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とりあえず何が起きてるのか教えてくれない?

 自身の魔力を媒介に、世界に変化を与えるものを人々は【魔法】と呼んだ。


 そんな魔法は、大きく二種類に分けられる。


【固有魔法】と【一般魔法】


 固有魔法は誰しもが生まれたときから身に付けている自分だけの魔法。


 自我を持つ頃には、自身の魔法の使い方とその詳細を、誰に教えられたわけでもないのに知っている。


 それは、自分の魂に刻まれた力だからだ、だったり、これから一般魔法を覚えるのにあたり、魔法の使い方をあらかじめ知っておくべき人間の特性だ、だったりなど。


 現在でも、いろいろな仮説と議論が交わされている。


 それに対し、一般魔法は誰もが平等に使える魔法のことを指す。


 それぞれの魔法に、消費される魔力は決まっており、その魔力が足りなければ発動しないが、逆に言えば、魔力さえ足りれば誰でも使える魔法。


 特に、固有魔法と一般魔法の決定的な違いは、自由度(・・・)である。


 一般魔法を発動させるためには、使うために必要な魔力量が決まっている。


 炎の玉を出すのには、出すための魔法陣の大きさに応じた一定の魔力がなければならない。その炎の玉を自在に動かすためには、さらに一定の魔力が必要となる。


今回の例の場合、魔法陣にどれだけ魔力を込めようと、火の玉は魔法陣にあった大きさにしかできないし、火の玉を動かすにはそれ相応の魔力が必要となる。


 また、回復魔法等の場合、魔法陣を形成している間魔力が消費され続けるわけだが、回復の濃度を弱めることはできない。


 簡単に言えば、かなり傷が癒えたから、少し魔力を弱めて魔法を調節しよう、とはできない。


 固有魔法はその逆、その制限はない。まさに自由な魔法である。


 込める魔力の割合で魔力そのものの強さを変更させることができ、複雑な動きも練習次第では魔力を消費させることも必要なくなったりもする。


 これが、固有魔法と一般魔法の決定的な違い。


 さて、ここから少し複雑な話になってくるが。


 この【一般魔法】だが、実はこれも二種類に分けることができる。


 名前はまだ定まっていないが、キーワードとなるのは【詠唱】だ。


 要は、詠唱とはなんのためにあるのか、ってことだ。


 最近の研究で、【詠唱】は世界を歪ませるための現象だと判明した。


 詠唱によって起きるのは、世界が歪み、そこにあるはずのない魔法陣をその人の魔力を使って形成するということ。


 つまり、この世界の人々は詠唱することによって世界をねじ曲げ、自身の魔力で魔法陣を形成して、その魔法陣から魔法を発動させている。


 そう考えたとき、同時にこんな考えを持つ者が現れた。




 一般魔法は人が詠唱して使っているのではなく、詠唱によって形成された魔法陣によって顕現しているのか、と。




 それがいったい何を意味しているのかと言うと、つまり、詠唱は絶対的な必要不可欠なものではないのではないか、と考えた者がいるということ。


 魔法陣さえあれば、人は魔法を発動させることができるのではないか。


 そしてそこから魔法についての発展はすさまじいものだった。


 詠唱によって現れた魔法陣を正確に再現しているはずなのに魔法が発動しないことがあり。


 その原因が、詠唱によって現れる魔法陣は常に一定の魔力の濃度で描かれているわけではないことがわかり。


 その濃度をいかに再現できるか考え、そして試行錯誤が始まったり。


 その試行錯誤の結果、人々は【スクロール】という魔法陣が描かれた紙を発明した。


 このスクロールの登場によって、魔力が本来足りない人でも、その魔法を発動することができるようになったりと、魔法の文明は百年と経たない間に急激に発展した。


 そしてこのスクロールについても、いまなお研究がされており、その中でもスクロールの第一人者と呼ばれる人こそが――


 ――って、おい」


 ここまでの話を長々としてきた男は、急に話を中断すると、片手に持っているチョークを一人の男子学生に向けた。


「そこの新入生、いや転入生か?」


 怒気のこもった声に周囲が一瞬にしてピリッとした空気になる中、指された男子学生は一人ほぇっ、と呆けた顔で首を傾げた。


「な、なんでしょうか?」


 いったい自分は何をやらかしてしまったのでしょうか、そう聞かんばかりに彼はキョトンとした顔をしていた。


「なんでしょうか、じゃねぇよ。お前、やる気あんの?」

「え、えっと……」


 何がこの人の琴線に触れてしまったのだろうか、と考える彼だが、答えはまったく見つかりそうになかった。


「さっきから一瞬たりともメモもしないで俺を舐めてんのか、って聞いてんだよ」


 額の血管を浮かび上がらせながら聞いてくる男に、彼は答えた。


「これくらい教えられなくても、皆知っていると思いますけど?」

「ほぅ? いい口の利き方だな。それは俺に喧嘩を売っていると取ってもいいんだよな?」

「え、いや。そ、そんなわけないじゃないですか」

「なるほど、なるほど。俺に教えられなくても、これくらいわかっているって言うんだったら、俺のさっきの話の続き、わかるよな?」


 男は男子学生の目の前に立つと、顔をグイッと近づけた。


「スクロールの第一人者と呼ばれる人物の名前はなんだ?」


 まばたき一つせず、その男子学生の目だけを見てくる男に、相手の彼もしどろもどろになって答えるしかなかった。


「キュ、キュリ、アス……カ、カスミ……さん」

「ははぁ! ペンネームではなく、まさか(・・・)実名で言う奴がいるとはな! 相当なマニアック君かなぁ!?」

「あ……、え……っとぉ。ま、まぁ……そんな感じ?」

「先生にため口とはいい度胸だなぁ!」

「で、です……」


 どんどん顔を近づけてくる男の顔、いや目から逃げるように彼は目を逸らすが、男から発せられる圧が肌で感じられる。


 夏でもないのにどんどん彼から汗が滲み出ているのはなぜだろうか。


「それで? マニアック君はさぁ、今言ったカスミさんに息子がいるってことは、もちろん(・・・・)、知ってるよなぁ!?」


 ところどころ強調して言っているのは意図的だろうか。


 そんな男に、男子学生はもう耐えきれないとばかりに、目をギュッとつぶった。


「息子の名前、ワカルヨナ?」


 笑顔なのに、まったく笑顔でない男の顔に周囲の学生達も耐えきれないとばかりに震え始め、そんな中でも彼は震え震えの声で言った。


「キュ、キュリアス=シエン……です」

「おっ、今回は敬語だな。そうだな。で、シエンって誰かわかるよな?」

「せ、先生です」

「先生って言ってもいっぱいいるけど?」

「め、目の前にいる先生です」

「なんだ、本当にわかってんじゃねぇか。さすがマニアック君!」


 バンバンと肩を叩く強さがやけに強いが、男はようやく男子学生から離れると黒板の元へと戻っていった。


 それと同時に周りの緊張感が和らいでいき、授業は再開した。


「さて、お袋と俺が編み出したスクロールについてだが――」


 授業が進みようやくホッとした先ほどの男子学生は、今度はきちんとメモを取ろうとノートを広げた。


 すると今度は、ちょんちょん、と隣の女子学生が制服の袖を軽く引っ張って顔を寄せてきた。


「だ、大丈夫?」


 心配するような表情を見せる彼女に「だ、大丈夫」と、引きつった笑いをなんとか見せた男子学生は指で丸を作った。


「そ、そう? それならいいんだけど」


 女子学生はそれだけ言うと、何事もなかったかのように前を向き直した。


「……はぁ」


 しかし、彼はノートを開いて前を向き直したものの、どこか心あらずだった。


 ちらちら、と先ほどの女子学生を見ると何度目かのため息をつく。


 幸い、ため息は誰にも聞こえていない。


 それでも彼は思わずにはいられなかったのだ。


「なんでこんなことになっちまったんだろうなぁ……」


 今すぐにでも頭を抱えたい衝動を抑えながら、彼は呆然と黒板に書かれている文字を理解しようとする。


 だが、すぐに。


「わっかんねぇ……。というか、頭に入ってこないんだよなぁ」


 男子学生――いや、いい加減お気づきだろう。


 リオンは、知り合いであるシエンの授業を聞き流しながら少し前の過去に浸る。


 なぜリオンが学生として授業を受けているのか。


 その経緯を振り返るように。



明日も投稿します!

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[一言] あのスクロール屋の人、先生もやってるんだ…
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