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とりあえず少し休ませてくれない?

 俺が召喚した隕石を前で、俺とシュリの視線はお互いに釘付けだった。


 これが夕日を背にしたものだったら、なんとも幻想的でドラマチックなものに見えるだろう。


 ――俺とシュリの見つめ合いは続く。


「「ぁ……」」


 その沈黙を最初に破ったのは同時だった。


「何やってんの!! バカなの!?」

「わ、私は何もしてませんよ!?」


 だから何もしてねぇことが問題なんじゃねぇか!


 俺も相当焦っているようで、矢継ぎ早にシュリに質問攻めする。


「試合中何度かお前を見ただろ.。目ぇ合ってよな!? なんだったんだよ、あれは!」

「そ、それは気付いてましたけど! だ、だから私はすごくドキドキして……!」


 返答もわけわかんねぇよ。どこに高揚したんだよ!


「お前が何にドキドキしたのかは知りたくもねぇが、おかげでこっちは今ハラハラしてんだよ!」


 人二人殺したぞ、俺!? どうするんだ!?


 どうすれば償える!?


 どこに自首すればいい!?


 国か!? いや、待て。この島で俺は自首しないといけないのか!?


 何から、何を、どうすればいいのか。まったくもって頭が回らない。


「リオン」


 詰みのない人を殺したとなれば、冒険者としてはもちろん廃業。


 別にバカ達がどうなろうと知ったことではない、とは思っていたのだが、俺の所為でパーティを解散するとなればそれなりに罪悪感だって湧く。


「リオン」


 いや、待て。そうか。


 まだ死んだと決まったわけじゃない。今から助ければあるいは。死にかけでもシュリがなんとかしてくれるはずだ。


 もしくは、いつものわけわからん力で誰かがきっと。


 こういうときのためにわけわからん力はある。頼む!


「リオン」

「ちょっと待ってくれ、トーカ。話は後にしてくれ」

「相手の二人、死んでないよ」

「なに!? それはいい情報だ! よし、今からすぐに救出に入るぞ!」

「もう救出してる」

「そうか、ならすぐに回復を!」

「回復するまでもない」

「……なに言ってんの?」

「リオンこそ」


 俺をバカにしているわけでもなく、ただただ冷静に答えたトーカは、スッと指を差した。


 釣られるようにその先へと視線を移すと、そこでは先ほど殺してしまったはずの二人が何やら騒いでいるところだった。


「バッカじゃないの!? 無茶しすぎよ!」

「別にいいだろ。こうして生きてたわけだし」

「そういう問題じゃないのよ!」

「なんだよ。そんなに俺が心配なのかよ」

「ば、バッカじゃないの!? 誰がアンタの心配なんて……!」

「ま、でも。なんだ。お前にケガがなくてよかった」

「う! う、ううるさい!」


 ……俺の知らないところでいったい何があったのだろう。


 ラブコメが始まっているのだが、あれはなんだ?


 ふと、そのすぐ隣に視線を移すと、テッドが俺に手を振っていた。


「もしかして?」

「うん。私がテッドに言っておいた」


 どうやら、隕石に押しつぶされる直前でテッドが二人を救出していたらしい。


 俺が空に魔法陣を作り始めた時点で、トーカは俺の勝利を確信し、テッドに準備しておくように頼んでいたらしい。


 シュリが俺の視線の意味に気付いていないこともトーカにはお見通しだったらしい。


「さすがだな」

「リオンほどじゃない」

「……」


 何が、とは言わん。どうせわからん。


「改めまして、皆さん!」

「いいオープニングになったんじゃねぇかぁ!?」


 そうしていると、シアンとシュナイダーの声が響いた。


「このように彼らはとても強いです。王国最強のパーティと呼ばれる彼らが、この(たび)私達の島に来てくださいました!」


 会場はまだ試合の熱が冷めていない。


 この勢いをそのままに、イベントを盛り上げようという魂胆か。


「彼らの強さの秘訣。それは……愛です!」


 おい、待て。ちょっと待て。


 なんだ、それは。


「人は人を愛することで強くなります。その結果が彼らなのです!」


 この中の誰が誰を愛しているんだよ。


 だいたい、パーティ内での恋愛沙汰は禁止なんだよ。暗黙の了解で。


「彼らのように強くなりたいのなら、この三日間を、有意義に使ってください!」

「「「うぉぉぉぉおおおお!!」」」


 使ってください、じゃねぇ!


 なんだその間違った情報は。なんだこの変な盛り上がりは!?


 わけのわからない展開に戸惑っていると、ツンツン、と背中を誰かにつつかれた。


 振り返ると、そこには悪い笑みを浮べているフェリアが。


「へぇ、リオン様は誰が好きなんですか?」


 ……勘弁してくれ。


 ☆★☆


 初日はオープニングが終わった後、各自が改めて異性の家を回る。


 ……はずだったのだが、オープニングでのトラブルもあって、その予定をなしにして自由行動ということになった。


 それでも、できれば人目についてほしい、という要望であったのだが、俺は試合の疲れもあり、申し訳ないとは思いつつも借宿で少し休むことにした。


 試合の時に付けられた傷はシュリによって回復しているから、肉体的にはなんの問題もないのだが、精神的にはもうクタクタなのだ。


「はぁ……。疲れた」


 今回だけでなく、なんかもう……人生に疲れた。


 このままベッドの上でスヤスヤしたいところまである。


「引きこもりたい」

「それなら私が養ってあげますので安心してください」

「うぉい!」


 気配もなく急に横から声をかけられ、ベッドから跳び上がるように振り返った。


 マジで心臓飛び出るかと思った。俺を殺す気なの?


「なんで普通に出てこれない?」

「私にとっては普通なのですが」


 それを普通といったら世の中暗殺者ばかりで世界はきっと混沌としていることだろう。


 それと、ここはシアンの家だが、今は男性用の宿だ。


 なぜ、女性であるフェリアが来ているのか。


 他にも、今は俺以外の皆で島を回っている最中だろう。なぜ、ここにいる?


 いろいろ質問すべきことがあるが、フェリアは笑顔でそれに答えた。


「リオン様が心配になって、ではダメですか?」

「ダメだな」

「では、リオン様と一緒に島を回りたいからですよ」


 俺と一緒に? なぜだ。


「護衛もなしに一人で島を回るなんて。大丈夫だとは思いますが、もしものことがありますでしょう?」

「それはわかるが」


 別に俺でなくてもいいはずだ。


 俺以外のパーティでも十分、というか俺の方が護衛としてはアイツらには劣っているような気もする。


 性格に難はあるが、実力だけは誰をとって優秀すぎるほどだ。


「リオン様。私の護衛を他の方々が、実力を抜きにして、護衛を務めることができると思いますか? 彼らの自由さはリオン様が身をもって知っているはずですが?」

「……すまん」


 そうだった。アイツらは実力以前に、その性格に問題しかないんだった。


 ……いや、待てよ。


「トーカはどうだ? トーカならやってくれるだろ?」

「トーカ様も正直微妙なところですね」

「なぜだ?」

「私がトーカ様にあまり良く思われていないからですよ」

「そうなのか?」

「たぶん、トーカ様もわかってはいないのだと思いますけれど」

「……?」


 結局、どういうことなんだ。


 それ以上、聞いてもフェリアは「いえ、私からは言えません」の一点張り。


 よくわからんが、とにかくトーカもフェリアの護衛には向かないようだ。


「それで、俺ってわけか」

「よろしいでしょうか?」

「面倒くせぇけどな」

「ありがとうございます」


 ドレスのスカートをあげて礼を言うフェリアを見て、ふと思ったことが一つ。


「歩きにくくないのか、それ?」

「最初は。ですが、もう慣れました。逆に、普通のお洋服の方が歩けないかもしれません」

「それはないだろ」


 ドレス、か。


 縁もゆかりもないアイツらが着たとしても、馬子にも衣装、少しはよく見えるかもしれない。


「アイツらは今何しているんだ?」

「男性方はわかりませんが」


 フェリアが言うには。


 ケイラは自分の研究のために、なぜか島の女性達の魔法を調べに行ったとか。


 ちなみに、フェリアに言い残したのは。


『人目について、と言われただけから別に女性側に行ってもいいでしょ?』


 らしい。どれだけ頭が良くてもやはりバカだ。


 シュリはちゃんと男性側に行っているが、この短時間で何人か信者を増やしたとかなんとか。


『信じてください。信じるだけで世の中を救えるんです』


 さすがは悪魔の聖者。人を洗脳するのはお手のものだ。


 トーカは彼らがあまりにも非常識なことをしないように見張りながら家を回っているらしい。


 トーカだけは比較的普通で何よりだ。


 できればケイラのことは止めてほしかったんだがなぁ。


「そのトーカさんなのですが」

「どうかしたのか?」

「リオン様の試合前に呟くように言っていたのですが」

「……あぁ。そういえば、俺が出る前も何か言いかけてたな」


 てっきり相手の特徴とか弱点とか。そういうのを教えようとしていたのだと思っていた。


 相手のことを先に知るというのはなんとなく嫌だったので聞かなかったのだが。


 フェリアが言うには違うらしい。


『誰もリオンが誰かわかってないから、リオンの代わりに他の人が出ればよかったのに』


 そ、その手があったか……!


 確かにそれだったらすぐに試合も終わって、俺が苦労することもなかった。

「もったいないことをした」

「そんなこと言ってますけど、リオン様はそんなことしませんよ」

「いや、するかもしれないだろ」

「いいえ。絶対にしません」


 いったいどこにそんな根拠があるのやら。


「最後にセラフィ様のこと、聞きます?」

「いらん。言わずともわかる」

「そう言うと思いました。嫉妬しちゃいそうです」


 別にそんな関係では絶対ないんだがな。


 ただの腐れ縁。どうせなら腐りに腐りきって切れてしまわないだろうか。


「準備、できましたか?」

「おう」


 仲間達の状況確認も終えたところで、ちょうど俺も支度(したく)が終わった。


「エスコート、お願いしますね」

「残念なことに、俺は王子様じゃないんだ」

「私にとっては同じですよ」

「勘弁してくれ」


 俺はそう言ってフェリアを連れて外に出た。


本当はフェリアとのデートシーンを書く予定でしたが、それは章終わりに回します。

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