とりあえず海を相手にしない?
いつもより少し短めです。
再び現れた巨大な海の壁。
「フェリアはそのまま隠れてろ!」
フェリアのことだ。言わなくてもわかると思うが念のためにと叫ぶと、家の方から「わかりました」と返事が返ってくる。
国の王女様に傷の一つでもつけてみろ。
コイツらはまだしも、俺の首が飛びかねん。
「……さて、どうすっかな。こっから」
改めて海と対決することになると、どっからどう手をつけたらいいのかまったくわからない。
俺達の攻撃はそもそも通るのか、とか。
そもそもこれにダメージという概念はあるのか、とか。
昨日の今日で対策なんて考えているわけがない。
「来るよ!」
セラフィの叫びにハッとした。
しまった。俺の悪いところが出てしまった。
『海』から次々へと発射される超高圧の水の弾丸にワンテンポ遅れてしまう。
「何やってんの、リオン!」
「悪かったな!」
「悪いよ、まったく!」
「だから謝っただろうが、クソッタレ!」
昨夜と同じミスをしてしまうとは。バカ馴染みにバカにされても仕方がない。
だが、この水の弾をかわしたところでどうなる。
それだけで『海』が終わるとは思えない。
情報が、っ足りない!
俺がそんな焦りのようなものを見せていると、バカ馴染み達がそれぞれ顔を見合わせた。
何をする気だ?
そう思ったときだった。
「皆! もう対策できているよね! こっから反撃だよ!」
「「「「「了解!」」」」」
「はぁ!?」
さも当然のように言っちゃってるけど、対策ってなんだ!? 反撃ってどういうことだ!?
俺が水の弾を避けるのに精一杯なのに対し、アイツらはいつものように陣形を組み始める。
もちろん俺にはそんな余裕はないし、そもそも何をどうすればいいのかもわからない。
そんな俺にバカ馴染みがただ一喝。
「リオン! 遅れないで!」
「だからなんのだよ!?」
毎度毎度言わせてもらうが、俺は天才じゃねぇし、ましてやお前らみたいな天災とは程遠い存在なんだ。
お前らの考えることも、お前らについて行くことも。
俺には到底できない。
「今回は僕が盾、だよね?」
わかりきったことを確認するようにテッドはそう言うと「【速度調整・加速】」と呟き、その場から姿を消した。
いや、消したのではない。見えないのだ。速すぎて。
テッドの最高速。久し振りに見る。
この速度に真っ向からついていけるのはバカ馴染みくらいだろう。
逆に言えば、アイツはついていけるのかよ、と思うかもだが、それこそ今更な話だろう。
「それで、他の奴らはどうするつもりだ……?」
テッドが超高速で皆に当たるはずの水をすべて弾いているのはわかった。
問題はここからだ。
「液体だからって切れねぇどおりはねぇってことを教えてやんよ!」
そういって飛び出したのは珍しくイグスだった。
「【凝縮】を応用することで、液体を固体にすることができる」
「うおっ」
いつの間にか近くに来ていたトーカが俺に説明してくれた。
さすがと言うべきか、トーカの言うとおりイグスが海の壁を切りつけると、切断面が凍っていた。
「時空の断絶」
そしてすかさずシュリの時魔法を使って傷口を修復させないようにする。
なるほど、これで水の量を少しずつ減らしていく、ということか。
水の量そのものが相手なのだとすれば、その量を減らしていく、というわけか。
「だが、それはどうなんだ? この量を相手にするのなら日が暮れちまうぞ?」
「リオン、もう日は暮れてるよ」
「じゃあ、日の出だな」
「大丈夫。そこまで時間はかからないと思う」
トーカがちょんと指差した方向にいるのは、やたら楽しそうに聖剣を振り回している戦闘狂。
なんでも切れるといわれる聖剣の名は伊達じゃない。
たとえ相手が水だろうと関係なく切断する。
「かわいそうに」
今日も今日とて、アイツに振り回されている聖剣に同情していると、また別の方からケイラの詠唱の声が聞こえる。
すると今度はケイラの前にはお得意の五重魔法陣がある。
そのすべてがケイラ自らが生みだしたオリジナルの魔法。
ケイラのみが使える魔法だ。
「……何が起きるか解析できるか」
こんな事態で言うのもアレだが、興味本位でトーカに聞いてみた。
すべてを一瞬のうちに解析できてしまえるトーカと、オリジナルを作るケイラ。
今の時点で、どっちが強いのか本当に単純な興味からだった。
「たぶん、引き分け」
「……へぇ」
引き分けということはつまり。
「あれらの魔法陣がどうなっているかは、一瞬考えることにはなるけどわかる。……でも、あんな発想は私にはない。私が使えるのはインプットされている魔法陣だけ」
なるほど。確かに。
「だが、あの魔法陣をそのままインプットすることはできるんだろ?」
俺の質問にトーカは首を振る。
「精密に作られた私でもかなり難しい。あの魔法陣はかなりの高度な技術。使うときの環境によって魔力操作が変わってる。あれを私が使うには、多少の時間を要して、あまり実用的じゃない」
「そう考えると、私の負けかも」と最後にトーカは付け加えた。
それを聞いて、残念にも思ったが、少し嬉しくも感じた。
「どうして笑ってるの?」
それがどうやら表情にも出てしまったらしい。トーカにも聞かれてしまった。
「ま、お前がどれだけ暴走したところで大丈夫だからな。安心して暴走していいぞ」
「暴走したらいけない。だから、私は暴走しないよ?」
「そうだな。それが一番いい」
「……?」
さて、こうして話している間にケイラの準備ができたようだ。
ケイラの魔法は一撃必殺。これだけの水の量があると言えど、一瞬にして蒸発してしまえるだろう。
……ふむ。
「やっぱりこのパーティに俺いらなく――ッ!?」
ないか、そう言おうとしたところでグラリと島全体が揺れた。
ドドドドドドッ!!
立っているだけでも精一杯の揺れが俺達を襲い、ケイラの集中力が切れてしまう。
「ケイラ! おい!」
「うるさい、わかってるわよ!」
五重魔法陣を暴発させたら、ここにいる俺達はおろか、島全体へ被害を与えかねない。
ケイラもそれをわかっているのだろう。
珍しく焦った様子で、魔法陣に正しく魔力を込めようとするが。
「っ……く」
揺れる足場に気を取られ、五重魔法陣が不気味な光を放つ。
暴発する……!
「計算終了。セカンドギア」
そんなとき、俺の横にいたトーカがそう呟くと、揺れる大地を思いっきり蹴った。
島全体が、揺れているようにも関わらず、トーカがまっすぐその目指す場所へと走って行く。
「えっ、トーカちゃん!?」
「おね、がいします!」
「おっ、おお~♪」
トーカがバカ馴染みをケイラへと思いっきり投げた。
そういうことか。あのバカならケイラの暴発する魔法陣そのものを斬ることができる。
そして、投げ飛ばされて空中にいるなら大地の揺れは関係ない。
「楽しい~!」
「いいからさっさと斬れこのバカ!」
呑気に楽しもうとしているバカは、聖剣をたった一振りすることで五重魔法陣を破壊する。
あと一秒でも遅れていたら確実に大惨事になっていただろう。
「ぐっ……!」
「皆、しっかり捕まって!」
バカ馴染みに言われなくてもとっくにそうしている。
この中でいつもどおりに動けるのは、揺れの動きを完全に把握して、自由に重心移動を行えるトーカくらいだ。
地震はそれから数十秒間続いた。
長い時間揺れ続けた島がようやく動きを止めて、俺達が海を改めて見ようとしたときには……もう。
「くそ」
俺達がハッと気付いたときには、海の壁は消えていた。
逃がした、ということでいいんだろう。
「やられたね」
いつの間にか立ち上がっていたテッドが、悔しそうに俺を見て笑った。
他の奴らも見てみると、もう立ち上がっていた。
相変わらず一つ一つの動きが早い奴らだ。
「けど、これであの海と地震には何か関係があるってことは確実になったわね」
「あの『海』が地震を起こしている、と見ていいってことだよね」
俺達の予想どおり、『海』と地震に何らかの関係性があると見ていいようだ。
あの現象が天災かどうかはまだよくわからないが、天災達には敵わないと踏んだのだろう。
あの地震が単なる偶然だとはさすがに思えない。
「リオン様、無事ですか?」
いつの間に家から出ていたのだろう。フェリアが未だ地面に伏している俺に手を差し伸べた。
「まだ危険かもしれないだろ」
まだ確実に安全とは言い難いだろうに。
「リオン様を信頼してますから」
「余分な信頼は無責任だぞ」
「リオン!」
「どうした!?」
突然声を荒げたバカ馴染みを見ると、ぐぅっと鳴ったお腹に手を当てていた。
「お腹減った~。何か作って~」
「……ちっ」
空気の読めないバカが。
「七人分でいいな?」
「……え!? 一人足りないけど!? 誰の分がないの!?」
「お前は一日くらい食べなくても死なねぇだろ」
「なんで! お願い、リオンのご飯が食べたいの!」
「仕方ねぇな。白米だけは食わせてやる」
「優しくない! 全然優しくない!」
何も食べないよりはマシだと思うんだがなぁ。
それに。
お前こそ俺に優しくすべきだと思うんだ。ホント。
最近、セラフィを「○○馴染み」と書きすぎて名前よりも先に「○○馴染み」という言葉が浮かぶんですよね




