とりあえず女子寮に突撃してみない?
完全復活!
療養中にいくつかストックを作っておいたので、投稿していきます!
――さて、と」
俺が狙われる原因となるこの花、しかしその皮肉なことに、この花のおかげで俺には安全地帯が生まれた。
女子寮は選ばれた花を持つ人にしか入ることはできない。
だが逆に言えば、俺だけが女子寮に入ることができ、許可を受けている俺は女子寮で狙われることもない。
「いろいろあったが、なんとかここに着いたな」
俺はあれから迫り来る追っ手を躱し、時には無力化することで女子寮の前の茂みまでたどり着いていた。
それにしてもシエンの野郎。本当に俺が持っていることをバラすとはとんでもない人でなしだ。
本当にアイツだったらやるかもしれない、とは思っていたんだが。
今度からは修正しておこう。アイツはやる、絶対に。
「さて、これを見せれば入れるのか?」
茂みの中から女子寮を覗くと、女子寮の入り口には、裁判官顔負けのいかにも厳しそうな女子生徒が四人ほど。
ときどき耳に手を当てて何かを通話している様子が窺えるが。
「大丈夫とわかっていても入れそうにない雰囲気……」
「まさにその通り。入れないよ」
「だよな~……って、うおいっ!?」
さっきまで誰もいなかったはずなのに、平然と俺の隣で独り言に返事を返したのは初っぱなから俺を見捨てて戦線離脱したヴォルガだった。
「テメッ。今までどこに……!」
「あまり大きな声で叫ぶなよ。バレるだろ?」
口もとに人差し指を当てて、静かにするように、というサインとともに女子寮入り口を見るように促すヴォルガ。
入り口付近にいる女子生徒らはこちらを一度だけ怪訝な表情で見たが、俺達に気付かなかったようで、すぐにまた耳に手を当ててまた何かを話し始めた。
「さっきから何をやっているんだ?」
「寮の仲間と話しているんだろうな。おそらくもう始まってんだろ?」
「始まってる?」
「なんだ。知らないで来たのか? たぶん、もうそろそろじゃないか? 見てみろよ」
「……あん?」
ヴォルガに再度促され、入り口を見ると中から一人の女子生徒、とそれに引きずられるように出てくる人型の黒い何か。
もちろん、その正体は聞かなくともわかる。
「し、死んでるのか?」
「この学園で殺されることはねぇよ。が、死よりひどい目にあったのは確かだな」
「あれで生きてるのかよ」
真っ黒に煙を上げたそれは、そのまま女子生徒に引っ張られると、ゴミのように人が倒れている校庭へと向かいだした。
「一応聞いておくが、あれは?」
「女子寮に不法侵入した男子学生だろうな」
「不法侵入って……」
「このお祭りだ。混乱に乗じて不法侵入もしたくなる」
「なるか」
さっきから何かを話しあっているようだったが、あれは女子寮の中で排除に勤しんでいる人たちと話しあっていたのか。
「だが、これは毎年なんだろう。なんでやめないんだ?」
「このお祭りの裏ルール。女子達は不法侵入した男子学生を捕まえた時点で成績がよくなるんだよ」
具体的に言うと、捕まえた人数×5点分のテストの点数が加算されるらしい。
もし、それによってテストの点数が百を超えた場合、テストではなく評価点、つまり成績そのものに直結点数が加えられるらしい。
それによって、優劣問わず女子達も侵入した男子を捕まえることに躍起になるとか。
「言ってしまえば男子の点数は上がりもしないが、女子達は点数がもらえるかもしれないチャンス。俺達は女子の部屋に入るチャンスがある。お互いにウィンウィンな制度ってわけだ」
「男子の方は全然よくないと思うんだが……」
「ちなみに捕まった男子は成績が悪くなる」
「男子に超不利なイベントになってんじゃねぇか!」
「バカ野郎! なんの覚悟もなく夢も宝も手放せるかよっ!」
「なんで俺が怒られるんだよ」
なるほど。
どちらかといえば、女子の方にメリットを高くつけることでこのイベントは成り立っているってことか。
こんなくだらないことにどうかと思うが、うまくできている。
「それで? お前は今までどこにいたんだ?」
「俺とお前の仲だ。もちろん、お前を捜し回っていたに決まってるじゃねぇか」
「いきなり見捨てた奴が何言ってやがる。本音は?」
「お前が生徒会長の花を持ってると聞いて探してた」
「……まさかと思うが?」
俺が距離を取ろうとしたところで、ヴォルガは「違う違う」と胸の前で手を振って笑った。
「別に取りやしねぇって。お前を助けに来たんだ」
「嘘つけ」
「おいおい。親友の俺を疑うのか?」
「親友って言うほど会ってから過ごしてねぇよ」
「親友に時間なんて関係ねぇよ」
どうにもコイツが言うことはどれも軽く聞こえてしまう。
「さっき言っただろ? その花を持っていても入れないって」
そういえば言っていたな。
「この花が許可証になるんじゃないのか?」
「普通ならその花が許可証になって通してくれると思うが」
「普通じゃないと?」
ヴォルガは「正解」と笑う。
「その花をお前が持ってることはおそらく女子達にも伝わってる。それをわかっていながら、女子達はお前を入れることはない」
「なんでだよ?」
「点数稼ぎだ。お前から花を奪い取ったらどうなると思う?」
「……マジかよ」
「そういうこと」
シエンが言っていたことはそういうことか。
敵しかいねぇのかよ、ここには。
「だからこそ、俺だけはお前の味方でいようと思ってな」
「そう言って裏切るんじゃねぇのか?」
「そう言われると裏切りたくなっちゃうよなぁ」
「よし、今ここで殺っておこう」
「待て待て待て待てっ! 裏切らねぇからちょっと待てって!」
半ば本気で殺る気で剣を取り出したのだが、ヴォルガの必死の説得により剣を戻す。
「俺だって本当は流れに乗じたかったんだが、お前が花を持ってるってことで気が変わったんだ。せっかくだから、女子達の邪魔もしようと思ってな」
「邪魔?」
「このイベントは終了時間になる、または、花が女子に受け渡された時点で終わる。正確には、受け渡されたという報告が生徒会長であるカミュラに伝わった時点で、だが」
「となると、カミュラさんに伝わらないとイベントはいつまでも続くってことか」
女子達も点数ほしさに意図的に伝えないということがあるということか。
「なら、本人に渡してしまえばいい」
「それならすぐに終わるだろうし、カミュラさんも自分が指名されることくらいは予測済みだから、見られてはマズいものを部屋に堂々と置いてはいないか」
「そういうこと」
ヴォルガを心の底から信頼できるかどうかは問題だが、少なくとも今のところは俺にとって悪い情報はない。
こうしている間にも、女子寮の中も外も騒がしくなってきた。
男子達のほとんどはワンマンであることに対して、女子達は何人かのチームで、しかも迎撃の準備をした状態だ。
無防備に突入しても、彼らのようにボロ雑巾のようにされてしまうだろう。
一人では、さすがの俺も捕まってしまう可能性は高い。
「お前と組むしか方法はないってことか」
「それなりに頭は回るんだな。学力はないだけで」
「一言余計だっつうの」
俺の場合は学を育てる時間をすべて取られてしまっただけだ。
「カミュラさんの部屋の場所は?」
「そこまでわかっていれば楽なんだがな。残念ながら」
「女子寮に突入して、情報収集して、そして実行かよ。やることが多いな」
「情報収集は任せておけ。俺の力を使う」
そう言うと、ヴォルガは自身の右腕になにやら話しかけるような素振りを見せた。
他人から見ればただのイタい人のように思えてしまうが、すぐに変化が起きた。
ヴォルガの右腕から青白い光がポツポツと泡のように浮かび上がると、その小さな光が集まり、龍のような形を象る。
そして、また光ったと思ったらそこには『ピギャッ』と高い声でなく小さな龍が。
「コイツは『アオイ』。俺の相棒だ」
「召喚魔法か?」
「おっ、よく知ってるな。けっこう珍しいんだぞ」
「俺の友人も使うからな」
普通の固有魔法とは違い、自律的に、意志を持った生物を生み出す魔法。
その生物が使う魔力は使用者本人から支払われる。そのため、使用者の魔力は他の人と比べて比較的多いんだとか。
しかも、その生物ともし適性が、つまり相性が悪かった場合、言うことを聞かず勝手に暴走してしまうこともある。
このアオイという龍とヴォルガを見る限り、決して悪いようには見えない。
「寮に入り次第、アオイに情報収集させておく。アオイが手に入れた情報は、俺の下にすぐに入ってくる」
「それまで俺達は逃げ回ればいいのか?」
「さすがにアオイにだけ任せるのはやめてくれ。俺達も適当でいいから探すべきだ」
「わかった」
すると、いきなりアオイは何かを訴えるようにヴォルガの片耳にかぶりついた。
俺には『ピギャァ、ピギャァ』としか聞こえないが、ヴォルガは何を言っているか理解しているのだろう。
「わかってるって。イテェっ!」
と、何かを厳しく注意されて不満げな顔をしている。
しばらく何かを言い合っていた二人(?)だが、話がまとまったらしく、改めて俺を見ると言ってきた。
「準備はできたか?」
「お前らがケンカしてる間にな。そっちは?」
「問題ねぇ」
俺も同じ質問を返すと、ヴォルガとアオイは互いに目を合わせて頷いた。
「どう突入するかは?」
「別に俺とアオイがやってもいいぜ」
「いや、俺があの四人を無力化する」
「いけるのかよ?」
「召喚魔法ってのは、かなりの魔力を使うって聞いた。なら、俺に任せろ」
俺は弓矢を【置換】すると、女子学生四人らから少し外れた位置を狙う。
「一瞬で突入するぞ。遅れるなよ」
「言うじゃん。残念転校生のくせに」
「くせに、は余計だっ」
弾いた矢は俺のねらいどおり、四人から少しはズレた位置に刺さり、その音に四人が気付いたと同時に巨大な煙が舞う。
【発煙】のスクロール。矢の先に仕掛けていたものだ。
「いくぞ」
「わぁお。忍者みてぇ!」
四人が煙で視界を遮られているうちに俺とヴォルガ、そしてアオイは入り口を抜けていった。
活動報告を読んでくださった方には大変心配おかけいたしましたが、無事帰還することができました!
ちなみに、軽症だったのでずっと自宅療養でした。




