とりあえず……どうしよう?
戦闘シーンが思いの外長くなってしまった……。
もしかしたら、皆さんの反応に応じて一気にまとめるかもです。
改めて本気の二人を相手にすると面倒だ、ということがわかる。
ヤンバの近接に加えて、ミアンの遠距離攻撃という、単純な組み合わせの問題だけでない。
常に迫るヤンバを倒すために、魔法を放とうとすれば、ミアンが割り込み俺の魔法で魔法陣を構成する。
ミアンを狙おうにも、ヤンバが常に死角を狙っていて集中できない。
ヤンバも一見考えなしに向かってくるようで、ミアンの動きを気にしながら動いてくる。
それに合わせて、ミアンも状況に適した魔法を選んでくる。
うっとしいったらありゃしない。
「あぁ、クソ!」
「当たらない……!」
それでも、こっちの攻撃は着実に蓄積されているし、それなりに余裕もある。
このままいけば、確かに俺が勝てるだろう。
……だが。
「決め手にかけるっていうか、なんというか」
このままでは、試合決着にあとどれくらいかかることやら。
そろそろ試合を終わらせたいのだ。
俺のバカ達が飽き始めているのが見てわかるし、なんていっても俺自身がもう疲れた。
「あぁ、もったいねっ」
「あぁん?」
特別なことはない限り使うことのない、奥の手とでもいえるこの方法でしか、この試合を終わらせる方法はないようだ。
「【置換】」
手に持っている槍を弓へと変える。
そして、そのままヤンバの連撃を躱しつつも、一本一本を丁寧に確実に空へと撃ち放つ。
「なにしてんだ、テメェ!?」
「カウントダウンだ」
空へと撃ちあげられた矢は、空中で止まり白く光り輝く。
それも、ただ光っているのではない。
空中で漂う矢から出る光は、魔力を孕み、矢と矢を光の線で結びつける。
「まさか!」
さすがはミアン。気づいたようだ。
俺は空中で魔法陣を完成させようとしているのだ。
矢の向き、高さ、そして位置。
そのすべてが、一本残らず正しい配置を為して、はじめて作り上げられる正真正銘の大技。
曲芸とも呼べるこれだが、得てして、曲芸とは一〇〇パーセントでなくとも、決してゼロではない技だ。
ゼロでないなら、俺は確実にできなければならない。
規格外の奴らを仲間にしているんだ。
この程度の規格。アイツらの足下にも及ばない。
「させるかよぉ!」
黙って矢を撃つだけならこの魔法陣は簡単に作れる。
だが、戦闘中に作るとなれば難易度は格段に上がる。
それを相手もわかっているからこそ、ヤンバは俺の弓へと攻撃する。
弓が使い物にならなくなればこの技は不発に終わる。
弓でなくても、一本でも矢を弾かれてしまえうだけで、俺の必殺はただの時間の無駄となる。
「だが、そういう動きこそ狙いやすくなる」
それを狙って、今までよりも単調になった動きを捌くのはそれほどでない。
弓を囮に、懐へと逆に潜り込み無壁を放つ。
そうしてヤンバを吹き飛ばしてから、落ち着いて矢を撃てばいい。
もちろん、その間もミアンからも決して目を離さない。
使う矢は全部で二十本。
今でちょうど十本を撃ち終えた。
「あと半分」
「クソ……がッ」
ミアンの【魔力操作】は他人の魔力を使う力。
その応用として魔法陣を構成するわけだが。
逆に言えば、俺が魔法を撃たなければミアンは通常どおり詠唱して魔法陣を構成しなければならない。
ヤンバの魔力を使うという手も最初はしていたが、今はそれをできない。
短期決戦ならそれも悪くないが、思いの外時間がかかるのであればヤンバの魔力を減らすだけ。
「これで……十五本目だ」
ヤンバをあしらいつつ、四分の三の矢を撃ち終える。
「……危険だからあまりやりたくはなかったのだけれど。仕方ないわね」
「は?」
何か物騒なこと言ってはしないだろうか。
そう思ってミアンを見ると、無詠唱にもかかわらず自身の魔力で魔法陣を構成していた。
無詠唱で魔法陣を構成することができるとかありえない。
ケイラがすることを普通の人ができるわけがないのだ。
「線が折れ曲がってるじゃねぇか」
案の定、きれいな直線、曲線なんて一本もなかった。もともとがどんな魔法陣だったのかすらわからないほどに。
だが、彼女の顔に焦り、不安の表情は一切ない。
「何をする気だ?」
あんな魔法陣。結果を見るまでもない。
「暴発して終わるだけ……おいまさか!」
「正解よ!」
嘘だろ!?
ミアンはその暴発するだけの魔法陣を手に握り、遠くにちり紙を捨てるかのように投げる。
どう考えてもこれは魔法陣をアレのように扱っているとしか思えない。
「手榴弾じゃねぇんだぞ!?」
「気を付けることね。私も何が起こるかわからないから」
「余計タチ悪ぃ!」
何が起こるかわからない爆発に正面から対処なんてできるわけがない。
とにかく爆発範囲から逃れるために大きく跳び上がる。
「おう! 待ってたぜ!」
「やっべ……」
跳び上がったときにはもう、そこにはヤンバがいた。
俺があらかじめこうすることがわかっていたかのように。
いや、実際。ヤンバはわかっていたのだろう。
「ここまでやっていればテメェの癖もわかってくる! テメェは自分に危険があるとき、とっさに空中を選ぶ!」
「あぁ、そうだよ。正解だ!」
懐の【障壁】のスクロールに手を伸ばす。
だが、そのとき下から何かが光った。
「はぁ!? レーザー!?」
「あの野郎!」
どう考えても上に撃ち上げようとしたものじゃない。
たまたま上方向に放たれただけで、下手すればヤンバ、それどころか自分を撃ち抜く可能性だってあった。
その賭けという勝負があったからこそ、俺はこの上なく危険な状態にあるわけだが。
【障壁】のスクロールを上のヤンバに使えば、下からのレーザーに撃ち抜かれる。
かといって、下の攻撃を防ごうとすれば上からヤンバに。
「取った!」
「終わりよ」
「くっ……!」
トーカの時のように、横にスクロールを貼るか?
ダメだ。最小の動きでは、ヤンバを躱しきれない。
大きな一歩がどうしてもほしい!
「イチかバチか、だな!」
スクロールの端を持つことで取り出すと同時に紙を開くと、そのまま足の裏に貼り付ける。
一歩間違えばスクロールに皺ができ、魔法が発動しない可能性がある。
そうなれば被害は大きい。
しかし、相手が賭けに出るなら、こちらだって賭けに出ないと結果的にそうなってしまう。
賭け、とは言うが、確率がないよりマシだろう。
「よしっ!」
スクロールを奇跡的に貼れたことで、下からのレーザーを防ぐと同時に足場ができた。
これでヤンバにも対応できる。
「【置換】」
「おせぇ!」
「がッ……!?」
俺とヤンバには間合いがあった。
だからこそ長めの槍で軽くいなして、と思っていたのだが、俺の右腕の付け根に痛みが起きた。
「俺だってバカじゃねぇんだよ……」
「お前も槍かよ……」
ヤンバの腕からは紫色の武器が伸びていた。
俺の持つ槍よりも長い槍だ。
「やられたな……」
あわよくば傷一つなく……と思っていたのだが。
こういうところが俺の甘いところであり、俺が凡才である所以だ。
いや、凡才では嫌味に思われるだろうな。なら、百歩譲って秀才と言った方がいいのか。
「つっ……」
勢いよく地面に叩きつけられると、下には魔法陣が光っていた。
「マジかよ」
俺がこうなることを予測して、ミアンが自身のレーザーを用いて設置していたのだろう。
下にスクロールを貼るのもミスだった、というわけか。
「がは……っ!」
わざわざただの爆発ではなく、空気を爆発させる魔法陣。
熱にそれなりに耐性のある人にとっては、空気圧による衝撃の方がダメージが大きい。
しかも、打ち上げられてまた上空。
「二度刺し!」
トドメと言わんばかりに、ヤンバが追い討ちの槍を心臓へと突き出す。
……いや、マジで殺す気じゃねえか。
「リオン!」
うっせぇ。わかってんだよ、バカ野郎。
こっちだってお前らの称号をただ授かっているわけじゃない。
失敗はあっても、無敗という記録にそれなりに責任を持ってんだ。
……だから。
「今、終わらせる」
「あぁん!?」
ヤンバの槍を素手で防ごうと心臓の前に手のひらを突き出す。
「何してんだ!?」
今の状態から回避は不可能。受け流すタイミングも過ぎた。
なら、残る方法は一つ。
自らの手を犠牲に、わずかでも軌道をズラすことはできれば俺は死なない。
「ぐっ……!」
自分の手から、ブチブチと肉の音がすると同時に、腕ごと振り回す。
槍は手のひらから脇腹を貫いた。
死ぬほど痛いが、この痛みが生きてる証となる。
「うぉぉぉぉ!」
間合いが近くなったヤンバの顔を左から右へと蹴りを入れる。
ブヂブヂィィ!
手と脇が酷い音を上げる。
だが、その程度だ。
「【置換】!」
弓を手にして空を見る。
残り五本。丁寧に確実に撃つ時間はもうない。
これで終わらせる。
手の痛みを忘れるために、空だけを見て、矢を大きく引く。
下からの攻撃だろうが魔法だろうが、その前に空の魔法陣を完成させれば俺の勝ちだ。
「終わりだ、クソッタレ共!」
最後の五本を連射する。
その全ての矢が、俺の理想の位置に収まり魔法陣を光り輝かせる。
「超上級魔法」
ケイラが作り上げたオリジナルの魔法。
「氷河を収束させた隕石」
魔法陣から出てきたのは、巨大な石の塊。
シュリの時魔法を用いて、過去の隕石を呼び起こす正に災厄の魔法。
これはミアンの【魔力操作】でもどうにもならない。
なぜならこれは、魔力の塊ではなく過去に存在しただけのただの物質だから。
だから、可能性があるとすれば……。
「ちょっとアンタ!? 何するつもり!?」
「うっせぇ、黙ってろ!」
ヤンバの周りの紫の魔力が濃く全身を覆う。
その身一つでこの隕石を止める。そういうことだろう。
「ぉぉぉぉおおおおおおおおお!!」
雄叫びとともに巨大な隕石を両手で受け止めようとするヤンバをミアンは身をかがめて見つめるしかない。
だが、それでもヤンバの身体は限界とばかりに血を吹き出し、少しずつ地面へと押しつぶされそうである。
「悪いな」
「なっ……がッ!?」
個人的にはもう少し見ていたいが、時間も押している。これで決着とさせてもらう。
「その身体は大地となりて重力を加せ。重力付加」
これは本来、人だけを対象にした魔法だが裏技がある。
隕石の上にまたがり、この隕石も俺の一部とすればいいのだ。
結果、この隕石はさらに質量を増し、ヤンバのちっぽけな抵抗はないものと同然。
「「ああああぁぁぁぁ……」」
二人の声も虚しくズシンという重い音で、試合は終わったのだった。
……ふぅ。
小さく息を吐いた俺は、まず最初にシュリを見て聞いた。
「二人に防御魔法張ってたよね?」
「……え?」
……………………………………え?
……………………………………え!?
第二章たぶん、今までもこれからの中でも一番長くなる章になるかも……。
最近「幽焼け(略名)」というVチューバーにハマってます。彼のレビューはかなり面白いので、興味のある方は見てみてはいかがでしょうか。