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とりあえずレポートの内容がヤバくない?

とりあえず2週間連続投稿できたのってすごくない?

 ヴァリブル=フリースナイという一人の科学者がいる。


 彼はオメルガで生まれ、その地で育ってきた。


 彼の人生の中で起きたすべての失敗はすべて成功に繋がっていた。


 どんなに失敗しても、その失敗を成功の糧にしてきた男。


 それがフリースナイという男だった。


 彼はオメルガ技術開発局局長に若くして勤めを任され、今や世界に名を馳せる魔動具を生みだした。


 だが、彼にとって魔動具を生み出すことはただの過程でしかなかった。


 昔話をしよう。


 彼は生まれながら高い知力を持ち合わせており、セラフィのように三歳で話せるようになったわけではなかったが、彼女よりも高い思考力を備えていた。


 その思考力は早いときから認められ、五歳でそこらの研究者達と変わりない思考を持ち合わせたときは誰もが驚いた。


 しかし、それと同時に出る杭は打たれた。


 純粋な子どもの中に、一人大人でいる子どもがいるのだ。


 そうなると純粋な子どもたちは恐ろしいものだった。


 フリースナイの周りに仲間ができることなく、多種多様な方法で彼は輪から追い出された。


 だが、大人の彼はそれに動じることは一切なく、逆にそれをすべて自身の知力によってねじ伏せた。


 それがまた彼を孤立させる原因になったのかもしれない。


 そんないつも一人でいたフリースナイだったが、そんな彼でも一つ他の子どもたちと変わらないものがあった。


 恋愛である。


 それは一目惚れで、相手は学園のマドンナと呼ばれるような女性だった。


 彼は猛烈にアタックした。


 彼の知力を持って、どんな言動が彼女に響くのか解析し、あっという間に彼女の心を掴んだ。


 彼女との毎日は、それは幸せなものだった。


 彼女が他の人達と違ったのは、異常すぎるフリースナイを一人の人間として、男として素直に認めていたことだ。


 そんな彼女の心にフリースナイがいっそう惹かれていくのは無理のない話だった。


 彼の身体がようやく心に追いついたときに、二人は結婚した。


 結婚生活も二人は幸せだった。


 フリースナイが研究を次々に完成していく間、彼女はそんな彼をずっと支えて、二人はずっと笑っていた。


 子どももできたのだ。


 彼女のお腹がすくすくと育ち、新たな命が生まれるのも時間の問題であろう。


 そう思ってすぐのときだった。


「どう……して」


 彼が病院に着いたときにはすべてが終わっていた。


 妻が、死んだ。


 フリースナイの実績を嫉んだ研究者が彼の研究レポートを盗もうと家に侵入したところ、その妻と鉢合わせたのだという。


 人を呼ぼうとしたところを止めようとして、階段から突き落としたのだ。


 その後、その研究者は捕まったが、その途中で脱走を図った。そこで逃げられそうになったので、やむなく射殺された。


 フリースナイはそれを聞いて、しばらく何もできなかった。


 何もできなかったというより、何もすることがなかったのだ。


 復讐しようにもその相手がいない。


 相手への怒りは、いつしか自責の念へと変わった。


 どうして自分は弱いのか。どうして何も守れないのか。


 昔からそうだ。


 自分はいつも大人の対応と言いつつ、他人にすべてを任せて自分で自分を守ったことがなかった。


 自分には力がない。


 だけど、彼はそこで思いついたのだ。思いついてしまったのだ。


 彼の異常性は知力の中でも特に高い思考力ではなかったのだ。


 確かにその思考力一つだけで規格外だったが、それ以上に彼が突起していたのは「発想力」だった。


 自分が守れないのは自分に力がないから。


 だが、力がないのは自分だけではないのだ。


 そこらを歩くすべての人々が、力がない故に後悔したことがあるのだ。


 自分を守れないのも、他人を守れないのも。同じことなのだ。


 では、どうするか?


 簡単なことだ。


 力のある人間を(・・・・・・・)造ればいい(・・・・・)


 力のない人間を助ける、その程度のものではダメだ。


 人間が力のあるものになれば、誰もが傷つくことの無い世界になる。


 さらに言ってしまえば。


 そういう人間を造れたのなら、彼らはきっと私達を守ってくれる。これが力というものではないだろうか。


 そうと決まればあとはフリースナイのすべての知識をその研究に注ぐだけ。


「だが待て。物事には必ず段階というものがある」


 これまで人間が発展してきたのはすべて段階があったからに他ならない。


 ゴッドハートのような規格外の化け物たちでさえそれは変わらない。


 平凡や天才達はあらかじめ証明された一から一〇までを身に付けようとする。


 ゴッドハートの奴らはその一〇から一一、ひいては一〇〇を作り上げる。


 しかし、これから行おうとするフリースナイの行動はそんなものではない。


 そもそも人間は人から人へと知識を授けることで一から一〇を生みだした。


 しかし、フリースナイは人に知識を授ける前に。


 つまり。


 たった一人で〇から一を、そして一〇を作り上げようとした。


「人を生み出すためにはまずは生命を作り上げる実験が必要だ。現段階でそのような物質は存在しない。だが、魔法はどうだろう? この世に存在しないものを強制的に存在させる魔法では我々の法則を受け付けない。つまりまず行うべきは魔動人間といったところか。しかし、魔動人間を造るために、結局生命が必要だ。……いや、あるじゃないか。生命は身近に存在するではないか。人間をもとに新たな生命を生み出して研究する。そのためにはまずは人間が魔法で動くようにしなければならない。……人間の前にまずは道具からか。そうだ。まずは魔動道具を作り、その結果をもとに人間を魔法で支配する。……あぁ、そうだ。いけるぞ! すべては世界のために! 私のすべての知識を世界に捧げよう!」


 順番がそもそも違うのだ。


 魔動具があり、その研究をもとに魔動兵器を造ろうとしたのではないのだ。


 魔動具や魔動兵器はただの「過程」にすぎない。


 真の人間を作り上げるための過程に過ぎなかったのだ。


「実験に使う人間は一人だけでいい」


 フリースナイがそう言った。


 犠牲者は少ない方がいいなどというあまい考えは彼の頭の中にはない。


 世界のためにどんな犠牲もいとわないと決めた彼の目に一切の曇りもない。


 ただ純粋に。


「私に二度の研究はいらない。一度の研究ですべてを知り尽くす。それができるのが私だ」


 そうして始まった研究は始まった。


 魔動具を生みだし国民達に幸せを与える一方で、その前からずっと計画が遂行され続けていた。


 そしてついに。


「実験に使うのは奴隷として売られていた少女だ」


 家族のお金を稼ぐために自ら奴隷の道を選んだ少女。


 自分の存在を力として使ってしまった悲しき少女をあるべき人間の礎にすることにした。


 可愛そう、などという感想も持たない。


 生命をもとに新たな生命を生みだし、力を与える。


 そのときだった。


「ふむ……。困ったことになったな」


 実験対象の彼女が逃げ出した。



 ★☆★


 実験のレポートを読みつつ、テッドから局長の過去話を同時に聞いた俺の手はいつの間にか、レポートをぐしゃっと握りつぶしていた。


「ふざけたことをしやがる」


 実験レポートにはトーカの記憶が邪魔と判断し、魔法液と呼ばれる魔法の成分を溶かした液を使い記憶を削除したという文が書かれていた。


 少しずつ繋がってきたような気がした。


 トーカは記憶と同時に感情すらも削除されたのだろう。邪魔だと判断されて。


 だが、感情を排除したものを人間とは呼べない。


『悪感情は耐久実験や理性のある状態で改造させることで生まれるだろう。しかし、良い感情はそうはいかない。そこでその感情を生み出すために、脱出を自らの手で行わせる』


 そうした結果、トーカの前に現れたのが俺だったということか。


「フリースナイの動向は?」

「調査済みだよ」

「……自分で言っておいてアレだが、お前本当怖いな」

「照れるじゃないか」

「褒めてはない」


 にしても、これからどうするか。


 おそらく技術開発局は適度な時間でトーカを回収しに来るだろう。


 セラフィやイグスを追っていた兵士の他に、何か違う誰かを探していたのが彼らであった、ということか。


 まさか、こんなところで国の裏事情と繋がるとは思わなかった。


「少しいいかしら?」

「ん?」


 今までの会話を黙って聞いていたケイラがようやく口を開いた。


「その技術開発局の場所はわからないのかしら?」

「言われてみればそうだな」


 本家本元を叩くのが一番手っ取り早いのは確かだ。


 しかし、テッドは困ったように首を横に振った。


「残念だけど、場所はまったく。おそらくそういう秘密の場所は口頭で教えていたんだね。情報が残らないように。さすがに情報が残らないと僕だってわからない」

「待て。だが、フリースナイの動向はわかっているんだろ?」

「彼は最後の計画までびっしり作っているからね。そういう意味では、動向を知ってるってこと」

「なるほどな」


 では、フリースナイの顔とかはわからないってことか。


 となると、ここからどう動くかが決められないな。


「セラフィとイグス、シュリは?」

「まだ逃走中だけど場所はわかる。すぐに呼べるよ」

「なら、私に提案があるのだけど」


 まぁ、こうなりゃケイラの作戦に従うのが一番だ。


 相手がどれだけの知識や考えを持っていたとしても、うちのケイラも舐めないでいただきたい。


 ケイラの頭の回転の速さも当然並ではない。


 お前の計画通りに進められると思うなよ、フリースナイ。


 …………と、思っていたけどヤバくない? その作戦。


 主に俺が。


また十話ほどたまったら投稿します。


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