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――どことも知れぬ場所

 何とも言えないほど気持ちがいい。

 俺の腕の中には、柔らかい身体。


「真……由」


 それを掻き抱き、名を呼ぶ。


「ン……拓君」


 彼女の腕が、首に回った。

 そして濡れた唇が、俺の口を塞ぐ。そして唇を割って、舌が侵入してきた。

 いつもより積極的だな。

 俺もまた、舌を絡め……

 ああ……心地いい。

 ずっとこうしていたい気分だ。

 と、唇が離れた。

 唾液が糸を引き、切れる。

 そして俺は……ン?

 まじまじとその顔を見る。


「!」


 真由……じゃない!?

 その、顔は……


「文さん!?」


 俺を見た彼女は、普段から考えられない様な淫蕩な表情をしていた。


「そん……なっ!?」


 思わず彼女から身を離す。

 何故こうなった!?

 俺は、確か真由と一緒のベッドに寝てたはず。

 一体、何故……



 「……!」


 と、そこで目が覚めた。

 耳を打つ雨の音。そして、雷。

 ここは?

 周りを見回す。

 さっき寝た、コテージの一室だ。

 夢、か……

 額の汗を拭うと、一つ息を吐く。

 う……む。

 久々に文さんと会ったんで、あんな夢見ちまったのかもな。真由が側にいるのにさ。少々気まずい。

 おっと、そうだ。

 寝言、聞かれてないよな?

 恐る恐る横を見……あれ?

 彼女の姿が……見えない。

 え? ちょっ……

 慌てて跳ね起き、布団を跳ね上げて隣を見る。

 俺の隣には、誰もいなかった。

 そんな、まさか……

 一気に目が覚めた。

 ベッドから飛び降り、周りを見回す。

 が……


「いない!? そんな……」


 あんな夢を見ちまったせいか、イヤな予感がする。

 そして、開け放たれた扉。

 ……どういう事だ? イヤな予感がする。

 慌てて廊下に飛び出した。

 トイレとかならいいんだけどな。

 などと思いつつ、廊下を早足で歩く。

 にしても……何だ、この匂い。

 何というか……妙に甘ったるいような匂いをかすかに感じる。

 どこかで嗅いだような?

 いや、それよりも真由だ。

 確か、二階のトイレは階段の脇。

 ……が、


「ここにもいない、か」


 電気は消えたままだ。ドアを開けて見るが……やはり、いない。

 じゃあ、どこに?

 ……ちょっと待てよ。

 男連中の部屋に行ってたりとかしないよな?

 た……多分大丈夫だとは思うが。多分……

 それよりも、下のトイレ行ったとか? たまたまその時点で誰か入ってたとかで。

 あるいは風呂場とか?

 階段を慌てて降り……

 ……いた!

 廊下をリビングへと向かってフラフラ歩く真由の姿。

 ホっとしつつもすぐさま駆け寄り、思わず背後から抱き止める。


「真由! どうしたんだよ!」


 あっ……少々マズった気もする。寝ぼけてる所にそんな事やっちまったら……


「え? ……拓クン?」


 おっと、助かった。悲鳴を上げられたら、かなりマズい。


「あれ? 私……何でこんな所に?」

「トイレにでも行こうとしてたんじゃないのか? でも、そんな格好で出歩いたら……」

「え?」


 彼女は自分の身体を見下ろし……


「きゃ……ムグッ!?」


 おっと、危なぇ!

 慌てて彼女の口をふさいだ。


「ダメだって。誰かに見られたら……マズいだろ?」


 俺の言葉に、彼女はコクコクと頷いた。

 助かった……

 パンツ一枚。それも少々アブない所までずり下がった有様だ。

 その彼女の姿を見られる訳にはいかん。

 とは言え別にコレは、寝る前に何かしてたってわけじゃない。ただ単に、彼女が着替えかけたところで力尽きて寝てしまっただけだ。

 何か着せとけば良かったが、俺も疲れてたしな……


「とりあえず、コレ着て」


 着ていたTシャツを脱ぎ、渡す。

 彼女はいそいそとそれを着る。

 と、胸の谷間で揺れる、翠色のペンダント。

 祖母からもらったお守りだとか言ってたっけ。


「ありがとう。でも、何が何だか……」


 シャツを着終えた彼女が、ペンダントを握りしめつつ不安げに俺を見る。


「いや……俺にも分からん。目が覚めた時、隣に真由ちゃんがいないから気になって……」

「そう……。でも、私は……。もしかして、夢遊病なのかな?」


 戸惑ったような彼女。


「とりあえず、部屋に戻ろう。誰かに見られちゃマズいだろ? こんな格好」

「そ……そうだね」


 下着にシャツ一枚。それに7月とは言え山間部だけに、少々夜は冷える。

 俺達は足音を忍ばせて階段を登ろうとし……


「…………」


 リビングの方から、声が聞こえた。

 ン? まさか……


「あれって……」


 頰を赤らめた彼女。

 やっぱりそうだよな……

 明らかに、“して”いる声だ。それも、一組じゃない。

 オイオイ、やめてくれよ……。俺は疲れ果ててるってのにさ〜。

 酔っ払った挙句に色々やらかして、翌朝ゴタゴタ起きたらシャレにならん。

 いやまさか、連中は昔っからあんなコトやってたとか?

 それはともかく、どうする?

 いや、その前に……

 まずは真由を部屋に返さねば、と振り返る。

 ン?

 虚ろな目の彼女。


「……どうした?」

「行かなくちゃ。呼んでる」

「“呼んで”? お……おい」


 そう言い置くと、彼女はリビングに向かって歩き出した。


「待てよ、真由!」


 慌てて追いかける。

 まさかあの中に加わろうってのか?

 いや、それは……それだけは止めてくれ!

 すぐに追いつき手を引く。

 が……


「!」


 かえって俺が引っ張られてしまった。

 何だ、この力。

 普段の彼女からは考えられん。

 おかしい。

 いや待て。それだけじゃない。

 ここに着いた時から、何かおかしかった。

 まずは、俺を出迎えてくれた文さん。

 あれは……俺が高校生の時の姿。

 今は、三十そこらのはず。高校以来会ってないんで今の姿は分からないが……全く同じって事はないはずだ。

 何故あの時、違和感を感じなかったのか?

 それに……あの果実。

 あれは一体何なんだ?

 あれを一口かじった時のあの感覚。あれは、アルコールによる酩酊じゃない。もっと別の何かだ。

 いや、その前に真由を止めんと……

 だがいくら腕を引いても、彼女は足を止めない。

 そして、とうとうリビングのドアに手をかける。

 ドアが開いた先には……

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