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とりあえず早く島に入らない?

 島に着いた頃には、俺の身体は船に乗る前よりもクタクタになっていた。


 結局、最後までバカ達の遊びに付き合うことはなかったが、その遊ぶ遊ばないという不毛な議論を繰り返してしまったわけである。


 一人が俺を誘いそれを断る。入れ替わるようにまた一人がやってくる。そして、一周したと思いきや、最初のバカがまた俺を誘いに来る。


 もうちょっと船が着くのが遅れていたら発狂して船から飛び降りていたかもしれない。


「もうちょっと遊びたかったね~」

「ならさ! あとでこの島一緒に探検しに行かない? お宝があるかもしれないよ」


 そんな俺とは裏腹に、セラフィとテッドは未だ遊び足りないらしく、軽い足取りで船を降りていく。


 それよりテッド。お前見つけた宝を何も言わず盗ろうとしてないよな? 大丈夫だよな?


「私達も降りましょ」

「おう」

「ですね!」


 先の二人に続くように各々が船を降り、最後に残ったのは俺と王女、そしてその間を仲介するトーカの三人。


 護衛が護衛対象より先に降りて、ましてや近くにいないとはどういうことか、なんてことはもう言い飽きた。これはもう承知いただきたい。


 やれやれとため息をつく俺をフェリアはクスクスと笑うと。


「私達も行きましょうか、リオン様」


 そう言って、訓練された優雅な振る舞いで船の階段を降りる。


 いつ見ても綺麗で無駄のない、そして多少の不安や恐怖、さらに不気味さを感じさせる動き。


 仕事モードの時のフェリアはどこか危なげさを感じさせる。


 完成された人のようで、だからこそ、ロボットのようにも思える。


 ああなっているときの彼女はとてもつまらなさそうで、俺もそれを見てつまらないと感じてしまう。


「ホント、バカな奴」

「リオン?」


 ぼそっと言ったつもりだったのだが、トーカはそれを聞き逃さない。いや、もしかしたら口の動きだけで聞き取ったのかもしれないが。


「いや、なんでもねぇよ」

「……」


 お前が気にすることじゃない。


 そう言った俺を睨むように見つめるトーカ。そんなに気になるだろうか。


 し、しかしだな。この件に関しては、オレとフェリアだけの話にしようと決まっており、パーティの仲間と言えど、話すわけにはいかない。


 ……っていうか俺がフェリアに殺される。


「ま、まぁ。とにかく行こうぜ」


 トーカに悪いと思いつつも先を促そうと階段を降りようとするが、トーカの足は前に一歩も動かさない。


 ……それよりも。


「どうした?」


 トーカは自分の胸に手を当てて、そしてなぜか首を傾げて俺を見つめていた。


「これは……なに?」

「……いや、わかんねぇけど?」


 これ、について少し考えたがわからなかったのでそう答えた。


 というか、分析モードのトーカがわからないものを俺が知っているとは思えないのだが。


「なんかいや」

「お、おう?」


 何に対してはよくわからんが、とにかく嫌な気持ちにさせたらしい。


「先に行くね」

「……おう」


 結局、俺を抜かすように船を降りて行くトーカを、俺は黙って見つめていた。


 ――リオ~ン! なにやってんの~!


 遠くからバカ馴染みの声が響いてくる。そちらを見てみると、両腕をブンブン振り回して俺を呼んでいる。


 まったく。毎度毎度振り回されっぱなしだ。


「行くか」


 今回も気は乗らないが仕方ないと思いつつ、俺は船を降りていったのだった。


 ☆★☆


 そんなこんなで、何かが始まる前から疲弊しきった俺を出迎えたのは二人の男女だった。


 女性の方は大人びた雰囲気で、なんとも聖母のような母を想起させる。


 男性の方はそれとは真逆に、服の上からも見て取れるほどの引き締まった筋肉をしている。


「フェリア様、そしてゴッドハート様方。長旅お疲れ様でした」


 はじめにそう発したのは、女性の方だった。


 普段から意識しているのではなく、それが彼女の素なのだろうとすぐにわかる、その朗らかな表情はどこかの聖女にも引けを取らない。


 別にこの聖女だって作っているわけではないとわかってはいるのだが。


 ……わかるだろうか。


 辺り一面血の池の中、「やってしまった」と思っていても恐怖の表情では決して立っていない聖女のことを想像できるだろうか。


 裏表がない分、俺はあれをホラーにしか思えない。


 生きたホラーだ。


「全然! むしろ遊び足りないくらいだよ!」

「ねぇねぇ! この島に洞窟ってある?」


 半分は社交辞令の言葉に全力でアホみたいな返しをする二人に、その女性は戸惑いの表情を俺に向けるが、頼むから俺に助けを求めないでほしい。


 俺だってその二人とは特に関わりたくないのだ。


「おっ! お前、いい筋肉してんな! あとで腕相撲しようぜ!」

「きょ、教会はありますか? ご挨拶をと思いまして」

「黙れ筋肉。まだ紹介されてもないのに腕相撲とかわけわからんこというな。シュリは教会に挨拶する前にここで挨拶しろ」


 バカか。バカなのか。バカだったな!


「頼むから休ませてくれよ」


 思わずそう呟いてしまった俺を、二人の出迎え人が驚いた様子で見る。


 言いたいことはなんとなくわかるが、今はとにかくそっとしてほしい。


「あなたも大変ね」

「お前が……もういいや」

「なによ」

「いや、いいって」


 お前が言うな、って言ったらどうせまた面倒くさい返しをされるに決まっている。黙るのが得策。


「ご紹介が遅れましたね。私は島の西を統括する女性代表フル=シアンと申します」

「俺が東の代表ワイズ=シュナイダーだ。三日間よろしく」


 シュナイダーが俺達に握手を求めて手を差し出す。


 ここは主役のフェリア、もしくはリーダーのセラフィが、そう思って待ってみるもどちらもまったく出てこない。


「おい、なにやって……は?」


 二人を見てみると、二人どころか他の全員までもが俺を黙って見ている。


 もはや圧。いかにも俺が悪いといわんばかりの圧。


「セラフィ」

「だって、こういうのはリオンでしょ?」


 いや違いますけど?


「フェリア……王女」

「今回の主役には皆さんも入っておりますよ?」

「いや。いやいやいや」

「早く。リオン!」


 バカに急かされるという末代の恥を背負って、シュナイダーと握手すると同時に自己紹介もしておこう。


「ゴッドハートのリオンだ。平民だから名字はないが、大目に見てほしい」

「はっ。別に誰も気にしねぇよ、そんなの」


 そんなの、とシュナイダーは言うが、そういうことを気にする人もいる。


 代表例を挙げるとすれば、王様になるわけだが、とりわけ貴族が多い。


 フェリアだって、今でこそ俺を様付けで読んでいるが、それは俺にそれなりの恩があるわけであって。それがなければ、きっと俺やセラフィに対して低い評価を付けていただろう。


 といってもこれも結局は仮定の話であって、本当にそうだったかなんて誰にもわからないだろうけど。


「おい。お前らも自己紹介くらいはできるだろ」

「あまりバカにしないでくれる?」


 俺の皮肉交じりの言葉に、ケイラがぶっきらぼうに返した。


 そう言うが、お前らのことだ。


 相手はこっちのこと知ってるでしょ? なら、説明するなんて無意味で時間の無駄よ。


 なんてことを言いそうだ。


「え? あっちはもう――んぐっ!?」


 と、思った矢先にアホが言うから信用できないんだ。


 ケイラにそれを込めて視線を返してやると、ケイラは顔を赤くしてそっぽを向いた。


 はん。怒ったってこれに関してはお前らが悪い。というか、お前らが正しかったことなんて俺の記憶の中にはほとんどないんだが?


「それじゃ、最初は僕から。僕はテッド。名字はないわけじゃないけど、あまり好きじゃないからね。ただのテッドでいいよ」

「何かわけありってことか?」

「まぁね」


 わけあり、ってことをこんなにも軽い調子で返せるのはテッドらしい。


 相手に必要以上に重く感じさせない振る舞いだ。まぁ、当の本人はまったく意識していないんだろうけど。


「わ、私はシュリです。た、大したものではありませんが、聖女としての役割を担っています」

「あら。可憐で清楚な女の子ね」

「そ、そんな! 全然!」

「……」


 可憐はともかく、いやホント、全然清楚ではない。騙されないでください。


 一瞬でも気を許したら、神の教えに従順になるように洗脳されますんで。


「俺はイグス! 力だけは誰にも負けねぇ!」

「確か俺と腕相撲をしたいとか言っていたな! 生憎、俺も筋肉で負けるわけにはいかねぇんだ!」

「なら、男と男の決闘だ!」


 筋肉筋肉。あぁ~筋肉。うぜぇ。


 あっちの東代表さんもイグスと同じ臭いがしてきた。俺を巻き込もうとするのだけは、ぜひともご遠慮いただきたい。


「ケイラよ。一応この島には仕事できているけど、何か新しい魔法を作るきっかけも探しに来ているわ」

「聞いたことあるわ。たしか大陸最高峰の魔法学院に通っていたのよね?」

「……別に。あんな学院、大したことないわよ」


 たしかにケイラはそこに通っていたが中退だ。


 なにやら学院長に喧嘩を売ったやら、事件があったとかで自主退学したっていう話だ。


 この話はケイラも話したくないようなので、俺達も詳しく聞いたことはない。


「次、トーカ」


 ここは空気を変えてもらうためにも、トーカに早く回した方がいい。


「トーカ。リオンに助けてもらった。あと……人造人間?」

「「え……?」」

「よろしく」


 空気よくなるどころか余計に悪くなってんじゃねぇか!


 しまった。そうだった! コイツら絶望的なまでに自己紹介が下手だった!


 そして、この後を継ぐのが一番の問題児。空気がよくなる未来が浮かばねぇ。となれば、やることはただ一つ!


「私はね――んぐ!?」

「コイツはこのパーティのリーダー、セラフィです。コイツにだけは気を付けるよう島の人によく言っておいてください」

「「は、はあ……?」」

「んーー!! んんーー!?」

「よろしく頼みます」


 無理矢理にでもコイツの自己紹介をさらっと流して、フェリアに託す。後は任せたぞ。


 にしても、お前は喋らない方が、世のため人のためになる気がしてくるな。俺のために一度永遠に眠ってくれねぇかな、ホント。


「最後に念のため。コルシア王国第一王女コルシア=スグリ=フェキシリアと申します。今回はお呼びいただきありがとうございます」

「いいえ。こちらこそありがとうございます」

「このイベントは毎年やってはいるが、今年は特に豪華だからな!」


 さすがフェリア。困ったときのフェリア様。


「ま、いろいろお互いに聞きたいことはあるだろうが、そろそろここを離れようぜ。疲れただろ?」

「え、いや全然!」

「すごく疲れているんで、案内お願いします」

「お、おう……」


 いい加減俺を休ませてくれ。


 ここまででどれだけの時間がかかっていると思ってやがる。


 自己紹介だけでこんなにかかるなんて普通はありえねぇんだよ。


「それでは、島を案内しますね」


 セラフィとテッドがいろいろ文句を言ってくるが、もう無視だ無視。


 俺は休みたい一心でシアンとシュナイダーの後ろについて行ったのだった。


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