とりあえずこの島は謎が多すぎない?
かなり遅れました。
すいません、違うことやってました……
いかにもその、リオンはもう気付いているでしょ、みたいな反応を見せられても困るんだが……。
トーカはそのずば抜けた分析力を持ちながら全然俺を理解していないときがある。
俺はお前らのように0の説明で、100理解できる人間ではないと言ってるだろうに。
俺の戦闘能力はまだしも、思考回路はあくまで凡人なんだ。
だが、しかし。
「あ~……」
こんなにも自信ありげ見つめてくるトーカに。
「ごめん、全然わからないんだ。ちゃんと教えてくれ、テヘペロ!」
なんて言えるだろうか。最後のやつはともかく。
何も悪くないはずの俺がどうしてこんなにも理不尽な罪悪感に苛まれなきゃいけないのか。
俺何もしてねぇんだよ? その何もしてないことが悪いんだけど。……いや、だから悪くねぇって。
さてどのように「ごめん」と伝えるべきか。
そう悩んでいると、トーカが小さく「ごめんなさい」と謝ってきた。
あ、そういうことはわかっちゃうんだ。
「あ~、まぁ。なに? 俺も……悪い」
二人して気まずい空気になっていると、ピクンとトーカが何もない方向を見た。
「トーカ?」
どうかしたのか、と尋ねる前にグラリと島が揺れるのを感じた。
どうやらまたあの現象が襲ってきたらしい。
「トーカ!」
「待って」
慌てて図書館を出ようとした俺の腕を、トーカがギュッと掴んだ。
さすがは改造人間といったところか。まったく動かない。
「先にこっち」
そう言って指差すのは、先ほど読んだばかりの童話。
もしかしなくてもトーカは何かを掴んだのだろう。
しかし、それを今話している場合ではないはずだ。
「リオンは、私達は大きな勘違いをしているの」
トーカは俺の思考を読んだうえで、それでも食い下がらなかった。
いったい俺達が何を勘違いしているというのか。
ドォン、と外から大きな音が聞こえ、その振動が図書館の中にまで伝わってくる。
「……」
トーカの手が俺の腕をほどく様子はいつまで経っても見られない。
だから俺は、諦めたように「はぁ」とため息を吐くことしかできなかった。
「何か、わかったんだよな?」
そう尋ねると、トーカはコクンと頷いて、再度絵本を指差した。
「この童話……ううん。昔話には一カ所明らかにおかしなところがある」
「おかしなところ?」
「わからない?」
「……わからん」
本の内容を思い返しながら考えるが、特にこれといったものが見つからない。
いくつかキーワードのようなものはあったのは間違いない。
タイトルにあるように青い鳥、そしてそれと敵対した赤い蛇。
だが今挙げた二つは、童話だから、というもので片付けられてしまう。
「ここを見て」
そう言ってトーカが指差したのは、ある親子の会話だった。
この親子が山に登ろうとしたところで、噴火して、赤い蛇が現れるといった流れになっている。
だが、これがいったい……。
「リオン、ここの島を思い出して」
この島?
東西で男女分かれて住んでいて、南から北にかけての上り坂。
……ん?
そこでようやく気付いた俺に、トーカが「そう」と返事を返す。
「この島に山なんてない」
「い、いや待て。この坂だって山と思えば山じゃないのか?」
「それも考えた。でも、それだと辻褄が合わないことがある」
「そ、それは?」
「山が噴火した様子が書かれていること。さすがに絶壁の奥から噴火することはありえない。それに加えて、これ。『青い鳥がフタをした』というところ。フタ、と言うからにはやっぱりこの島には山があるということ」
「山がある、って。いや、だからこの島にはないって……」
山があると言ったり、山がないと言ったり。
いったいどっちなんだ。
「次にここ。青い鳥。リオンはこれをどう思う?」
「どう思うって言われてもな。伝説上の生き物って感じだな」
「この青い鳥は実在するよ」
「理由は?」
「この島のおまじない、憶えてる?」
「あ~。なんだっけ。『島のご加護があるように』ってやつか」
「そう。でもたぶん、本当は『ご加護』じゃない。たぶん『守護』だと思う。時の流れで変わっちゃったんだと思う。加護と守護は似てる意味だから。変わっていっても不思議じゃない」
なんとなく、トーカの言いたいことがわかってきた。
おそらくだけど、この鳥は島の守護神のようなものだ、と言いたいのだろう。
そして、このおまじないの言葉があるということは、当然その始まるがあり。
つまり、この青い鳥は実在した、と言いたいわけか。
「この青い鳥が実在するとすれば、この青い鳥が山にフタをしたってことになる。リオン、フタってなんだと思う?」
「フタ、ねぇ」
「リオン、たぶんこれは文字通り山にフタをしたんだよ。噴火口のことじゃない」
「噴火口ではなく、山にフタ? ……おい、まさか封印のことか!?」
だとすればどこに封印されているというのか。
「『封印』という言葉をあえて『フタ』と書いていると言うことは、フタをするような封印ってこと。リオン、山一つを封印するためには、それよりも大きなもので閉じることになるよね」
山よりも大きいもの……。まさか。
「海か!?」
海の中に山を沈めたとすれば、確かにフタをするという表現はあながち間違いではない。
……待て。ということはこの南北に続く長い坂って。
「山の一部?」
ますますこの童話の信憑性が増してきている。
しかも、ということは北にある絶壁のすぐ真下にあるのは。
「海底火山、と言いたいわけだ」
「うん、たぶんそれが地震の正体だよ」
だが、だとすればあの海の現象とは無関係なのか?
そんなことを考えたが、確認するようにトーカが言った。
「真下にある海底火山が噴火するとすれば、守護の青い鳥はどうするの?」
海底火山が噴火しているところを見たことがあるわけではないが、水蒸気爆発とやらがかなり危険だというのは聞いたことがある。
そんな危険なものを前に青い鳥は黙っているはずがない。
自分でなんとかしようとするはずだし、もしそれができないなら誰かに助けを求めにやってくる――っ。
そうか。そういうことか。
トーカが言っていた、俺達の大きな勘違い。
「あれは……海の壁じゃないんだな?」
あの現象を敵だと思っていたが、実はそうじゃない。
あれは現象でもなければ、敵でもなかったというわけか。
「青い鳥だとすれば……そういうことかよ。ちくしょう」
「最初に襲ってきたのは、私達を敵だと思ったんだと思う。私達は島の人じゃないから」
だからその後にシアンさんが俺達を庇ったときに、すぐに攻撃をやめ消えたのか。
そして地震の前後に現れた理由も、これでようやく説明がつく。
地震が起きると危険を知らせにやってきて、地震を止めるために引き返す。
最初の邂逅は仕方ないにしろ、青い鳥は俺達に助けを求めていたのかもしれない。
それを俺達は敵とみなして攻撃し、それに対し青い鳥も応戦する。
「くそったれ! 皆を止めに行くぞ!」
「あっ。リオン!」
このままだと島の守り神であるあの『現象』を殺してしまうかもしれない。
そんな焦りから、俺の耳にトーカの声は届くわけがなかった。
そうして慌てて図書館を出た俺は、仲間に届くわけがないと思いながら「やめろ!」と叫んだ。
……いつもこれだ。
どうでもいいことは聞き逃さないくせに、大事なときに俺の声は届かない。
どうしたものか、そう思ったときだった。
「なに、どうしたのリオン?」
「うおぃ!」
さっきまで誰もいなかった空間に、瞬き一つで現れたのはテッドだった。
どっから出てきやがった!?
「いやぁ、セラフィが「リオンが呼んでる」って言うものだから来たんだけど……違った?」
「……地獄耳かよバカ野郎」
「あれ、なんだかいつもより優しい感じ?」
「そんなわけないだろバカ」
「ありゃ少し戻っちゃった」
本当であれば、今すぐにでも皆のところに戻ってあの現象を相手にしたいところだろうに、そんなことはおくびにも見せずヘラヘラとテッドは笑う。
こういうところがなんだか気にくわないが、助かるところでもある。
「あの海は敵じゃない。むしろ味方だ。今すぐ攻撃を中断してくれ」
「あ~、やっぱりそういうこと」
「やっぱり?」
「さっきセラフィが「なんとなく敵意を感じない」って言ってたからさ」
「だったら攻撃をやめてほしかったんだが」
「敵意のない攻撃って言っても、殺意のない攻撃かどうかとはまた別物だからね」
俺にはわからない感覚がコイツらにはあって、それを責めるのは卑怯というものだろう。
とりあえず攻撃をやめてくれるならそれでいい。
……今はそれよりも。
「一度ここに皆を集めて――「リオン!」」
もらいたい、と言いかけたところでトーカが図書館の中から叫んだ。
「来る! 噴火! 大きいやつ!」
「っ!?」
「もう来るのか!?」なんて言う暇もなければ。
「シュリに伝え――っ!?」
テッドに振り返ることもできなかった。
ッッッッッッッッッッッ!!!!!!
空間そのものを爆発させるような。世界そのものを揺るがすような。
音にならない衝撃音が身体すべてを駆け抜けた。
「リォ……ッ!!」
すぐ近くにいるはずのテッドの声がよく聞こえない。
自分が立っているのかどうかもわからないこの変な感覚。
いったい、何が起こっている!?
「いってぇ……」
少ししてようやく背中に痛みを感じ、俺はようやく爆発の衝撃で吹き飛ばされたのだと理解した。
「シュリがギリギリで防御魔法を島全体にかけてくれたみたいだよ」
俺よりも小柄な身であるテッドが俺に手を差し伸べていた。
「たぶん、セラフィが何か危機を感じ取ったのかな?」
十中八九そうだろう。
アイツは危機察知能力に関してもずば抜けている。
「それよりもリオン、どうするの?」
「あ? どうするって、何がだよ?」
「今の爆発で島が流されたこともそうだけど」
「は!? 島が流された!?」
どれだけすごい爆発ならそんなことになるんだよ。
目の前で受けたのにまったくわからない。
しかし、テッドの目は何やらそれ以外のことを見ているように、何か焦りのようなものが見える。
いったい、どうしたというのだろう。
「今はそれよりもだよ、リオン。何かわかったんなら、あれについてもわかるよね?」
「……あれ、だって?」
俺を見ることなく、何か不穏なことを呟いたテッドの視線の先を追う。
そこには。
「なんだよ……あれ?」
青い壁の問題が終わったら、今度現れたのは『赤い空』
いったいぜんたい、この島はどうなっていやがる?




