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とりあえず強がるしかなくない?

大晦日? 正月?

とりあえずそんなの関係なくない?

読みたいときに読めてこそのネット小説!

 ……セカンド、ギア?


 そう呟いたトーカの滲み出る雰囲気が変わっていた。


 今までとは明らかに違う。嫌な空気が肌を走る。


 いや、その直前。トーカは何と言っていた?


 空気が変わる直前もトーカの雰囲気が何かおかしかった。何かを小さく呟いたような気がしていたのだが、気のせいだっただろうか?


「まさかここまでやるとは思わなかった」

「そりゃ、どうも」


 空気が変わったせいだろうか。


 戦闘中話すことのなかったトーカが声を発したことに驚きながらも、表情は冷静を保つ。


「でももう終わり。もうすべて読み切ったから」

「まだ手の内すべては晒してないぞ」


 嘘ではない。が、ほとんどの手は尽くして、残っているのは悪あがき程度の道具だけだ。


「あなたが持っていると思われる道具は全て解析し終わった」

「そうかよ」


 例えそれが真実だとして、今のトーカに何ができるというのだろう。


 確かにこの重力付加グラヴィディエンチャントだって永久には続かない。


 しかし、アイツらが兵器を破壊するまでにはあまりにも時間が足りすぎている。


 トーカの身体能力は人間の域を超えているのは事実。


 人間をやめかけている俺を単純な力で押しているのだから。


 だが、それでも。アイツらのような化け物の域にはまだ遠い。


 魔法を使おうにもトーカの手は下を向いている。


 何をしようというのか。


 それでもトーカは余裕の表情を崩さない。


 と言ってもまぁ、もともと表情を変えるやつではなかったんだけどな。


「そのセカンドギアだかなんだかよくわからんが、この状況をどう切り抜けるつもりだよ?」


 そう尋ねた俺にトーカは視線だけを向ける。


第一形態(ファーストギア)は解析をするための形態」

「……なんだって?」

「そもそも人のつくりを考えたとき」


 ……おいおい。いきなり講義が始まったぞ?


「大きく魔法職と戦士職に分かれるのはなぜ?」

「……」


 答えを出そうと思考する俺を大人しく待ってくれる。なんだ、優しいじゃないか。


「人が両方を極めるには時間が足りないからだ」

「不正解」

「速攻で返さないでくれる!?」


 すげぇ傷つくじゃん!


 お前はあれか?


 忘れもしない。


 学校で先生に指名されて、黒板に出て俺が自分の答えを書いている最中に「それ違うよ!」と大声で言うやつ。アレめっちゃ恥ずかしいんだけど! 間違ってることがわかっているのに、最後まで先生に書かされるアレ。公開処刑というものを、身をもって味わったあの日々。あ、でもときどき俺の方が合っていて、大声で「間違ってる!」っていったやつが恥をかくアレ。笑いを堪えながら席に戻るんだよな。


 ……なんでこんなどうでもいいことを今になって思い出してんの? 走馬燈?


「くだらないことを考えないで」


 はい、すいません。


「魔法職の人と戦闘職の人は身体のつくりが異なっている」


 それはあるかもしれない、というかそうなのだろう。トーカが言うのだから。


 確かにあの規格外のアイツらでさえ、それに当てはまる。


 シュリとケイラは運動があまり得意ではないし、イグスとテッドも高度な魔法を使うのを苦手としている。


 それでもアイツらは常人を越えた結果は出せるけど、アイツらだけで比較した場合、その法則に当てはまる。


 俺に関してはその両方が中途半端と言えるわけだし。


 もう一人? ……あぁ、あのバカはバカだからそんなの関係ないに決まってるだろ。


 アイツが苦手なのは空気を読むことだけだ。


「私も同じ」

「……どういうことだ?」

「一つの身体に二つの能力は併用できない。けど、私の身体はそのつくり(・・・・・・・・・・)を変えることができる(・・・・・・・・・・)。これが何を意味するかわかる?」


 そんなの答え合わせするまでもない。


 要するにトーカは、魔法に特化した身体と物理に特化した身体、その二つの身体を持っているということ。


 なんだよ、それ。ふざけんな。


「……さっきまでのお前はどっちだ⁉︎」


身体能力の方であればまだなんとかなる。


身体は抑えているんだ。トーカの死角に行けばワンチャン――


「本気で信じてるの?」


何を、言っている?


「さっきまでの私があなたが考えている二つの可能性のどちらかだと。本当に信じているの?」


 やめろ。そんなことがあってはならない。


 けれど、一度思いついた可能性が頭から離れない。


 さっきまでが物理でも魔法にも特化していないとすれば他にいったい何がある?


 さっきまでトーカが特化していたものはなんだ?


 もはや言うまでもなかった。



「さっきまでは()()()()()()()()()()



「……」


 ……マジデ、言ッテンノ?


 今まで俺が相手にしていたのはなんだ? あれだけで充分な力と魔法を備えていたんだぞ。


「ふざけんな」

「ふざけてないよ」


 あの時点で俺はちからでも魔法でも負けていて、ようやくここまでやったと思っていたんだぞ。


 顔を真っ青にしているであろう俺を嘲笑うかのように、トーカの身体がゆっくりと起き上がる。


「ヘルプッ、ミィィィィィィ!!」


 助けを呼んだって誰も来ないことはわかってる。


 せめてもの抵抗として俺の体重を乗せても、トーカの身体は魔法も俺も軽々と持ち上げる。


「もう終わり、そう言ったでしょ?」


 ならば背中から関節をぅ――



 ……視界が消えた?



 バァァァァァァァァァッッッッンンンン!!


「ぶフォ……ッ?」


 最初に感じたのは、背中と腹の痛みだった。次は視界がぼやけていること。その次は口もとのベットリとした感覚。後頭部の激痛。背中にあたる冷たい何か。意識が……朦朧としている?


 何、が?


「ぶゥ……ッ!!」


 舌が回らない? 違う。口の中に何かが充満している?


「――――。」


 目の前からトーカの声が聞こえるが、まったく聞き取れない。


「ヴぇ……ッ!」


 視界が僅かに戻り、今、口から吹きだしたものが自分の血だと初めて理解した。


「……あ?」


 俺の前にいたトーカはどこにいった? というか、ここはどこだ?


 少しずつ意識がはっきりしてきて、ようやくそこで自分が壁に寄りかかっていることに気付いた。


「な、んだよ。こ、れ」


 寄りかかっているのではない。


 これは、()()()()()()のだ。


 そこまできてようやく状況を理解することができた。


 トーカの背中に張りついた俺を、トーカは後ろに飛んだのか。


 重力付加グラヴィディエンチャントをもろともしないその身体能力で、後ろに全力で飛んだのか。


 壁へと叩きつけられた今の俺はいったいどうなっている?


 その先を考えてはいけない。


 本能に近い何かが俺に訴えた。


「グフ……っ」


 何も考えないように壁から抜けようとしたが、腕がはまっているせいでまったく動けない。


 それとも、もう全身に力が入らないからだろうか。


 口の中に溜まり続ける血を吐き出すことしかできない。


 よく、これで死なないものだ。


 自分のことながらおかしくて仕方ない。笑おうとしても血反吐しか出ない。


 俺がもうちょっと弱かったらこんな苦しい思いをせずに死ねたというのに。


 バカ野郎。死ぬわけにはいかねぇだろ。バカ野郎。


 あぁ、クソ。頭が全然働かねぇ。


「ガぁッ!」


 何も考えられない頭で、指一本動かせそうにない身体。


 そんなの関係ない。動かせなくても動かすしかないんだ。このまま死にたくないのなら。


 誰だって死にたくない。死を覚悟することはあっても、死にたくはない。


 死ぬことを決めた人だって死にたくはないんだ。死ぬしかないだけだ。


 今の俺はどうだ?


 死ぬしかないのか? 諦めるしかないのか?


 全身に力を込める。ない血液を回そうとする。


 死ぬ理由も諦める理由も俺には存在しない。


 アイツらが失敗することなんてありえないのだから。アイツらの成功を、俺という凡人のミスで失敗となってはならない。


 だから俺は死ねない。死ぬ意味がない!


「アぁぁァァあアアッ!!」


 まだ動けるだろ。生きているなら動けよ。


 自分を鼓舞するかのように声をあげる。口の中の血塊が発声を邪魔するがそんなことは気にもならない。


「ガァッ!!」


 ようやく壁から這い出た俺は、碌に見えもしない前を見る。


 トーカの位置なんてわからないし、姿も全然見えない。そもそも遠近感だってまったくわかっていない。


 それでも前を見据える。両足でしっかり立っているフリをする。


 自分はまだ戦えるのだとトーカにではなく、自分に見せる。


 そんな俺の耳にどこからか微かな音が聞こえてきた。


「――第三形態(サードギア)


 今度は魔法に特化した身体に変化したのか。変化しなくても俺が負ける未来は見えているだろうに。


 それが全力を見せるという意志の表れなのか、俺を舐めた結果の行動なのか。


 俺がこんな目にあっているのも全部あのバカ馴染みのせいだ。アイツが俺を村から連れ出したことがすべての元凶。


「帰った、ら。文、句を言って、やんな……きゃ、な」


 目に映るのは、空中に浮かぶ数十、数百の光のもや


 視界がぼやけて多いように見えるっていう現象であってほしい。


「行く……ぞ」


 光の靄の輝きが増していく。


 それに合わせて身体が悲鳴をあげるが、逆に言えば悲鳴をあげれるくらいに余裕だということだ。


 拳を握る。


 残された武器はこれしかない。道具はもう使い物にならないだろう。


「っ……」


 一歩進む。そして、また一歩。


 ゆっくりと最初は歩き、気付けば走り出していた。


 なんだ。やっぱり走れるんじゃないか、俺。


 そうして俺は光の中へと飛び込んだ。


 ★☆★



 記憶が飛んでいる。



 ★☆★


「……」

「グフッ……!」


 気付けばトーカに首を掴まれ吊らされていた。


 腕も足もまったく動かない。


 それでも動いているように見えるのは、俺の視界がブレブレだからだろう。


「……どうして?」

「……?」


 もう瞼を開けているのも限界だった。目の前の九割は真っ暗だ。


 それでも、トーカが首を傾げているのは腕を通して伝わってきた。


「どうして笑っているの?」


 トーカがそう尋ねる。


 そうか。俺は今、笑っているのか。


「どうして勝ったような顔をしているの?」


 そんなの決まってる。答え合わせをこれ以上する必要なんてない。


「でも、今度こそこれで終わり」


 バ~カ。前が見えてねぇから「これ」なんて言われてもわかるわけねぇだろ。


 トーカが「第一形態(ファーストギア)」と最後に呟いた。


 それはもう終わりっていう意味でいいのか?


「っ……」


 最後の力を振り絞って、うっすらと目を開ける。


 そこには魔法で作ったブレードを腕から生やしているトーカの姿が。


 カッコいいじゃねぇか。


 男なら一度は憧れるもんだ。


「……じゃあね」



 ブレードが振り下ろされると同時に、俺は目を閉じた。



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