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 そう。はずだった。

 しかしその時、


「!?」


 暗転しかけた意識の中、何かが千切れたような感覚があった。続いで、何かが壊れる音。

 そして、落下するような感覚。


「うぐっ!?」


 気がつけば、俺はまた床上に転がっていた。

 何だ? 何が起きた?

 ん? 手に何か……

 それは電灯だった。

 あの時、半ば無意識で掴んだ電灯だ。

 よく見ると、フードが欠けている。

 確か、さっきまではそんな事なかったんだが。俺が引きちぎった後、床にぶち当たったんで欠けた?

 と……俺のそばで、妙な気配がした。

 倒れた真由と……宙に浮かぶ仮面。


『は……はは……よくもやってくれたな。それで殴るなど、想定外だったよ』

「へ? 殴る?」


 そんな事は……そうか!

 電灯が引きちぎれた時の反動で、結果的に真由を殴ってしまったのか。で、倒れたショックで仮面が外れたとか?

 藁でも掴んでみるもんだな。

 が……真由は無事なのか?


『それに……こんな物があったとはね』


 忌まわしげな“声”。

 何かが仮面の額のあたりから落ちた。

 翠色の、小さなひし形の石。あれは……真由のペンダント。彼女の祖母の“願い”が篭った……

 どうやらそれが仮面に当たり、ダメージを与えた様だ。おかげで真由はヤツから解放されたのか。

 けど、まだ終わっちゃいない。


『だが、ここまでだ。散々手こずらせてくれたな』


 強烈な怒りのオーラ。

 ペンダントによって出来たと思われる、新たな仮面の傷。

 それは、仮面に何ともいえない凄みを与えていた。

 あ……ダメだ。

 もう指一本動かん。

 仮面は俺に近付いてくる。そしてその下に現れる、揺らぎ。

 揺らぎはやがて女の姿をとった。

 髪を振り乱した、褐色の肌の女。

 そうか。これが“ヤツ”の生前の姿か。

 と、その手がマスクに伸びた。

 その口のあたりから取り出したのは、小さな黒い石。

 その石の先端は鋭く尖り、まるで刃のようだ。

 あれは……何だっけ?

 ああ、そうか! 黒曜石か!

 確かナイフの様に鋭くなるんだっけか。

 それで、俺を……

 ダメだ、逃げないと。このままじゃ……

 だが、身体が動かない。

 血を流しすぎたか。

 それに、気力も体力も、もう……

 起き上がるどころか、腕を動かすことも出来ん。

 と、その時、

 リビングに差し込む、柔らかな光。

 朝、か。

 そんなに時間が経ってたか。けど、無駄な抵抗だったのかも……

 と、“ヤツ”の動きが止まった。


『まさか……夜が明けただと!?』


 どうしたんだ?


『いかん。このままでは……』


 焦ってやがる。何があった?

 見ると、“ヤツ”の身体がぼやけつつある。

 どういう訳か知らんが……日光の下ではあの身体は維持できんのか?

 そういや昨日も“文さん”は、日光の当たらない場所にいたしな。

 幽霊が日中に現れないのと同じ理屈なのかもしれん。


『……お……おのれ! 後少し……後少しで!』


 タイムオーバーか。

 欲張りすぎたのが失敗だったな。とっとと俺の喉かっ切っときゃこうはならんかったのに。

 いや、それだと復活するのに“力”が足らんのかな?


『ただでは消えん!』

「……へ?」


 ヤツは黒曜石のナイフを手に、俺に迫る。

 え? ちょっ……

 俺に迫るその身体は、次第に色を失い、崩れていく。

 しかし、その指先だけは、形を失わない。

 そして、とうとう喉元に……


「拓クン!」


 誰かの声。

 そして仮面に何かがぶち当たった。


『あ〜〜〜っ!』


 女の“絶叫”。それは、断末魔だったか。

 仮面は床に落ちると、乾いた音を立てて砕け散った。

 ばらけて散らばる緑色の石と、骨と思しき茶色ががった灰色の塊。

 そして、塊は朝日の中で崩れ、砂の様になった。

 助かった……

 一つ息を吐く。

 そして、横に転がるのは……さっきの電灯か。あれを投げてくれたのは……


「拓クン……」


 真由、か。


「ハ……ハハ。良かった、無事で……」


 身体張った甲斐があったというものだ。


「拓クン!」

「〜〜〜っ!」


 彼女は俺を抱きしめた。

 俺の全身が悲鳴をあげたのは、言うまでもない。



――後

 その直後に気を失ってしまった俺は、数日後ウチの大学の付属病院で目を覚ました。

 結局あの夜の事は、俺と真由しか覚えていなかった様だ。

 真由は自分で罪を被ろうとしたらしいが、証拠も揃わないために警察も扱いに困ったらしい。

 そしてしばらくして、どういう訳か分からないが、皆お咎めなしで解放された。

 まぁ、別に人が死んだって訳じゃないしな。せいぜい俺が死にかけたぐらいで。

 後、捜査の過程で床下からミイラ化した遺体が見つかったりしたんで、それどころじゃ無かったってのもあったらしいが。

 何でも、何代目かのオーナーの家族が行方不明になってたという話だ。しかも、事件性ありとか。

 ある意味、そっちの方が怖いか。

 というか、そういう下地があったからこそあの仮面に変な“力”が宿ってしまったのかもしれん。

 恨みやら何やらを、あの仮面が吸収して……。

 まぁ……ともあれ。みんな無事で、何よりだ。

 目覚めた状況が状況だったんで、色々ゴタゴタがあったよーだが。

 ……俺は知らん。



――病院の屋上

 俺と真由は並んで街を眺めていた。

 俺はあちこちに包帯巻かれて半分ミイラ。

 真由は頭に包帯を巻いている。電灯で殴ってしまった傷跡だ。

 しばしの、沈黙。

 真由は、そっと手にペンダントを握りしめる。


「ねぇ……拓クン。別れましょう」

「……へ?」


 ななな何をいうのか、この人は。

 俺、何かマズい事やらかしたっけ!?


「今回の事……もしかして、私のせいかもしれないから」

「……へ?」

「『器になるべき肉体』って言ってたでしょ? 多分、私があそこに行ってしまったから……」

「どゆコト!?」

「私の祖母は……」


 彼女の話によれば、その母方の祖母は、メキシコのインディオの出らしい。それも、司祭者の家系との事だ。

 つまり……あの仮面の同郷って訳だ。

 だから自分を“器”として選んだのではないか、と。

 そういえば、“ヤツ”は他の連中には目もくれず、真由を選んだな。きっと彼女には、そういう“資格”があるって事だろう。

 けどさ……


「幾ら何でも考えすぎだろ。そもそもあそこに行こうって言い出したのは、俺だろ? だとしたら、俺のせいって事になるんじゃないのか?」

「そう……なっちゃうのかな?」

「そうさ。そもそも真由だからこそ、何が何でも助けようって思ったんだぜ? 他のヤツだったら、あそこまでやれたかどうか」


 ちょっとばかし恩着せがましいが……彼女から離れるのは、ゴメンだ。


「そう、ね。でも、本当にいいの?」

「そりゃあ……」


 なら、口よりも行動だ。

 強引に抱き寄せ……


「〜〜〜!!」


 ……そうしたはいいが、またしても全身の痛みに悶絶したのは言うまでもない。

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