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とりあえず潜入してみない?

調子のいい明日がなかなか来ませんでした……ごめんなさい

 そんなこんなで。


 仲間であるケイラからのクエストを引き受けた俺達は、ケイラとシエンの故郷であるノイワールに潜入していた。


 この国はもともと学校という位置づけであるということもあり、歳や身分を深く気にしてはいないようだった。


 あるのは魔法の実力差と、魔法に対する探究心のみ。


 だからこそ、子どもであろうと大人の中に混じってレベルの高い授業を受けることもできるし、逆にお年寄りが下級魔法の授業を学ぶことができるようだ。


 だからといって、俺達全員が同じ学校に同時に転校してきては怪しまれるし、それぞれの今回の役目を果たすためにも、俺だけが生徒として潜入したわけなのだが。


「……はぁ」


 仕方がないとは言え、もう少しどうにかならないものかと頭を抱える。


 俺が入った学校は国の中でもそれなりに上位の学校だった。


 そのおかげで、専門的な知識や用語を使って授業が進められるし、授業の速度にも追いつかないしで、正直もううんざりしてる現状だ。


「え~っと、ここか? シエンが言ってた場所は」


 俺はそう言って、上に『生徒指導室』と看板がぶら下げられている教室の前に立った。


 まだ転校してきて数日しか経っていないというのに、早くも呼び出し。


 しかもアイツは場所を教えることもしなかった。


 おかげでここに来るまでにかなりの時間を有してしまったではないか。


 どう責任を取ってくれようか。


 ……なんてアイツに言ったところで悪態をつかれて終わりか。


「はぁ……」


 ため息をつきながら教室のドアを三回ノックすると、偉く不機嫌そうな「入れ」という声が返ってくる。


 だったらちゃんと教えてくれよ、まったく。


「遅ぇよ」


 案の定、教室に入るとシエンが大きなソファにどっしりと、いかにも怒っていますという顔で座っていた。


「場所がわからねぇんだよ。仕方ねぇだろ」

「あらかじめ調べてこいよ」

「その調べる時間を与えてくれなかったんだろうが……!」


 先ほどまでは教師と生徒という関係であったため敬語を使っていたが、誰もいない今ならそんな遠慮はいらない。


「それで? わざわざ呼び出したってことは何かあったのか?」

「別に。まだ何も起きてねぇよ、今のところはな」

「はぁ?」

「ここまで来るのにかなりキュウだったからな。改めて情報を三人で共有した方がいいと思ってな。この俺が気を遣ってやったんだ。感謝しろ」

「気を遣ってやったと自分から言う奴に感謝なんてしたくねぇ」

「人間の屑だな」

「そこまで言われなならんか!?」


 相も変わらず口が悪いこともこの上ない。その上自己中だ。


 コイツがここで友達を作れなかったのは主にそれが原因だろ。


「よくわからんがお前を殴りたくなってきた」

「教師が生徒を殴るなよ……」


 さて、いつもどおりの軽口もここまでにして、確かに今の現状をゆっくり整理しておこうか。


 俺もそうだが、あと一人の方も特に。


 簡単な説明しかしてなかったわけだし。


「カミュラさんは?」

「お前と一緒に生徒指導に入ってきたら周りに怪しまれるだろ。少し時間ずらして呼び出した」

「なるほど」


 俺の質問に面倒くさそうに答えたシエンは、天井を見上げた。


 それからすぐして、ポツリと俺に聞いてきた。


「なぁ。わかりきったことを聞くが、この学校の授業についていけるか?」


 それは先ほど、ちょうど俺が考えていた話題のことだった。


「そう言うお前は?」

「言っただろ。俺はこの国では落ちこぼれだ。わかるわけがねぇ。俺がわかるのは、スクロール関係のことだけだ」


 だが、そのスクロールのことだけは右に出る者がいないおかげで、こうして教師として今いるわけで。


 ……なんか俺が複雑な気分になっちまった。


「俺も全然わからん。えっ……と、何て言ったっけ、あれ。『固定なんやらの拡大やら拡張やらのなんとかなんとか』みたいなやつ」

「俺に聞くな。わかるわけねぇだろ」

「だよなぁ」


 二人して開き直るしかないとは、情けないにも程がある。


 自覚はしているが、自覚することで頭が良くなるわけでもないし。


 時間があるときにケイラに質問してみようか……そう思ったが、ダメだな。


 魔法の解説をしているときのケイラは、戦闘を楽しんでいるときのあのバカと同じだ。


 軽く一日拘束されてしまいそうだ。


「……」

「……」


 そういえば、こうしてシエンと二人でいるというのは久し振りかもしれない。


 何年か前まではこの沈黙も嫌いでなかったのだが……ここが学校ということもあるからなのか。


 気まずい空気に身体が悲鳴をあげそうだ。


 そんなことを思ってすぐ。


 コンコンコン。


 と、先ほどの俺のようにドアを三回ノックする音が聞こえた。


 どうやら来たようだ。


「開いてる。入れ」


 俺の時よりやさしめな一言がつけ加えられていることに、ほんの少しだけ腹が立った。


 コイツは俺を奴隷が何かとでも思っているのだろうか。


「し、失礼します」


 礼儀正しく入ってきたのは、とある女子生徒だった。


 先ほどの授業で俺のことを心配してくれた生徒だ。


「ごめんね、生徒会のことでちょっと遅れちゃった」


 彼女の右胸には橙色の花がつけられている。


 花に詳しくない俺にはよくわからないが、なんでもその花は咲いたら一年は枯れることのない珍しい花だとか。


 生徒会のメンバーの全員がつけていて、特に彼女は。


「生徒会長ってのもたいへんなんだな」

「そんなことないですよ。皆のためだと思えれば、全然苦だとは思わないですよ」

「そうなのか」


 俺もアイツらをまとめるには他の人たちのためだと思えばいいのだろうか。


 あぁ、無理だ。


 そもそもバカはまとめらねぇ。


「時間もない。さっさと始めるぞ」


 一応教師であるシエンがそう言って姿勢を正すと、教室内にピリッとした緊張感が張り込む。


 本職でもないのによくもまぁ、こんなにもベテラン感を出せるものだ。


「聞いてはいると思うが、今回、アンタを護衛することになったのは俺とコイツの二人だ」

「シエンくんと……リオンさん、ですよね?」

「そうだ」

「よろしく」


 俺は同じ生徒として護衛し、シエンは教師という立場から護衛にあたる。


 しかしシエンの場合、教師としているわけだから常に一緒にいられるわけではなく、主に俺が彼女を守ることになる。


 シエンはどちらかと言えば、俺の協力者といった扱いに近いだろう。


「シエンくんは久し振りだね。まさか教師になって再会するなんてビックリだよ」

「昔の俺を知っているアンタから見れば驚くのも無理ねぇか。落ちこぼれの俺がなんで、って感じだろ」

「そ、そんなこと思ってないよ」


 聞く話によるとシエンとカミュラさんは同じ学校、同じクラスで魔法を学んでいたいわば同級生だとか。


 そしてケイラも。


「話は聞いている。アンタが襲われたって」


 そう、そしてこのカミュラさんこそがケイラの親友である。


 つい先日、ゲンケイの元監視官として働いていた男性に襲われた人物。


「ケガはないのか?」

「うん、襲われたって言ってももう半年も前のことだし、もうケガも治ってる。でも、私より心配なのは私を襲ったあの……」

「……そうか」


 実は、事件は半年前から今もずっと続いている。


 カミュラさんは一番最初の被害者だった。


 しかし、元監察官の男はカミュラさんを襲った後、さらに何人かの人物を襲っている。


 そして、今はどこかに閉じ込められているようなのだが、その中では今度はぶつぶつと何かを唱えていたり、たまに奇声を上げたりといろいろとおかしくなっているらしい。


 もちろん、このことは世間に公表されていないが。


「世間に公表しない理由はいくつかあるが、最も危険視されているのは、元監視官がゲンケイによっておかしくなったということに、人々を不安に陥れさせないため、だったよな?」

「ゲンケイは良くも悪くも人の心を掴むのがうまい奴だったからな。まさか監視官までもがその虜になってしまうとは思わなかったが」

「えっ……と。ごめんなさい。どういうことですか?」


 最初はそれの何が危険かわからないよな。俺もそうだったし。


 ケイラから聞かされて、その危険性を感じたわけで。決して俺の頭が回るわけではない。


「要は、元学園長様は魔法を使わず人を多少なりとも操る術を持っているってことだ。そして、その確認方法はなく、ましてやそれが捕まる前から持っていたかもしれない」

「つまり、捕まる前から誰かを唆して自分を解放させるような命令を流しているかもしれないってこと。はたまた、今回のように暴動を起こさせて隙を見て、っていうこともある」

「それだけじゃねぇよ。学園長だったってことは、国のお偉いさんにも、そして学校の校長らにも接触は当然しているわけで。誰が唆されているのかも、いつ動くのかもわからない。爆発するかどうかもわからない爆弾を持っているっていうのがこの国の現状」


 だからこそ、今、この事実を知った、気付いてしまった上層部達は疑心暗鬼に陥り、事件も解決させないといけない焦りもあって大混乱。


 そこで白羽の矢が立ったのはケイラだった。


「ゲンケイのやり方に反発していたケイラは確実に洗脳されていないし、ケイラもカミュラさんが襲われたことを知ってからは俺達に隠れて結構調べ回っていたらしいし」


 けど、一人では無理があると感じ俺達にクエストを持ってきたわけだが。


「ちなみにですけど、今ケイラちゃんはどこに?」


 そういえば、これも言ってなかったか。


 本当であればケイラも自分で親友を守りたかったのだとは思うが、今回の事件を解決するためにはそうはいられない事情があった。


 大丈夫だとは思うが、念には念を入れて、ということらしい。


「驚くのも無理ないと思うんだけど。今、ケイラは――」




 ★☆★




 薄暗い地下の牢屋の中で男は静かに待っていた。


 カツン、カツン、とたった一つしかない独房を出入れできる唯一の階段からやってくる者を。


 半年前の事件を起こしてからすぐにこの独房に移されてからは、決まった時間にご飯を届けて者しかここには来ない。


 にもかかわらず、今日はいつもとは違う時間に人が来る。


 その事実に、男は笑みを浮かべた。


「そろそろ来ると思ったよ。その様子だと、儂の企みはうまくいったようだね」

「黙りなさい」


 笑う男に対して、怒気の孕んだ声が狭い独房に響いた。


「そうツンケンしないでもらいたい。我が一番弟子」


 男が顔を上げると、それは歪んだ笑顔だった。


「久し振りだね。ケイラ」



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