とりあえず俺に冒険をさせてみない?
俺が本当にバカで悲しいことに幼馴染であるクソ女に武器を投げたかどうかはさておいて。
俺の腰にあるのは一振の剣のみ。
だが、俺の武器はこれだけにあらず。
「最初に言っておく。俺の武器の数を見誤るなよ」
「はっ! 相変わらず余裕をかましやがって」
「そんなわけじゃねぇよ」
さっきまで俺を侮っていたんだ。今度は侮るな、ってだけのこと。
また同じ結果だとつまんねぇじゃん。
「いちいち挑発に乗らないで。単細胞なの?」
「あぁん!? んなわけねぇだろ!」
「ならシャキッとすることね。ここから反撃するんだから」
「わぁってるよ。うっせぇな」
いちいち憎まれ口を叩き合わないといけない性分なのだろうか。
ちょっと鬱陶しいな。
……と、思ってしまった自分を殴りたい。
こんなヤツらよりもっと鬱陶しいバカ共を相手にしている俺が言えることではないよな。
そんなことを考えている間に、ヤンバに動きがあった。
「いくぜ、【筋肉武装】!」
「……あん?」
なんだそのふざけた魔法は、と言いかけたところで変化が起きた。
ヤンバの身体の周りに、霧というべきか煙というべきか、紫色の何かが浮かび上がったのだ。
それはヤンバの全身を保護するように、また、強さを誇示するかのように彼にまとわりついている。
「身体強化系の魔法といったところか」
魔法はその人の個性と言ってもいい。
イグスやテッドの魔法が【凝縮】と【速度調整】であるように、その人の雰囲気や性格に表した魔法が発現する。
ヤンバのこれまでの性格から考えるに、身体強化系の魔法であることは想像に難くない。
「ただの身体強化と一緒にするんじゃねえよ!」
「はやっ!?」
俺へと一直線に飛び出してきたヤンバの速度は先程までとは比にならない。
二倍、いや三倍くらいだろうか。
「くっ!」
だが、防御に間に合わないほどではない。
左手を鞘に置き、右手を柄に手を伸ばすと、腰を低くしてヤンバをじっくりと観察する。
身体強化系の魔法を使う相手に、防御の姿勢を取ったところで、力負けして押されてしまえば先手を取られる。
俺とヤンバの単純な力の差は歴然。
なら、防御と攻撃を同時に行うしかない。
「抜刀術とはカッケェなおい!」
「そりゃどうも!」
正確に言えば刀ではないので、さながら抜剣術と言った方が正しいかもしれない。
居合術でも間違いではない気もするが。
「……?」
しかし、ヤンバの奴。なんのつもりだ?
避ける気配が一切ない。
指先を伸ばしたその腕を、まるで振り下ろすかのような構え。
このままでは、ヤンバの腕ごと切ってしまうが大丈夫だろうか?
……心配するまでもないか。
チラリとシュリに目配せしたあと、ヤンバと俺の距離があと二歩というタイミングで、大きな一歩を踏んだ。
「「……!」」
お互いの目が交差すると同時に、振り上げた剣と振り下ろした腕が交差した。
ギイィィィィン!!
「嘘だろ!?」
「ヘッ」
交差したと思っていたが、俺の剣がヤンバの腕を切断してはいなかった。
切り傷どころか、まるで鉄のように刃を通さない。
「オラァ!」
「……! いや、甘ぇよ!」
「ぐほっ!?」
驚いている俺をチャンスと思ったのか。
もう片方の腕を振り下ろしてきたが、さらにもう一歩詰め寄り、ヤンバの隣へと移動する。
その際、防がれた剣を縦に回転させ、柄頭を勢いよくヤンバの腹へと突く。
「……うぉい。マジか」
手応えはあるが、思っていた以上の手応えがない。
くい込みが足りていない。
「チィッ!」
ヤンバが舌打ちをしながら腕を大きく振り回し、それに合わせて大きく俺も距離を取る。
舌打ちしたいのはこっちも同じだっての。
なんだ、あの硬さは。
身体強化にしては硬すぎる。
「そっちばかりに気を取られていていいのかしら?」
「わかってるっての」
……いや、すいません。本当は忘れてました。
別に存在自体を忘れてたわけじゃないんだ。ホントホント。
ミアンの詠唱を聞いていなかった、と内心焦りながらミアンへと顔を向けると、彼女はもう魔法陣を握っている。
……んん?
握ってる? 魔法陣を?
「へっ?」
おかしい。
どこをどう見ても魔法陣を握っているようにしか見えない。
「へぇ。面白いじゃない」
ふと、そんなケイラの声が聞こえた。
いや、全然面白くないんだけど?
マズイ予感しかしない。
「あなたにプレゼントよ」
「よくわからんがいらねぇよ!」
おそらくだが、ミアンは魔法陣を一つの実体ある物体として扱うことができるのだろう。
丸まった魔法陣を読み解くなんて、ケイラでないかぎり無理だ。
ミアンがどんな魔法陣を描いたのかなんて、俺にはわからない。
「炎じゃありませんように!」
どんな魔法が飛び出してくるのか分からないのであれば、やることは一つしかない。
懐にある【障壁】のスクロールに手を伸ばす。
何を隠そうトーカが作成したスクロールだ。
いろいろ心配ではあるが、そこは信じるしかない。
お願いします、どうか神様!
「そんな紙で何を?」
「防御だっての!」
空中にスクロールを貼り付けると、見えない壁が俺を守ってくれる……はず。
ミアンが投げた魔法陣はその手前で爆発し、雷の槍を形成する。
ズドッ、ザザザザッ。
槍は空中で何かに刺さり、電気を放出した。
よかった! ホント、マジで!
「ありがとう!」
「誰に言ってんのよ!」
「二人にだ!」
それにしても、この二人揃ってなかなかに厄介な魔法を持っていやがる。
よくわからんが予想以上に硬い身体強化と、魔法陣を実体として捉える力。
こりゃ、最悪負けるぞ。
「こらー! リオン! いつまで手を抜いてるの!」
「人聞き悪いこと言うんじゃねえ! 抜いてねぇわ! ぶっ殺すぞ!」
「幼馴染の私がそう言ってるんだからそうなのよ!」
「どんな理屈だ! 黙って見てろ、ゴミカス!」
「ひどいっ!」
ひどくねぇわ!
あぁ、クソ。
なんで敵以外のところから攻撃されなきゃいけないんだ。
すると、敵さん方がなにやら俺を冷めた目で見ているではないか。
「私達が言える義理ではないとは思うけど……」
「テメェら同じパーティだよな?」
「……おぅ」
「もっと仲間は大事にすべきよ?」
「いや、俺達が言える立場じゃねえとは思うけどな。本当に」
「……おぅ」
なんだろう。
回復したばかりなのにもう心が折れそう。
「あぁ、もう。クソッタレ!」
俺にしては珍しく取り乱しているとは思いつつも、ヤンバへと飛び出した。
「真っ向勝負ってか!?」
「んなわけないだろ」
二対一という状況で、なおかつ相手の魔法がわからないというときに、相手の土俵に自ら立つほど俺はばかじゃない。
ヤンバとぶつかる直前で、足の力を思いっきり下へと放った。
ヤンバを大きく飛び越える。
「何やってんだ、テメェ? 魔法でも撃つってか?」
「いいや。【置換】だ」
剣が届くわけないが、魔法陣を構築するわけでもない。
俺には俺だけの固有魔法がある。
それが【置換】。
「弓矢ぁ!? どっから出てきやがった!」
「俺の家からだ」
驚きすぎて隙を隠せていないヤンバに矢を放つ。
さらに驚くなかれ、三本同時発射である。
並の射手なら、三本ともあらぬ方向へといってしまうが、俺はそんなことにはならない。
「きかねぇよ!」
しかし、所詮はそれなりに高いだけの矢。
ヤンバの腕を貫けるほどの威力はない。
腕を大きく振るだけで矢は弾かれる。
だが、腕を顔の前で振らせることに意味があった。
「なっ、いねぇ!?」
「後ろだ」
自ら作り上げた一瞬の死角の間に背中へと回り込む。
そして、俺の手にはもう弓はない。
どれだけ頑丈だろうが、この技には意味が無い。
かつて、世界で活躍する体術家から教わった技。
一、魔力が腕を包むように。
一、身体に撃つのではなく、相手の身体に流れる魔力を捉えよ。
一、できないとは思うな。できたことだけ考えろ。
「無壁」
背中へと突き出された右手は鎧を貫き、そのさらに深いところの魔力そのものへとダメージを伝える。
魔力は生命と近い関係にあるもの。
それが傷を負えば、結果身体も否応なく傷を負う。
本来身体にダメージを与えないこの技は、結果的に身体へのダメージとなる。
「うがっ……!?」
何が起きたか理解できないまま、ヤンバは大きく吹き飛ばされると、声にならない叫びをあげる。
今までに経験したことのない、謎の痛みが彼を襲っているのだ。
「なん。なんだ、この……技は……!?」
「天災を倒すための技だそうだ」
天災を倒すとは。あの人も無謀な挑戦に出たものだ。
だが、まだだ。
「こっちよ!」
「ちっ! またか!」
間違いない。
ミアンは詠唱せずに魔法陣を構築している。
さっきは気づかなかったが、さっきも今も魔法陣は紫色をしている。
あれがミアンの魔法と関係しているということか?
「ちっ!」
今度も魔法陣が丸まっていて何か読めない。
障壁を貼れないわけではないが、貴重なスクロールを何枚も使うわけにもいかない。
「大地よ。我がささやかなる願いを聞きたまえ。せり上がる大地!」
対象は俺の真下の地面。
俺の下の地面が盛り上がり、俺を乗せて壁となる。
「おら! テメェも後ろががら空きだぜ!」
「なんつうジャンプ力だ」
それに、無壁は生命そのものに攻撃する技だぞ?
剣とか弓とかよりも苦しい痛みだし、普通はこんなに早く回復できない。
「おぉらよ!」
大きく開いた右手を避けるため、またしてもヤンバを飛び越えるように高く飛ぶ。
引っ掻くような形をしたままの右手は、大地へと叩きつけられ……ってなんだありゃ!?
その右手はまるで鋭利な刃物のように、壁のような大地を切り裂いた。
「俺の魔法は全身に筋肉を纏う力だ!」
「なるほどな……ってはならねぇよ!」
筋肉を強化するだけならまだしも、筋肉が大地を切り裂くってどういうことだよ!?
バカ言ってんじゃねえよ。どういう理屈をしてやがんだ。
「筋肉に不可能はねぇってことだよ!」
「あるわ、ボケ!」
そこで、切り裂かれた大地がミアンへと降りかかろうとしているのが見えた。
「しまった!」
「敵の心配とは余裕ね」
焦る俺に対し、ミアンは落ちてくる大地に手を伸ばす。
「私に魔法は通じないのよ」
「なっ!?」
彼女を押し潰そうとしていたはずの大地が、ミアンの手に触れると、まるで粘土のように形を変えていく。
そして、気づけばそれは魔法陣となっていた。
「魔力を練る力ってことか!?」
「【魔力操作】よ」
だからさっきから詠唱が聞こえなかったのか。
そもそも唱えていないのだから。
「どいつもこいつも……!」
苛立って思わずそう呟く間に、ミアンの魔法が、ヤンバが次の攻撃のために動き始める。
あぁ、やってみろ。
俺に冒険の味を思い出させてみろ。
誤字脱字報告ありがとうございます。
いつも気をつけてはいるのですが、けっこうありますね。すいません。
それなりに読まれるようになってきたのか、少しずつブクマも増えてきています。
よろしければ評価、感想、意見などもよろしくお願いします。




