とりあえず用務員さんとお話ししない?
ようやく校庭をくぐり抜けた俺は、とりあえず校舎の中へと避難した。
ここまで来るのに何度襲われたか覚えていないが、一人ずつ無力化することで窮地を脱した。
さすがは魔法が発展した学園の王国。
生徒一人一人が高い魔法の技術、知識を持っている。
しかも、日頃からこういった戦闘訓練を受けているのだろう。ここまで来るのにもなかなか苦労した。
それでも俺が無傷でここに来れたのは、単に歩んできた実戦の質の差だろう。
「さて、ここでゆっくりしてる暇もないな」
後方を見ると、俺に続いて脱出しようとしている生徒達が数人。
校庭で暴れている人たちもいずれは校舎の中で、脱出者達を狩り始めるだろう。
その前に、俺はシエンと合流しなければいけない。
「っと、その前に念のため」
ずっと開けることができなかった封筒の口を切って、自分の花を確認する。
「これは生徒会の花……だよな」
きれいだけども決して主張が激しいわけではない、鮮やかな橙の花。
珍しい花だが、生徒会の全員がつけている花だ。
どうやら俺は選ばれなかった人らしい。
「これを見せれば攻撃されない……なんてことはないよなぁ」
もう何人もの倒されているんだ。
その中から適当に花を取ってきただけだろ、と言われてしまえばそこで終わりだ。
「ま、一応持っておくか」
花を制服の内側のポケットにしまうと、生徒指導室の方へと足を向ける。
何かあればシエンと話す場所は生徒指導室と決めている。
シエンがいるとすればそこだろう。
「あれ?」
するとその道中で、俺よりも一回り歳の取った男性と会った。
その男性の手には掃除用のモップがあり、汚れてもよさそうな全身の灰色の服から用務員だということがわかった。
「もしかして、あの爆発の中から抜け出してきたのかい?」
「……えぇ」
「ははっ。そんなに身構えないでほしいな。私は確かにこの学校の関係者だが、結局のところただの用務員だ。華夕には無関係だよ」
男性の声は人を落ち着かせる、渋く優しい印象だった。
よく見ると、先週カミュラさんと校内を回っていたとき、俺が他の生徒に襲われそうになったところに居合わせた用務員だ。
あのときは本当に助かった。
「えっと、もしかして仕事中ですか?」
「そうだね。校舎の中に誰もいない今だからこそ、掃除しようと思ってたんだけど。君が来たってことは他の生徒にも迷惑になっちゃうかな?」
「別に迷惑だとは思わないと思いますけど」
俺はそう返すと、近くの教室に目を向けると、その教室のドアを開ける。
そのすぐ、昇降口が騒がしくなる。どうやら続々と校舎にたどり着いてきたようだ。
「ん? もしかして当たった?」
「そういうわけじゃないんですけど、どうやら今年はバトルロワイヤルみたいだそうで」
「え、もしかして僕も危ない?」
「大丈夫だとは思いますけど、流れ弾は当たるかもしれませんよ?」
「ぼ、僕も避難させてもらっていいかい!?」
「どうぞ」
俺が先を促すと、そそくさと教室に避難した用務員は掃除道具も外から見えないように倒す。
少ししたあと、廊下からバタバタと何人かが走る音が聞こえてきた。
一緒に逃げているのか、もしくは追うものと追われる者がいるのか。
残念ながらそれは確認できない。
「いやぁ。すごいねぇ」
二人して身を縮めて隠れていると、用務員がそう呟いた。
「どうしてここに?」
「僕も魔法に憧れていた時期が合ったんだけどね。魔法の実力もなければ、勉強もできなくてね。良くも悪くもここはそういう場所だからね。学生になるために来たはずが、今は落ちこぼれの用務員だよ」
潔く諦めたのさ、と言う公務員の顔はどこか悲しそうだった。
そんなことを話していると、廊下を走る音がなくなっていたことに気付いた。
特にバレることなく、どこかに行ったようだ。
「……はぁ」
俺は安心して息を吐くと、公務員さんに尋ねた。
「仕事、しなくてもいいんですか?」
「あぁ、今から休憩だよ」
その答えを聞いて、俺は再度ホッとした息をついた。
そして、さっきまでの態度とうって変わって普段の俺を見せた。
「それで? 情報収集は順調か、テッド?」
「うん、まぁね」
俺の態度と同様に、さっきまで悲哀の雰囲気の包まれていた公務員はケロリとした様子で言った。
先ほどまでの渋く優しい声もなくなり、子どもっぽい声に戻っていた。
「ちなみにいつから気付いてたの?」
「お前が生徒に足払いをかけたときから。というか、あれがサインじゃないのか?」
「ま、そうなんだけどね」
だから思ったんだ。怖い世の中になったもんだ、って。
最強のパーティの一人が一切の違和感を感じさせることなく、この国に、学校に潜入しているんだから。
「よく用務員に化けれたな?」
「この人は実際にいるよ? ただ、今は長期休暇中を取らせてるけどね」
「戻ってきたときどうするんだよ」
「狐に化かされた、って感じで終わるだけだよ」
どうでもよさそうに話すテッドの顔はおじさんで、その笑い方がとても似合わない。
「他の奴らはどんな感じだ?」
テッドはその変装術を活かして、俺の他にも全員の動向を確認している。
ここは王国ではないのでそもそも条件を満たせていないのだが、フェリアの【統治】の役目をテッドに任せているというわけだ。
テッドが確認した事実や情報は、すべて俺とトーカに伝わるようになっている。
いつもであれば、この情報はケイラにも流れるようにしているのだが、ケイラは自身の意向もあって流れないようになっている。
「誰の話から聞きたい?」
「誰でもいいから話してくれ」
「ん~、ならまずはトーカから」
トーカはこの国の機密魔導隊に潜入していた。
機密魔導隊はこの国を裏で支える組織らしい。主な仕事は表に出せない任務。
機密文書の管理、上層部の不正の調査、そして暗殺。
なんでもトーカは魔導隊への入隊試験において歴代最高点どころか満点を叩き出したらしく、その実力と適性から信頼に長けた人物しか入ることができない機密魔導隊に所属することが決まったようだ。
まぁ、試験の内容も、適正に関しても分析に特化したトーカなら満点を出すのも容易なことだろうが。
本来は普通の魔導隊に潜入して、情報収集を行わせたかったのだが、それ以上の結果を出してくれたようだ。
おかげで、本来集めることが難しい情報まで容易に手に入れることができるようになったとか。
「で、次はイグスとシュリなんだけど」
イグスとシュリは二人で孤児院の役割も果たしている教会へと向かわせた。
シュリはともかく、イグスは放っておいたら騒ぎを起こす二大迷惑人物の一人。
なんとしても今回の任務、暴走させるわけにはいかない。
そういった理由があって、シュリに同行させたわけだが意外なことに効果があったようで。
どうやらイグスは孤児の子どもに好かれており、その対応に追われているんだとか。
しかも、イグス自身も子どもは決して嫌いではないようで、なんだかんだ静かに楽しくやっているんだとか。
今度からもイグスはシュリに同行させておこう。
ちなみに、シュリはイグスが彼氏と言われて若干不機嫌なんだとか。……いらねぇ情報だ。
「ケイラも大丈夫だと思うよ?」
ケイラは本当に元学園長ゲンケイと接触したようだ。
人を言葉で操ることに長けているというゲンケイに接触するということは、ケイラ自身も操られるかもしれないということで。
最悪、ゲンケイと同じ思考に染まってしまったら俺達の敵になるかもしれない、とケイラは言っていた。
ケイラが敵に回ることなんて考えられないが、万が一のこともある。
だから、テッドが集めた情報はケイラには流さないようにしている。
しかし、テッドの様子からするに問題はなさそうに思える。
「やり方が目的を越している?」
「って、言っていたみたいだよ」
ニワトリと卵の話を持ち出してきたり、なんだかよくわからない話をしている。
ケイラもよくわからないと言っているみたいだし、俺が考えたところで無駄骨となりそうだ。
とにかくわかることは、もう何かが始まっているということだけか。
「で、最後にセラフィなんだけどね……」
そう切りだしたテッドの顔はどこか悔しそうだった。
確かあのバカ馴染みはトーカと一緒に魔導隊に潜入する予定だったはずだ。
セラフィが暴れないように、トーカに面倒を見るように頼んだはずだ。
さすがに、それで止まるようなら俺も苦労しないが、少しでも抑えてくれれば、と思っていたのだが。
「また何かやらかしたのか?」
俺がそう尋ねると、テッドは首を横に振った。
「その逆。何もしないんだよ」
「なん……だと?」
「まるで動きがない。僕もわけがわからなかった」
ここに来るまでは普通だった。
いつもどおりバカ騒がしく、頼むから静かにしてくれと言っていたのを憶えている。
あのバカ馴染みが何も問題を起こさないなんてことがあるのか?
「静かすぎて、あっさり魔導隊に潜入することに成功したんだけどさ。なんていうか……ずっと上の空って言うの? 淡々と任務を完遂するんだよね。まるでトーカみたいに」
「ついに頭がバグったか?」
「そう言えたらいいんだけどね」
なんでも任務中でも、テッドが話しかけても明後日の方向を見ているらしい。
しかも何かをずっとぶつぶつと呟いているみたいで。
「……なんだろう」とか「でも……」とか「ん……」とか。
とにかく話しかけても碌な返事が返ってこないんだとか。
「トーカも困惑しているみたいでさ」
「俺もにわかには信じられないが……そうか」
アイツは普通の人には存在しない感覚で動いて生きているみたいなやつだ。
それが何かを感じたのだろう……たぶん。知らんけど。
「ま、とにかく静かならそれでいいか」
「あ、いや違うんだ。まだこれには続きがあって」
「……続き?」
なんだろう、俺もなんだか不吉な予感がした。
もしかして、それがさっきのテッドの表情に繋がるのだろうか。
「実はそのセラフィなんだけどさ」
「おう」
その次に聞いた言葉には俺も耳を疑った。
まさかアイツが。
今回のクエストを受けることを当たり前だと言ったあのバカが。
仲間のことになると真摯になるアイツがそんなまさか。
姿を消した。
どうでもいい話ですけど。
異能(魔法)のある世界で本気でサバイバルゲームのような水鉄砲バトルをする作品ってどう思います?
まだ構成段階なんですけど、そういった話も作ってみたいなぁ、と思いまして。
「なろう」には合わないので投稿する気はないんですけどね。
いつかそういった作品を書いてみたいなぁ、と思ってるだけです




