とりあえず諦めた方がよくない?
今回は6話連続投稿です。
すいません……これから忙しくなるので投稿がかなり遅くなります。
しかし、期間が空いてもブクマが少し増えているのは励みになります!
これからもよろしくお願いしますm(_ _)m
――今日も世界は平和だ。
そんなことを考えながら、青年は空を見上げる。
濁りのない透明な青を映す空は、彼に不快を少しも感じさせない。
日頃の疲れもどこかに吹き飛ばされてしまいそうだ、と錯覚するほどに気持ちのいい風が彼の肌をなでる。
「ぅん……っ!」
そんな気持ちのいい、のどかな空気を深く味わうように青年は、背中をしならせた。まるで、彼の手にある弓のように。
「……ふぅ」
これで何度目かわからない淀みのない真っさらな吐息をつく。
ずっとこのままが続けばいいのに……。
そんなことを思いながら、彼はゆっくりと首を左右に揺らして鳴らす。
だけど次の瞬間には。
「……はぁ」
忘れたはずの重みをドスッと背中に乗せられて、青年の背中は丸まった。
そうして視線を雲から地平線へと移す。
そこで見る光景に、彼はもう一度大きな息を吐く。
「……」
そこでは――。
「やっほぉぉぉぉぉぉ!!」
「ほぉらよっと!」
「どんどん速度を上げるからね?」
剣と目を輝かせる美少女。
大きな体よりもさらに大きな武器を持つ大男。
軽快なステップで音速の短剣を振りかざす少年。
この三人が今回の討伐対象らに笑顔を見せながらそれぞれの武器を振るっている光景が、そこにはあった。
彼らに相対するのは黒の軍勢。
具体的に言えば、黒炎狼三万、瞑鬼王八千、デュラハン千五百、ソウルリッパー五百。
総勢四万。
討伐ランクBである黒炎狼を除けば、ランクAと判断されている正真正銘の化物達。
黒炎狼のその数と魔物とは思えない統率力は下手すればそこらのランクAの魔物すらも軽く凌駕すると言われている。
瞑鬼王は冒険者の中でも凄腕の者達が十人がかりでようやく倒せるほどの力を持つ。
デュラハンは人間の形をしていながら人間を越える身体能力を持ち、かつ知性もある。
ソウルリッパーに関しては、一体だけに一つの国を滅ぼされた、なんていう過去の記録もある。
そんな彼らがこうして群れとなって出現しただけで大事件。
もしこのことを知っている者がいれば、その人物は世界の終わりを覚悟するだろう。
それほどまでに、今回の群れは規格外。異常すぎる。
だが、この程度で今回のクエストは終わらない。
「……へぁ?」
ふと陰がさし、青年が今度はもう一度空を見上げた。
すると、さっきまではあんなにも澄んでいた空が、ほんの数秒の間に黒い物体で覆われているではないか。
それはもはや闇と呼んでもいい。
すべての光を討ち滅ぼさんとする完全なる闇と。
その闇は青年の上を通り越し、その遙か向こうの光まで噛みつくそうとしている。
「……」
それなのに、彼の表情は変わらない。
解雇を通告された直後の人のように、その迫り来る闇をまるで蟻の行列のように退屈そうに眺めては「はぁ……」と諦めたように息をつく。
違う意味で世界の終わりを投げているような、そんな感じ。
ひゅんっ!
一筋の光が闇を貫いた。
それと同時に、地上から四人の少女が空に降り立った……いや、飛び立ったと言うべきか。
「……はぁ?」
その内の一人の少女に、青年は思わず眉を寄せて声が出た。
それもそのはず。
「空中も面白そう!」
と、元気よく言ったあの少女。さっきまで他の二人と地上で剣を振るっていたはずではなかったか?
「どうしてお前がいるんだよ……」
彼も頭痛を訴えるように顔に手を当ててそう嘆いた。
今回もか。今回もお前は言うことを聞かないのか、と。
「別にいいけどさ」
……ちなみに、闇を貫いたさきほどの光はただの光では当然ない。
あの光は魔法だ。
あらゆる属性を越えた、とある少女だけが使える絶対無二の魔法。
「……リオンには指一本触れさせない」
と、このように青年の名を呼んだ少女の魔法。
その魔法の威力も強さも青年は身をもって知っている。体験している。
「セラフィ、地上は大丈夫なの?」
「わ、私は地上のサポートの方がいいのでしょうか?」
そして、あとから発言した二人の少女らもまた、迫り来る闇を気にかけるわけもなく、たんたんと会話を始める。
どうなっているんだ、とはもう叫ぶ気もない。
ただ。
「バッカじゃねぇの」
そう青年は呟いた。誰にも聞こえないとわかっていながら。
先ほどまで気持ちいいと感じていた風は、彼の声までは吹き飛ばしてくれない。
しかし、なぜだろうか。
青年の声を彼らのもとへ飛ばしてくれなくても、彼らの声は青年の耳まで届いてくる。
実際の音は聞こえない。けど、何を話しているのかくらい彼は手に取るようにわかる。
理解していながら。
どうせくだらない話でもしているのだろう、とつまらない感想を吐き出した。
実際、そうではあるのだけど。
「ったく……」
彼は空ではしゃぐ仲間達を無視して、闇の中へと目を向ける。
闇と思っていたものは闇ではなく、ただの魔物の群れだ。
「ただの」なんて言ってしまったが、実際のところ、その中身もただの魔物じゃない。地上の魔物と同じだ。
何千、何万という魔物達がいる中で、その一体一体が尋常じゃなく強い。
「やっぱり規模がデカい」
地上だけで世界が終わっていたというのなら、今の状態をなんと表現すればよいのだろう。
世界の次となれば、次元の終わりとでも呼べばいいのだろうか。
「けどまぁ」
それでも青年は表情を崩さない。
何事もなかったかのように地上と空中を見比べる。
相変わらずおかしな女が空中と地上の行ったり来たり繰り返しているが、目を輝かせて魔物を討伐していく彼女に何を言っても止まらないことは彼が一番知っている。
「結局の所、この事態はたしかに異常現象で、これまでの記録でも見たことがない規格外の出来事だ」
地上では少年が神速の剣を振るい、次々と血の花が咲き乱れる。
空中では複数の魔方陣を展開させた少女が闇を撃ち払っている。
「だがそれがどうした? どんなに異常な現象が起きようとも、結局敵はいつもと変わらないただの魔物。他よりちょっとばかり強い魔物ってだけだ」
大男が大剣をブンブンと振り回すだけで、その二倍近く大きいはずの瞑鬼王が吹き飛ばされていく。
聖女の声に呼応するように、周りが光を放ち一度撃ち終えたはずの魔法が再び姿を現わし闇をなぎ払っていく。
「どこにでもいる魔物じゃ、俺には勝ててもアイツらには勝てねぇよ。どんなに集まって規格外を起こそうとも、規格外そのものには勝てない」
顔をピクリとも動かさない少女が手をかざすだけで数多の球体から光が飛び出し、的確に魔物の心臓を撃ち抜く。まるで魔物達がどう動くのかわかっているかのように。
……バカがバカで、バカをやっている。バカらしく。
「いや、一人は本当のバカだな」
そんな感じで規格外の、しかし、結局はただの怪物達の一方的な殲滅作業が行われていく。
青年は静かにそれを見届ける。
魔物の勇敢な勇姿をその目に収めるからではない。
ましてや、仲間達の強さに感動し、仲間達が無事に帰ってくることを信じているからでもない。
彼が黙ってその光景を眺める理由はただ一つ。
「っ……」
青年の弓を持つ手に力が入って震える。
自分はここでいったい何をしているのだろうか、と。
何のために自分がここにいるのかと、自分に尋ねてみるものの答えは返ってこない。
わかってる。こんなことをしていたって無駄だってことも。何もかも。
「ふぅ……」
せめてもの悪あがきとして、もう片方の手で背中の矢を掴み、弓を引く。
ねらいを空にいる魔物へと定め、また大きく弓を引く。
だが、結局そこで。
「……はぁ。無理だな」
彼は諦めて弓を置いた。
どんなにもがいたところで、何かが変わるはずがないのだ。
彼がどんなに想いを矢に乗せたところで、彼らのもとには届かない。
どんなに頑張っても彼の声は届かないのだから。それもまたどんなに頑張っても届かない。
だから諦めるしかないのだ。
諦めなければなんとかなる、と希望に満ちあふれている人々に聞きたい。
この状況を変えるために必要なものは何だ。
努力でも奇跡でも何でもいいから。
「射程範囲外だっての……」
射程距離を変える方法はないものか。
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