第初話 エイリアンりく 其ノ壹
高校生活最初の夏休みを満喫するべく初日から宿題を片付ける新垣リクと幼なじみ達。しかし彼らが風呂場で『初』めて目にしたそれは、およそ地球の常識が通用しない謎の生命体で―――!?
「話半分なんて都合がよすぎるんだよ。半分も信じる必要なんかねえ。九割は疑ってかかった方がいいな」
001
新垣リクは無能力者だ。残念ながらどう取り繕ったところでその事実は変わらない。無能力者はどこまでも無能力者であり、力無き者はいつまでも力が与えられない。無能力者とは言っても学校での成績はそれなりにいい方だし、運動は苦手な部類だが見様見真似の筋トレのお陰で多少は肉付きのいい体格になっているし、家が貧乏なわけでもないし、妹はいるし、家事は一通りこなせるし、別に全てにおいて何一つ持ち合わせていないわけではなく、しかしそうは言ったところで、結局能力所持者ではない時点で、新垣リクという人間が無能力者であることに変わりはない。この世界において能力所持者より無能力者の方がそもそも圧倒的に多いので劣等感を感じる必要はないしなんなら能力所持者の方が珍しいとさえ言えるのだが、自分の周囲に能力所持者が、それも各系統のエキスパートであるG級能力所持者がごろごろ集まっている状況を顧みると、やはり能力所持者が羨ましくもあるし、妹でさえ持ってして生まれたその能力が何故自分には与えられていないのか、落ち込むよりも先に深く考えることがある。ただ今までの十五年間を振り返ってみれば、やはり俺におよそ能力と呼べるものは備わっていなかった。ビームが打てるわけでもなく、全ての攻撃を跳ね返せるわけでもなく、天才的な頭脳を持ち合わせているわけでもなく、異能を打ち消す右手などもちろんフィクションの話に過ぎなかった。何が起こったって一方には焼き尽くされるし、もう一方には電撃的な思いをさせられるし、妹には淫靡な夢を見せつけられるし、妹の友達には幾度となく切り刻まれそうになる―――こうなってくると、この不幸な体質そのものがもはや能力なのではないかとさえ思えてくる。
もちろんそんなわけはないのだが。
畢竟、俺には何の力もないのだ。散々回りくどく話したところで結局終着点はそういうことになる。だからもし、俺の身の回りで何かトラブルが、それも命に関わったりバトル展開になりうるような状況が起こった時、俺は苦言を呈しながらも、周囲の能力所持者に助けを乞う羽目になるのだ。そのくせ変にお人好しな俺は、困っている人がいれば何とかしてあげたくなってしまうし、助けてあげたくなってしまう。自分で起こした事態の後始末もろくに出来ないくせに、誰かのためなら自分が無能力者であることも忘れて容赦なく事件に介入していく。救いの見込みがなくても、少々の奇跡を信じて図々しくも甚だしく足を踏み入れていく。傍から見れば愚か極まれりと後ろ指を差されて笑われるかもしれないけれど、それでも俺は困っている人を見て見ぬ振りするような真似をするくらいなら危険を顧みず突っ込んで行ってしまう。実際そのせいで、俺は春休みにはとんでもない目にあって危うく高校の内定を取り消されそうになったわけだし、向こう見ずもまさにここまでくると度し難いものがあるだろう。
多分、俺は生まれつきそういう人間なのだ。
だからそう、例え地球外生命体が何かに困っていたとして、宇宙人が何かのトラブルを抱えて悩んでいるところを目撃してしまったら、きっと俺は手を差し伸べてしまうのだろう。何ができるわけでもない無能力者の癖に、新垣リクは、ヒーロー気取りで格好付けて俺に任せろなんて言ってしまうのだろう―――或いは。
そんなお人好しな性格そのものが、既に能力なのかもしれない。