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とりあえずここから本気でいった方がよくない?

 なんでこの研究所はこんなにも複雑な設計をしていやがるんだ。


 右に曲がったり、左に曲がったり、下に降りたり、上に登ったり。


 テッドからもらった地図をもらったときから思っていたけど、ここってもともとなんかのダンジョンだったのか、と思うくらいにここは複雑だ。


「後ろは……撒いたようだが」


 走りながら耳を澄ましても後方から足音は聞こえてこない。


 もう諦めたのか。それとも……。


「リオン」

「ん?」


 トーカの後ろをついていく中、トーカは俺に背中越しで話しかけてきた。


「……どうした?」

「なんか……おかしい?」

「おかしい?」


 辺りに注意を向けてみるものの、伏兵の気配はない。


 念のため、罠が仕掛けられていることも考慮して再度見渡してみるも、それらしいものは見つからない。


 単に俺が見つけられていないだけかもしれないが。


「何がおかしいんだ?」


 そう尋ねてみると。


「よく、わからない」

「わからない?」

「この先に行ってはダメだと、私の中の何かが言っている」


 それはつまり第六感というものだろうか。


 そんなものまで複製できるようにしたのか、と思ったがおそらく違う。


 トーカの中で何かが予想外にも生まれたのだろう。


「何か……すごく悪い予感がする」


 悪い予感、ねぇ。


「だが、どのみちお前の主権を解除しないうち、俺達はお前を救出できない」

「それは……」

「なら行くしかない。だろ?」

「でもっ」


 トーカがそれでもかというほどに食い下がる。


 けれど、こっちだって引くわけにはいかない。


「わかった。なら、俺だけ行く。それでいいか?」


 我ながらひどい言い方だ。


 こんな言い方されたらトーカでなくても。


「リ、リオンが行くなら私も行かないと」


 となるよな。まぁ、別に行かないといけないわけじゃないんだけどな。行かざるを得ない状況にしただけ。


 まったく。ずるいやり方だが、これが一番手っ取り早いのだから仕方がない。


 この、仕方がない、で片付けてしまえるのが一番ひどいのかもしれないが。


「ここからの道順は大丈夫なのか?」

「あと少し、だと思う」


 思う、か。


 頭の中に地図があるというのに不安な言い方をするのが気になった。


「まぁいいか。行くぞ」

「うん」


 覚悟を決めたようで、トーカが先頭を走る。


 ――俺もその隙にそろそろ準備を整えておくべきだな。


 ☆★☆


 もはや研究所じゃなくて戦場だ。


 そんなことを思いながら、僕は目の前の兵士を切り伏せた。


 周りを見渡すと、そこらに防具をまとった兵士が倒れている。


 不思議なことに、怪我の大小はあれど死者はいない。皆、共通して気絶している。


「リオンはうまくいってるかな?」


 僕の独り言に、一斉にパーティメンバー達が首を振り返らせた。


 相変わらずリオンのことになると反応が早いなぁ。


「リオンのことだからね! 絶対大丈夫!」

「アイツはいつでもやる男だからな!」

「リオンができないことはないわよ」

「わ、私達も負けてはいられませんねっ」

「……そうだね」


 ――いや、俺がいつお前らに勝ったんだよ?


 本人が今のを聞いたらそう言い換えすだろうなぁ、と思いながら軽く笑みを返す。


「さ! て! と!」


 セラフィが最後の一人を無力したところで、大きく背伸びをした。


 ここまでやってまだ退屈そうにしているのが伺える。


 まぁ、僕としてもこんなものじゃ準備運動にもならないんだけどね。


 僕達が目指す場所はただ一つ。


「フリースナイっていう人、全然出てこないね?」


 セラフィがそう言った。


「こんなにも暴れたらさすがに出てくるのかと思ったんだけどなぁ」


 セラフィの言うとおり、そろそろ出てきてもおかしくない頃合いだとは思うんだけど。


 念のために倒れている人達の顔を確認してみるものの、やはりフリースナイはいない。


 部下を盾に一体どこにいるのだろう?


「どうするの?」


 僕がそう尋ねた。


「う~ん。まぁ、前に進むしかなくない?」

「……おそらくだけど」


 そこで、ケイラが何かを考え込むように顎に手を当てていた。


あれ(・・)の完成が近いのかもしれない」

「……あぁ、あれ(・・)ねぇ」


 あれ(・・)がどれだけの破壊力を秘めているのか、どれだけの戦闘力を持っているのかは僕でも知ることができなかった。


 なぜなら、それはまだ僕が調べた時点で未完成だったから。


「トーカ、と言ったわね?」

「リオンが拾ってきたって言う少女のことか?」

「私とイグスは見たことないけど」

「わ、私も遠目で見た程度ですが」


 ふつうに、というかかなり可愛い外見をしていたのは憶えている。


 たしか歳は僕と同じくらいだったはずだ。その当の少女は自分の歳なんて憶えていないのだろうけど。


「それがどうしたの?」


 そう尋ねるとケイラはしばらく答えず、やがて首を横に振った。


「どうして彼女はリオンに出会ったのかと思っていたのだけど――」

「そんなの決まってるじゃん!」


 ケイラの言葉に重ねるようにセラフィが笑った。


「リオンは困っている人を見捨てられないから。きっと私よりもね!」


 それは何の根拠もない理由だった。


 だけど、だからこそその言葉が一番しっくりきた。


 この中で誰よりもリオンの傍にいて、リオンと長く付き合っている幼馴染。


 リオンはそんな幼馴染との腐れ縁を切りたいといつも言っているけど、きっとそう思えるくらいにこの二人の関係は深く根強い。


 この関係にだけは僕達がどれだけ頑張っても入って来れない。


「リオンは見捨てられないし、そういう人は自然とリオンに集まってくるから」


 リオンはセラフィが、セラフィはリオンが。


 互いに人を呼び集めている、そう思っているのだ。


「……はぁ、まったく」

「敵いそうにないね?」

「それはどういう意味かしら?」

「どういう意味だろうね?」

「あなたって本当に性格が悪いわね」

「盗賊は心理戦にも長けていなくちゃ」

「……別に。負ける気はない、とだけ言っとくわ」

「そうだね」


 チラリとシュリを見ると、彼女も彼女で胸の前で拳を握っていた。


 ホント、このパーティはいろいろ楽しくて仕方がない。


「な、なんだ。この空気?」


 イグスが気付かないのも楽しくて仕方ない。


「それじゃ! 行くとしよっか!」

「そうね。リオンのためにも早く終わらせましょ」


 そう、これでも僕達はいろいろ急いでいる身なのだ。


 早く片付けないと。


 リオンが時間稼ぎ(・・・・・・・・)をしている間に(・・・・・・・)


 ★☆★


 奥へ奥へと進むごとにトーカの走る速度が遅くなっていることには気付いていた。


 おそらくトーカの中にある何か、本能に近い何かが反応しているからだろう。


「……」


 それでも俺は何も言わない。気付かないふりをする。


 トーカが何度か俺に助けを求めるような視線を向けているにも気付いていた。


 気付いていて、それでもそれすらも俺は気付かないふりをしていた。


 理由は明白だ。


 ――これはただの時間稼ぎ(・・・・)なのだから。


「リオン……」


 ようやくトーカから話しかけてきた頃には、俺達は目的地にたどり着いていた。


「どう……して?」


 目の前に映る光景にトーカは明らかに困惑していた。戸惑っていた。


 それもそうか。


 俺達がたどり着いた場所はトーカのすべてを管理する制御室でもなければ、ほかの重要な部屋でもない。


 制御室と思っていた部屋は、()()()()()()()()()でしかなかった。


「どうして……?」


 そして、その結果をあらかじめ知っていたとばかり表情を崩さない俺。


 それに対して戸惑いや疑心を隠さずにはいられないトーカ。


 自分が知っていたものと違えば、誰だって驚くのは当然だ。


「罠、だったの?」


 罠、か……。


「そうかもしれないな」


 フリースナイの仕掛けた罠ではある。けど、俺はそれを知っていた。


 知っていながらここにトーカを誘ったわけだから、どちらかといえば俺によるトーカへの罠と言える。


「感情を手に入れたお前にこの研究所の、ましてやお前のすべてを制御する部屋を教えているわけがないと思った」


 でないと、もし今回トーカが暴走していたとき、制御室を占拠されたときどうなっていたのだろう。


 それこそ完全な暴走であろう。


 フリースナイがそんな単純なミスを犯すとは思っていなかった。


 アイツはどこまでも秀逸な男だ。トーカに感情を与えるためだけに外の世界を見せる余裕があるほどに。


「仲間の賢者がな」

「?」

「自分であれば、この場所に誘導するだろうと言っていた」


 複雑な道だからこそ逃げにくく、広い部屋なら下手な小細工が通じづらいはずだと。


 狭い道だと視界を奪われやすく、通路も封鎖されやすい。そうケイラは言っていた。


「トーカにここまで案内させて、()()()()()()()()()()()()。そう言われたんだよ、俺は」


 俺の話を聞いている途中で、トーカは胸の中心を苦しそうに押さえつけた。


 フリースナイから命令が下されたようだ。


 目の前の男を殺せ、と。


 主であるフリースナイの命令は絶対。どんなにトーカが俺を傷つけたくなくても、トーカの中の絶対的な制御装置にはトーカは抗えない。


「フリースナイは実験を二つ並行に進めていた」

「リ、ォ……っ。逃げ、……て」


 トーカが俺に逃走を指示するが、それを俺は首を横に振って拒否の意思を見せる。


 逃げれる余裕もなければ、逃げる気もさらさらない。


「一つはトーカに解析力を植えつけて、そのトーカに感情を解析させること。もう一つは――」


 次の瞬間だった。


 ガキィィィィィィィィンッッッ!!


 鉄と鉄がぶつかり合うような音がした。


 いや、具体的には俺の剣(・・・)トーカの腕(・・・・・)だ。


 トーカが振り下ろしてきた腕を、俺は剣で受け止めたのだ。


 ググッ、と俺が僅かに押され始めたところで、俺は後ろに飛びトーカから距離を取る。


「――もう一つはその解析した感情を『最強の兵器』に入力することで、より完全な兵器を作ること」


 フリースナイが求めた人間像は大きく二つ。


 人を守るための「思考」と「強さ」。


 「思考」の役割をトーカ。


 では「強さ」は?


「それが今回の()()()()の敵だ」


 おそらくその兵器はトーカの「思考」を手に入れた。


 フリースナイの命令だけによらず、自分の意志でアイツらを攻撃してくるだろう。


 最強の強さに圧倒的な解析力を備えた兵器。


 俺が相手ならきっと瞬殺だろう。


 しかし。


「アイツらにそんなものは関係ない」


 基本バカの集まりだが、実力だけは本物だ。


 理屈の通じない奴らだ。理屈の上で作られたに過ぎない最強の兵器に勝てない道理はない。


「問題は俺だけだ」


 トーカの制御を解除するほかに、トーカの暴走を止める方法がある。


 シンプルな答えだ。


 主であるフリースナイ本人を殺すこと。


 主が倒されれば、トーカは正常に戻る。


 理屈はわからないが、ケイラとテッドが言うのだからきっとそうなのだろう。


 つまり、アイツらがフリースナイを倒すまでの間暴走するトーカを押さえ込む。


 それが今回の俺の仕事だ。


 アイツらのうちの誰かを連れてこなかった理由は。


 一つはさっさとフリースナイを倒してほしいから。


 二つ目はアイツらの手加減が手加減じゃないこと。


 アイツらだったらトーカごと破壊するのがオチだ。


 そう言う理由で、やりたくもない仕事を押し付けられたわけだ。


「強固な身体に強力な魔法。そして、その解析力」


 どのみち時間稼ぎで精一杯。勝つ気もないし、勝てる気もしない。


 要は時間との勝負。


 俺が先に負けるか、バカ達が先に勝つか。


 アイツらが負ける選択肢は当然ない。


「とりあえずトーカ。安心してかかってきな」

「ィォ……ン……!」


 聞こえようが聞こえまいが言っておく。



「本気で来ないと、さっさとお前を助けちまうぞ?」


ちなみにですがゲーム「第五人格」では「走る噛む太郎」でやっていますんで自由にフレンド検索してみてください。

個人的にはハンターよりもサバイバーの方が好きですね。


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