と、「花を奪い取れ」という男子学生らの二つから追いかけ回されることになった。


 もう何をしていたのか思い出せなくなるほどに全力で逃げ切った俺達は、イベント終了後、女子生徒らからはもちろんのこと、男子学生らからも花を持っていながら女子の部屋に入れなかった臆病者として、【ミジンコの恥二つ】というたいへん不名誉な称号を与えられた。



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[一言] グダグダな最後だなぁ。青春してるって感じ
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