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とりあえず王様と喧嘩することだけはやめない?

 王の間に着くと、立派なひげを生やした老人が高い椅子の上に座っていた。


 俺達が王様と目を合わせる間に、ここまで案内してくれた従者はスッと隅へ逸れ片膝を突いた。


 それに続いて俺達も片膝をついて頭を下げる。


「よい。面を上げてくれ、神の心臓(ゴッドハート)の者達よ」


 そう言われ、セラフィとケイラの二人だけが顔を上げる。


 俺は顔を上げない。


「リオン」

「俺はこのままの方がいいだろ」

「ふむ。やはりほかの三方は来てないか」


 俺とセラフィの呟き程度の会話を遮るように王様はそう言った。


「まぁ、そなたら二人だけで十分であろう」

「っ……! ちょっとアンタ――!」

「やめろ、ケイラ。今はそんなことをしにきたわけじゃないだろ?」

「っ……」


 なんとなくわかったとは思うが、俺はこの王様から嫌われているらしい。


 まぁ、無理もないというか仕方がない。


 俺とセラフィ、そしてテッド以外はそれなりにいい身分の者達だ。


 ケイラは少し離れたとある国の賢者として仕えていたし、シュリは世界の大半を占める宗教の聖女だ。


 イグスはこの国の聖騎士長の孫ということもあって、俺達に会う前から王様ともそれなりに面識があった程度には地位が高い。


 テッドもその活躍振りと、俺達の知らない王族への借りがあるそうで無下にはできないとか。


 それに比べて俺とセラフィはただの田舎者。


 と言っても、セラフィを「ただの」で片付けるのはさすがに無理があるわけで、パーティのリーダーをやるだけの力と実績も備えている。


 王様といえど、セラフィをぞんざいな扱いをしたら、王様にもかかわらず打ち首にでもされそうなくらいだ。


 王様と同じくらいの第三者的地位があるとか……。


 一体いつから俺の幼馴染が世界の中心になったのだろうか。


 ……最初からか。


 それに対し、特に大した活躍もせず、最強のパーティの腰巾着のように張りつき、ちょっと頑張った程度の力を持つそこらの一般人と同じ俺。


 王様が嫌っていても何らおかしくない。


 王様は俺のことを汚物のような目で見下ろすが、むしろ、俺にとってはそれくらいが心地いい。


 勘違いしないでほしい。俺は決してそういうタイプの人間ではない。


 俺の周りには不気味な奴らで溢れているんだ。


 こういう俺を正式に評価してくれた王様の目に、俺は感激しているくらいだ。


 王様が俺を嫌おうとも、だからこそ俺はこの王様が好きだ。


 現に、王様を『王様』と呼ぶのはこのパーティでは俺しかない。


「突然だが、本題に入っても構わないだろうか?」


 王様がそう言った。


 俺は黙って二人に頷きを返すと、それに答えて二人も頷いた。


「ここから少し北に登ったところにある、オメルガという国を知っておるな?」

「当然よ」


 王様の質問にケイラが何ら敬いもせずにそう返した。


 おいおい……。変に反感を買って、いらぬ喧嘩をしたくはないんだが、俺は。


 しかし、ケイラの話し方に王様は何を思うわけでもなく話を続ける。


「オメルガが近年、妙な動きを始めているということは知っておるか?」

「噂程度にね」

「二、三年前から動き出していたことはわかっていてな、こちらから視察部隊を送り込んだのだが、一ヶ月前から連絡がプツリと切れた」

「潰されたのね」

「おそらくな」

「間違いないわよ」


 いちいち、王様の揚げ足をとらんでいい。


 ……それにしても、オメルガとはまた厄介な国だ。


「そこでだ。神の心臓(ゴッドハート)らには、オメルガを調査して、不穏な動きが見られるようなら潰してきてほしいのだ」

「『潰す』というのは『国を滅ぼす』ということでいいのかしら?」

「そうだ」



「お断りよ」



 ……………………………………は?


 まるで流れる自然の川を思い出させるような拒絶の言葉に、セラフィ以外の動きがピタリと止まった。


 当然、その中に俺もいる。


「な、何言ってんの?」


 おそらく一番驚いている俺が、この場の全員を代表してそう聞いた。


 すると、返ってきた答えが。


「パーティメンバーであるあなたをここまでされて怒らない方がおかしいでしょ」

「そうだよ。さっきからすごく嫌な気持ちなんだから!」


 ケイラに続いて、セラフィがプクリと口を膨らませてそう言った。


 え、え……? 何を言い始めてんのこの人達は。


「バ、バカ! その程度のことに……!」

「あなたもあなたもよ! その自分を過小評価するのをやめなさい!」


 いや、過小評価じゃねぇ! テメェらが勝手に過大評価してんだよ!


 ……と、叫びたかったが、ここは王様の前だ。それくらいの判別はつく。


 だが。


「仲間をここまで侮辱された相手の依頼なんて受ける気はないわ」

「さ! 帰ろう、リオン!」


 この判別のつかない奴らにはまったくもって関係ない。


「……はぁ」


 さて、どうしたもんか。


 俺が我慢を解き放って叫んだところで、いい事態にならないことは簡単に想定できるし。


 かといって、このまま放置することももってのほか。


 であれば。


 チラリと部屋の隅に並んでいる豪華なドレスを纏う一人の少女に目配せをする。


 すると、その少女はなぜか嬉しそうに笑って前に出た。


「申し訳ございませんでした、皆さま!」


 言葉通り戦争を始める勢いの二人に負けず劣らずの声が鳴り響いた。


 その声にさすがの二人も動きを止め、声の主に目を向けると、俺が合図を送った少女が二人に頭を下げていた。


「フェ、フェリア!? 何をしておる!?」

「申し訳ございませんでした!」


 少女の突然の謝罪に驚きの声をあげた王様だったが、少女は頭をゆっくりと上げて前に出た。


 王様の制止の声が聞こえないかのように、少女の足が止まることはなく、俺の高さに合わせるために膝を曲げた。


「申し訳ございませんでした。リオン様」

「うん。様はやめてほしかった」

「では、何と呼べば?」

「呼び捨てでかまわな――」

「引き続きリオン様とお呼びいたします」

「なんで?」


 小声で話しているから王様はもちろん、セラフィやケイラにも聞こえていない。


 少女は俺にだけ見えるように笑顔を見せると、すぐに立ち上がった。


 立ち上がったときには、俺に見せた笑顔はもうなく、キリッとした表情であった。


「セラフィ様、ケイラ様。どうかこの国をお救いいただきたいのですが」

「そのことはさっきから言っているはずよ、フェリア王女」


 この少女こそ、先ほどからあの玉座に居座っている王様のただ一人の孫娘である。


 名はコルシア=スグリ=フェキシリア。略してフェリア、と皆は呼んでいる。


「ですが、それで本当によろしいのでしょうか?」

「……どういう意味かしら?」


 依頼側のフェリアの心配そうな顔に、ケイラが眉を寄せた。


「この国には、皆さまの家があったはずです。それを無くすことになってしまうかもしれませんが……」

「家くらい何度でも立て直せるわ。この国でなくてもね。それくらいのお金は十分すぎるくらいに余っているわ」


 何気にこの城の持ち主である王様よりも資金力に溢れている俺達だ。


 ケイラの言うとおり、この国でなくても家はいくらでも建てようと思えば建てることはできる。


 それにしても、さすがはフェリア。


 俺の考えていること、わかってくれているじゃないか。


 さて、ここからは俺の番だな。


「確かに家は建てられるかもしれないが、どちらにせよ俺達にとっては少しマズいだろ」

「どういうことかしら?」


 俺からの反対に、ケイラはさらに眉を寄せて俺を見た。


「忘れたのか? この国にはシュリがお世話している教会があるんだ。この国を捨てるということは、シュリが面倒を見ている孤児までもが見殺しにするということだ」


 そう言うと、ケイラが痛いところを突かれたとばかり目を逸らした。


 まったく……。頭がよくても、予想外の返答に顔がすぐ出てしまっては台無しだな。


 だが、ここはとどめを刺させてもらうぞ。


「そうなったら、シュリと戦うことまで検討に入れなくちゃならなくなる。なんでそうなるかは言わなくてもわかるよな?」

「……えぇ」

「……?」


 アホなセラフィは放っといて、ケイラはそこまで言えばわかるだろう。


 孤児を見殺しにすることは絶対にシュリはしない。


 例え俺達がこの国を捨てたとしても、シュリは孤児らのために戦うだろう。


 意見の対決でシュリと戦うことになるのか、はたまたシュリだけがここに残って戦うことになるのか。


 どちらにせよ、俺達にとってよくない状況になるのは間違いない。


 案の定、ケイラはすべてを察した上で諦めるような息をついた。


「仕方ないわね」


 俺とフェリアは無言で目を合わせて口元に笑みを浮かべた。


「ただし、この依頼はフェリア王女から受けたものであって、あなたのような礼儀知らずから受けたものではありません」


 礼儀知らずって……。俺からすれば、お前らの方がよっぽど礼儀知らずだよ。


 そもそもここに来るまでに三人が自由行動を決めている時点で、最低の部類に入るだろ。


「達成量はシェリア王女からもらうことにするわ。それでいいかしら?」

「私は構いませんわ」

「……いいのかよ?」

「リオン様のためですもの」

「そこは国と言えよ」


 クスクスと笑うシェリアに、俺は呆れを感じながら交渉は決定した。


 まぁ、何はともあれこれで依頼料をもらえるのならよかったとすべきか。


 王様が怒りで震えているような気もするが、これ以上話を迷宮入りさせたくはないのだろう。


 何も言わずに俺達の背中を見送ってくれた。


 俺に対する怒りの感情がまた一段階増えたような気もするが、このくらいならまだいい。


 言っておくが、王様に喧嘩を売るのはこれが初めてではないのだ。


 前にも何回か会っているが、その度にセラフィやケイラが反発している。


 一番厄介だったのは、やはり始めて会ったときだっただろうな。


 あのときは本当に打ち首を覚悟したもんだ。


 ……まぁ、いまでもときどき思ってはいるけどな。


 とにかくだ。


 来る度来る度、王様と喧嘩して話が変わっていくのだけはぜひとも注意していただきたい。


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