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とりあえず幕間挟んだ方がよくない?

「……はぁ」


 フェリア王女との密会(?)を終えた俺が家に帰ると、見るからに今からパーティを始めようとする五人の姿がそこにあった。


 何やってんの、コイツらは?


 なんとなく今から何をやろうとしているかは察しが付く。


 というか、誰がどう見てもそうとしか思えない雰囲気。


「ケーキ! これ絶対必要! あとチョコは私がもらうからね!」

「イグス、そこの飾り少し下がってるわよ」

「おっと、マジだ。ほほいっと直してやんぜ!」

「お、お飲み物はこちらで大丈夫でしょうか?」

「誰がご飯を作る? 話によるとトーカの作るご飯はすごい美味しいって話だったけど?」


 問題は、どうしてそんな空気を今作っているのか。


 奥の方に目を向けると、呆然とただ黙って立っているトーカと目が合った。


「……リオン」

「あっ、リオン! 遅かったじゃん!」


 トーカが気付き、その声に他の五人が一斉に俺に振り向いた。


 思わず眉間に皺が寄りそうになるのをグッと堪える。


 怒るな、俺。俺は今疲れているんだ。


 自分にそう言い聞かせて、もう一度ため息をついて首を上げた。


「……何をしている?」


 そう尋ねた俺に、バカ馴染みは首を傾げてこう言う。


「トーカの歓迎会! ……の準備!」

「だろうな」


 そういうことを聞いたわけじゃないんだが。まぁ、このバカならそう答えるだろうな。


 にしてもトーカの歓迎会と言って、トーカに料理を作らせようとしていたのかコイツらは。


 ……まぁ、いいや。コイツらにそんなことを言っても無駄なのはわかってる。


 それよりも言うべきことがある。


「……今、何時かわかってるか?」

「えっ?」

「えっ、じゃなくて」


 バカ共が揃って首を傾げて上に取り付けられた時計を見る。


 そして。


「「「「「二時」」」」」


 それが何か? と言わんばかりにまた首を傾げて俺を見る。


 ……腹立つわぁ。


「もう夜だ。さらに言えば、深夜だ」

「そんなのわかってるわよ」


 ケイラが手に持った飾りを付けながら俺にそう言う。


 まずはその飾りを置け、と言いたいところだが、他の奴らも勝手に自分達の作業を始めやがるし。


 普段は俺の言うことを聞くくせにこういうときだけ……って、普段もそんなに聞いてねぇじゃん、コイツらは。


 どうしてコイツらはすり減った体力をさらにゴリゴリ削ってくるのか。


 ……もうやだ。早く寝たい。早急に。


「深夜に騒ぐなよ。近所迷惑だろ」

「近所迷惑?」

「そうだ」

「近所迷惑って……でも、リオン」


 アホ馴染みと同様に、仲間達も互いの顔を見合わせては肩をすくめる。


 コイツらの態度に殺気が沸いてきたぞ?


「ここ、私達しかいないよ?」

「……」


 そうなんだよ。


 ここは俺達の家であり、俺達の領土と言ってもいい。


 カス馴染み達が言いたいこともわかる。


 確かに。確かにだ。


 この家の敷地はありえないほど広い。


 どのくらい広いのかというと、ここら辺が一つの街と思われてもおかしくないくらいには広い。


 実際、何人か間違って入ってきてしまったこともあるくらいには広い。


 だがそれも仕方ない。


 今、俺達がいるのは自分達の寝室もある本館。


 しかしその他に。


 バカ馴染みの訓練場。


 イグスの鍛冶場。


 シュリの礼拝堂。


 ケイラの魔法図書館。


 テッドの手作りダンジョン。


 その他、各々の別館。等々。


 俺だって、今でこそ慣れたが、最初の頃自分の家で迷子になって、この本館に帰れなくなることが多々あった。


 どうして家にまで規格外を持ち込んでくるのか。


 どうして家でゆったりできる場所がないのか。


「近所に人なんていないんだからさ。騒いでも大丈夫じゃん」

「……俺は今から寝たいんだが?」


 近所に人はいる。というより、この本館で今から寝ようとしているやつがいる。


 テメェらに騒がれたら俺が寝れねぇだろ。


「なんでさ! リオンがいないと始まんないよ!?」

「だから始めるなって言ってんだ、ボケ」

「や~だ! いや~だ!」

「うるせぇよ……」


 こっちは疲れてんだよ、お前らのせいで。いい加減休ませろ。


 別にトーカの歓迎会は後日でいいだろうが。


「そんなに疲れるようなクエストじゃなかったじゃん」

「俺は死にかけたってこと忘れてねぇよな?」

「でも生きてるじゃん?」

「生きてるから疲れているんだ」

「わかった! ならシュリの回復魔法で疲れも取ってあげればいいんだね! それなら大丈夫!」

「……何が?」


 相変わらずコイツの思考はわからない。わかりたくもない。今後も。


 だからコイツは壁を破壊するわけだし。


 どうして潜入なのにあんなにもバレるような潜入をしなくちゃいけないのか。


 あれは潜入じゃなくてただの特攻だ。


「……あ」


 今、思い出した。ちょうどよかった。


「……お前らに見せたいものがある」

「え、なになに?」


 面白いもの? と、でも言いたそうにクズ馴染みが寄ってくるが、そんなわけがない。


 お前らには一つ言っておくことがある。


「これは……なんだ?」


 俺がそう言って懐から取りだしたのは四枚の紙だった。


 バカ、ケイラ、イグス、シュリの四人の似顔絵が描かれた四枚の紙。


 もう気付いてくれただろう。


 そう、あれだ。


 現に、ケイラがいち早く俺から目を逸らしてくれたしな。


 はっはっは。……おいおい、逃がすわけねぇだろ。


「これは……なんだ?」


 もう一度、今度は突き出すように見せる。


「……?」


 それでもこのバカは気付かないので、仕方なく指を差した。


 あの紙の下に書き殴られた大きな文字を。


 それは奇遇にもバカ馴染みの字とまったく一緒。ってか、アイツの字だ。


「もう一人いる……だぁ?」


 さすがにもう皆気付いたらしい。


 イグスとシュリも俺から目を逸らした。だから逃がさねぇって。


「え、どういうこと?」

「……」


 ブチブチッ!!


 その言葉をそのままそっくり返してやりたい。


「……もう一人って誰のことだ?」

「え、リオン」


 堂々と答えるな。殺されてぇのか。あぁん?


「俺達は何をしにオメルガに行ったんだ?」

「潜入調査!」

「その潜入調査中に仲間の存在を敵に教えるテメェら全員バカか?」

「で、でもリオン! リオンはこのパーティにいないって言われたんだよ!? 悔しくないの!?」

「悔しいよりも、お前が幼馴染であることに恥ずかしさを覚えたな」

「あっはっは!」


 そこで、テッドが面白おかしそうに笑ったが、お前もよく笑っていられるな?


「壁に落書きしたの、バレてるからな?」

「……ごめんなさい」


 ダメだ。疲れすぎてこれ以上は頭が回らねぇ。


 明日、改めて説教してやろう。


「とにかく今日はもう寝させろ。いいな?」

「「「「「え~?」」」」」

「あ?」

「「「「「はい、すいません」」」」」


 コイツらも黙らせたことだし、俺はさっさと部屋に戻って――


 そう思って、部屋に向かおうとしたときだった。


 クイッ。


「……?」


 袖を引っ張られて目を下に向けると、伏し目がちのトーカが俺の袖を掴んでいた。


 え、何? 何かされたのか?


 トーカはその俺の考えを解析して、首を横に振った。


 なら、なんだ?


「……やりたい」

「……は?」

「パーティ、ちょっと楽しみだった」

「…………」


 え、マジで言ってんの?


「……ダメ?」


 ズルい。その言い方はいろいろズルい。


 チラッとアホどもに目を向けてみると。


 いい顔してくれてんじゃねぇか……!


「どうするの、リオン~?」


 ボケ馴染みの顔を思い切り殴ろうとするが、このチートバカにとっては俺の拳を躱すなど空気を読むより容易いこと。


 スッと一歩引いて俺の拳を避けたこのバカはにんまりと笑って、もう一度「で、どうするの?」と聞いてくる始末。


 殺したい。例え殺せなくても殺したい。


「……ふぅ~」


 コイツらの言いなりになるのはいささか不満だが、トーカのこんなにも純粋な目にはさすがの俺もこれ以上否定できない。


 仕方ない、か。


 どうせ神の心臓(コイツら)が止まるわけがないと思えばなんとかなるか。


「わかった。だが、あまり騒ぐなよ。俺は寝る」

「えぇ、なんで!?」

「俺を起こしたらテメェをこの家から叩き出してやるからな」

「……そんなのできるわけないのに」

「あぁ?」


 コイツは俺の怒りをことあるごとに引き出さねぇと気が済まねぇタチなのか?


 ……あぁ、もうクソ。家に帰る前より疲れてきたじゃねぇか。


 疲れすぎて逆に騒がれても起きない気がしてきたレベル。


「……もう勝手にしてくれ。俺は寝る」


 俺はそう言ってロビーを後にする。


 トーカが少し悲しそうな表情をしてたけど、勘弁してくれ。限界なんだよ、俺は。


「え~! しょうがないなぁ!」


 死ぬべき幼馴染も少しは空気を読めるようになったのかもしれない。


 すんなり俺を寝かせてくれるようだ。


「おやすみ」

「うん、おやすみ!」


 そうして俺は自分の部屋に、他の奴らはトーカ歓迎会の準備を再開したのだった。


















 その日結局、俺は眠れず、次の日俺はゴミを処分(放り出)した。




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