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とりあえず自己紹介した方がよくない?

「そんなことないよ!」


 セラフィがまるで子どもを叱るように、腰に手を当て、かつ頬を膨らませて言ってきた。


「いや、絶対いる意味ないよな? 俺」


 とりあえず反駁した俺だったが、セラフィが「そんなことない!」とブンブンと首を横に振って否定する。


「リオンがいるかいないかで私達のパーティは全然変わるんだから!」


 いや、変わんねぇだろ。


 そう言いそうになったが、言ったらまた否定されることは目に見えているのでグッとこらえる。


 大体、考えなくてもわかることだと思うんだけど?


 いつも何らかの仕事をする彼ら。それをただボケッと見るだけの俺。


 そんな奴とパーティを組みたいと思うか普通?


 それなのに、だ。


「皆もそう思うよね!?」


 見てみろ。


「当たり前よ」

「寂しいこと言ってくれるなよ!」

「いなくなると困ります!」

「僕も皆と同じだよ」


 これ、本気で言ってるんだぜ?


 嘘だと思うだろ? 言わされてると思うだろ? 違うんだぜ?


 本心なんだぜ? ……いや、本当。マジで。


「そういうことだから、はい。今日のお金」

「いや、こんなに貰えねぇって」

「貰うの!」

「お、おう」


 なぜか怒られながらお金を渡されるという奇妙な体験を毎度味わう。


 ちなみにこれは、先ほどのドラゴンを討伐したことによる報酬金だ。


 知っているとおり、俺は何もしていない。何もしていなかっただろ?


 なのになぜか山分けされたお金を渡される。


 いっそ俺だけ少ない方がどれだけよかったことか。


 そうすればこんなにも疑うこともないのに。


「リオンがいないとパーティが全滅しちゃうの!」


 いや、何をどう考えたらそうなるんだよ。


「考えてみてよ!」


 いや、お前達に言いたいわ、それ。


「私達がどうしてこんなにも自由に動けると思う?」

「それができる力があるからだろ?」

「後ろにリオンがいるからだよ!」


 いや、それ絶対違うだろ。


 だから俺、なにもしてねぇって。


「私達が失敗しても、その次にリオンがいるから安心して動けるんだよ!」

「いや、お前らが失敗したものを俺がどうやってやるんだよ」

「リオンが出来ないわけないじゃん!」

「それを信頼とは俺は思わねぇからな!?」


 コイツら、本当にバカなんじゃねぇか、と今ほど思ったことはない。


 セラフィの後ろで四人がうんうんと頷いているが、逆にそれが腹立たしくて仕方ない。


 この絶対的信頼というか信仰……というか狂信か? なんなの?


「幼馴染の私の言うことが信じられない?」

「信じるも何もないんだけど」

「それならいいじゃない!」

「そういう意味じゃねぇから」


 今さらだけど、このパーティのリーダーは俺の幼馴染のセラフィである。


 すべてのきっかけはセラフィから始まったと言ってもよい。


 もともと俺達は小さな村出身のなんてことない村人でしかなかった。


 まぁ、セラフィは昔からどこか外れていた部分もあったけど。


 例えば?


 三歳の頃、森に入って熊を狩ってきたこととか?


 あぁ、そういえば。


 五歳の頃、森の主と話してきたとか言ってたな。その森の主の背中に乗りながら言ってきたぞ。


 八歳の頃はあれだ。


 突然、光る剣を手に持って俺に見せてきやがった。どう考えても聖剣だろうな、あれ。


 今も使ってるあの剣な。


 まだまだたくさん説話があるけどいるか? いらないだろ?


 とにかくだ。


 そんなセラフィが十二の頃だ。ちなみに俺も。


『リオン! 旅に出よう!』

『……いってらっしゃい』

『リオンも!』


 こんな感じで俺までなぜか旅に付き合わされる羽目になったわけだ。


 もちろん俺は何の力もない平々凡々よ?


 なんで俺が……、そう思わないわけねぇわけだ。


 それからは俺にとっての地獄のような日々だったのは言うまでもないと思う。


 森の主と話せる奴と一緒にいて、普通じゃないことが起きないわけないだろ。


 当然、俺だってそういう経験をすれば、たとえ元々が平凡でも変わってくるというものだ。


 というより、変わらざるをえないわけだ。


 前の俺からは考えられないレベルで、そりゃもう強くなったさ。自分で言うのもなんだけどな。


 強くなったのだ。確かに、俺は。


 なのにだ!


 現れるんだよ。セラフィと同じような奴らが。


 最初はケイラだった。


 賢く勇ましい彼女の姿は一目見たとき、セラフィが増えたのかと思った。


 彼女の放つ魔法は俺やセラフィを軽く凌駕していた。


 大体なんだよ。多重魔法って。存在すら知らなかったわ。


 たった一つの魔法ですら、俺達の中で最強の座を手にしているのに、その力を増幅させる力ってなに?


 頭おかしい奴がまた一人増えたと思うじゃん?


 けどこれは始まりに過ぎないわけで。


 次はイグスだったな。


 最年長ということもあるが、その大きな身体を見たときは冗談じゃなく熊かと思った。


 もっというなら森の主を思い出したくらいだ。


 森の主が人間の姿を手に入れた、と言われても驚かねぇわ。……驚くけど。


 そして、その固さが普通じゃねぇったらありゃしねぇの。


 バカみてぇな脳筋野郎のイグスだが、最大の特徴は防御力。


 魔物にオリハルゴングっていう奴がいるんだが、コイツは魔物中トップの防御力を誇る。


 まさに最硬ってわけだ。


 そんな魔物がいるのに。最硬だ、つってんのに。


 このイグスというバカはそいつよりも硬い防御力を持っている。


 最硬よりも硬い奴はなんて呼べばいいか教えて欲しい。


 ……あぁ、そうだよ。まだだよ!


 その次はシュリだった!


 一見大人しそうな雰囲気を出した聖女だとは思った。


 この人は安全そうだと思ったさ。違ったさ!


 まず、回復魔法を極めすぎて時魔法を覚えたってなに!?


 時魔法ってなに!? 時間を操るってなに!?


 時間を戻して仲間を健康状態に戻すこともできるし、逆に敵の時間を早めて寿命を奪うこともできるってなに!?


 あれはもう聖女じゃない。魔女だ。デビルと言ってもいい。


 ……まぁ、死人を蘇らせることもできる点は聖女……いや、やっぱりネクロマンサーだわ。


 そして最後! テッド!


 元盗賊団の若頭で、かつては俺達の敵だったわけだけど、いろいろあって俺達の仲間となった。


 敵だった、と言っても悪い奴では元々なかったのだ。


 話すと長くなるからこの辺はとりあえず割愛させてもらう。


 普段からおちゃらけた態度を取っているアイツも、イレギュラーな存在だ。


 身軽で小柄な身体をいいことにアクロバティックな動きでどこにでも潜入して、なおかつ、ものすごく早いのなんの。


 盗賊の頃に「神速のテッド」とか言われてただけはあるわ。


 俺が言うのもアレだけど、盗賊ってけっこう地味な存在というか立ち位置だと思うんだよ。


 なのにこのテッドもまた規格外の存在で、暗殺・情報収集はもちろん、下手すれば俺たちが何かする前に問題を解決してくるレベル。


 正直ね、セラフィを入れなかったら一番主役っぽいのはお前だからね?


 まぁ、とにかくだ。


 そんな『元からヤバい』奴らに混じっているのが『すごく頑張った平凡』だぜ?


 場違い感ヤバいっす。


 いやぁ、本当。なんでこんなパーティに俺がいるのか。


 俺が一番聞きたいよ。


 コイツらに聞いても、返ってくる答えはありえねぇほど評価高いし。


 いっそね?


 セルフィが他四人を脅しているくらいだったら納得できるのにな。


「とにかく! リオンはいなきゃいけない存在なの!」

「……もう、やめたい」

「やめさせない!」


 意地でも俺を側に置いておきたいセルフィの声に、俺は天井を見上げるしかなかった。


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