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とりあえず俺を休ませてくれない?

『やっ――――――――ほおおぉぉぉぉ!!』


 昔から聞き飽きたやかましい声が広大な海原に響き渡る。


『やっほぉぉぉぉぉぉ!』


 その後に続いてテッドの声も聞こえてきやがったし。


 おかげで変に目が覚めちまった。


 アイツらは黙っているということができんのか。


 というかそのかけ声は山で出すものであって、船でするものではないと思うんだが。


「……はぁ」


 連日の疲れもあるのか、身体が重たく感じる。


 何があったのかって?


 別に何もねぇよ。何もなくてもこいつらの面倒を見るだけで俺の疲労は蓄積されるんだよ。


 俺のパーティはいつからブラックな企業へと変わってしまったのか。


「前からか」


 俺の人生はブラックしかない。ブラックチョコでももうちょっと甘いってのに。


「大丈夫ですか?」

「おぉ」


 ベッドから半身を起き上がると、そのすぐ隣で王女様が座っていた。


 さらに足が重みを感じて目を移してみると、そこにはトーカがすやすやと寝ている。


 人造人間でも眠気は人と同じようにあるらしい。特に、最近はスクロールの勉強に忙しいからな。トーカの話を聞く限りシエンの野郎、かなりスパルタ教育らしいし。


 それでもトーカが楽しそうだから見逃しているけどよ。何かあったら許さねぇ。


 そんなことを思っていると。


 バアアァァン!!


 勢いよく開けられた部屋のドアの音に、トーカが目を覚ましてしまったではないか。


「リオン! 一緒に遊ぼぉ!」


 さっきまで船先でテッドと叫んでいたんじゃなかったのかよ。俺を巻き込むな。


「遊ばねぇし。寝させろ」

「え? 今起きてるのに?」

「起きてるから寝させろ、って言ってんだ」

「……?」


 なんでわかんねぇんだよ。わかるだろ、普通。


「つうか、なんで俺が寝ていたかわかってる?」

「船酔いでしょ? まったくもう。リオンは昔から船が苦手だよねぇ。私達の島から出たときからそうだったけど。いい加減に慣れないと」

「だが悲しいことに俺は現に今酔っているんだ。寝させろ」

「酔ったら遊ばないともっと具合悪くなるって!」

「逆だバカ」


 俺とお前を一緒にするな。いつも言ってるだろ。


 お前を基準でものを考えたら、俺は日常生活で死ねる。


「まあまあ。でもリオン」


 俺の布団を取り上げようとしているバカ馴染みに本気の蹴りを繰り出していると(ただしビクともしない。……ホント死ねばいいのに)、そんな怪物と一緒に叫んでいたテッドが天井に張りついて(・・・・・・・・)俺の名を呼んだ。


 普通に声をかけられないのかと切に思う。


「酔ったときは空気を吸うといいって聞くよ」

「窓から入ってくる空気で十分だ」

「いやいや、ちゃんとした空気を吸おうよ」


 窓をくぐるとちゃんとしていない空気になるのか。俺の部屋の窓枠には毒でも仕掛けられているのだろうか。そうかそうか。


 この際毒でも何でもいいから俺を寝させてくれはしないだろうか。


 コイツらと言葉を躱すだけで無駄と知っている俺は、布団を無理にでもかけようとする。が、気付けば俺の手に布団はない。


 おいこのゴミ野郎……!


 と、人としての身体も精神もない迷惑馴染みを睨みつけると、そのバカは「え、なんで見つめてくるの?」と言わんばかりに首を傾げている。


 その手に布団はない。というか、コイツ布団の存在忘れてないか?


 なに? お前は自分の記憶の保持もできなくなってんの? バカすぎて。


 このまま俺という存在も忘れて……って、その話は後だな。


「おい」


 さっきまで手に持っていた布団がなくなっていて、それがこのポンコツでもないとすれば犯人はただ一人。


 人のものを盗むのを本業にしているだけある。


「返せ」


 見上げるとテッドが俺の布団をご丁寧に巻いて持っている。


「僕も暇していたんだよ。ちょっとくらい遊んでくれたっていいじゃん」

「毎度毎度言わせてもらうが、お前らはもう少し、いや、かなり時と場を考えろ」


 俺が病人ってちゃんとわかってる?


 病人を無理に働かせるな。ホントお前らブラックだな。


「なんだよ。騒がしいと思ったらリオン。起きたのかよ!」


 また騒がしいやつが増えやがった。


 ってか、この狭い部屋にこんなに集まったら熱いだろうが。帰ってくれよ、マジで。


「とりあえずイグス帰ってくれ」

「大丈夫だって。安心しろ!」

「今の文脈から何を安心すればいいかわからねぇんだが、とりあえず安心できないことだけは察した」

「ん? 謎解きか?」


 この筋肉ダルマとちゃんとコミュニケーションが取れるなんて思ってない。


 こういうときは無視に限る。


「聞いてよ、イグス。リオンが遊んでくれないんだ」


 黙れゴミクズ。


「遊んでやれよ、リオン」


 それに反論する素振りも見せやしねぇ筋肉。今から海に沈めてやろうか。


「……はぁ」


 それよりイグスがこの部屋に入ってから蒸し暑くなったような気がする。


 いや、空気も暑苦しいが実際の温度も……って、おい。


「なんでお前そんな汗だくなんだよ」

「おう。ばっちり筋トレしてたからな!」

「帰れよマジで」


 他人の部屋に汗だくで入るとかバカなの? バカって言うか、マナーだろ。


「……あと二人か」

「なによ。私達がいちゃいけないみたいな言い方ね」

「わ、私がいるから」


 俺の呟きに不満そうに返して入ってきたのがケイラ、申し訳なさそうに入ってきたのがシュリ。


 なんとなく予感していたがこれで全員揃った。揃ってしまった。


「狭いんだよ、この部屋」

「なら外に出ればいいじゃない」

「だから病人だって言ってんだろ」


 自分じゃなくて病人を動かすことがお前らにとって当たり前なのか。


 少しは自分だけじゃなくて相手のことも考えていこうぜこれからは。


「そうは言うけどね。シュリの回復を断ったのはあなたじゃない」


 ケイラの言うとおり、シュリの魔法を使えば酔いを覚ますどころか、そもそも酔わなくてもよかった。


 だが、俺は断った。それはなぜか?


 決まってる。


「どうせ部屋の中でずっと寝たかっただけでしょ」

「それの何が悪い」

「開き直るんじゃないわよ」


 そうは言うけどね?


 誰のおかげで俺がこんなにも休みたいと思っているのか、って話だ。


 頼むから俺を休ませてくれ。


「シュリ、治してやりなさい」

「やめてくれ」

「え、え……? あ、あの……!」


「治しなさい」「やめろ」の板挟みでシュリが困っているが今回ばかりは譲るわけにはいかない。


 俺は休みたい。寝たい。そして帰りたい。


「今、リオンが帰りたいって」

「それはさせませんよ、リオン様」

「トーカ、ここで俺の心を読まないでくれ」

「ごめんなさい」

「うっ……」


 何かある度にトーカの「ごめんなさい」はやめてほしいんだよなぁ。


「あぁ~! リオンがトーカを泣かせたぁ!」

「子どもじゃねぇんだからそういう面倒くさいやつやめろバカ」

「それじゃ私と遊んでくれるんだね!」

「意味わかんねぇから」


 うっ……。


 しまった。体調悪いのに無理したせいでもっと具合悪くなっちまった。


 出航する前に食べた飯をリバースしてしまいそうだ。


「具合が悪そうね。やっぱりシュリに」

「いや、お前らが出て行ってくれれば問題ない」

「断るわ」

「なんでだよ……」


 クソっ。体調悪いときに自分が体調悪いと思ってしまったら最後、さっきよりも増して具合が悪くなってくる。


 しかもここぞとばかりにケイラが腹黒い笑みを浮かべていやがるし。


 他は他でうるせぇし。


「リオン様のパーティはいつも賑やかですね」

「やかましいの間違いだ」


 フェリアが俺にだけ聞こえるようにボソッと呟いて、それに俺も答える。


 人によってはこんな奴らを退屈しない日々と言うかもしれない。だが、退屈な日々を望んでいる俺にとってコイツらは邪魔でしかない。


 というか自分の時間を奪い去っていくバカ共をいったい誰が好むというのだろうか。


「それでも私は楽しいと思います」

「他人ほど残酷なものはないよな」

「そうかもしれませんね」


 俺とフェリアが互いに苦笑していると、ふと周りの音が静かになったことに気付いた。


 周りに目を向けてみると、揃いも揃って俺とフェリアを凝視しているではないか。


「なんだ?」

「具合が悪いって言うわりには元気じゃん」


 と、バカ馴染みがふてくされた顔でそう言い、


「リオンってさ。王女様にだけは優しいよね」


 と、いつの間に地上に降りていたテッドが笑って、


「ま、男ってのはそういうもんだよな!」


 と、イグスがされてほしくもない同情で背中を叩き、


「……やっぱり胸かしらね」


 と、ケイラが軽蔑の眼差しで俺を見下ろし、


「か、回復してもよろしいでしょうか?」


 と、シュリが覚悟を決めたように、どこか空気の読めないことを尋ね、


「ちょっとごめんね」


 と、トーカが無表情でなぜか俺とフェリアの間に強引に入り、


「あら残念です」


 と、最後にフェリアが心の底から楽しそうに笑った。


 なんだか俺だけ置いて行かれているような気分に陥る。


 人間をやめたような奴らと一緒にいると、こういうことが多々ある。


 無力感だ。


 自分の存在意義が薄れていくようなそんな気分に。


「ま、関係ねぇけど」


 だが、それで絶望することはない。


 俺とコイツらが同じだとは思っていないし、そもそも同じ人間なんていないわけだし。


 それはそれで、これはこれ。


 自分にないものを羨ましく思うのは当然のことで、それに対して無力感を覚えるのも当たり前。


 しかし、それに絶望を感じる必要はないわけで。


 なにより。


「リオン! 元気が出たなら遊ぶよ!」

「全力鬼ごっこやらない? 魔法ありのガチ勝負! 僕が鬼でいいからさ」

「面白そうね。さっき開発した魔法を試してみようかしら?」

「魔法でなんとかなるもんなのか?」

「ぎ、擬態の魔法を開発していましたから。も、問題はないかと」

「リオンがやるなら私もやる」

「では、私が審判をしましょう」


 とりあえず誰かがコイツらの面倒を見ないと何をしでかすかわからねぇし。


 仕方ねぇんだよ。まったく。


「……」


 あとなんだかんだで俺を巻き込むのやめてくれない?




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