とりあえずバッドエンドでよくない?
暗闇が続く。そりゃそうか。あれから眼を開けていないわけだし。
……にしても。
どれだけ待っても、痛みがやって来ない。
俺は、いったいどうなったんだろう。本当に死んだのか?
一度は死んだ後のことを考えることがある。しかし、実際に死んだらこんなものなのか。
トーカに殺された痛みがわからない。
なのに、全身が超痛い。痛みだけで死ねるレベル。いや、俺もう死んでんじゃん。
首を締め付けられているように息苦しい。最後までトーカに首根っこ掴まれて持ち上げられていたからなぁ。
あれはね。
――リ、……ン!
誰かの、声が聞こえる。
背中に柔らかい何かをあてられる。でも、背中の傷に障ってただ痛いだけなんだけど。
リオ、……ン!
また誰かの声が聞こえた。
あぁ、クソ。
散々アイツらに振り回されてきたが、いざ死ぬとなると、やっぱりアイツらのことを思い出すことになるのか。
リオ、ン!
ケイラはところどころ抜けているが、頼りになるやつではあった。
イグスはバカでうるさいやつだが、何度かそれに助けられたこともある。……たしか。
シュリには心の中でずっと悪魔悪魔と言っていたことを謝っておいた方がいいだろうか?
テッドは遊び始めなければ一番まともなやつだった。遊ばなかったら、な。
最後に……アイツかぁ。
アイツに言うこと? ……そうだな。
もし俺が死んだことをアイツが知ったときどんな反応するか考えてみた。
アイツのことだ。きっと。
『……生き返らせるよ、絶対』
……違うな。これはない。アイツはそんなにかっこよくない。
えっと。じゃあ。
『死ぬわけないじゃん、リオンが』
……これもないな。なんというか、普通すぎてつまらん。アイツのぶっ壊れ具合はこんなもんじゃないはずだ。
あ、これだ。
『リオンは死なないよ?』
これだぁぁぁぁぁぁ!
死んだときの仮定の話をしているのに、そもそもその仮定をぶっ壊そうとするやつだ!
アイツは定義に従うバカじゃねぇ。定義を作り替えるバカなんだ! しかもとびっきり頭のおかしい定義に変えるやつだ。
アイツの言う「死なない」は「そうならないように私が守る」という意味じゃない。
アイツ、バカだから!
『リオンはそもそも死なないでしょ?』
なぜか俺に不死身耐性を押しつけようとしてくるやつなんだよ、ちくしょう! アイツの方が死んでほしい!
と、こんなことを脳内で行っていて思ったんだが。
……俺、まだ死んでなくね?
死んだ後のことなんて当然わからないんだけど、少なくとも、こんなに脳内で元気なやつは死んでないと思うんだ。
おっとここでまさかの「もしかして、俺、生きてるんじゃね?」疑惑が。
……別に驚くことでもねぇか。首切られて生きてた男だもんな、俺。
リオン! リオン!
うん、そう思ったらさっきから聞こえてくる声がよりはっきり聞こえるようになってきた。
この声はたしか……って言うまでもねぇか。
俺は瞼の痛みを感じながらも、ゆっくりと、ゆっくりと光を見た。
★☆★
――リオン! リオン、起きて!」
久しく感じた視界は、思っていたよりも暗かった。
「……っ。リオン……!」
トーカが俺の顔を覗き込むように、かつ、今にも泣きそうな顔をしていたからだ。
そして、そんな表情ができるのは、トーカの暴走をアイツらが止めてくれたからだ。
「……ふっ」
それにしてもまったく。なんて顔をしていやがる。
お前のキャラは無表情を貫くことだろうに。たったこれだけのことに泣いてどうするんだ?
そう言おうとしたが、口の痛みと腫れが邪魔でうまく言葉が出ない。
どんだけボロかすにやられたんだよ、俺。
「リオン」
「どう、した?」
よかった。短い単語だったらなんとか言える。
そんな俺より、トーカが絞り出すようにいう。
「ごめん、ね」
「……」
何が、とは言わなかった。
でも、言いたい気分ではあった。
言いたいことはもう伝わっていた。それでも、俺は「何が?」と言いたかったのだ。
「ぁ……」
「ごめんね、リオン」
だけど、それを俺が言う前に再度トーカは謝罪の言葉を口にする。
「リオンをこんなにもしちゃった。リオンを殺しかけた」
殺されかけるくらい、冒険者だったら日常茶飯事だ。
アイツらが殺されかけるところは見たことないが、俺はそれに巻き込まれていつも殺されかけてるって。
口でそう伝えられなくても、表情だったら伝えられる。
今のトーカは解析に特化した形態。俺の表情で、俺が伝えたいことは充分に伝わるはずだ。
「やっぱりリオンはすごかった」
「俺、が?」
「うん」
何もしていないわけではないが、俺がやったことなんてたかが知れている。
あらかじめ時間稼ぎの準備をしてきて、だけど、想定した時間よりも時間を稼げなかった。
それどころか、こんなにも死にかけてる。
どこに俺のすごさがあるのだろう。
「アイツら、を、信じてる……から?」
だとしたら、それは少し違う。
これはアイツらへの信頼じゃない。
「気付いてたんだよね?」
「……何が?」
気付いていた? 何に?
「私の微かな声に」
「……」
そういえば聞こえていたような気もするけど。その内容までは深く考える時間はなかった。
てっきり「危ないから逃げて」的なことを言いたいのかと思っていたんだが。
トーカは俺に幸せそうな笑みを向けて解答を伝えた。
「もう少しだから頑張って」
「……ん?」
もう少しだから? え。ちょ、ちょっと待ってくれない?
しかし、トーカは止まらない。なんで、こういうときに限って俺の心情を察してくれないかなぁ!?
「いつから気付いていたの?」
「……え、っと」
「ううん。最初から、だよね」
ヤバい。……ヤバい!
なんかこの後の展開を俺は知っている! トーカのこの目を俺は知っている!
何も知らないのに。俺だったらなんでもできるよな、という理不尽極まりない圧力を俺は知っている。俺が一番知っている!
「私自身を解析することで、私の暴走を止める。それがリオンのねらいだったんだよね」
「ま、待て……」
なにその無茶ぶり。無理に決まってるだろ。
大体、お前は主に逆らえないはずだろ。そんなことができるわけが――
「リオンを早く倒すために、この暴走を止めなければいけない、という理由を自分で作り、暴走しながら自分を解析する」
「いや、ちょ……」
待ってくれ。なんだ、そのわけわかんない理論。
その理論を立てられるのはアイツらだけだ。ま、まさか……いや、だが!
「主に逆らうラインをギリギリ越えないように解析していたけど、途中で第二形態に変わったときはちょっと焦った。あと少しだったのに」
「や、やめて……。た、のむ」
つまりはあれか! あの時点でもうほぼ解析し終わっていたってことか!?
「最後に、リオンが笑ったからなんだよ? その不可解な行動に私が第一形態に戻ったから。あのおかげで、私は私に戻れたんだよ?」
いや、知らねぇ……。そんなねらいがあって笑ったんじゃねぇ。
っていうか、なんであのとき笑ったのかよく覚えてねぇ。
「だから。ありがとう、リオン」
「だか、ら……。ちょ、待ってく――」
「あ、リオン~~~~!」
だからなんでテメェは最後まで俺に言わせねぇのかなぁ!?
相変わらず空気の読めない幼馴染の声に俺とトーカが目を向けると、神の心臓の仲間達が無傷で歩いていた。
こいつら……! 俺が満身創痍だってのに、走ってくる気もねぇじゃねぇか。
「あ、やっぱり無事だったね」
おい、テッド。これのどこが無事だ?
「あなたは服屋で見た?」
「うん、テッドだよ。よろしく」
「たしかそっちの人も」
「えぇ、ケイラよ」
「わ、私はシュリと申します!」
「俺はイグスだ! よろしく!」
「で、私がそこで寝ているリオンの幼馴染のセラフィだよ」
「一生の、恥……だが、な」
「照れちゃって」
「……死ね」
「今のだけすごい流暢じゃなかった!?」
というか、早く回復魔法をかけてくれませんか、シュリ。
全身の痛みがヤバいし、今の俺がかなり危険な状態だってわかってるはずだよな?
早く。じゃないと死ぬ。今死ぬ。
「あ~……。あの、ね? リオン」
「……?」
テッドがばつが悪そうに口を開いた。
なんだ、どうした? 早く回復してくれ。
「いや、なんか全部終わってるからさ。まぁ、結果的にはよかったんだけどさ」
「……おう」
そうだな。トーカが自分の暴走を止めるというわけわからんことをしてくれたおかげで全部終わったな。
「思わなかった? 僕達にしては仕事が遅いなぁって」
「……かなり」
いや、本当はそんなことを考える暇もなかったんだけど。
今になって考えればかなりの間、俺は時間を稼いでいたかもしれない。
五分は稼げていたはず。
たった五分だと思うかもしれないが、コイツらにとって五分はあまりにも長すぎる。
コイツらが今、ようやくここに来たのはかなり遅すぎる。
「じ、実はね。かなり早めにあっちは終わったんだけどさ」
「……あぁ」
「ちょっとやりすぎちゃって機械を壊しちゃって……」
「……あ?」
「で、でも! その少女の暴走を止めるためにいろいろ頑張ろうとしたん、だ、けど……さ?」
どんどんテッドの額から冷や汗が滲み出ていることには気付いている。そして、その先の話の展開もなんとなく見当がついた。
あぁ、なるほど。そうか。
テッドは情報を盗んできただけでわかるわけもないし、賢いケイラと言えど見たこともないものはさすがにわからないか。
コレに関しては、作戦を立てるのに協力した俺にも非があると言わざるを得ない。
「そもそも誰も魔動具に関しての知識がないんだよね」
「……それは俺も――」
「えっ? 私なんとなくわかってたよ?」
………………。
何もない、静寂だった。
皆の視線がバカに集まり、途端に辺りが冷えたように感じた。
誰かが何かを言わなければいけないと言った空気なのに、誰も何も言わない。
と言うより、まず真っ先に何かを言う人がいるだろう、といった目でなぜか俺を見てくる。
なんでもかんでも俺に投げるんじゃねぇよ、ちくしょう。
……わかった。わかったよ、まったく。
……ふぅ。
心の中でゆっくりと息を吐く。
そして、まずはシュリを見た。
「……シュリ」
「は、はいっ!」
「回復を」
「は、はい!」
回復魔法を極めた聖女にとって、死んでいない限り回復できない傷はない。
シュリの回復魔法を受けた俺の傷はみるみる塞がり、戦闘前と変わらない身体を取り戻す。
「ありがとな、トーカ」
「リオン?」
痛みで気付かなかったが、膝枕されていたらしい。こんなことならもっと堪能しておけばよかったと今さらだけど後悔する。
……まぁ、いいや。そんなことは。
そんなことよりもだ。
俺はセラフィと向かい合った。
「……?」
まったく空気をわかっていないバカでアホでクズの幼馴染に一つだけ質問だ。
「なんでわかってたのにやらなかった?」
すると目の前の女はなぜか胸を張って。
「いつもリオンに空気を読めないってバカにされてたからね。今回はちゃんと空気を読んで皆に合わせてたんだ。すごいでしょ! これでもうリオンは私をバカにできないね!」
ふふんっ、とでも言いたげそうなゴミ。ゴミ屑。塵芥。
「……て」
「て?」
「テメェの」
「て、てめぇ?」
「テメェのそういうところが、空気が読めねぇって言ってんだよぉぉぉぉ!!」
「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
殺す! 絶対に殺す! 今殺す! 死ね!
「抑えて、リオン! イグス!」
「お、おう!」
「放せ! イグス、ケイラ! コイツを殺さなきゃ気が済まねぇ!」
「気持ちはわかるけど! 気持ちはわかるけど、今は抑えて!」
「放せぇぇぇぇぇぇ!!」
コイツがちゃんとやってくれさえしてたら! 俺は死にかけることもなかったんだ!
やっぱり何もかも。俺が冒険者になったのも全部!
「とりあえずアイツを殺せぇぇぇぇ!!」
あの幼馴染のせいだ!
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