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とりあえず死んだ人間が生きていたら誰でも驚かない?

 突然目の前に現れた俺を見て、トーカは口を開けて、ただ呆然と固まっていた。


 まぁ、そりゃ誰でも驚くか。


 死んだと思っていた人間がいきなり目の前に現れたら誰だって。


 俺だったらまずは幻覚だと思うだろう。


 つぎに考えるのは誰かが変装としているってところだろうか。


 そう思ったのか、トーカがようやく口を動かしてこう言った。


「消去」

「ふぁ!?」


 突然トーカが手のひらを見せて光線をぶっ放してきた。


 それを寸前で躱した俺を見て、トーカは続けざまに呟く。


「偽物と断定」

「なぜ!?」

「リオンが今のを躱せるのはおかしい」

「ならどうしろと!?」


 お前の言う本物のリオンだったら、今の光線で死んでたぞ! 完全に心臓を狙っていたじゃねぇか。


 現実を受け入れられない気持ちはわからなくもないが、今の状況下での現実逃避は死ねる。俺が!


 しかもこの鉄格子のせいで、逃げ道がないし、マジでどうしたものか。


 次々と放たれる光線をギリギリで躱しながら頭をフル回転させる。


 どうして助けにきてすぐにこんなにも頭を使わされることになるのか。ましてや、襲ってくるのは俺が助ようとしているやつに。


 とりあえず言葉で説明しても無駄だろうということはなんとなくわかる。


 となると態度で示すしかないが。


 ないのだが。


「今ここで土下座して納得させるのと、殺されるのどっちが早いかって言ったら……」


 次の瞬間、光線が俺の顔横をジュッとかすめる音がした。というか熱っい!


「間違いなく殺されますね! 自問自答!」


 じゃあ、どうする⁉︎


 そのとき俺の内側ポケットにあるものを思い出した。


「これならワンチャン、かねぇ?」


 あくまでワンチャン。確実性はない。


 だが、これ以外の方法が思いつかないのであれば仕方がない。


 胸ポケットに手を伸ばそうとしたところで――


「あっぶねっ!」


 的確に俺の心臓を撃ち抜こうとしてきた。今、懐に手を伸ばしていたら確実に死んでいた。


 今度はシャレにならず、マジで。


 ……いや、あのときもシャレにならなかったんだけどな?


 そんなこと考えている暇じゃねぇだろう、となぜか自分にツッコみながらまた頭を動かす。


 トーカの脅威は知っている。


 その分析力だ。レポートの内容からそのことは掴んでいる。


 その分析力で俺の動きを先読みし、一撃必殺の急所を狙ってくるだろう。


 床でピクリとも動かないこの男と同じように。


「しつこい」

「えぇ……」


 トーカにこんなにも邪険にされるとは。


 しかし、そろそろ終わりにしないと研究所のやつらに気付かれてしまいそうだ。


 ここは仕方ないがさらにイチかバチかの賭けをしよう。


「っ。やべっ」


 鉄格子近くで倒れている男の血に足が取られた。


 その一瞬をトーカは逃さない。


「終わり」


 短くそう呟いたトーカは俺の胸に光線を放つ。


 だが、その照準を合わせる一瞬で、俺は右手で鉄格子の腰近くを掴み、放たれた一瞬で右手を重心に、両足を逆上がりのように持ち上げた。


 すると、僅かに胸の位置が下がり、さらに首から足まで、身体の床からの高さがすべて同じになる。


 その一瞬をきれいに光線が胸をかすめ、俺の視界に一筋の光が通った。


 マジで死ぬかと思った。が、うまくいったようだ。


 かすった胸から銀色の丸い物体が飛び出し、それを左手で掴む。


 懐に手を伸ばせないのなら、相手に取りだしてもらうまで。


 その銀の球体を分析しようと固まったトーカに俺は走り寄る。


 トーカが手の照準を合わせようとしたがもう遅い。


「ほらよ!」


 トーカの懐に潜ると、片手で銀色の紙をはがして「それ」を口元に押し込んだ。


 そして。


「……おいしい」

「……ふぅ」


 それはなんてことのない、ただの塩むすびだ。


 もしかしてトーカが腹を空かして待っているかもしれない、というなんとも場違いで平凡な考えで持ってきたものだ。


 しかし、その平凡な考えが今回は功を成し、トーカは向けていた手のひらをゆっくりと下ろした。


 この賭けも俺の勝ちだ。


 もしかしたらギャンブルの素質があるのかもと思ったが、そもそもギャンブルに手を出す理由がないことに気付いた。


 金だけはいっぱいあるんだったな、と。


「さ、さすがに疲れた」


 トーカは俺の手から塩むすびを受け取ると、一心不乱に塩むすびを食す。


 鉄格子の中でこんなにも活き活きと塩むすびを食べるやつ。


 ちょっと面白いかもしれない。


「どうして?」


 ただの塩むすびを食べ終えたトーカが、ようやく俺の存在を理解して尋ねた。


 ここまで来るのに、どうしてこんなにも疲れなきゃいけないのか。


 俺が「どうして?」と言いたい気分だよ、まったく。


 まぁ、そんなことはともかく。


「それは俺がどうして生きているのかっていうことか? それとも、どうしてここにいるのかっていうことか?」

「両方」

「ま、当然だよな」


 あれだけ血を吹きだして死なないわけがない。


「まずはそうだな。なぜ人は首を切られたら死ぬかわかるか?」

「大量失血をするから。出血死、だよね?」

「そうだな。つまり、人は首を切られたから死ぬわけじゃない。首を切られ、大量の血が流れて血液が少なくなって初めて死ぬ。逆に言えば、血が足りていれば首を(・・・・・・・・・・)切られても死なない(・・・・・・・・・)

「それは……そうかもしれない。けどっ」

「それを可能にするやつが俺の仲間にいるんだよ」


 悪魔ごとき聖女。


 回復魔法を極めすぎて時魔法というまったく別の新たな魔法を生みだした人物。


 そんな聖女にとって、常に俺の体内から体外へと流れ続けている血と同じ量だけ回復魔法で輸血するのはお茶の子さいさいってわけだ。


 本当意味がわからない。


 だが、わからないという点で見れば納得もできてしまう。


 しかし、いつもなら時魔法で怪我そのものを治していたが、今回あえてそれはしなかった。


 それは、先ほどの二つ目の問いの答えに繋がる。


「居場所を掴むためにあえて俺は死んだふりをすることにした」


 テッドが得た情報はどのような研究が行われているか、ということのみだったのだ。


 その研究所の場所がよくわかっていなかった。


 保険だったのだろう。


 彼らは口頭だけで研究所の場所を伝えていたらしい。


 さすがに情報のないものをテッドが知れるわけがない。


 そこで俺を餌に死んだふりをさせ、トーカを研究所まで連れて行かせる。


 俺がその場で生き返ったら、さすがに奴らも警戒していたことだろう。


 まぁ、警戒してもテッドの潜入技術はその上を行くだろうが。


 とにかくだ。


 テッドにとって、油断しながらトーカを連れて行く奴らの後ろをつけるのは、これもお茶の子さいさいだったってことだ。


「まぁ、つまりだ」


 こうして俺が研究所に忍び込めたのも、今アイツらがドンパチできているのも。


 すべてはケイラの作戦の結果だった。


 しかし、俺だって嫌だったんだ。


 トーカが可愛そうだってこともあったが、俺自身一度死ねと言われていたようなものだったのだから。


 実際は意識もあったし、なんだったら首切られていた方が元気だったようにも感じなくもなかったが、やっぱり怖いものは怖かった。


 アイツらやっぱりネジ一本ぶっ飛んでいやがる。


 ……けど、まぁ。それも、仕方がないんだ。


 なぜなら。




「正真正銘、俺は神の心臓(ゴッドハート)の一人。リオンだからな」




 そういうものの集まりなんだ。神の心臓(ゴッドハート)というパーティは。


 そう告げると、トーカは俺を期待の眼差しで見つめてきた。


 あ、その目は見たことある目だな。常日頃から。


神の(ゴッド)心臓(ハート)

「不本意ながら、だけどな」


 きっとトーカの中には、神の心臓(ゴッドハート)の情報もすでにインプットされているのだろう。


 敵対国の最大冒険者パーティだから当然か。


 俺の情報はなかったっぽいけどな。


「さて、と」


 詳しい説明は後々するとして。まだ、俺には仕事が任されている。


「トーカ」

「どうしたの?」


 俺を攻撃したときの無表情から、すっかり俺と出会ってからの表情に戻っている。


 さっきまで絶望しきった顔をしていたのに、いまや希望に満ちあふれた顔だ。


 なんというか、俺という平凡が来ただけでそんな変わるものなのか。


 まぁ、寂しかったのだろう。と、適当に思い込む。


「俺達は今からこの国を脱出する」


 トーカの顔が一瞬曇ったが、俺はそんなトーカの考えを否定するように首を横に振る。


「安心しろ。脱出するメンバーの中には当然もお前も入っている」

「私も?」

「当たり前だ。でなきゃ、なんでここに俺が来たんだよ」


 ただ殺されかけにきた、とか冗談でも笑えない。


「俺の仲間が今、その囮をしている」


 正直囮にしては、あまりに強すぎてこの研究所を木っ端微塵にしてしまいそうな気もしなくはないが。


「その間に私達は脱出すればいいんだね?」

「そういうことだ」


 さすがの分析力。理解が早くて助かる。


 だが、ただ脱出するだけではトーカを救えない。


「今はこうして俺と話せているが、現時点でお前の主をフリースナイと設定されている以上、どんなに、どこに逃げても意味がない」

「また私が主に命令されたら終わり、だもんね」

「そうだ。つまり、脱出する前にその主権を解除したいんだが」

「……その場所がわからない?」


 ばつが悪そうに頷く。すいませんね、ちゃんと助けに来れなくて。


 トーカの感情を消されてはならないと急いでいたこともあって、解除できる場所までは見つけられなかったのだ。


 つうか、この研究所は広いし、複雑だし。面倒くせぇ。


 テッドは一瞬ですべてを記憶できるかもしれないが、俺では必要最低限の場所や道筋しか憶えられなかった。


「私、知ってるよ」

「……マジで?」

「うん、マジで」


 そういう大事なことはあらかじめトーカに植え付けるようにしていたのだろうか。


「それじゃ、案内を頼む」

「任せて、リオン」


 トーカは俺に頼まれたことがよほど嬉しかったのか、口元に笑みを浮かべる。


 そうこうしている内に、通路の奥の方から足音が鳴り響いてきた。


 トーカの様子でも見に来たんだろうが遅かったな。


 複雑な構造が裏目に出たのかもしれない。


「さて、ボチボチ行きますか」

「うん、リオン」


 ――さて、ここからが本番だ。


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