第運話 デスティニーしぐま 其ノ壹
『運』命の名の下に、彼女らは動きを見せていた。
真実を司る者は蒼き炎を従えて地球へ。
侵略を企む凶悪侵略者は悪しき作戦を抱え地球へ。
侵略を阻止する正義を振りかざした宇宙人もまた―――地球へ。
「えーっと……せいら? だったかな……せいらと言っていたような、そんな気がします」
001
無作為シグマに出会ったのは中学二年生から中学三年生に上がろうとしている春休みのことだ。中二の終わりに俺の前から忽然と姿を消した我が偉大なる恩師とほとんど入れ替わる形で、彼は俺の前に突然と姿を現した。別に彼があの大先生の生まれ変わりなどとは微塵も、毛ほども思っていないし、そもそもそんなのはあの恩人に対する愚行でしかないのだが、しかしこのシグマとかいう男もまた、俺の恩人のうちの一人に加わることになろうとは、当時の俺は考えもしなかっただろう。なんせ彼との出会いは衝撃的ではあったが別に奇跡的ではなかったし、なんなら初対面での第一印象は本当にただの怪しいおっさんというイメージしかなかったからである。そもそも向こうのアプローチが下手だったのだから、あの時の疑心秋状態に陥っていた俺の前にあんな格好で姿を現したら通報するのも当たり前という話である。これについては全面的にあいつが悪いと言えよう。
ところで、彼はもはや宗教か何かにハマったのかとでもいうぐらい運命という物に拘っている。よく彼が口にする『運命』という言葉を耳にするたびに、胼胝ができるほどその言葉を耳にするたびに、俺はまたかとうんざりする。運命だなんて曖昧な概念を、表面上では格好よく聞こえるがしかしその実は結局運任せでしかないような都合のいい大義名分を、彼はまるで座右の銘であるが如く口にする。運命に逆らうな、運命に従え、運命を変えろ、運命は決まっている―――そんな馬鹿の一つ覚えみたいに連呼されると、ひねくれ者の俺としては何が何でも運命なんて物を信じたくなくなるわけだが、しかしその行為も、シグマに言わせてみれば別に間違ったものではないらしい。
「運命に抗うな。だけど従いたくないんだったら、君の手で変えればいい」
運命を変える。
それがどれほど大層なことかは想像に難くない。ましてや何の能力も持ち合わせていない無能力者の俺が運命を一つ変えようだなんて、それこそ群衆から後ろ指を差されて笑い者にされてもおかしくない。俺だってそこまで身の程知らずではないし自分の力量を見誤った覚えはない。
ただ。
それでも、変えてみたいという思いがあれば、変える力はなくとも変える意思さえあれば、少しは俺の運命も変わっていたのかもしれない。少なくとも齢十五という人生の五分の一すら生きていないような若さで命を落とすような事態は避けられたのかもしれない。そう考えると、普段から宗教なりなんなりといった信仰的な類を虚仮にしてきた俺への、これは天罰とも言えるのだろう。
信じる者は救われる。
そんな、どこかの宇宙人が聞いて呆れるような教えを、神は俺に説きたかったのかもしれない。