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とりあえず部屋を探してみない?

 女子寮の中は、校舎の中とは一線を画すほどの激戦区と成り代わっていた。


 女子生徒は自分達の部屋を守るため、そして点数稼ぎのために男子を狩ろうとし。


 男子生徒は俺の持つ花を狙って、もしくはそのまま女子の部屋に侵入しようとして。


 互角に見えるような戦場だが、少しずつ、そして確実に男子生徒の数は減ってきている。


 女子生徒らがチームを組んで連携した動きをしているのに対し、男子生徒はワンマンが多い。


 チームを組んでいても、ほとんどが即興で作ったチームであり、お互いをよく知らないことが影響し、チームとしての完成度は明らかに女子生徒の方が上である。


 それに加え。


「いたわ! 観念しなさい!」

「うげっ!?」

「ボッコボコにするわよ!」

「に、逃げろ!」


 遠くの方から聞こえてきた声に身を隠し、物陰から様子を窺う。


 どうやら男子生徒三人が徘徊していた女子生徒二人に見つかってしまったらしい。


 女子生徒二人が詠唱を唱え始めているのに対し、男子生徒らは一目散に背中を向ける。


 彼らの実力なんてまったくわからないが、少なくとも人数の差では勝っている。


 それを使えば、女子生徒らを無力化することはできるはずだ。


「こういうとき女ってだけで、手加減されるのはいいことだよなぁ」


 女性に聞かれたら顔を真っ赤にして怒られそうな言葉だが、実際そうだと思うのだから仕方がない。


 女子生徒達はあくまで自分達の神聖な場所を侵入された被害者、俺達は侵入しようとする加害者。


 どちらに大義名分があるかは明確だ。


 それに加え、男子生徒にとって同性に攻撃するのと、女性に手を加えようとするのとでは明確な違いがある。


 男性が女性を守らないといけない、そう教え育てられた者達に「女子生徒を攻撃しろ」なんて無理に決まっている。


「その点俺は、そういうものがなくてよかった」


 なんていっても、俺の周りにいる女なんて守るべき対象に入ったことがない。むしろその逆だ。


 自分から問題に首を突っ込むバカ。


 魔法のことしか考えていないバカ。


 悪い宗教に勧誘しようとするバカ。


 自分でなく、俺の幸せを願うバカ。


 バカばっかりで悲しいことに、俺は男女平等主義者になってしまった。


「さて、感傷に浸っている暇もねぇんだよな」


 ヴォルガとは入って早々に二手に分かれ別行動。


 理由はバラバラに探した方が見つかるのも早いから、ということらしいが。


「アイツ、それで捕まったらもともこうもねぇぞ?」


 そう言いながら近くの部屋のドアの前に下げられている名札を確認する。


 これもハズレか。


 ドアの前には必ず名札がぶら下がっており、それを見ることでカミュラさんの部屋を探している。


 どうやらこのイベントのためだけに作られた名札らしい。


「そこにいるのは誰!?」

「っと、しまった」


 先ほどの男子生徒三人を処理したらしき二人組が俺のことを見つけてしまったようだ。


 二人は俺を見るやいなや、魔法の詠唱を開始する。


 俺を見つけてから、詠唱を始めるまでにかかる速度はほんの僅か。判断が速い。


 俺が誰かなどは後でいくらでもわかるわけで、とにかく男子は全員敵、と思っているのだろう。


 詠唱している隙に逃げようと俺が背を向ける。


 しかし、それは相手の作戦通り。


「「ライトニング!!」」


 詠唱時間もかなり短く、魔法の速度も速い魔法を唱えてきた。多少の威力があるがそれ以上に、相手に痺れを与える実用的な魔法だ。


 俺が目を離した一瞬の隙を突くように放たれた魔法は、俺の背中に直撃して、痺れた俺は次の動きに遅れをとる。


 その間に今度は強めの魔法を当てる、そういうパターンを決めていたのだろう。


 ……悪くない手だ。むしろ良い策だ。


「だが、そこまで読んでいる俺には通用しない」


 俺は二人に背を向けると同時に腰を低く落とし、前に転がることで、腰の高さに放たれた雷を躱す。


 作戦がわかっていれば、目で見なくても避けることは簡単だ。


 転がる勢いを利用して、懐に手を伸ばして後方にあるものを投げつける。


 歪な形をした球体に二人が訝しげな表情を浮かべるのが見えた。


 魔法大国であるここで見た事はないだろう。


 魔力が少ない者が多く住む、ついこの間同盟を結んだ国――オメルガから輸入してきたものだ。


「ここじゃ滅多に見られないマジモンの手榴弾だ。死にはしないが、死ぬほど痛ぇぞ」


 二人がハッとしたときにはすでに遅く、手榴弾は周りの壁を揺らすほどの爆発を引き起こした。


 煙が晴れた頃には、壁により掛かって気絶している二人の姿が。


 魔法で結界が張られているとは言え、あれほどの爆発を前に、寮には傷一つ付いていない。


 かなり頑丈に張られているみたいだ。


 このイベントにどれだけの力注いでんだよ、まったく。


「敗因は攻め急いだことだな」


 ライトニングで相手の意表を突くというのは悪くない手だが、相手の一瞬の隙を突くというのはその分だけ、自分達も速い動きが求められる。


 ましてやライトニング。


 軌道修正はできないだろうし、真っ直ぐにしか飛んでこない。


 足下を狙っている余裕はないから、とりあえず痺れがよく効く胴体を狙ってくるだろうと予想できる。


 自分達の必勝パターンの初手を躱されたとなれば、誰だって驚くし、隙が生じる。その隙を狙われれば、一瞬にして流れはもっていかれる。


 実戦経験ではこれの連続だ。


「必勝パターンなんて存在しない。常に相手の裏をかこうとする思考と臨機応変に動ける状態にしておくことが実戦の基本だ」


 なんて、教師じみたこと言っても聞こえていないんだろうけど。


「へぇ、やるじゃん」

「ヴォルガ!?」

「なんだよ、そんな驚くか?」


 いつの間にいたのか、ヴォルガは壁により掛かってにへらっと笑っていた。


「ちょっと前から見てたんだけどな。驚いたわ。いや、マジで」


 ヴォルガはそう言って、俺を興味深そうに見てくるので、俺はなんてことないように手を挙げた。


 ここで俺がただ者でないとバレるのは避けたい。


「ちょっと駆け引きがうまくいっただけだ」

「その割には戦い慣れしてる動きだったけど?」

「今どき珍しいもんでもないだろ。ここに来る前は冒険者だったんだよ」

「冒険者が入学するのも確かに珍しくはないがなんで? それなりの理由がねぇと来ないだろ」

「壁にぶつかって、それを越えるため。一からきちんと学ぼうとしてるだけだ」

「なるほどねぇ」


 あらかじめ決めていた設定ではなかったが、なかなかに悪くない後付けではないだろうか。


 これなら多少動けても違和感はないはずだ。


 多少思われてしまうかもしれないが、それは仕方ないと割り切ろう。


「それよりも。見つかったのか?」

「おう、アオイがな~。見つけてくれた」


 そう言って、右腕をかざすとアオイが器用に立ってぺこりとお辞儀をした。


「お前に懐くとは思えないほど礼儀正しいな」

「ひでぇなおい」


 アオイによると、カミュラさんは三階の部屋らしい。


 しかし、さすがにみんなの憧れの的だ。カミュラさんの周りは特に女子達が目を光らせて待機しているとか。


 純粋にカミュラさんに近づかせたくないのか、はたまた、カミュラさんに群がろうとしてくる男子生徒を狩りたいのか。


 半々、といったところだろうか。


「なんだか、どんどん辛い道に走ってねぇか?」


 今さらだが、先ほどの気絶させた女子生徒に許可をもらって、適当に部屋に入るだけでもよかったのでは?


 確かにカミュラさんに報告せず、そのまま男子生徒狩りを続けるかもしれないが、なんだかもうどうでもよくなってきたのだが。


「バカ野郎! ここまで来たらカミュラの部屋が気になってくるだろうが!」

「お前やっぱりそれがねらいだったんじゃねぇか」

「花を持ってるお前が一緒なら、ワンチャン俺も入れるかもしれないだろ?」

「下心少しは隠そうとしろよ」


 俺はともかく、アオイに聞かれたらマズいんじゃないのか。


 アオイも呆れたような目でヴォルガを見た後、小さな爪で主人の顔をやたらめったに引っかきまくる。


 なんというか、龍ではなく猫に見えてきた。


「厳重な警備をくぐって、カミュラさんに花を渡すって。どうやるんだよ、実際のところ」

「俺とアオイが道を切り開いてやるよ」


 まさに今ひっかき傷の絶えない顔にされたヴォルガは、口もとを引きつらせてそう言った。


 結局、アオイには勝てなかったらしい。


 小声で「いや……ワンチャン」と言ってはいるものの、アオイにぎらりとした目で睨みつけられ「あひゅう」となんとも情けない声で泣く主人。


 どっちが主人なのかわかったもんじゃない。


「俺だって、この学園では結構強い部類なんだぞ。任せとけって」

「説得力がねぇよ」

「ホントだって!」


 そんなヴォルガに同調するように、アオイが今度は俺に眼光を飛ばす。


 何を言っているのかはわからないが「自分の主はお前よりも強いぞ」といった意味があることはひしひしと伝わってくる。


 なんだかんだ、お互いを信頼しているからこそのこの関係か。


「はいはい」


 俺は信用していないフリを装っているつもりだが、実を言うと俺もヴォルガがただ者じゃないことには気付いていた。


 この学園の中で本当に強い部類にいるかまではわからないが、それなりの実力者であることはわかる。


 現に、これだけの乱戦の中、制服には傷どころか煤一つすらついていない。


 見る者からすれば、異常でしかない。


 だが、それに気付いていることに気付かれるのもマズい。


 こんな感じにバカ騒ぎしているが、俺だって今は潜入中というか、カミュラさんのボディガードだ。


 その役割を本当に果たせているかと聞かれれば、なんとも答えにくいところだが。


「それならとりあえずは信用して、援護を任せるぞ」

「おうよ。そっちもしくじるなよ?」

「しくじらないようにしっかり援護してくれ」


 俺達は互いに笑みを浮かべた後、上の階に続く階段の前に立った。


 二階は素通りして、このまま三階まで駆け上がる。


 そこからはアオイの案内を元にカミュラさんの部屋に向かう。


「今さらだが、カミュラさんはいるのか?」

「アオイによると、部屋の中にいるらしい」

「了解」


 目的は一つ。実にやりやすい。


「んじゃ、いくぜ。相棒」

「……」

「おい、反応しろよ!」

「……え、そっちの相棒に言ったんじゃねぇの?」

「違ぇよ! まったく……。しまんねぇなぁ」


 やれやれ、と肩をすくめるヴォルガに「仕方ねぇな」とこちらも肩をすくめて返すと、拳を差し出した。


 その意味に気付いたヴォルガも笑みを浮かべて拳を差し出す。


「いくぞ」

「おう!」


 ゴン、という硬く鈍い音を合図に、俺達は階段を登っていった。



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