とりあえずなんでそんな話になっているのか確認しない?
女性陣と合流して、ようやく冷静になることができた俺は、片隅で一人天井を見上げていた。
ちなみに、他の奴らはというと、急遽決まった全員でのオープニングの段取りを確認している、といったところだ。
今の俺では話し合いもままならないだろう、ということで、俺はこうして肩身狭いところにいるのだ。
それに、俺はもう奴らに合わす顔がない。
「やった……。やっちまったよ」
真っ白な灰と化した俺がそう呟いた。
「……終わった」
何が、というわけでもないけど、なんかいろいろ終わった気がする。
今までのこととか、これからのこととか、もうどうでもよくなってきた。
……あぁ、これは危険だ。
こんな思考に陥ったままでは本当に危険だ。
「大丈夫ですか、リオン様?」
そんなときだった。
オープニングの段取りを抜けて様子を見に来たフェリアが俺に声をかけた。
「あ〜…。悪い。本当に」
申し訳なさそうに、途切れ途切れの言葉で謝罪した。
普段からアイツらのことで、謝ってばかりの俺だが、いざ自分のことになるとなかなかうまく謝れないのが嫌になる。
「大丈夫ですよ」
しかし、そんな嫌だと思う俺を払拭するかのように、彼女は優しく微笑みを返した。
だが、そんな簡単に割り切れるものでもないわけで。
「そうは言ってもな。俺のせいで——「どちらにせよ、結果は変わりませんでしたから」——はい?」
変わらない、とは?
「こちらでも少し問題が起きていたんですよ」
「も、問題……」
なんだろう。その言葉だけでとてつもなく不安な気分になってきた。
俺が悪いとか、そういう話ではなく。
それどころか、俺はこんなことで凹んでいる場合でなく、もっとしっかりしないといけないと思えるような。
とにかくこの先を聞いてはいけないという直感が働いている!
「ま、まさかとは思うのだが?」
「あっていると思いますよ? リオン様の予想通り、セラフィ様とケイラ様が問題を起こしてしまいました」
あの二人か……。
バカ馴染みはまだしも、ケイラまで。
問題を起こした俺が言うのもあれだが、なんでそんなポンポンと問題を起こせるんだよ。
「で、何をアイツらはやらかしたわけ?」
「簡単に言えば、島のほとんどの男性に喧嘩を……」
「お、おい? どうした?」
何かを言いかけて、途中で止まったフェリアは、一瞬だけ考える素振りを見せてから、改めて俺を見た。
「あの場合はどちらかといえば喧嘩を買った、という表現の方が正しいでしょうか」
「喧嘩を買った? 売ったの間違いだろ」
「いえ。喧嘩を買ったと言った方がいいでしょう」
頑なに買ったことを主張したいフェリアに詳しい話を聞こうとしたところで、騒がしいパーティ全員が帰ってきた。
どうやら全ての段取りをちゃんと覚えてきたらしい。
イグスやテッドが「今度は大丈夫」と言っているが本当に大丈夫だろうか。
何よりもバカ馴染み。
「お前、今度は大丈夫なんだろうな?」
「私はもともと段取りわかってたからね!? イグスやテッドと一緒にしないでよね!」
「悪い意味で一緒にしたことは無いから安心しろ」
「悪い意味って何!?」
「うるせ、うるせ」
このやりとりで俺の調子が戻ったことに安心したのだろう、どこか皆が安心したような顔を見せていた。
相当壊れた俺がやばかったのだろう。
だったら少しは自分達の改善を図ることだ。
今回の一件で、俺にどれだけの負担をかけているかわかっただろう。
「それで? 喧嘩がどうしたって?」
「あぁ、それね」
フェリアに尋ねたつもりなのだが、それに反応したのはケイラだった。
「私達がステージに上がると、それなりに盛り上がったところまではよかったのよ」
「いきなりなんだ。自慢から始まるのかよ」
どいつもこいつも顔だけはいいからな。
「でも、それと同時に誰かが叫んだのよ」
ケイラがトーカに視線を送ると、トーカはどこからそんな声が出てくるのかと思うほど、低い声を出した。
おそらく、その叫んだ男の声と一致しているのだろう。
「おいおい? 最強の冒険者達が来ると聞いたんだが、男はまだしも女がこんなにも多いとか。最弱の間違いじゃねえのか?」
……誰だよ。バカみたいな挑発したやつは。
そんな挑発だとバカが反応しちまうだろうが。
「だから言ってやったのよ」
「……なんて?」
「魔法の基礎もわからないあなた達みたいなバカに言い訳するのもバカらしいわ」
「リオンだったら瞬殺だよ?」
おい、待て。何故そこで俺の名前を出した?
しかも、いかにも俺が最強みたいな言い方で。
バカなの? 死ぬの? バカなの?
「で、そこからはもはや暴動みたいなものでしたね」
「そりゃそうなるだろ……」
そこで、俺が壊れたという情報が入り、こうなったらオープニングから男女一緒にやろう、という話になったわけか。
「なんでこうも……」
問題を起こすかなぁ……、と思わず言いかけたところで止めた。
今の俺が言えることじゃない。
「事情はわかった。とにかく今はこの非常事態を何とかするのが優先か」
「それなんだけど」
ケイラが言った。
「リオンに悪いと思ったのだけど」
……は?
「男女の代表と戦ってくれない?」
「……は?」
なんで?
俺がシアンとシュナイダーと戦う?
「ああ、そうじゃないの。シアンとシュナイダーを抜きして、男女の代表と戦って貰えないかしら?」
いや、どっちにしても意味がわからんのだけど?
なんで俺が戦わなきゃいけないの?
こんなことを言うのもなんだけど、俺、病み上がりみたいなもんだよ?
なんで回復と同時に戦う流れになってんの?
というか、そもそもなんで戦う流れになってんの?
思い当たる節があるとすれば……。
「……お前だな」
「ん?」
「いや、というかお前しかいない」
「え?」
ゴミ馴染みをゴミのような目で見ているのにもかかわらず、ゴミはまったく気づかず首を傾ける。
「違うのか?」
本人ではなく、周りに確認を取ろうとすると、トーカ以外はスっと目を逸らす。
やっぱりな。だと思った。
「お前、言ったらしいな。俺だったら男達を瞬殺できるとかなんとか」
「うん。ちなみに、さっき女の人達にも」
「……」
問題をさらに大きくしてんじゃねぇかボケェ……。
「どうすんの、これ?」
「え、だからリオンが戦うんだよ?」
なんでそんなこともわからないの?
とでも言いたそうな、そこのクソガキ。
逆に言ってやりたい。
なんで俺を巻き込んだの?
「勝てるでしょ?」
「知るか、そんなの」
「勝てないとは言わないんじゃん」
「勝てるとも言ってねぇから」
自信満々に言い返してきた子どもの一言になら間違いなく勝てるけどな。
「……オープニングの全体の流れは?」
「……どうしよう。それについて私から言わないとダメなのかしら?」
ケイラが厄介そうに呟くが、一応この事態に陥った原因の一人にお前も入っているんだからな。
なんで自分は被害者みたいな態度を取ってんの?
「オープニングの最初にリオンと男女代表とのバトル」
「待て。さすがにないとは思うのだが——」
「二人同時に相手してもらうことになったわ」
「ふざけんな」
「仕方ないでしょ? ただでさえ、時間が押しているのだから」
なら戦わないという選択肢を取れよ、と思ったが、おそらく民衆がそれを拒否したのだろう。
フェリアがその提案を黙って見過ごすわけがない。
それでも悪態をつきたくなってくることには変わりない。
「で、終わったら『これで私達が最強であることを証明できた』と言って、あとはシアン達がなんとかしてくれるわ」
「はい、待った。なんで次々とツッコミポイントを入れてくるの? 本当にバカなの?」
その流れ、どう考えても俺が二人に勝つ、みたいな流れだよな。
勝たないとマズい空気、というかそういう流れになってるよね?
「どうすんだよ、これで俺が負けたら……」
謝罪だけではすまされない。
ホントなんでお前らが戦わないんだよ……。
なんで俺の名前で喧嘩を売ったんだよ。
「……あのぉ」
頭を抱え込む俺を、心配そうな声で呼んだのはちょうど今来たシアンだった。
とても申し訳なさそうに、しかし、少し焦った様子に俺は「出番か」と呟いた。
その呟きに小さく頷くシアン。
シュナイダーがいないことから、アイツは未だに暴動気味の民衆を抑えようとしている、ってところか。
「行きたくねぇ……」
「いい加減覚悟を決めなさいよ」
「覚悟ってお前なぁ……」
「いろいろ悪いとは思ってるわよ。でも、こうなってしまった以上他に手はあるの?」
「ねぇよなぁ……」
ここでまさかのマジレスとか。
俺の心をどれだけへし折りたいんだよ。
「……リオン」
そこで、ようやくトーカが口を開いた。
相変わらず表情に乏しい奴だなぁ、と思いながら顔を向けると、トーカは人差し指を立てた。
「一つだけ——」
うわぁぁぁぁぁぁああああ!!
何かを言いかけたトーカの声にかぶせるように、歓声が轟いた。
いや、歓声ではなく怒号か。
もう限界のようだ。
「腹をくくるか」
「え、あの。リオン?」
トーカが何を言おうとしていたのかはわからないが、安心させるように頭を撫でた。
「アドバイスとかならいらねぇよ。それはフェアじゃない」
トーカの分析力なら、相手がどういう動きをしてくるのか、どういう魔法が得意なのか、とか。
そういうことをすべて分析して、俺にアドバイスを送ることができるだろう。
だが、それではさっきも言ったようにフェアじゃない。
実際の戦争とかならまだしも、今はあくまで祭りのオープニング。
お互いに何も知らない方が、駆け引きもあって面白くなる。
「ま、久しぶりに体を動かさないと鈍ってしまうわけだし、ちょうどいいかもしれないな」
自分にそう言い聞かせるように、自身の体を持ち上げる。
「さ、行きましょうか」
シアンに案内を求めると、彼女は急かすように手の先をステージへと向ける。
そこでまた大きな怒号が飛び交う。
あぁ、行きたくねぇ。
そんなことを最後まで思いながら、俺はステージへと入っていった。




