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とりあえずオールラウンダーの俺、全力で防御してみない?

 三階に駆け上がってすぐ、俺達の予想どおり迎撃の激しさが増していった。


「リオン、伏せろ!」

「そっちも後ろから来てるぞ!」


 俺の顔の真上を魔法で作られた火の玉が通っていき、ヴォルガは後ろから放たれた斬れる風に頬をかすめる。


 それでも俺達の足は止まらない。止められない。


 一瞬でも動きを止めたら最後、完全に包囲されて逃げ場がなくなってしまうからだ。


 しかし、どれだけ進んでも、それに比例するかのように敵の人数も増えていき、攻撃の数も種類も増えていく。


 徹底的に相手を止めて、徹底的な制裁を加えようとしてくる。


 今死なないために、今より苦しい地獄の中に入っていくような感覚。


「これじゃ……」


 もがけばもがくほどに沈んでいく沼か、はたまた、もがいてもどうにもならない蟻地獄か。


「リオン! ここまで来て諦めるわけじゃねぇよなぁ!?」

「それはこっちの台詞だ!」


 迫り来る魔法の波に飲み込まれないように、かつ、相手の術中に嵌まらないように、僅かな穴を見つけて、その穴をかいくぐる。


 狭い通路を埋め尽くすほどの大量の魔法には、一点に集中的に魔法を撃って穴を開けた。


 避けれないほどの速さを出す魔法には、躱さず剣で斬った。


「やるねぇ!」


 そう後ろから賛辞を告げられたが、難しいカラクリじゃない。


 広範囲の攻撃ほどどこかに必ず攻撃力に乏しい箇所があるはずだし、相手の視線、手の向きからどこを狙っているか察知できれば避けることはできなくても斬ることはできる。


 もちろん、簡単なことではない。


 俺だってこれを習得するのにはそれなりの経験をして、時間をかけた。


 そこまでやったところで、結局は運だって絡んでくるのだから。


「アオイ、俺達も負けていられねぇぞ!」

『キュピィッ』


 チラリと後ろを振り返ると、ヴォルガとアオイが互いを鼓舞しているところだった。


 ヴォルガも無傷とは言わないが、俺の動きについて来ている。


 俺自身、いつもいつも自分を卑下しているが、過小評価しているわけではないと思っている。


 俺がアイツらと比べて最弱であることは紛れもない事実であるが、周りと比べれば俺だって普通の強さじゃないはずだ。


 そんな俺が全力とは言わないまでも、本気の動きをしているにもかかわらず、それについていけるとなると……。


「しかも」


 俺が見るに、あっちも全力じゃない。


 まだ何かありそうだ。


「おいおい、後ろを見るなんて余裕だな! 魔法、前から来てるぞっ」

「ちっ」


 反応に少し遅れたものの、スッと身体を半身ずらして魔法を避ける。


 次から次へと、休んでいる暇がない。


 体力的にも、精神的にも疲れてきた。


「まだたどり着かないのか、カミュラさんの部屋は!?」

「この通路の奥だそうだぞ」

「だからそれはあとどれくらいだ!」

「え~っと、二〇メートルくらい? らしいぞ」


 短そうで長い距離だな!


「しかし、リオン。ここからが本当の正念場になるぞ」

「あん?」


 後ろを振り返ると、ヴォルガがアオイを乗せて右腕を突きだしていた。


 アオイの目は閉じていて、身体は怪しげに光っている。何かに集中しているようだ。


「この学園に接近戦を得意とするする人は少ないし、魔法という特性上、遠距離攻撃が多い」

「あ、ああ」

「俺達がなんだかんだここまで来れたのも、それが理由だ。遠い場所から魔法を放ってくるだけだったからこそ、ある意味、俺達の前には誰もいなかった」


 ヴォルガの言うとおり、俺達の前には放たれた魔法はあったものの、物理的な人はいなかった。


 行き止まりはなかったのだ。


 あったとしても、魔法で作られた壁だったり、一時期的に形成された人の集団だけだった。


 作り物の壁は破壊すれば通り抜けれたし、人の集団だって大きくひとっ飛びすれば抜くことができた。


「だが、カミュラの部屋は行き止まり。つまり部屋の先には本当に壁しかない。……何が言いたいのか、もうわかっただろ?」


 俺達は実態のない幽霊でもないし、魔物じゃない。


 俺は壁の中に入れないし、他の人だってそうだ。


 今、こうして俺達に魔法を撃ってくる女子生徒らだって壁の中にはいない。


「カミュラさんの部屋の前は女子生徒の大行列、か」

「俺も一人暮らしだからよ。たまに安売りセールにいくけどよ。人の中に入りながら、目的のものを手に入れるってのは簡単じゃねぇぞ?」


 イグスの固有魔法【凝縮】と同じ原理。


 すでにいっぱいのところに、新しくものは入れない。


「下手に突っ込んでもはじき返されるだけ。策はあるのか?」

「逆に聞くが、策がないなら引き返せるのか?」

「はっ、違ぇねぇ」

「それに、お前が俺をサポートしてくれるんだろ?」

「まるで脅しだな。いいねぇ。嫌いじゃない」


 それに、見るからに今からそれをなんとかします、と言わんばかりの行動。


 その右腕とアオイが何をしようとしているのかはわからないが、何か策があるのは間違いない。


「一瞬だけ隙を作る。その間に、カミュラの部屋に入ってくれ」

「タイミングは?」

「俺から合図を送る」

「りょーかい」


 ひゅん、という音ともに剣を振り、前方から放たれた魔法を切り裂く。


 そして見えてくる、整った陣形を構える女子生徒らの姿。


 その数は一〇、二〇、いや三〇か。


 所狭しと並んだ女子生徒は、僅かな隙間から杖を真上に突き出し魔法の詠唱を唱えている。


 かなり不気味な光景だが、何十人もの人数が協力して同じ詠唱を唱えているのだ。


 ……おいおい。


「おいおい、それってマジかよ……」


 俺の後ろで、俺と同じことを考えたのか、俺と同じ反応が聞こえた。


 どうやら俺達の予想は間違っていないようだ。


 極致魔法。


 強大な魔法を考えついたものの、魔力の消費量が激しく、とても一人では扱うことはできないとされた魔法。


 初めてその魔法が考え、生み出されてからしばらくその発動はできないとされていたが。


 しかし、それから数十年。


 とある人物の研究により、複数人で協力しても魔法が発動することがわかってから。


 複数人で協力して、魔力を合わせることで、発動を可能としたある意味、一般魔法の中で最上級魔法を越える最強クラスの魔法。


「あっちも本気ってやつか。こんなくだらないイベントのためだけに? どんだけ男子を狩って点数もらいたいんだよ」

「どうするんだ、リオン!」


 次に放たれる魔法は、これまでのものとははるかに違う威力のはずだ。


 廊下も埋め尽くすし、速度も半端ではないだろう。


 そういえば、先ほどから後ろから攻撃されないと思っていたら、これを知っていて避難していたのか。


 ……マズいな。


 おそらく、俺の持っている【障壁】のスクロールでも防げない。


「悪いが俺は最後のサポートにかかりきりだ。一人でなんとかしてもらわないと困るぞ」

「……仕方ねぇ、か」


 なんとなくそうなるだろうと思っていたが、まさか俺がこの魔法を一人で対処しないといけないとは。


 防げなければここで狩られる。ここまで来て、その結果はあんまりだ。


 ケイラなら、おそらくこの魔法に負けない魔法をたった一人で形成するんだろう。


 イグスなら自慢の盾で防ぐだろうし、テッドなら撃たれる前に対処するんだろう。


 シュリでも、トーカでも。……アイツはどうでもいい。


 俺には、この魔法に正面から立ち向かえる力はない。


 ここが窓際だったら、タイミングよく外に脱出して、復帰して、とアクロバティックな動きができるんだろうが、ここは右も左も壁か、部屋のドアノブしかない。


 ……いや、待てよ。


 そこで、俺はある一つの策を思いついた。


 それについて、深く考慮を重ねる時間はない。


「ヴォルガ、こっちだ! 集中を切らすなよ!」

「え、おい!?」


 俺が廊下の端によると、ヴォルガも困惑した様子で端による。


「他の部屋に避難するつもりか!?」

「そんなわけねぇだろ」


 俺かお前のどちらかはルール違反で殺されるぞ。


 それに、そこで片方が助かったとしても、当初の目的である、イベントを早く終わらせることは達成できなくなる。


 さっきも言ったように、ここで諦めるのは癪に障る。


「じゃあ、どうすんだ!?」

「いいから集中しろ! 俺がなんとかする!」


 といっても、なかなかに反則行為だし、バレたらいろいろな意味で終わりだ。


 だが、そんなとき前にテッドが言っていたことを思い出した。


『相手にバレない速度でものを盗んで、バレない速度でまた返す。別に、それを悪用するわけじゃないなら犯罪じゃなくない?』


 そのときは、何言ってんだコイツ、と思ったが、今なら少しわかる気がした。


 要は。


 犯則だろうが、バレなければ犯則じゃない。


「……このまま走るぞ!」

「お、おう!」


 俺の声に、戸惑いながらも頷いたヴォルガは、やけくそとばかりに目をつぶって走る。


 そっちの方が俺にとっても都合がいい。


「リ、リオン? だ、大丈夫だよな!?」


 それでも不安そうにするヴォルガの声が聞こえてくるが、もうそれに答えている余裕は俺にはない。


 廊下を埋め尽くす巨大な魔法陣が、若紫色の光を発する。


 目をつぶったところで、おそらく瞼の色ですら塗りつぶしてしまうだろう。そう思えるほどに強い光だった。


「壁にもっとくっつけ! 死ぬぞ!」

「な、なんなんだよ!?」


 眩い光を放つ魔法陣が、どんどん光を強くしていく。


 そして、あまりにも強すぎて何もかもが見えなくなろうとしたその時。


「放て!」


 その言葉が聞こえると同時に、俺は左手を前にかざした。


 ……来る!


「――い、――んだっ。――よ!」


 すぐ後ろでヴォルガが慌てた声を出すが、魔法陣から放たれた魔法の轟音で何を言っているかまったく聞き取れない。


 まだだ、もっとギリギリ!! 引きつけろ!


 俺の目の前が真っ白になった……この、瞬間!


「【置――】!」




 ドォォォォォンッ!!




 廊下に巨大な爆発音が鳴り響き、煙が舞う。


 誰がどう見ても、直撃したと思うだろう。完全に仕留めたと思うだろう。


 だが、その煙を突き破ってくるのが。


「俺達ってわけだ!」

「なんだ!? 防いだのか!? マジ!?」


 完全に防ぎきったわけではない。制服のところどころがボロボロだ。


 だが、それでも俺達は今こうして走っている。


「嘘でしょ!?」


 前方にいる誰かの声が聞こえた。残念無念。大まじめな結果だ。


「おいおい、どうやったんだよ!?」

「そんなことより、今がチャンスだぞ! 任せたぞ!」


 あれだけの魔法を撃ったんだ。しかも、今のはとっておき。


 それを防がれて疲れも動揺も見せない奴なんてケイラぐらいだ。


 次の魔法に映る隙も暇もない。


 ヴォルガに目配せをすると、ヴォルガも興奮を隠せないまま、魔力を集中させていたアオイが乗る右腕を勢いよく前に突き出した。


「頼むぜ、アオイ!」

『キュピィッ!!』


 それに負けじとアオイも鳴き声を上げ、身体全体がよりいっそう光ったと思ったその瞬間。




 ゴォォォォォォッッ!!




 下から上へ、持ち上げるようなこの感覚。


「重力? いや、これってまさか風か!?」

「全員持ち上げてやる。この一瞬があれば充分だろ!」

「重力付与!」


 全員が天井に引っ張られるように宙を飛び、天井に磔にされるかのような格好になる。


 俺は自身の重力を増すことで、それを堪え、その隙に奥の部屋の前にたどり着く。


 入る前に、ヴォルガを見る。


 そういえば、カミュラさんの部屋についでに入れてくれるかもしれない、そんなことを言っていたことを思い出したからだ。


 しかし。


「……うん、もしやこれってパンチラの最初で最後のチャンスでは!?」


 ……やめておくか。


 最後の最後に情けない相棒の姿に辟易しながら、俺はカミュラさんの部屋のドアを開けた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 女子部屋に入るために本気を出す男子達VS女子部屋に入れないために集団で襲いかかる女子達という絵面がおかしくて笑っちゃいました [気になる点] リオンもしかしてこの学園で面白おかしく過ごした…
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