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とりあえず勉強はしたくなくない?

 魔法の一切を封じる鉄の部屋で、男は静かに、しかし心の底から笑っているのがわかった。


 一番弟子? ふざけるな。


「私がいつアンタの弟子になったのよ?」


 私は自らの才能を自らの手で開花させた。


 お世話になった人たちは確かにいる。


 両親や、親友のカミュラ、私を育ててくれた先生たち。


 でも、その中にこの男は存在しない。


 いつだって、この男は私の前に立ちふさがり、私の邪魔をしてくる。


「相変わらず表情が読みやすいな。儂がおぬしの邪魔をしたのではない。おぬしが儂の邪魔をしてきたのだよ」

「まだ命の研究なんてしているの?」

「生命の謎を解き明かしたいと思うのは研究者としての、いや、人間としての本望だろう。何が悪い?」

「研究が悪いわけじゃない。そのやり方について言っているのよ」

「研究の基礎だろう。観察して、推論して、仮説を立て、検証し、また考察する。にもかかわらず、生命を研究する際だけは第一段階の観察を飛ばそうとする。私からしてみれば、そちらの方が間違っていると思うがね」


 命の観察、そのためにこの男がやろうとしたことは到底許されることではない。


 それでも、この男には一切の反省の色も見えない。


 やはりこの男とは絶対に噛み合わない。


 私だけでなく、他の人も。きっと。


 だがそんなことはとっくの昔に知っている。


 今日はそんなことを聞きに来たわけではない。


「いったい何をしようとしているのよ?」

「変わらんよ。これまでと」


 教えてくれるわけがない。そんなのわかっている。けどそういう問題じゃない。


「ふむ。頭に血が上っているな」

「うっさいわね」


 カミュラがこの男のせいでケガを負ったのだ。


 冷静でいられるわけがない。


「アンタは昔から言葉巧みだった。講義の時もそう。いつもアンタの授業は他の教師とは一線を画していた」

「面白い授業だっただろう」

「実際、成績が上がった子もいた。私は変わらなかったけどね」

「耳が痛いな。皮肉にも程がある」


 だが、それを利用して今回はこんな事件を引き起こした。


 言葉による洗脳。魔法を使わずに、魔法のように人を操る。


「もう一度聞くわ。何をしようとしているのよ?」

「相手を持ち上げてから再度尋ねることで、思わず情報を漏らしてしまうというやり方か。成長したではないか。だがしかし、儂にはそのやり方は通用せんよ」


 ここにきて何も成果を上げられませんでした、なんて話にならない。


 限りなく可能性は低いけど、この男と対話するというのは、私がこの男に洗脳されてしまうかもしれないということ。


 リスクだけを取って何も持って帰らなかった、なんて。


 リオンに知られたらどれだけ失望されてしまうだろう。


 私は常に、リオンの期待を越えられるような人になりたいのに。


「ほほぉ。なるほどなるほど。おぬしもやはり人なのだな」

「わかったような口を利かないで。アンタには絶対にわからないわよ」

「さて、どうだろうな」

「何度も言わせないでくれる? 私の質問に答えなさい」


 流れるように話を逸らさせる。


 おかげで、時間だけが過ぎていく。いつまでも私がここにいられないことをわかっているのだろう。


 だが、そうはさせない。


「今ここで、アンタを殺したっていいのよ」

「構わんよ。それで計画が本当に止まると思っているのなら」

「……やっぱり計画なのね」

「……一本取られてしまったな」


 暇つぶしなんかではない。


 なんらかの目的があって、なんらかの意味があってこの事件は引き起こされた。


 このまま終わるわけではない。


 しかも、この話の流れから察するに、この男を殺したところで何も終わらない。


「勝者にはプレゼントが必要だな。もう少し教えてやろうか」

「……どういうつもり?」


 この男がただで情報をくれるわけがない。


 私を洗脳しようとしている?


「身構えないでくれ。この暮らしにも飽きてきてな。少し自慢話でもしたい気分なのだよ」


 何が本当で、何が嘘なのかわからなくなりそうなこの空気。


 闇だの光だの。それ以上に、混沌としたものが一番わからない。


「先ほども言ったとおり、私の目的は変わらんよ。だが、そのやり方を変えたのだ」

「どうせ碌でもないやり方でしょ」

「さて、それはわからんな。いいか悪いかは我々でなく、後世の人々が決めるものだからな」

「詭弁ね」

「教える気はないが、本当にそれがそうでもないかもしれんよ。よく聞く話であろう? 卵が先か、鶏が先か、という話を。それに似たようなものでな。まぁ、なんというべきか、つまり――」




 ――やり方が目的を越してしまっているのかもしれないのだよ。




 ★☆★


 カミュラさんと生徒指導室を出た後、俺は護衛の意味もあって並んで廊下を歩いていた。


 そうしてわかったことだが。


「カミュラさん、こんにちは!」

「会長! ケガには気を付けてくださいよ!」

「生徒会長を守り隊である我々、何かあれば必ずいかなる時も駆けつけますぞ!」

「ではまずは隣を歩いている無礼な奴を仕留めるべきでは!?」

「たしかに!」

「了解いたした!」


 人望があるというか、人気があるというか。


 まるで学園のアイドルのように扱われていて、それはそれで大変そうだなぁ、という印象がある。


 ちなみに何人かの生徒が俺めがけて突進してきたのだが、その直前で近くを掃除していた用務員の持っていた掃除用の長いブラシに引っかかり、集団で転がってしまっていた。


 学校の中と言えど、怖い世の中になってしまったものだ。


「皆から慕われているんだな」

「そ、そんなことないですよ」


 なんというか……いいな。こういう感じ。


 俺は誰かさんのせいで碌な学校生活を送れなかったので、本来のあるべき学生生活を送っているようで悪くない気分だった。


 護衛の最中だとはわかっているが、どうも気が緩んでしまいそうだ。


「にしても意外だったな。カミュラさんとシエンが知り合いだったとは」

「同じクラスだったってだけだよ。それに、私がシエンくんに話しかけても、いつも素っ気なかったし。シエンくんには嫌われてたかもしれない」

「アイツは誰に対してもそんなもんじゃないか?」


 最も付き合いの長い俺に対してもあんな感じだし、あれがアイツの標準だろう。


「でも、私も驚きました。ケイラちゃん、冒険者になっていたんですね」

「知らなかったのか?」

「噂だけは少し。本当になっているなんて」

「そんな意外だったか?」

「てっきり一人で魔法の研究をしているんだとばかり」

「ありえなくはないな」


 俺とセラフィに出会わなかったら、そっちの道に行っていたかもしれない。


 だが、今にして思えば俺達が出会うのは必然だったようにも思えるのだから不思議だ。


「元気にしてますか?」

「元気どころじゃない。一人で魔法の研究していたら、もっと静かになっていたと思うくらいに」

「今も研究しているんですか?」

「まぁな。俺達のパーティは良くも悪くも異常なバカの集まりだからな。研究テーマに困らないって前に言ってたぞ」

「そっか。よかった」


 カミュラさんがほっと息をつく様子から、本当に心の底から安心し、喜んでいるのが見受けられる。


 その顔は俺が見るべきではなかった、とそう思ってしまう程に。


「……」


 なんだか一人で勝手に気まずくなってしまった。


 共通の話題がケイラのことしかないからか、俺自身で話がどうしても膨らませられない。


 そんな俺の様子を見かねてか、カミュラさんはクスリと笑った。


「授業、どうでした?」

「あ、あぁ。いや、全然わからなかった」


 この学校の生徒会長であり、学力も学校一と言われているカミュラさんにはどうってこともない問題でも、俺にはまったくついていけない。


 そもそも俺とバカ馴染みの故郷では魔法の授業を大して扱ってこなかったし、故郷を出たのも学校を修了する前だし。


 魔法の知識と力はほぼ独学だ。


 昔、バカ馴染みに教わったことがあるがそのときも理解不能な言語を使われたし。


 擬音、擬態語を使ってくれるならまだしも。


『自分の中にあるドアを叩いて、その中にはもう一人の自分がいるじゃん? だから、そこで戦って仲直りするの。すると……ほら』


 わかるか? 魔法の説明なんだぜ、これ。


 ケイラが仲間になって、そのことについて話してみたらさすがのケイラも頭抱えてた。


 真の天才にも理解されない奴を何と呼べばいい。


 バカだろ?


「護衛に来るのはリーダーさんって言うから、もっと怖い人かと思ってましたけど。全然そんなことなくてよかったです」

「いや、俺リーダーじゃないからね?」


 ケイラのやつ、俺のことなんて言いやがったんだ。


 実力を考えれば、俺は下っ端もいいところだろうが。


「……そういえば」


 廊下を歩いていると、ふと窓の外を見て気付いたことがある。


「この学校はいろんなところに花が咲いているんだな」


 今見ている校庭にも、遠くから見てもわかるほどのきれいな花が咲いている。


 教室にも、生徒指導室にも、花が置かれていたはずだ。


「花は嫌いですか?」

「……? いや、別に」


 花を見ているだけでリラックスできるし、嫌いという感情はない。


「実はこの学校の花は私が育てたんですよ」

「そうなのか?」

「うん。きれいな花を見て皆が楽しくなるようにって。少しでも明るい気持ちになれたらなって」

「へぇ」

「でもおかげで、この学校の象徴みたいに扱われちゃって。ちょっと恥ずかしいんですけど」


 顔を赤くして照れるカミュラさんを見て、なるほどな、と思った。


 こりゃ、人が惹かれるわけだ。


 ケイラもきっと彼女のこの魅力に惹かれたのだろう。


「あ、そろそろ授業始まっちゃうよ」


 教室の近くまで来ると、ちょうど教師が教室に入るところだった。


「うへぇ……」

「あはは」


 勉強が嫌いだった子どもの頃を思い出す。


 ホント、早くこのクエストを終わらせたい。


 テストが来る前には絶対に。



学園パート突入!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 敵が毎回世界一のパーティーを相手取って不足はないと思える強大さを見せること [一言] 潜入なんて絶対に向いてないセラフィとイグスの2人はどこに行ったのかな?片っ端から怪しい人襲ってそう(笑…
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