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聖女の邂逅

前話のタイトル変えました。

お気付きかもしれないですが「とりあえず〜ない?」はリオン視点のものなんですよね。

忘れてましたw

 砂埃があたり一帯に漂っていた。


 その渇いた空気が私の体内にある水分を吸い上げて、そんな渇いた喉の奥から出たのはどうしようもないため息だった。


「はぁ……」


 腰より少し下がったところにあるものを手で払うと、ボロボロになった木のベンチが姿を見せた。それに座ってみたものの、疲れは取れるどころか、疲労感だけを上乗せされたような気がした。


「……いたっ」


 ぼぉっとした頭で何気もなくベンチの上を手で掃除していると、どうやら欠けた木くずに指が引っかかってしまったようだ。チクッと痛みがした。


「ヒー……」


 回復魔法を唱えようとして、周りを見て、やっぱりその口を閉ざした。


「どうして……。こんな……」


 目の前の光景がまるで現実的には見えなかった。


 つい一週間前までは、地元の子供たちと一緒に遊んでいた、憩いの教会だったはずなのに。


 ちっぽけな教会だったが、いろんな悩みを抱えた人達が祈りを捧げに、神様に願いを聞いてもらおうとしていた神聖な場所だったはずなのに。


 教会の半壊した壁から流れ込んでくる粉塵が、私の頬をチリチリとなぞる。


 もう一度下を向くと、赤い染みが気になった。ほんの少し前までは無かったものだが、その場所にあって当然のように乾こうとしているのが、私をさらに憂鬱にさせた。


 そんな私の足下にふと影が差した。


「……ここも酷い有様だな」

「え?」


 ふと聞こえてきた言葉に顔を上げると、大きな鎌を持った女性が神妙な顔つきで私を見ていた。


 これが初めての邂逅だった。


「レ、レーナ様!?」

「様、なんていらねぇよ。疲れてんだろ? これ、飲むか?」


 レーナさんが差し出したのは普通の水だった。その水を私が受け取ると、彼女はドサッと乱暴に私のすぐ横に腰を掛け、足まで組んだ。


 噂通り、一般的な聖女のイメージとはかけ離れていた。しかし、それと同時に様にもなっていた。たしかに聖女らしくないかもしれない。けど、彼女の場合は不思議とその態度がらしいと思えた。


「え、えっと……。ど、どうしてここにレーナさんが?」

「そんなかしこまんなって。別に、ちょっくら近くの街で起きたクソみてぇな騒動を潰してきて、その帰りってだけだ」


 レーナさんはその日、どこかの都市で起きた暴動を止めるために駆り出されていた。それを止めたということは当初の目的を達したはずだった。なのに、彼女が私に見せた表情は喜びより、むしろ苛立ちの雰囲気を感じた。


 後で聞いた話によれば、その都市で暴動を収めたあと、どうやら元聖女候補と久方ぶりに対面したらしい。それを追跡しようとした所を周りに止められ、そしてそのまま逃げられたみたいだった。


 彼女とこうして初めて対面したわけだが、どうやらレーナさんは自分の感情を表に出さずにはいられない人のようだ。


 自分の感情に蓋をし続けている私とは、まさに真逆に位置する人だった。


「それよりも、アンタの噂は聞いてるぜ」

「え?」


 突然振られた言葉に横を向くと、レーナさんは遠い空を眺めていた。


「自分で言うのはなんだけど。俺が聖女だなんて、似合わねぇよなぁ?」


 そんなことありませんよ、そう言おうとしたが、彼女の鋭く尖った目に、嘘は通じないことは明白だった。開けた口をゆっくりと閉ざすと、レーナさんは私の全身を値踏みするように眺め、すぐに自嘲の笑みを浮かべた。


「その点、アンタはまさに聖女としての理想って感じだな。こうして会ってみると、確かにわかる」


 どうやらこの時から、私は教会の中でも有名になっていたらしい。


 回復魔法の使い手であり、学園で【聖女】と呼ばれていた人物がいる、と。そして、まさに教会の代表としてどこにも恥ずかしくない人だ、と。


 そして、それは当然レーナさんの耳にも入っていて。


「……そんなアンタに聞きたいことがある」


 レーナさんは私の目を見た。いや、正確にはその目の奥にあるものを見た。


「今の現状を、アンタはどう思う?」

「ど、どう思うとは……?」

「今回の一件の中心にいる俺が言うことじゃねぇのはわかってんだけどよ。アンタはどう思ってんのか聞きたくてよ。今回の騒動について」


 別に俺のせいにしても構わねぇよ、とレーナさんは笑って付け足す。


「……私は」


 私は一瞬の逡巡のあと、覚悟を決めて顔を上げた。


 私とレーナさんはまるで考え方も生き方も真逆な人だ。だけど、この人ならわかってくれるかもしれない。私と真逆な人だからこそ、そんなレーナさんだからこそ、話してもいいんじゃないかってそう思った。


 どのみち、この先度々レーナさんと会う時があるだろう。レーナさんの目は私の中の根源を見ようとしている。であれば、今隠したところでいずれ見透かされる。なら、早い方がいいかもって。


「私は――」


 そう、思ったのに。レーナさんから返ってきた言葉は。


「――最っ悪だな」


 初めての邂逅で、私たちは決別した。




 ☆★☆




 あの日から、レーナさんは私に話しかけなくなった。いや、もともと話をする間柄ではないので、それもそれで変なのだが。要は、レーナさんは私への興味を失った。


 抗争の間で、見かけることはあってもレーナさんはもちろん、私もレーナさんに声をかけなかった。


 そのときからわかっていた。いずれ、こうして私の前に、私たちの前に立ちはだかることは。ある意味必然だったとも言える。


 けれど、当時はそのことについてレーナさんとも話す余裕がなかったのも事実。もしかしたら、そこで話し合えていればこんな結果にはならなかったかもしれない。けど、未だ続いていた内戦がそれを許さなかった。


 状況としては、こちらがどんどん追い詰められていく構図だった。


 そして、その理由も明白だった。


「ま、守りすぎですかね……」


 当然ながら、私たちはそもそも戦闘集団では無い。決して戦う力が欲しいがために祈りを捧げているのではない。


 どちらかといえば、人々の願いを守るために祈りを捧げている。だから自然と私たちは防御系の魔法ばかりを唱えていて。要はつまり、私たちには攻める手段がなかったのだ。


 私もそうだが、攻撃よりも防御の魔法の方が性に合っている。というよりも、攻撃魔法を得意としているなら軍に所属している。


 スポーツにおいて、どれだけ点を取られなかったとしても、こちらも点を取れなければ勝敗はつかない。いや、こちらに点を取れる選手がいない以上、引き分けはあっても、勝ち目なんてあるわけがない。


 当時、こちらに所属している、点を取れる選手はレーナさんだけだった。


 それに対して、反乱側はどこかの軍の迎撃部隊やら、暗殺者や殺し屋達を雇ったようで、攻撃手段を確保していた。


 それだけでなく、かつては、聖女候補にも選ばれるほどの実力者達が率いているだけあって、私たちに勝るとも劣らない防御魔法を習得していた。こちらが不利になるのも仕方の無いことだった。


 こちらがそれでもなんとか食らいついていけてたのは、皮肉にも問題の渦中にいる、レーナさんの存在が大きかったのは間違いない。けど、レーナさんの力だけではあまりにも数に差があった。


「私達も増援があればいいんですけど……」


 誰かが言った言葉に、誰もが頷いていたが、全員が渋い顔をしていた。


 国は当時、いや、世界は滅亡の危機に瀕していたのだ。


 当時世界各地で異常な魔物の大量発生が起きていた。まるで、世界のバランスが崩れたみたいに急な事だった。


 本来出現するはずがない魔物が発生したり、その地域を統括しているはずの主と呼ばれる魔物が姿を見せなくなったことで、魔物らが暴走を始めたり。


 もはや内戦なんてしている場合ではない状況だった。国からも早くそちらの問題を解決して、世界に協力してくれと言われていたくらいだ。互いに協力を求めていたのだが、優先順位て争ってばかりで、一向に事態は進まない。悪化していくばかり。


 それに対し元聖女候補たちは、どうやら自分たちが原因で世界が終わってしまっても、レーナさんが聖女にならなければ、どうだっていいとさえ考えていたようで、手を緩めるどころか、むしろ今がチャンスとばかり私たちの本陣に攻撃を始めた。


「国にも頼れない。まさに行き詰まりって感じですね」


 それからというもの、私たちは急速に敗戦を重ねていった。


 最初は少しの差だったものが、いつしか大きな差となっていて。私たちがやっていたのは、ただの時間稼ぎ、それも完全な敗北を示す、白旗を上げるまでのただの時間稼ぎにしかならなかった。


 そんなもはや結果の見えた戦争を無意味に続けているときだった。





 ☆★☆




 ――ぅぉぉおおおわぁぁあああ!?


 空から声が聞こえた。


 私が元聖女候補の1人と一進一退の戦いをしている最中だった。


 私と相手の間に落ちてきた不思議な四人組は、まるで空気を読まない明るさで話し始めたのだ。


「死ぬ……。マジでこれ以上は死ぬ……」

「人間、そんな簡単には死なないわよ。安心しなさい」


 どこかで聞いた事のある声だと思いながら、私と元聖女候補はその集団に目を向けた。


「つうか、なにこれ? どういう状況?」

「どうやらお取り込み中のところに落ちてきたみたいだぞ?」

「ふざけんなよ……。俺をこれ以上疲れさせんな」

「何言ってんの、リオン! リオンが一番寝てたんだから、一番元気じゃない!?」

「テメェはバカか? いや、バカだったな。いいか? 俺は寝てたんじゃない。二日間まるまる気ぃ失ってんだよ。わかるか? その俺がなんで、起きてすぐに自然落下を体験しなきゃいけねぇんだよ! まだ傷が癒えてねぇのがわかんねぇのか!?」

「……じゃあ傷が癒えてたらいいのよね?」

「はぁ?」


 見覚えのある女性が私を指差した。


「ほら、そこにちょうど回復のエキスパートがいるんだし。回復してもらえばまたすぐに戦線復帰できるわよ」


「ふざけんな!?」と、横の男性の怒りをガン無視した女性は、私がかつて見た事のある人だとは思えないほど垢抜けた顔をしていた。


 そんな彼女が、まさか私を憶えていてくれただなんて。


「【聖女】シュリ。あなたなら、私よりも回復魔法に長けているでしょ?」

「……ケイラ、さん?」


 それが、【神の心臓】との初対面だった。



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