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とりあえず王女と話してみない?

 無事討伐クエストを終えた俺は、ある人物を待っていた。


 今、俺がいる部屋はなんというかこう……華やかさで満たされたような部屋。


「壁が眩しい……」


 黄金色に輝く壁は、凡人の俺にとってどうも眩しすぎて場違い感を与えられる。


 空気に嫌われている、とでも言えばいいのか。


「お待たせしました、リオン様」


 そんな一人で重苦しい空気を作り上げていた俺の名を呼んで部屋に入ってきたのは、いと(うつく)し少女。……使い方これであってる?


「どうされました? 私のドレスに何かついていますか?」


 そう言って、自分のドレスを気にするように見せかけて、俺の目をドレスに向けさせる。


 相変わらず策士だ、と呆れるように息をつくと、彼女はクスクスと笑った。


 その笑い方はどこか上品で、しかしどこかに幼さがある。


「こんにちは、リオン様」

「よう、フェリア王女」

「……やっぱりおかしなリオン様」

「なんでだよ?」

「私をまるでそこらの人達と同じように見ていますので」

「同じ友人に立場なんてあるのか?」

「いえ、ないですね」

「ならいいだろ」


 改めて挨拶を交わした俺達は、俺が立ち上がる前にフェリアが俺の隣の椅子に当然のように座った。


 どうして向かい側の椅子に座らなかったのか。


「互いに向かい合うような形は敵対を意味するのですよ」


 そんな俺の考えを敏感に察したフェリアがそう言った。


「それは知っているが、隣の席というのは」

「親しい間柄を意味しますね。例えば恋人とか」


 俺の言葉に被せるようにフェリアが笑う。


 ……別にいいけどさ。人の話は最後まで聞けって教わらなかったの?


「ならなぜ……」

「どこでも変わりませんよ。椅子の位置くらいでは」


 いやいや。そういう理屈ならさ。


「対面でもいいじゃん」

「隣に座る必要もありませんが、対面する意味もありません。どちらでもいいということならば、後から来た私が決めることができます」


 ギリギリ暴論でないのが微妙に腹立つ。


「……まさかと思うがわざと遅れたわけではないよな?」

「さぁ、どうでしょう?」


 相変わらず読めない口調と表情だ。


 王族として鍛え抜かれたものなのか、はたまた生まれつき、遺伝のようなものなのか。どちらにせよ、フェリアとの対話はどうも慣れそうにない。


 だからといって、苦手というわけでもないからもどかしい。


 話したいのか話したくないのか、自分でもよくわからなくなることがある。


 こんなことを言うと、嫌なやつだと思われるかもしれないが、決してフェリアを嫌っているわけではない、ということだけはしっかり今言っておく。



 しかし、フェリアの思うような話に進めたくもないので。


「お前のそういうところ、嫌いじゃないが苦手だ」

「では好きということですか?」


 なんで苦手を強調したのにスルーできるんだよ。


 ここまで何事もなかったかのような顔をできるのは間違いなくお前だけだ。


「まあ、そうなるかもな」

「では、好きと言ってください」

「それは絶対意味が違う」


 目が冗談のようじゃないんだが。まぁ、それは触れずに。


「そういえば、リオン様」

「ん?」


 部屋に通されたときに出された飲み物に口を付けると同時に、フェリアが思い出したように手を叩いた。


 まさかとは思うけど、今飲んだ飲み物の料金を取るとかじゃないよな?


 そんな世知辛い王族じゃないって俺は信じてる。


「心配せずともそれはただですよ」

「だ、だよな」


 貯金は有り余るほどにあるから別に大丈夫なんだけどさ。


 ほら。俺はただの毛の生えた一般人だから? やっぱり無駄使いは避けるべきだと思うんだよ、うん。


 いや、一般人がお金を使っちゃいけないって言うことでもなくて。


「お願いを聞いてくださいませんか?」

「お願い?」


 誰に向けたものでもなく一人説いていた俺に、フェリアは「ダメですか?」と念を押すように尋ねる。


 ダメも何も……。


「お前には貸しがあるからな。断りたくても断れない」

「それは別にいいと言っていますのに……」

「それを貸しかどうかと判断するのはお前じゃなくて俺だ。そういうものだと割り切ってくれ」

「リオン様は変なところで頑固ですよね」

「別に俺じゃなくてもそうだとは思うけどな」


 だいたい、こうやってフェリアと話せていられるのだってフェリアのおかげだしな。


 俺は今、人質(・・)としてこの部屋にいる。


 現在、先日パーティに加入したトーカが「カウンセリング」という名の「情報提供」を行っている。


 その情報に嘘はないか、またこの国にとって不利益なことを企んでいないか、など。王国側が裏付けを取る場でもある。


 もしトーカが王国を裏切るようであれば、人質の俺を手にかける、という契約だ。


 ……とは言うが、トーカは間違いなく裏切らないだろう、と俺達や目の前のフェリアは思っているわけだけど。


 だから、俺としては国の王女と話す機会が増えたというメリットしかない。


 王女にここまでされて貸しと思わないやつなんているのだろうか?


 ……ヤバい。いたな、そういうやつ。俺の周りに五人ほど。


「それで、お願いっていうのは?」


 本題に入る。


 俺にお願いがあるとかないとか。


「えぇ、そうなんです。実はですね」


 そう言って立ち上がったフェリアは、自分の机の引き出しの中から一枚の紙切れを取りだした。


 何度も見たことがある紙だ。


「なんだ、クエストか?」

「はい、そうなんです」


 別に引き受けるのは構わないんだが。


「お前にクエストをお願いされると裏があるようで怖い」

「お褒めにあずかり光栄でございます」

「なに? 気に入ってんの? そのフレーズ」


 改めて目の前に出されたクエストの紙を軽く読む。


 ほう、日にち固定のクエストとは珍しいものを。


 こういうクエストはその日冒険者の予定がなければ引き受けることができる。


 さらに、依頼者側も必ず依頼を受けた冒険者に確認するのがマナーとなっている。


「この日はお暇でしょうか?」

「俺達は基本的に暇だよ」


 俺達に依頼してくるクエストなんて碌でもないことばかりだ。


 国が滅びるだの、最凶の犯罪集団が動き出した、だの。世界の危機を救ってくれ、などという曖昧すぎるクエストもあったくらいだ。


 しかし、そういうクエストが毎日入ってくるわけでもなく。


 かといって、俺達が他の普通のクエストを受けようものなら冒険者ギルドから「すいません、冒険者方の仕事がなくなります。迷惑です」となぜか注意を受ける始末。


 俺達は冒険者じゃないのか。まぁ、冒険者と呼べる奴らではないことは認める。


 まぁ、そういうことだから基本的に俺達は暇しているわけだ。


「それで、クエスト内容はというと?」

「島に向かうまでとその島での護衛です」


 詳細を読む前にフェリアがそう言った。


 それでも念のためにと俺は読んだが、内容は特に変わらないようだ。


 問題があると言えば、その島の名前だ。


「エキシタリア……初めて聞く名だ」

「あら、そうなんですか?」

「有名なのか?」

「有名というわけでは。けれど、変わった島ではありますので」

「へぇ」


 これでも冒険者だから、いろいろな場所には行っている。


 おかしな島なんてこれまで何度も見てきたわけだしな。


 感心することはあっても、驚くことはないだろうな、と勝手に思う。


「わかった。さっきも言ったがお前には貸しがある」

「ありがとうございます。ですが……」

「……?」


 フェリアの続く言葉に俺は眉を寄せる。


 なんだ? 勝手にクエストを引き受けていいのか、とでも言いたいのだろうか。


 それならば問題ない。


 俺達のパーティリーダーはセラフィになってはいるが、実際引き受けるかどうかは俺がいつも決めている。


 あまり言いたくはないが、こういうときアイツらが俺を頼ってくれるのは助かる。


 じゃないと、アイツら無計画にクエストを受けようとするからな。


 日にち固定クエストをトリプルブッキングとか。実際に前にやられたことがある。


 たしかそれから俺がクエストを受けるかどうかを決めるようになったはず。


 まぁ、そんなことはどうでもいい。とにかくだ。


「俺が引き受けると言ったなら大丈夫だ。安心して――」




「リオン様もやっぱり殿方ですね」

「――待て。何の話をしている?」




 どうしてこのバカは、俺を置いて話を進めようとする?



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