僕達は最強だけどどっかおかしいのかもしれない。
「それにしてもおっきいねぇ」
考え深くそう呟き、まるで観光している気分の僕に最終兵器とやらは主砲を向けた。
主砲は手先の大穴。副砲は全身のボコボコした小さな穴。
僕が読んだレポートによると、その主砲からは特大のレーザー、通称「魔動砲」というものが発射される。そして副砲からはそれを少し弱めたレーザーと複数の属性魔法。どちらの攻撃も高い攻撃力を持っている。
そう書かれていたはずだけど。
「なんとういうか……」
主砲がキラリと光った。
そう思ったときには魔動砲がそこを撃ち抜いていた。
そこにはもう、僕はいないというのに。
「拍子抜けって感じだね」
僕が今立っているのはその最終兵器の肩部分。
遅い。何もかもが遅い。
僕は、言うなれば戦場でいう戦闘を走る尖兵。
レストランにあるコースでいえば前菜。
スポーツにおける準備運動。
僕は皆の動き始めるための時間稼ぎに過ぎない。
要するに、このパーティの中で一番弱いのは僕だ。
いや、実際に弱いかどうかはわからないけど、倒せる可能性が一番高いのが僕だ。
そんな僕を相手にこの程度。
「本当に勝てると思っているの?」
シュッ!!
今度は足下の副砲がレーザーを発射したが、そのときには僕はもう頭の上に乗っている。
「確かにそのレーザーは僕よりも早いけど」
さすがの僕でも雷や光の速度には勝てないけど、攻撃となれば話は別。
どれだけ攻撃自体が早くても、その攻撃を発射する速度は僕には敵わない。
手元(?)が光ってから0.01秒。
僕がそこから移動するにはあまりにも十分すぎる時間だ。
それにもう一つ。
「解析力が大したものなのは認める」
けど、解析力がいくら秀でていても、その解析力には弱点がある。
「でも、そもそも僕の速度について来れていないのなら、解析したところで当てれないよね?」
その言葉に感情を与えられた兵器は怒ったのだろうか、複数のレーザーで僕を狙う。
当てられないのなら僕の逃げる道を塞ごうっていう魂胆なのはわかったけど。
「それでもまだ遅い」
逃げ道を防がれる前に脱出した僕は、腰の鞘から短剣を抜く。
この短剣は一流の鍛冶師でもあるイグスによって作られたものであり、その切れ味はその名にも表れている。
神剣ゲイルアンサラー。
疾風の名を持つゲイルは持ち主の僕で、アンサラーは回答者という意味。
僕の願い、希望にすぐに応えてくれるような剣。そういう意味が込められているのだという。
「よいしょっと!」
光線が放たれる前に、片腕を巻き付くような軌道で駆け抜ける。
光線が放たれたときにはすで遅し。
兵器の片腕が爆発するかのように表面がはじけ飛んだ。
「……!?」
きっと機械に表情があったらそんな感じの反応をしていただろう。
けど。
「驚いている暇もないよ」
そう言ったときには片足も切り終わっていた。
「頑丈なのは認めざるをえないね」
というよりは分厚いからだろうか。
思ったより剣が中に入らない。
「……」
「必死に解析しようとしているみたいだから言うけど」
解析できたところで僕には勝てない。だから教えてあげることにした。
「僕の魔法は【速度調整】っていう魔法。言うまでもなく、速度を自在に操れる魔法」
「……」
あらら。また解析を始めようとしているみたい。
解析に手を回すなんて。時間がもったいないということもわからないのだろうか。
「もしかしてこの速度になんとかして追いつこうと思っているかもだけど。今から言っておくよ。それは無理だよ」
どうして? と聞いてくると思うから続きを言う。
「だって、僕。
――まだ速度上げてないし」
ふざけるなっ!
そう言わんばかりの攻撃をかすりもせずに避けきって見せて、無意味と思いつつも笑う。
「普段の僕は魔法で速度を抑えているくらいだよ? それを解除しただけの僕にここまで押されるなんて。だから聞いたじゃん。本当に最終兵器だよね、ってさ?」
……さて、適度に場を温めたことだし。
「あとさ」
そろそろ他の皆に任せようかな。
「僕だけに構っていたら危ないよ?」
そう言うと、兵器の胸に大きな亀裂が走り、緑の液体がまるで血のように噴きだした。
まぁ、兵器にとっては血のそのものと言ってもいいかもしれない。
ちなみにだけど、今あの斬撃を加えたのはイグスだ。
イグスのあの大剣と大盾は当然だけど見せかけではない。
僕のゲイルアンサラーを「斬」とすれば、あの大剣は「剛」だ。一般的に刃物というのは引くことで得物を切断するんだけど、あの大剣の場合、感覚的には叩いて切る。
何度かあの大剣を使ってみたことはあるけど、相当慣れないと使えないものだ。
そして何よりかなり重い。一振りで息切れを起こしてしまったくらいだ。
「……あ」
その重さのせいで動きの遅いイグスに、兵器は腕を振るった。
さっきまで僕を相手にしていたからか、速さに慣れたように動きが僅かに速くなっていたことに気付いた。
「ふんッ!!」
しかし、大盾に防がれ、その腕がいとも簡単に止められた。
……毎回思うんだけど空中でよく吹き飛ばされないよね? 自然現象を無視してるじゃん。
だが、兵器の攻撃はまだ終わっていなかった。
振るった腕先が白く輝く。
主砲と副砲のレーザーをイグスに浴びせる気だ。
ゼロ距離であのタイミング。あの状況で身体能力だけで躱せるのは僕かセラフィだけだ。
「けど、イグスには効かないよ」
イグスは焦る素振りを見せる気配もせず、むしろ盾の後ろで笑っていた。
ボンッ!!
放たれた光線はイグスを貫くことはできなかった。
それどころかあの大盾が主砲の蓋のようになってしまったおかげで、アームの内側から爆発が起きた。
「あぁ~……」
あの爆発じゃあっちの主砲はもうはや使い物にならないだろう。
かといって、もう片方の主砲も僕によってボロボロ寸前まで陥ってるわけだし。
「それにしても物理にも魔法にも強い盾ってどうなの?」
あの盾が傷一つついたところを僕は見たことがない。これは比喩でも何でもなく。
イグスは【凝縮】という魔法を使う。
触れたものをすべて凝縮させることができる魔法。名前だけ聞くと地味だけど、その効果は恐ろしい。
イグスの武器はその凝縮によって生まれた剣だ。
世界一の防御を誇るオリハルゴングの毛皮を極限まで凝縮させ加工した盾。
たったそれだけ、と思うかもしれないが、イグスの凝縮は隙間がまったくない。
それが何を意味するのかというと、つまり。
傷が入る余地もない、ということなんだよね。
傷も通さないし、魔法も通さない。
唯一のデメリットが重さなんだけど、イグスの筋力はそんなのお構いなし。
あの大剣も同じように作られているようで、破壊力がもうおかしい。
あのセラフィと力を並べるなんて普通じゃない。
「シュリ!」
イグスが世界最大の聖女の名前を呼ぶと、シュリは「はい!」と緊張した顔つきで頷いて見せた。
「次元を越えて具現化してください!」
魔法の詠唱とは思えないくらいの丁寧な言葉を使う。
「時の再発!」
そして、続けざまに兵器の腕が大爆発を起こした。
「イグスが起こした爆発をもう一度起こしたのか」
追い討ちなんて話じゃない。
もともと爆発で危ない状況だった内部が、今の爆発で誘爆してさっきの爆発よりも強くなってるし。
よくリオンがシュリのことを「悪魔のような聖女」と陰で言っているけど、実のところ、僕も少し思ってはいたんだよね。
現に……ほら。
「時間の逆流!」
厄介なシュリにもレーザーを数多に打ち込んでいるにもかかわらず、消えては違う場所で現れたりすることでシュリはその光線を躱していく。
でも、ある程度躱し続けていると解析によって補足されていく。
結局、シュリが行っているのは自分の時間を戻すことで場所を移動しているだけ。
これまでのシュリの動きを知っていれば対処はできそうではある……けど。
「完成です」
安全地帯にいるかのように、シュリは無防備に動きを止めた。
「ここはあなたが光線を打ち続けた場所です。この付近の過去の時間を出現させると……このように」
兵器から放たれた大量の光線がシュリに命中する、その直前で、光の壁が出現した。
その光の壁に阻まれ、光線はシュリまで到達できなかった。
あの光の壁は兵器自身が撃ち出したレーザーの塊だ。
目には目を。レーザーにはレーザーで防いだわけだけど。
「何がすごいって、光速のレーザーの通った道すべてを憶えていることだよね」
僕とはまた違う記憶力に僕までゾッとする。
「テッド!」
周りに目を向けていると、ケイラの怒ったような声が聞こえた。
その方向に目を向けると、案の定、怒りの表情を見せていた。
まぁ、そうだよね。ずっと動いてなかったらバレるよね。
「サボってないで攻撃しなさい!」
「ごめんごめん」
「まったく」
僕を叱ったケイラはと言うと、空気中に五つの魔法陣を生みだして、それで迎撃していた。
本来なら一つの魔法陣しか使えないはずなのに。
「五重魔法陣は?」
ケイラの傍によってそう聞くと、ケイラは面倒くさそうに僕を見て、小さくため息をついた。
五重魔法陣で倒しちゃった方が早くない?
そんな僕の考えを察したのか。
「ここで五重魔法陣を使ったら私達はともかく、リオンが危ないでしょ」
あ、なるほど。
相変わらずリオンをいつも気にかけているんだね。
そう思ったけど、命が惜しいので今は黙っておこう。
「今、失礼なこと考えなかった?」
「ははは。まさか」
ケイラの魔法陣。どうしてケイラだけ五つ同時に詠唱ができるのか。
そもそもの話。
「その雷は命を持って竜を為し、神の天竜は悪を討ち滅ぼさん。雷竜!」
ケイラは一つの詠唱しか唱えていないのだ。
しかし、それでも他四つの魔法陣がどこかから出現する。
答えは簡単……と言ってもいいのかな?
「多重人格、か」
「微妙なところだけどね」
ケイラはその心に四人の自分を住ませている。
ケイラは言葉にしなくても、心の内で詠唱することによって魔法が使える【思考詠唱】の持ち主だ。
それを応用して、言葉だけでなく思考詠唱も行うことで魔法を二つにできないか、そう最初に考えたらしい。
それだけでも異例なことだけど、それをあっさり行ってしまったケイラはこんなことを考えた。
この思考をさらに増やせば、もっと多くの魔法を同時に使えるのではないか、と。
……つまり。
ケイラは人工的に四人のケイラを生みだしたのだ。
ケイラ曰く。
「頭の中に四人の私を思い浮かべる。それだけよ」
リオンじゃないけど、何言ってんのか全然わかんないよね。
とにかく。こうしてケイラは五つの魔法を使うことができる。
最近はもっと増やそうとしているっていう話だから怖いよね、うん。
――さて、最後は。
「はぁぁぁぁああああ!!」
僕らのリーダー、セラフィだけど。
僕がサボっているうちに、もう兵器は壊れる数秒前だった。
僕達を相手にしているから、当然と言えば当然なんだけど。
だとしても。
「セラフィ一人で勝てちゃうよね」
決して僕達も負けるわけではない。けど、仮に一対一であればセラフィが最も早く倒すことだろう。
セラフィの光り輝く聖剣を見ては、いつも同情してしまう。
違う。敵にではなくて。
聖剣に同情する。
「はああああぁぁぁぁ!!」
セラフィの聖剣はレーザーだろうとも切ってみせる。そのままの意味で。
いろいろツッコみどころはあると思う。
光線をどう切るんだ、とか。光線が見えているのか、とか。いろいろあると思うけど。
僕達はそれらを毎回この一言で済ませている。
「さすがセラフィ」
これしかない。
初めてセラフィを見た人が、彼女に思うことは大抵同じことで。「あれが聖剣に選ばれた女か」と。
けど、それは違う。と、リオンが言っていた。
『アイツはな。聖剣に選ばれたんじゃない。聖剣がアイツに選ばれちまったんだ。可愛そうなことにな』
初めはその意味がわからなかった。
けど、セラフィの戦いを見てその意味がすぐにわかった。
聖剣は本来、聖剣に選ばれた力ある者の力を最大限まで引き出す剣だ。
しかし、セラフィは違う。
聖剣が持ち主のすべてを引き出すとすれば。
セラフィはどんなものでも限界をむりやり越えさせる、魔法でも科学でもなく、いうなれば才能という規格外の力を備えている。
例えそれが料理の包丁だろうが、錆びきった剣だろうが、セラフィが持ってしまえば、すべてが聖剣同様の力を持つようになる。
けれど、本来の器量を越えた力はいずれ身を滅ぼし、セラフィに使われた武器はあっという間に消滅する。
『だが、聖剣はどうだ? 聖剣は、絶対に折れない壊れない、という特性を持っている』
セラフィの強大な力によって消滅するはずの聖剣は、その力によってその『耐久性』すらも限界突破させられ、なおかつ自らの力でセラフィの力をさらに底上げする。
『同情せざるをえない。聖剣がアイツを使っているんじゃねぇ。アイツと聖剣が仲良しこよしでやっているわけでもねぇ。アイツに聖剣が使われ、壊れたくても壊れさせてくれず、あのバカをさらに強くさせる。無限に体力を与えられて、労働しろって言われてるもんだ。ブラック企業でもあんな使い方はできねぇ』
そして、幼馴染であるリオンがよく言っている昔話。
『前に言っただろ? コイツが「聖剣拾ってきた!」って言ったって』
「聖剣があった」ではなく「拾ってきた」
そこでようやくリオンの言っている意味をちゃんと理解したんだっけ。
……あ、そんなことを考えていると。
「終わりぃぃぃぃ!!」
セラフィが豪快にとどめを刺していた。
誰一人、戦闘前となんら変わらない状態で決着がついた。
最終兵器とやらは「もう嫌だ……」とばかりにピクピクと機器を上下させて、火花を散らし爆発寸前だった。
絶望という感情はないはずなのに、僕達と関わったことで絶望してしまったかのように。
結局、完全に感情を消す方法なんてこの世には存在しなかったのだろう。
と、ここまで考えたところで。
…………………あれ?
たしかこの兵器がすべての管理を任されているんだよね?
ということはさ。ということはだよ?
これ……。爆発したら――
――誰がトーカの暴走を止めて、リオンを助けるの?
そんな一瞬よぎった可能性を嘲笑うかのように、最終兵器は大爆発を起こした。
24話書いてまだ1章、単行本における1巻が終わらない……。
あと2,3話くらいでしょうか?
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