とりあえずシエンと話さない?
まさかのサプライズ三日連続投稿
生徒指導室に向かっている間、俺はずっとテッドから聞いた話について考えていた。
アイツが姿を消したのは初めてのことだった。
あのバカは何をやっても騒がしくする奴で、姿を消したと思った途端には騒ぎを起こして中心にいる奴だ。
そんなあのバカが、姿を消して音沙汰もなくなるなんて。
「ただ事じゃない、ってことなのか?」
長年一緒にいる俺でも、アイツの考えていることも、感じてることも、まったくわからない。
それでもなんとなく納得のような諦めに近い感覚で今まで過ごしてきたのだが、そのセンサーにも引っかからないアイツは初めてで、ちょっとだけ困惑している。
「なにかあったらどうすんだよ、まったく」
もしかしたら今回の件に、もうバカ馴染みは関わらないかもしれない。
つまり、最後にアイツに問題を投げるということができなくなるってことだ。
「とりあえず帰ったら説教からか」
いなくなったものは仕方ないと、早々に割りきっている間に、俺は生徒指導室の前まで来ていた。
さて、まずは今の問題からか。
シエンがいるであろう教室のドアをノックすると、予想どおりシエンのぶっきらぼうな返事が返ってきた。
「入るぞ」
そう言って生徒指導室に入ると、シエンは黙って窓の前に置かれている花を見つめていた。
「何やってんだ?」
「……別に」
シエンは花から目を離すと、教室の真ん中に置かれているソファにドシリと座った。
「花、好きなのか?」
「そんなことはどうでもいいだろ。話があるんじゃねぇのか?」
なんとなく話を逸らしたがっているように見えた。
だが、だからこそ俺は聞きたくなってしまった。
先ほどの件があったからだろうか。
俺の知らないシエンがいることに若干の寂しさというか、不安に襲われたというか、そんな気がした。
だから強引に話を割り込んだ。
「意外だな。お前が花を好きだとは」
「そんなんじゃねぇ。観賞用の花を見ていただけだ」
またなんとなく、その言い方が気になった。
「見ているだけでいいのか?」
「うるせぇ、いい加減話を進めろ。くだらない話をするんじゃねぇ」
どうやらこれ以上話を深掘りするな、という警告らしい。
今はこれがギリギリのラインのようだ。
「さっきテッドから情報を流してもらったんだが――」
俺は先ほど聞いた情報をほとんどそのままシエンに伝えた。
ただ一つ、バカ馴染みが消えた、という情報だけは伏せておいた。
コイツに限ってないとは思うが、変に心配や不安に陥っても困る。
「やり方が目的を越した、か」
俺と同様に、シエンも同じ部分に引っかかったみたいだ。
顎に手を当て、少しの間熟慮する様子を見せたシエンだったが、お手上げとばかりに首を横に振った。
「ダメだな、まったくわからん。お袋ならまだしも、俺はスクロールに関すること以外はさっぱりだ」
「そうか」
俺は「仕方ないか」と諦めた返事を返しながら、しかし、シエンの異変にも気付いていた。
やはり今のシエンはどこかおかしい。何が、とは言えないが。
「……あ? なんだよ?」
「いや、別になんでもねぇ」
俺の知っているシエンはこんなことと言ってしまうのもあれだけど、こんなに考えることはない。
普段の、俺が知っているシエンだったら。
『俺がそんなの知るか。そういうのはテメェの仕事だろうが。無駄な仕事寄こすんじゃねぇ』
と、それくらい言いそうなものなのだが。
何かあるとは思うが、今聞いたら本当に殺されそうなのでやめておく。
「また何かわかったら伝える」
「あぁ」
……。
…………。
………………。
あ~……っと。なんで出るタイミングを失ってんだ、俺?
どうやらおかしいのはシエンだけではないらしい。
「どうした、おい」
「あ、いや……そうだ。お前さ、華夕って知ってるか?」
知らないわけなかろうに、と自分でツッコむ。
「知ってるもなにも、今やってんだろうが。バカか?」
本当に頭のおかしい奴を見る目で見るな、この野郎。
「そういや今回の許可証となる花って何か知ってるか?」
「知るか。例え知ってても、教えるやつがいるか。お前は本当にバカだな」
またバカってお前……!
なんだよ、戻ってきたんじゃねぇかこの野郎。
いいぜ、そっちがその気ならこっちも買ってやるよ、その喧嘩ァ!
「こ、この……バカ野郎! アホ! ドジ! マヌケ!」
……しにたい。俺の語彙力の無さにしにたい……。
あ、あれ~? バカ馴染みどもには全然平気で言えるんだけどな~?
「……ふっ」
こ、この野郎……! ホントマジこの野郎。
人を舐め腐った笑い方しやがって。
「おい、バカでアホでドジのマヌケ君さぁ。お前、どんな花がもらえたのか教えてみろよ。おっと、悪い。テメェは魔法も花もわかんねぇよな。すまんな」
「お前絶対いつか殺してやるからな!?」
「やってみろ。返り討ちにできる自信しかねぇよ」
クソ。今何を言ってもバカにされるだけだ。
仕方ないから、今日のところは負けを認めてやろう。
「おらよ。これだ」
「……あん?」
俺が内側のポケットから花を出して見せると、シエンは一瞬怪訝な顔を見せたが、すぐにそれは嘲笑に変わった。
こいつマジでこの笑い方以外知らないのではないだろうか。
「お前がそんな器かよ」
「べ、別におかしくはないだろ!?」
「おかしいだろ。いつもお前が言ってんじゃねぇか」
「うぐっ」
言われてみれば確かに。
魔法の知識もなければ、技術だってないそんな俺が選ばれし者の集まりみたいな生徒会に所属しているなんて。
名前が違うだけで、状況は今と大して変わらない。
それをおかしくないと言ってしまったということは……まさか俺は――
「いやいやいや! 騙されない。騙されないぞ! 俺だって今からちゃんと勉強すればいいかもしれないだろ!? どう頑張っても無理な今の状況とは違うからな!?」
「必死だな」
「うるせぇ!」
いつかこんなパーティを抜けてやる、それだけを目標にここまで頑張ってきているんだ。
その目標が崩れ落ちてしまうなんて、考えたくもない!
「つうかお前はこの花のこと知ってるのかよ?」
「知らねぇよ。言っただろうが。俺はそこら辺に咲いているのを見るだけなんだよ。花に詳しくなりたいとも思わねぇよ」
「お前もやっぱりバカじゃねぇか」
「花を知らないだけでバカと呼べるなら、世界中の大半がバカってことになるがいいんだな?」
「いちいち揚げ足を取りやがって」
「どの口が言ってんだ、あぁ?」
そう、こんな感じだ。
俺とシエンの関係はこの互いへの罵りが一番しっくりくる。
罵り合いがしっくりくるってなんなんだよ。揃いも揃って変態じゃねぇか。バカ野郎。
「ゲンケイが何を企んでいようがもう関係ねぇよ」
「は?」
お互いに言い合っていると、急に真面目な顔になったシエンの言葉が、一瞬なんのことかわからなかった。
「ゲンケイが何を企んで、どんな計画を立てているかはわかんねぇが、そんなのは今さらだろ。もともとわかんねぇし、その計画ももう始まってることも大体勘づいていただろ」
そうだ。カミュラさんが、一般人が襲われ始めたときからもう、計画は始まっていた。
そんなことは百も承知で、それを止めるためにここまで来たんだった。
ゲンケイが俺達に与えた情報は、まとめてしまえば結局一つしかない。
過程が結果を越えてしまった。
そんな意味不明なワードのみ。
そしてそれは俺の頭では到底理解できそうのないこと。
「気を付けることだ。アイツは言葉を巧みに操るスペシャリスト。魔法がなくても厄介な相手だ」
直接対話せずともこうして人を思考の迷路に彷徨わせる。
要約すれば簡潔な短い内容を、なんの意味もない長文によって隠そうとする。
「アイツはそんな男だ」とシエンは言った。
「計画はもう始まっている時点で俺達はとっくの前から後手番だ。やられてからじゃないと気付けない。ここから反撃するために必要なのは、相手の動きを予想することじゃねぇ」
「相手の動きに備えること、だよな」
「そうだ。いつ動き出すかもわからねぇんだ。いつでも動けるようにしとけよ」
「わかってる」
今のシエンの言葉でようやくちゃんと吹っ切れたような気がした。
今はバカ馴染みのことを考えていても仕方がない。
あんな奴、いなくなって清々した。そう思えるくらいにいないと次の動きには対応できない。
今、俺達がすべきことは混乱じゃない。整理だ。
「……おっと」
気合いを入れ直したところで、ドシンという音とともに校舎が大きく揺れた。
相変わらず暴れていやがるな、ここの生徒達は。
「いい加減うるせぇな、アイツら」
シエンが顔を顰めながらドアノブに手をかけた。
「ちょっくら黙らせてきてやるよ。感謝しな」
「お、おう。ど、どうした急に」
「その代わり、テメェには悲しいお知らせだ」
「は、はぁ?」
感謝しろと傲慢な態度の次は、悲しい知らせって、何言ってんだコイツ。
そう思った俺の手にある花を指差して、シエンは言う。
「お前が持っている花、間違いなく当たりだぞ」
「……え?」
この花が?
いやだってこれは生徒会の役員が持っている花だろ?
珍しくもないし、俺の他に生徒会のメンバーも持っていたはずだ。
うろ覚えだが、ヴォルガも生徒会の花は選ばれない、って言っていたような気もする。
しかし、そんな俺の困惑する様子すらも鼻で笑ったシエンは。
「中心を見てみろよ。花びらと同じ色をしているだろ。生徒会の花の中心は白だ」
「そ、そうなのか?」
「その花は生徒会役員の証拠を見せる花じゃねぇよ。そのトップの花だ」
「……トップってまさか、おい!?」
「カミュラがつけている花だ。だから言ったじゃねぇか。お前がその花の持ち主の器か、ってよ」
そういう意味だったのかよ! つうか、わざとだろ!?
「せっかくだから他の奴らにも教えておいてやるよ。お前が選ばれし者ってことを」
「お前マジで友達失うからな!」
「いらねぇよバァカ」
「クソッタレ!」
コイツが余計なことを言いふらす前にどこかに避難しなければ!
最も安全な場所、俺が思いつく場所はたった一つ。
奇しくもこの花のおかげ、というのがとても憎たらしい。
「果たしてそこは本当に安全なんだろうか」
「なんだよ、今度は!?」
「これ以上は教えてやるわけねぇだろ」
本当のクズじゃねぇか。性格悪すぎだろコイツはマジで!
俺は飛び出すように生徒指導室を出ると、俺が思う安全地帯に全速力で向かう。
どいつもこいつもまったく俺の周りにいる奴らというのは。
どうして曲者しかいないのか……!




