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とりあえずそっちは任せた方がよくない?

 ――と、かっこよく言ってみたものの。


「うおおおおぉぉぉぉぉッッッ!?」


 トーカの手のひらから次々に打ち出される魔法の光線を躱しながら、俺は半泣き状態へと陥っていた。


「あり得ねぇぇぇぇぇッッッ!!」


 そう叫んでいる間も、容赦なくトーカの魔法が俺の心臓を狙いにくる。


 ただやみくもに打ち込んでいるのではない。


 トーカの解析力で、俺の次の動き、いやそのさらに次の次の動きを読んで攻撃してくるのだ。


 それはもはや俺の考えがそのまま伝わっている。一方的なテレパシーでも行われているのかというほど。


 いや、それ以上かもしれない。


 俺ですら魔法を撃たれる直前までどう動こうか考えていないのに。トーカは俺がどう考えるのかもすべて解析しきっている。


「クソッ!」


 幸いなことにあの魔法の光線は途中で屈折することはない。


 だから、放たれてから避けようとすればギリギリで避けられる。


 が、それも長くは続かない。


 常に命の綱渡りをしているんだ。集中が切れさせたくなくても、切れてしまう。


 集中が切れてしまった時点で、俺はあの光線に撃ち抜かれる。


 早くこの状況から脱出しなければ。


「想定よりも早いが仕方ねぇか」


 俺は光線を躱しながら、背負っていた小さなリュックサックに手を伸ばす。


 トーカが目を細めて解析を始めるが、さすがにわからないだろう。


「ほらよ」


 投げたのは野球ボールほどの片手サイズの灰色の球体。


 さて、この球体をトーカはなんと解析するだろう。


 俺への攻撃の手を休めずに、トーカは解析を始める。


 まぁ、そんな簡単にわかるもんじゃ――


「解析終了」

「はぁ!?」


 いや、どうせ結果は間違っているに決まって――


「ラフランシアの臭いを込めた汚臭爆弾」

「なんでわかるんだよ!?」


 俺が驚きながらそう返すとともにその爆弾はトーカの周りで爆発した。


 それと同時にトーカの攻撃が止み、その隙に俺は元の道を引き返す。


 複雑な経路は逃げにくくするものではあるが、同時にどこに逃げたかわからなくさせる。


 今のことからもわかるとおり、神がかった解析力を持つトーカにはあまり意味は無いかもしれないが、何もしないよりかははるかにマシだ。


 ……それにしても今の解析の正確さはないだろう!


 ラフランシアというのは世界一臭いにおいを放つ花として有名だ。


 そのあまりの臭さに一部の生物を除けば近づくだけで死ぬほど。


「あのレベルで読まれるのかよ……」


 爆発物という可能性はもちろん、もしかしたら煙幕等の視界を奪うものだって考えられたはずなのに。


 実際、俺もその方法を考えなかったわけじゃない。


 だが、トーカのレポートを読み返してそれらの方法を除外した。


 トーカの身体は相当丈夫に改造させられている。熱に対する耐性もかなり強力であった。


 となると爆発系統はあまり効果を成さないだろう。爆発したところで、トーカにとっては痛くもかゆくもなかったに違いない。


 かといって視覚妨害系もおそらく無理だった。


 フリースナイのことだ。実験記録はないが、間違いなく赤外線を用いた温度で識別する眼を作っているだろう。


 例えそうでなくても、あの解析力だ。音の反射等で俺の位置を正確に捉えてもおかしくはない。


 だから痛覚や視覚ではない、嗅覚に注目した。


 そもそも臭いが盲点であるし、例えバレたとしても対策していなければ臭いはそうそう消せるものじゃない。


 現に、俺がこうしてトーカに背を向けながら逃げていられるのだって、解析はできたものの臭い戸惑っているからだろう。


 感情のないただの機械相手ではなんともない攻撃でも、感情を手に入れたトーカにとっては集中を乱す臭いはそれなりに効く。


 しかし、それを一瞬にして見破るとか。やっぱりトーカも人間のレベルをとうに超えている。


 この臭いも長くは続かない。


「ちっ!」


 チラリと後ろを見た途端に、トーカの手のひらが俺の背中を狙っていた。


 光線が放たれると同時に曲がり角を曲がってそれを躱す。


「追いつかれる前に次の地点に行かねぇと」


 トーカを独房から救出する前に、ここら辺にはあらかじめ細工を仕掛けておいた。


 それで何分、いや何秒保てるか。


「帰ったら筋肉痛だな」


 今まで戦闘をあのバカ共に任せてきたツケが回ってきたようだ。


 任せていたと言うよりは、何もできなかった、の方が正しいが。


「この調子じゃ数分が限界だからな」


 後は任せたぞ。さっさとフリースナイを倒せ。


 ★☆★


「ようこそ、冒険者神の心臓ゴッドハートらの諸君!」


 僕達が最深部に着くと、そこには天井いっぱいの大きさの兵器とその隣に一人の白衣をまとった研究者らしき男がいた。


 兵器の至る所に小さな穴がついており、腕部分と思われる左右のアームの先には直径三メートルほどの大きな穴が空いている。


 あれらが攻撃の要になるものとみて間違いないだろう。


 脚はかなり複雑になっているが、よく見れば僅かに地面から少し浮いている。魔力で浮かせているのだろうか?


 次にその隣にいる男を見る。


「間違いない。フリースナイだよ」


 念のため皆にそう伝えたけど、わかりきったことだと仲間達が返事を返してくれない。


 ちょっと寂しいなぁ。


 そんなことを考えながら改めてフリースナイを見ると、彼は僕達を前にしているにもかかわらず緊張の色を一切見せていない。


 それどころか、何かを楽しもうとする態度にも見える。


「君たちには私の研究の礎になってもらう」

「礎、ねぇ?」


 僕達に本気で勝てると思っている口だ。


 自分で言うのもなんだけど、僕達は最強のパーティだ。負けると思ったことは一度もない。


「あなたの言うことを律儀に聞くつもりもないし、聞く時間もないのよ私達には」


 ケイラがつまらなさそうに言った。


「けれど一つ言っておくわ。トーカへの命令を解除しなさい」

「ふっ。それは無理な話だ。あれはまだ有効活用できるからな」

「そっ。ならいいわ。予定通り潰すだけよ」

「お前達にこの兵器を破壊できるかな?」

「数分あれば十分よ」

「そうか」


 フリースナイはククッ、と心の底から僕達を嘲笑うと兵器に目を向けた。


「ではやれ。アイツらを……殺せ」


 次の瞬間だった。


 兵器の小さな穴から大量の光線が放たれた。



 フリースナイに向けて・・・・・・・・・・。



「っ……!?」


 フリースナイが何かに驚き声を発する前にそれらの光線は、フリースナイを跡形もなく消し去った。


 なんともあっけない最期だった、と言うしかない。


「だから言ったのよ。最期に言うことはないか、ってね」

「う~ん。言ってたかなぁ?」


 一方的にケイラが一言質問しただけで、彼は遺言を言うタイミングなんてあっただろうか?


「まあいいけど」


 別にフリースナイがどうなろうと知ったことではない。


「なぁ。これでトーカっていう少女の暴走は止まったのか?」

「まさか。そんなわけないでしょ」


 おそらく、いや、間違いなく少女の暴走は止まっていないだろう。


 リオンには言ってなかったけど、わかっていたことだ。


「あの兵器がこの研究所のすべてを握っているはず。私ならそうするわ」


 この研究所で最も安全な場所はフリースナイの手元ではなく、最強の兵器そのもの。


 今やこの研究所の局長はこの兵器だろう。


 しかもこの兵器は「感情」によって「思考」を手に入れた。この兵器が完成した時点でフリースナイは用済み。


 だから今、殺された。自分の子に殺された。


 フリースナイの命令はこの兵器にとってただの妨害でしかない。間違っていても主の命令は聞かなければいけないから。


 主に命令される前に主を自分の意思で殺す。


 確かにこの兵器はある意味もう完成された人間と言えなくもない。


「これが今の人が求めた人間像?」

「違うわよ、セラフィ。きっと彼が一番嫌った人間像よ」


 彼の妻は研究者によって殺された。その理由は彼に嫉妬したから。研究資料を盗もうとして妻を殺した。


 端的に言えば。


「邪魔な人間は排除する。そんな感情を誰よりも嫌ったはずなのにね」


 きっとこの兵器も悪気があってしたわけじゃない。なぜなら、そういう感情は取り除かれているのだから。


 ただ、純粋に、邪魔だったのだ。


 主の命令のために主を殺した。ただそれだけ。


「どれだけ悪感情を捨てたとしても結局こうなるのよ」


 ケイラはフリースナイをただのバカだったと蔑む。


 ガゴンッ!!


 兵器の照準が僕達に向けられた。


 それに合わせて僕達も戦闘態勢に入ると同時にセラフィが叫んだ。


 やっぱりセラフィのこれがなきゃ始まらないね。


「皆! この可愛そうな子も解放してあげよう!」

「「「「了解!」」」」


 僕達と、リオンの戦いが同時に始まった。



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