とりあえず何か気付いたことはない?
遅れました。
夕方になり、フェリアとともに借宿に帰ってくると、俺達以外の全員が談笑を交わしていた。
別にどうでもいいが、もう少し声の大きさをなんとかできないものか。
家の外まで声が漏れていたぞ。
ここは俺達の家のように防音機能は備わっていないというのに。
……ちなみに、そんな機能を家に付け加えるようにコイツらに命令したのは俺である。
「おかえり~、リオン」
俺の帰りにいち早く気付いたのはバカ馴染みだった。
「ふぅん。……二人でずっと?」
「お前らが任務をすっぽかしてくれたおかげでな」
「あ、そう……なんですね」
ケイラに皮肉を言い返すと、なぜかシュリが肩を落とした。
相変わらずよくわからんやつらだ。
「リオン様、とにかく座りませんか?」
フェリアに促され、長いテーブルを囲むように俺達は座る。
こんなテーブル、昨日まではなかったはずなのだがなぁ。
言うまでもなく勝手にこの中の誰かが作ったのだろうが、まぁ、そんなことはどうでもいい。
「さて、と」
こうして皆に集まってもらったのは他でもない。
今日のオープニングのため、うやむやにしたままで終わった昨夜の件だ。
突然現れた海の壁。そしてその壁が俺達を攻撃してきたこと。
「今日一日で何か不思議に思ったことはないか?」
しかし、俺はあえて「昨夜の件だ」とは言わずに話を切り出す。
それによって、できるだけ皆の情報を狭めずに収集できるからだ。
昨夜のことについて、と言ってしまうとそれ関連のことばかり話に出そうとしてしまう。
もしかしたら意外なところから情報は現れるかもしれない。ここは特に限定せずに、皆が気になったところを聞いた方がいいと判断したのだ。
「変わったところってわけじゃないんだけどさ」
意外にも最初に意見を出そうとしたのは、クソッタレな幼馴染みだった。
こういう系の質問に対して、いつもならなんの考えも出せない奴なのに。
「島の人と話していたら、ときどき『島のご加護がありますように』って言われたんだよね。あれってなんなの?」
「それは……」
ふむ。なるほど。これはマズいかもしれない。
「シュリ。今すぐセラフィを治療してやれ」
「別にどこも悪くないからね!?」
コイツがまともな質問をしてくるとは本当に予想外だった。
もしかして明日と言わず、今日で世界は終焉を迎えてしまうかもしれない。
これが物語だったら今日で最終回だ。
「リオン! 私をバカにしてるでしょ!」
「そんなわけないだろ。バカでアホなクソカス野郎と思ってる」
「もっとひどいじゃん!」
コイツをバカの一言で表そうなんざ、最大級の褒め言葉になってしまうだろうが。
隣でぎゃあぎゃあと騒ぐバカでアホなクソカス野郎を無視して話を続けようとすると、テッドがスッと手を挙げた。
「でも実は、僕もそれ気になってたんだよね」
「島のご加護って奴か? 俺は別に気にならなかったぞ!」
「お前はどうせ島の男達と腕相撲してただけだろ」
「おう! 悪くはないが、まだまだだったな!」
「知るか、そんなの」
念のためシュリとケイラにも確認してみるが、二人も「あまり気にしなかった」ということらしい。
そう言う俺もその一人なわけであるが。
「こういう……おまじない? 宗教みたいなものってそれなりにあるでしょ?」
「それをシュリの前で言うなよ……」
「い、いえいえっ。言いたいことはわかりますので」
良いこと悪いこと、何をしたとしても神様は見ているよ。だから悪いことはしないで、良いことをしなさい。
今日はいいことがなかった。今日の運勢は悪いかもしれない。
くしゃみが出た。誰かが自分のことを噂しているのかも。
程度に差はあれ、このように考えること自体は特段珍しいことではない。
親から子へと迷信のような、本当のような、曖昧なものが伝わってそれをなんとなく習慣にしていることは少なくない。
だからこそ、俺も特には気にしなかったのだ。
「一応聞いておくが、加護のようなものは?」
「見られなかったわよ」
「わ、私もそう思います」
加護、と聞いて思い浮かぶのは俺がよく使う魔法である【付加】である。
知らない間に付加されていれば、加護と思ってしまってもおかしくない。
しかし、超一流の魔法使いであるケイラと、超一流の付加魔法の使い手であるシュリから見て、ないと断言するのならそれはないと見ていいだろう。
「あ、おまじない繋がりで言うけど」
「何かあったのか?」
「いやいや。別に今の話とも関係性はないんだけどね」
テッドはどこか楽しそうに前のめりになると。
「この島のどこかにいる青い鳥を見ると幸せになれるっていうのがあって」
「……おう」
「うん」
「……それだけ?」
「うん。それだけだけど?」
それこそ別にどうでもいい情報だった。いくら前置きしていたとしても、だ。
幸せの青い鳥。黒猫が前を横切ると不幸になる、と同じくらい有名な噂話。
この世界には青い鳥も黒い猫もたくさんいるし、その度に不幸やら幸せが訪れては世界が疲れてしまうだろう。
勝手に持ち上げられて、不幸やら幸せだの。
どうしても俺はこの動物たちに親近感を湧いてしまう。
「ま、本当に気にすることでもないんだけど。せっかくだから青い鳥を探してみようと思ったんだけど、これがなかなか。ねぇ?」
「見つからないんだよね~」
テッドに合わせるようにバカ馴染みが笑った。
となると、もしかしたらこの島には青い鳥はいないのかもしれない。
もしくは、昔はいたのだが今はもう絶滅したとか。渡り鳥という可能性もある。
どちらにせよ、そういう噂話や迷信などは海を通り越して勝手に伝わってしまうものだ。
コイツらが見つけられなくても別におかしいことでは……。
「うん?」
そこまで考えて、俺は気付いてしまった。
「おい、ちょっと待て」
コイツら、まさか。
「この島を探険したのか? 二人で?」
「「え、うん」」
「うん、じゃねぇから」
今日はとにかく島の人々と交流を深めるっていう予定だっただろうが。
なんでこのバカ二人は勝手に探険なんてしてんの?
バカなの? 知ってはいたけどバカなの?
「シュリとケイラ、イグスも百歩、いや千歩譲ってまだいいとする。やり方はどうあれ、島の人々と交流していたんだからな。だが、お前らはそれを放棄したんだな」
「やだな~。リオン。最初はちゃんと話してたんだけど、なんだかつまんなくなっちゃって」
「つまんねぇってお前この野郎……!」
テッドもテッドだ。
普通にしていればしっかりしているのに、このクズ馴染みと二人きりになった途端、急に知能指数が低下しやがる。
まるで子どもだ。
変な奴とつるむようになってから変になるんだ。
「文句ばっかりいってるけど。そういうリオンはどうなの? まさか、ないってわけじゃないんでしょ?」
したり顔でいっているコイツ。一体誰に聞いてんだ。
俺はお前とは違う。
「まずはそうだな……この島の人達の男女の不仲についてだが――」
「それ、昔、先々代の代表同士が夫婦喧嘩したときに、島全体での喧嘩に発展した名残らしいわよ」
……。
「この島には大きな建物がないが――」
「そ、それは大きな建物を建ててしまうと、ここから島を見渡すときに邪魔になってしまうからみ、みたいです」
……。
「商売のときお金を使わず――」
「大陸と交流するときは普通にお金を使うらしいけど、島の中では基本物々交換の方が商売としてはいいみたいだよ」
……。
「この島の人達の目。全員獣のような目をしているが――」
「ん? おう。それなんだけどよ。この島の主食は魔物の肉。つまり狩りをしているわけで。獣を狩るためには獣のような目が必要なんだとよ」
……。
「え、どうしたの? リオン。気になったところ言ってみてよ。他に何が気になったの? ねぇ~ほら。教えてよ。ねぇねぇ」
「ぶっち殺してぇ」
コイツの形容しがたいほどの腹の立つ顔。
何が一番腹立つって、コイツ自身は何も調べてねぇくせに、こんなにもいかにもな顔をしてることが。
コイツの頭をたたき切ってやろうかな、と本気で思っていると、視界の端で誰かが小さく手を挙げたのが見えた。
「……トーカ?」
そう名前を呼ぶと、トーカは「うん」と短く答え、皆の視線を集めた。
トーカが自分から何かを話そうとするのはこれが初めてだ。
全員の視線に無表情ながら、それでもどこか気まずそうな顔を見せたトーカはゆっくりと口を開いた。
「地震か、わからないけど、ときどき小さな揺れが起きてるよ」
「揺れ?」
「うん」
トーカ以外の人達に確認の目を向けるが、揃って首を横に振っていた。
「気のせいじゃなく?」
「ほんのちょっとだけど。揺れてるかどうかわからないくらいの」
あらゆる感覚が研ぎ済まれているバカ馴染みですら気付かないほどの揺れ。精密に測れるトーカだからこそ気付けたのだろう。
「揺れ……ねぇ」
言うまでもなくトーカのことを信じていないわけではない。
揺れているのは間違いない。
だが、その原因がまったくわからない。
もしかしたらこの島がただ揺れているだけで、無害だという可能性だってある。
「ねぇ、トーカ。それっていつ揺れているの?」
俺と同じように考え込んでいたケイラがそう質問をした。
「不定期。だけど、揺れて少ししてから、あのよくわからないことが起きた。関係があるかまでは」
「ふむ……」
そんなときだった。
「リオン!」
急にバカ馴染みが立ち上がり、俺を呼んだ後トーカを見た。
「まさかと思うが」
「うん。揺れた。ほんの僅かだけど。私も感じた」
「うん。今までで一番揺れが激しかった」
それを聞いて、急にスイッチが入ったように俺達は武器を持って家を飛び出した。
フェリアだけはそんな俺達に出遅れていたが、構っている余裕はない。
もし、トーカの言っていた揺れとあの現象に関連性があるとすれば、今回の揺れで……きっと。
「皆! 間違いないよ!」
一番に飛び出したテッドがそう叫んで、昨日と同じ方向を指差した。
「あぁ、これは確かな証拠と言っていいだろうな」
昨夜と同様に、俺達を今にも押しつぶさんといわんばかりに、海の壁が俺達を見下ろしているのだから。
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