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とりあえず簡単な手合せから始めてみない?

もう少し早く投稿できたのですが、後書きに書いた通りです。

(前書きで後書きの話してもねぇ……)

 そこはもう、オープニング会場というよりはアリーナといった方がよかった。


 円状に簡易の観客席が設置されており、きれいに男女に分かれて座っている。


 その様子は、もはや男女分かれているのではなく、男女間で喧嘩をしているようにも見える。


 しかし、今回はそんなことより共通した敵を、誰もが俺を見て、侮辱の言葉を投げつけている。


『ボロ雑巾にしてやんぞ、この野郎!』

『生まれてきたことを後悔しなさい!』

 などなど……。


 なんで、こんなに俺が恨まれなければならないのか。


 それと、生まれてきたことを後悔したくはないが、生まれる場所を後悔したことは何度かある。


 しかし、後悔なんてしたところで過去が変わるわけでもないし、反省したところでも、何か変わるわけでもない。


 俺の場合は、だが。


「クソッタレ……」


 思わずそんな言葉が出た。


 それが失言だったことに気づいたのは、少し遅れてだった。


「あ、なんだと? テメェ?」

「あ……いや」


 その小さな呟きが聞こえてしまったらしい。


 俺の前の、数歩程離れた場所に立っているヤンキーのような男が額にくっきりとした血管が浮かび上がっている。


「俺達がクソッタレ、だと?」

「お前らに言ったわけじゃないんだが……まぁ、ここから誤解を解くのは無理だよな」


 一応訂正しようとしたが、相手は聞く耳を持ちそうにない。諦めることにした。


 ……ふむ、それにしても。


 この様子から見るに、この男が俺が戦う相手で間違いなさそうだ。


 シュナイダーやイグスとは違う筋肉のつき方をしている。


 あの二人の場合は、全身に筋肉の鎧を着るように、横にも縦にも広い体つきをしている。


 それに対しこの男。


 彼らとは違い、細く引き締まった身体をしている。


 無駄のない、しかしきっちりと鍛えられている。


 そして何よりも特徴的なのがその目だ。


 その眼光はまるで獣だ。


 猫科に見られるような金褐色の目。そして、その獲物を逃がさんとする鋭い目付き。


 イグス達を熊とするならば、彼はまるで虎、もしくは獅子だ。


 見ているだけで捕食されるイメージが湧いてくる。


 ……なんちゅう目してんだよ。


 純粋な恐怖によって、俺の肌にピリピリと何かが走る。


 久しぶりの感覚だ。


 思わず腕に力が入って——


「あぁ。やだやだ。これだから野蛮な男は嫌いなのよ」


 そんな俺達を冷めた表情で蔑んだのは、男からまた少し離れた位置から、腕を組んで立っている女性だった。


 男と同じように好戦的な目をしているが、その目には軽蔑という理性がある。


 だが、それよりも。……なんだろう。


 この女とは初めて会うはずなのに、どこかで見たような顔の気もしてくる。


「どうして姉さんはこんな種族と……」


 なるほど、そうか。


 ため息混じりの言葉によって気づいた。


 この人はシアンの妹だな。


 聖母のようなシアンとは違って、彼女はさながら女王といった雰囲気を持つ。


 似てる顔でも、ここまで雰囲気が違うとはまた珍しい。


「なに、人の顔をジロジロと……。気持ち悪い」

「あぁん? んだと、ゴラァ?」


 俺に対して放った言葉に、俺ではなく隣の男が反応した。


 どちらもどうにも好戦的な性格をしてるからか。


「テメェらみたいなクソ女が偉そうにしてんじゃねぇぞ?」

「黙りなさい野蛮人。近づきたくもない」


 おいおい。島民同士で喧嘩なんて……。


 男女が分かれて暮らしているってだけで、こんなにも男女間の仲が悪くなるもんなのか?


 シアンやシュナイダーを見る限り、何も無いと感じていたのだが、そうではなかったらしい。


 お互いの陣営に同調するように、周りの観客達もお互いを罵倒し始めるし。


 どうなってんだよ、この島の人達は……。


 シアンとシュナイダーにチラリと視線を向けると、二人は申し訳なさそうな顔だけを俺に見せる。


 謝られても、何が何だかわからんのだが。


「……はぁ。それで?」


 今すぐ俺とではなく、お互いと戦う勢いの二人に、俺は呆れたように尋ねる。


 できるかぎり、俺に戦意が向くように。挑発するように。


「必要ないとは思うが一応名前を名乗っておくか。俺はリオン。二対一って聞いたんだけど合ってるか?」

「はん! テメェごとき、俺一人で余裕だ。この女の出る幕じゃねぇよ」

「私が出なくても、この男で充分ってことよ」

「なんだよ、ただの腰抜けかよ」

「動物並の思考しかない野生児にはそう見えるかもね」

「あぁん?」

「……ふん」


 コイツら、めんどくせぇ……。


 わざわざ俺に敵意を向けるようにしてやったのに。


 どんだけ仲悪いんだよ。


 おまけに、名前も教えてくれねぇし。


 というか、いい加減始めてもらえないだろうか。


「そこの野蛮人」

「なっ……!? テメェまで! 俺はヤンバだっつうの!」


 いや、思ってた以上に野蛮と似た名前してんじゃねぇか。


 ……おかげで覚えやすいな。


「なによ、やっぱり野蛮じゃない」

「そこの腰抜けは?」

「……私を腰抜けとは。いい度胸してるじゃない」

「違うのか?」

「違うわよ! 私はミアンよ!」

「なるほど。ヤンバとミアンね」

「……チッ」

「……やられたわ」


 名前を引き出されたことに気づくとは、思ったよりも二人は冷静のようだ。


 とりあえず勝ち一個ってことだな。


 さて、これで二人の名前もわかったことだし、もう始めていいだろう?


 俺が準備完了と言わんばかりに、数回軽く飛ぶと、二人の目付きがさらに鋭くなる。


 戦闘態勢に入ったな?


 なんだかんだ、ヤンバとだけ先に戦うのかと思ったが、ミアンも何が起きてもいいように準備だけはしているようだ。


 まずはヤンバ。彼がやられたらすぐにミアンが……ってところか。


「……は」


 二人には聞こえないように、小さく笑ってやった。


「こっちも久しぶりに本気を出すんだ。ガッカリさせないでくれよ?」


 二人が俺に怪訝な表情を見せると同時に、俺は先手必勝とばかりに飛び出した。


「な……!」

「速い!?」


 虚をつかれている間に、二人との距離を縮める。


 その距離、あと三歩。


「チッ!」


 ようやく動き始めたヤンバだが、それでは後手。


 ビシッと突き出すような左拳は大したものだが、不十分な体勢による正拳突きで俺を捉えることはできない。


 右半身を引くだけで、ヤンバの拳は空を切る。


 それと同時に、俺も左の腕をヤンバの右耳に叩きつけるように勢いよく振る。


「ガッ……!?」


 大した威力ではない。が、カウンターをくらったという事実があれば、それだけで人は精神的に追い詰められる。


 それに加えて、耳には神経が集まっている。


 急に聞こえなくなるわけではないが、しばらくの間、じわりとした痛みが残るだろう。


 これは集中力の低下を狙ったものだ。


「やるじゃねぇか」

「そりゃ、どうも」


 俺の腰にぶら下がった剣はまだ抜かない。


 そもそも俺は剣士であって、剣士ではないのだから。


「オールラウンダーを舐めるなよ」


 そう言って、今度は低い体勢から相手の懐に潜るような動きにシフトチェンジ。


「なんだ、コイツ!?」


 驚きながらもヤンバはそのさらに下から、蹴りによって俺の顎を狙う。


『ウォォォォォォッ!!』


 男衆が、顎を蹴りあげられ、飛び上がった俺を見て、よくやったと歓声をあげる。


 が、一人だけ。


「コイツっ……!?」


 ヤンバだけはその手応えのなさに、驚愕をあらわにする。


 その通り。今の蹴りは俺に届いていない。


 振り上げる足と同じ速度で俺が飛び上がって、蹴られたように見せただけ。


 俺はそこからヤンバの蹴りあげた右足の付け根に、右の(かかと)を引っ掛けるように乗せる。


 そうした踵を軸に、さらに外側から左足を振り抜く。


「い……っ!」


 右耳への軽い衝撃。


 しかし、ヤンバはそれだけでバランスを崩して地面へと倒れ、俺は流れるようにしっかりと足で着地する。


 自分たちが選抜したリーダーが這いつくばり、調子に乗ったガキと思っていた相手が悠々と立っている。


 その事実に島の男達が息を飲んでいる様子が、手に取るように伝わってくる。


「思った以上に俺は強いだろ?」

「……へっ。おもしれぇじゃん」


 挑発のつもりで言ったつもりが、怒って冷静を失うどころか、ヤンバはむしろ静かに笑った。


 戦闘狂かよ。思わずそう言いそうになるのをぐっと堪える。


「認めてやるよ。お前の力」

「そりゃどうも」

「だが、こっからはそうはいかねぇぞ」

「かもな。が、俺だって——ッ!?」


 これからってときにまた邪魔しやがって!


 急に横に飛んだ俺をヤンバは不審に思ったようだが、そんなヤンバを気にせず俺は視線を後ろに向けた。


 そこには狙いを定めたかのように、手のひらを伸ばしているミアンがいる。


「後ろから魔法を撃ってくるとは思わなかった」

「勝負に不意打ちはないわよ。あるのは勝手な油断だけ」

「間違いない」

「あ? ……なっ。あぁん!?」


 ようやくそこでヤンバは先程まで俺が立っていた地面に、炎の槍が刺さっていることに気づいたようだ。


「テメェは手を出さねぇんじゃねえのかよ!?」

「あなたの負けよ。なら次は私でいいじゃない」

「あぁ!?  まだ負けてねぇだろうがよ!」

「どのみち時間をかけすぎよ。私ならもっと早く倒せるわ」

「はん! どうだかな!」


 選手交代、かね。


 不貞腐れるようにドサリと地面に座ったヤンバに代わって、自信に満ち溢れた顔のミアンが俺の前に立つ。


「あなたの近接戦は確かに強いかもしれないけど、要は近づかせなければいいだけの話でしょ」

「……そうだな」


 もう何を言っても仕方ない、か。


「火の魔素よ、我の呼び掛けに応えよ」


 俺が手のひらをミアンに向けて唱えると、彼女は露骨に不機嫌な表情を見せた。


「アンタね……!」


 それは、魔法の使い手に真っ向勝負しようということに対しての苛立ちなのか。


 はたまた、こんな低級の魔法で倒そうとしていることだろうか。


 ……いや、両方だろうな。


「空気に混ざりし灼熱よ。冷気を排除し、我が手に収まり、かの者に向かって放出せよ!」


 お互いに詠唱が終えると、互いの魔法陣が相対する。


 俺の魔法陣は手のひらより少し大きい程度のもので、ミアンの魔法陣は身体全体を覆い隠してしまう程の大きな魔法陣。


火の弾丸(ファイヤーバレット)

灼熱獄円(インフェルノサークル)!」


 初心者でも使える低級の魔法と上級の魔法。


 威力は言わずもがな。天と地ほどの差がある。


 しかし、だからといって低級が上級に劣るというわけではない。


 低級の魔法ほど射出が速い。つまり、先手を取れるわけだ。……相手がケイラでない限り。


 それに加え。


「よっ、と!」


 俺はミアンの魔法が発射される直前で大きく横に飛んだ。


 自身の魔力で魔法陣を形成したあと、そこからさらに魔力を魔法陣に注入することで、魔法は魔法陣の正面に射出される。


 射出された魔法を変化させることもできないわけではないが、上級になるほど変化させるために大量の魔力を消費する。


 しかし、上級魔法ともなると魔法自体が速かったり、範囲が広かったりと、躱すのは容易ではない。


 まとめると、上級魔法は低級魔法より発動が遅く、機動性にも欠けるが、それを補うほどの威力と攻撃範囲を持っているということ。


「ふん! 舐めないで!」

「舐めてはないさ」


 が、それでも避けようとしてくる相手は目の前にいる。


 俺もそうだが、アイツらだってそう。


 ま、アイツらの場合、避けるまでもなさそうなんだが。


 そうなると、魔法を発射する前に魔法陣の向きを変えなければいけなくなる。


 俺が放った火の玉は俺の意思によってミアンを追尾するので、ミアンは常に自身に向かってくる火の玉を意識しながら魔法陣の照準を合わせないといけない。


「うっとしいわね!」

「だろうな」

「うっさい!」


 俺の魔法はただ追尾してるわけじゃない。


 常に死角に飛び込むように移動させているので、ミアンとしては、常に死角に入れないようにしないといけない。


 たかが火の玉、初級魔法とはいえ、くらったらそれなりにダメージはある。


 痛みは集中力を散乱させる。


 その痛みで一瞬でも魔法陣を型作る魔力を途切れさせれば、魔法陣は暴発してしまう。


「当たれば自分の魔法で自滅。逃げ続けようとすれば、そのぶん魔力の消費が激しい。……なかなか辛いだろ?」

「くっ……」


 こうしてみれば、初級魔法の方が強いと思われるかもしれないが、こんな戦法そんなうまくはいかない。


 こうしてミアンを追い詰めている俺だって、ミアンの照準にひっかからないように立ち回らないといけないし、魔法も操作しないといけない。


 自分で言うのもなんだが、簡単なことではない。


 そしてそれは、きっとミアンもわかっている。


 わかっているからこそ、俺がそれなりにやる男だってわかってきたところだろう。


「さて、チェックメイトだ」

「……はっ!?  あっ!」


 火の玉から目を離したその一瞬の隙を見逃さず、火の玉を完全な死角へと潜り込ませる。


 まるで消えたかと思えるような錯覚すらも覚える火の玉はミアンの背中を捉えた。


「あ……っつ! しまっ!」


 正面から倒れるその直前で魔法陣が不気味に光る。


 バンッという、爆弾のような音と共に倒れかけていたミアンの身体が後ろへ弾き飛んだ。


 そのまま地面を半回転して、最後はうつ伏せとなった。


「……お、おーい?」


 や、やりすぎてしまったかもしれない。


 さすがに死んではないとは思うけど……大丈夫だよね?


 心配になってきた俺だが、ミアンの身体がぴくりと動いた。


「や、るじゃない」


 よかった。無事ではなさそうだけど、それなりに無事みたいだ。


「武道だけじゃなく魔法も使えるってことはよぉくわかったぜ」


 いつの間にかヤンバがミアンの隣に立っていた。


「……なによ。笑いにでも来た?」

「へっ。そんな減らず口を叩く余裕があるとはな。よかったぜ」

「な、なによ! ア、アンタに心配される筋合いなんてないわよ!」

「そうかいそうかい」

「……」


 ……え、なに? なんか変な空気に一瞬ならなかった?


 気のせいだよね? うん、気のせいだ。


「どうやら俺もアンタもあの男を舐めすぎてたみたいだ」

「悔しいけどね」

「そこでだ。ここいらでちょっと共闘といこうや」


 まぁ、俺は最初から二対一のつもりだったんだけどな。


 勝手にそっちが一対一にしてきただけで。


 ん、まぁ。それもどうでもいいか。


「ようやく楽しめそうだな」

「ッ! へぇ……!」

「さっきまでとは違うってわけね」


 当たり前だ。


 さっきまではそっちのやり方に合わせてきたが、今度はそうもいかないだろ。


 二対一。ましてや、武道と魔法のタッグだ。


 攻撃の幅だって広がるし、なによりこの二人もまだ本気じゃなかった。


 それくらいはわかる。


 なら、俺だってここからは本当の全力でいかせてもらう。


「申し訳ないが普段戦えないぶん、ここで晴らさせてもらうぞ」


 というわけで、俺は武器を——


「あれ待って!?  リオンはいつも私たちと一緒に戦ってるよね!?」


 ——バカ馴染みに思いっきり投げつけてやろうかと本気で思った。



本当はヤンバ戦で終わろうかと思っていたのですが、ミアン戦も入れたので遅くなってしまいました……。ごめんなさい。

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