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とりあえず話を詳しく聞いてみない?

「――で、いったいどういうことなんだ? 説明してくれ」

「もちろんですよ」


 フェリアが突然、俺を男だとなんだと言った意味がわからず、説明を求めると彼女は満足げに頷いた。


 いいように弄ばれている感が否めない。


 アイツらのおかげというのもアレだが、突然の話が飛ぶことには慣れている。


 が、アイツらと異なるのはフェリアの場合それをねらって俺をからかっていることだ。


 というか、話を飛ばされることに慣れているって意味わかんねぇから。


 一人で虚しくツッコんでいると、フェリア王女はクスクスと口もとに手を当てて上品に笑っていた。


 怖いよなぁ、女って。


 最後に笑うか泣けば許されると思われているのかと思うとゾッとする。


 それをわかっていながら許してしまう俺も俺なんだけどさ。


 なんだろうな。この恥ずかしさは。


「振り回されているよなぁ、俺って」

「いいじゃありませんか、彼らの隣に立っていられるだけで。普通の人なら、感動で心臓が止まってしまっちゃうかもしれませんよ?」

「笑えない冗談だ」


 俺の場合、感動ではなくアイツらが引き起こした行動で巻き込まれて死んじまいそうだ。


 早く退屈な日常を取り戻したい。


 え? その退屈な日常を味わったことがあるのかって?


 うるせぇ。それは言うまでもないだろうが。


「また話が逸れちまった。本題を」

「そうですね。では、エキシタリアという島の説明からでしょうか?」

「あぁ、頼む」


 フェリアは自分の机から大きめの紙と一回り小さい紙とを持ってくると、それを大きく広げた。


 大きい方は王国周辺の地図で、小さい方の紙はエキシタリアという島の地図らしい。


「エキシタリアはここから南南西に位置する島で、形としてはこのようになっています」

「横に広い島だな」

「えぇ。そして、先ほども言ったように、少し変わった特徴があります」

「そうらしいな」

「風習、とは少し違うかもしれませんが」


 フェリア王女にしては珍しく曖昧な返し。


 なんとなくこの島独自の文化があるってことは伝わった。


「島は大きく二つに分けることができます」


 二つに分ける?


「島はこのように東西に広がった形をしていますが、その東と西で男性女性が分かれて暮らしています」

「分かれてるってなんで?」

「さぁ? そこまではわかりかねますが、そういう伝統だとか」

「変わった伝統だな」

「その島では男性は主に力仕事を、女性は魔法の仕事を行っています」

「なんだ。その島では男性か女性によって魔力量が違うのか?」

「魔法を普段から使っているので女性の魔力量が高くなっているのは確かですが、生まれたときからそういうわけではありません。そういうデータもありますし」

「それも伝統ってことか」

「こういう情報もきちんと収集するんですね」

「情報って、使うようになってから集めるようじゃ遅いことが多いからな。今、手に入る分だけでも頭に入れとかねぇと」

「なるほど。さすが冒険者というところですね」

「……一応、冒険者の中では常識なんだけどな」


 特に俺達のパーティは情報収集を疎かにする奴らばかりだ。


 最近は、トーカも情報収集を手伝うようになってくれたが、それ以外の奴らは一切集める素振りすら見せねぇし。


 それでも、アイツらはいいかもな。


 情報があってもなくても、盛大に暴れてくるだけなんだから。


 それを尻ぬぐいする俺はどうしても、いらないと思われる情報も集めておかないといけなくなる。


 ホント、あのバカ共は俺に迷惑をかけることがお好きのようだ。


「……死ねばいいのに」

「そういうリオン様も私は好きですよ」

「それはどうも」


 とにかくエキシタリアという島の特徴はわかった。確かに変わった島ではあるな。


「しかし、そんな島にどうしてお前が行くんだ?」

「見世物にされるといえば、聞こえが悪いのでしょうか?」


 なぜ聞こえを悪くする必要があるのか、そこは聞かないでおこう。


 どうせ、くだらない理由に決まってる。


「リオン様の私に対する保護欲をそそろうかと」

「聞かないでやったんだけどな!?」

「反応してくれないリオン様がいけないのですよ?」

「俺が悪いみたいに言わないでくれない?」


 またしてもフェリア王女がクスクスと笑うだけで、空気が彼女の色に染められる。


 こんなにも自分だけの空気を作り出すことに長けた人は彼女だけだろう。


「で、理由は?」

「それは、エキシタリアに行く理由ですか? それとも、保護欲をそそらせようとした理由ですか?」

「……」


 さすがに鬱陶しい、と聴覚ではなく視覚を通して伝える。


 話が進みすぎるのも問題だが、やはり、話が進まないのはもっと問題だ。


 フェリア王女もそれを日頃の業務で知っているのだろう、姿勢を正す。


 だが、フェリア王女の気持ちもわかる。


 日頃、疲れているから。


 自分も同じような目にあっているから。それを俺に対して行って疲れを取ろうと、そう錯覚しようとしているのだろう。


 まったく……。王女と言えど、結局は歳場もいかない女の子だ。


 だから。


「仕事の話が終わったら、適当に付き合ってやるから」

「あら、付き合ってくれるのですか?」

「……なんか今の言い方は違う気がしたが」


 先ほどまでとは変わらない会話のようで、お互いに本題を再開する空気を作り上げた。


「先ほども言ったように、島は男女によって分かれて生活してます。しかし、完全に分断されてしまえば、島の人々は子孫を作ることができなくなります」

「だろうな」

「そこで、互いを行き来する限られた時間が設けられています。しかし、それが機能を果たしているかと聞かれればそういうわけでもありません」

「……?」

「その限られた時間で、島の人々は貿易を行います」


 ……あ、そういうことか。


 その限られた時間の中は、本当であれば男女同士が出会うための時間でなければいけない。


 だが、実際はその時間は貿易を行う時間に使われている。いや、正確に言うなら、男女の関係を結ぶほどの時間がない、というわけか。


 それでも何人かはうまくいっているのかもしれないが、人口が減少していることには変わりない。


「面倒くさい話だな」

「彼らからすれば、私達の方が面倒くさいと思われているかもしれませんよ」


 話はだいたいわかった。


 しかし、そこでどうして王女が出てくるのだろう。


 まさか島の制度そのものを変えるべきだ、と論説するわけではないはずだ。


「年に一度、大きなイベントが開かれます。その日はお互いの領土を自由に行き来することができます」

「年に一度だけ、ねぇ」

「イベント自体は年に何回かありますが、その中でも今回のものが最も大きいのです」

「それで?」

「島の外部から人を呼び、その人達によって異性に興味を持たせる。これがこのイベントの最大の目的です」

「その外部の人に選ばれたのが、お前だったわけだと」

「はい」

「しかし、それだと男性が女性に興味を持つことになり――」


 ――女性が男性に興味を持つことにならないのではないか?


 そう続けようとしたところで。


「そういうわけで、リオン様の出番のわけです」

「待て。なぜそこで俺が出てくる」

「今年の男性の例をリオン様に任せようということですよ?」

「お前さっき俺をボディガードにするって言ってなかったか?」

「リオン様であれば両方こなしてくれます」

「いや『ます』じゃねえから。せめて『くれるでしょう』にしろよ」

「どちらでも可能であることには変わりないですよ」

「違う。可能か推量か、だ」


 どうして毎度毎度俺ならやってくれるという、根拠のない責任を俺に押しつけてくるのか。


 何度でも思う。いい加減にしてくれ。


「まぁいい。クエストの内容はボディガード兼、見世物になれ。こういうことでいいんだよな?」

「はい」


 ついには俺達を見世物にするまできたか。


「滞在期間はどれ位に?」

「三日ほどでしょうか」

「思ったよりも長くいるんだな」

「滅多にいけませんからね。観光ですよ」

「王女といえど、観光を楽しみたいってことか」

「王女だからこそですよ。日々の疲れをどこかで発散しなければ死んでしまいます」

「そうか」


 王女という立場もあって、日々忙しいことも確かだろう。


 俺がもしこの国の王子であったら、俺はもう国から逃げ出したくなっているかもしれない。


 それくらい大変だと、これまでのフェリア王女の言動からでも伝わってくる。


「それで、なんですけども……」

「……?」


 突然、フェリア王女の目が泳いだ。


 なんだ?


 いつも俺をからかってくる彼女が、こうしてソワソワして、緊張した顔つきを見せるのは珍しい。


 何度か口をパクパクさせたあと、覚悟を決めたようにキッと俺を見つめると。


「どこかで私と――」


 キィッ。


「ん?」


 フェリア王女がいざ何かを発しようとしたそのとき、部屋のドアが音を鳴らした。


 首だけを動かして見てみると、そこには。


「あ、いた」

「トーカ?」


 検査を終えてきたのであろうトーカが、いつも通りの表情で立っていた。


 相変わらず何を考えているのか読みづらい。


「帰ろ?」

「ん、あぁ。そうなんだけど」


 フェリア王女へと顔を向け直す。


 先ほど何かを俺に言いたそうにしていたはずだ。


 しかし。


「私は大丈夫ですよ」

「だが――」

「それに……」


 フェリア王女がトーカを真っ直ぐ見つめる。


「……なに?」

「いえ、何でもありませんよ」


 トーカが首を傾げると、フェリア王女は俺をからかうときのように少し笑ってそう返した。


「よくわからないけどリオン。帰ろ?」

「あ、あぁ」


 結局フェリア王女が最後になんと言おうとしたのかわからないまま。


 トーカに袖を引っ張られ、それでも挨拶だけはしておこうとフェリア王女を見ると、彼女はいつものように笑顔で手を振る。


 だけど、最後に一つだけ。


「トーカ様」


 名前を呼ばれてもう一度トーカが振り返ると、彼女は付け足すようにこう言った。


「ついたばかりの火は、すぐに消えはしません」

「……?」

「けれど、薪を与えなければいつしか消える。それはあなたの意志によらず」

「何が、言いたいの?」

「さぁ何でしょう?」


 言いたいことは満足したように、ドレスの裾を掴んでお辞儀する。


 それは誰よりも洗練されたお辞儀。


 見る者に不快を一切与えないであろう、見事なまでに上品な別れの挨拶。


 でも。


「……行こう、リオン」


 果たしてトーカ自身は気付いていただろうか。


 一瞬だけ、僅かに、だが確かに。


 トーカはその挨拶に顔を顰めていたことを。


 そして俺は。


 そのことに気付いていながら、その先にあるものに気付いていないことに。


 俺は気付きながら部屋を後にした。



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