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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役令嬢、船に乗る

注意:この物語には性的、残酷な描写が多数含まれておりますので、それがダメという方はブラウザバックをおすすめいたします。

「ああクソッ、なぁんで私がこんな目に遭わなきゃいけないんだ!?なんも悪いことしたおぼえなんてないってのに!?」


 硝煙に加えて焼けた肉、そして喉に絡みつくような甘酸っぱい反吐のにおいが混ざった煙に咳き込み、血糊や肉片その他によってヌルヌルと滑りやすくなったうねりに揺れる甲板で転ばないように踏ん張って舵輪を握り、そして時折降り注ぐ木っ端と後なんかよくわからない物を頭の上から浴びながら、私は心の中でそう絶叫した。



 絶叫した場所は、軍艦の艦尾甲板。そしてその軍艦の名前を『テルミドール』という。そしてテルミドール号は、現在進行形で悲惨な状況下にあった。

 背後に回った敵艦から猛烈な片舷斉射を艦尾から撃ち込まれたのである。砲弾が命中すると、その度に誰かが死んだり傷ついた。砲弾に触れた男達は、ひき肉のように粉砕され、或いは瞬時にはらわたを引きちぎられ、上半身と下半身を悲しむまもなく別れさせられた。またある者は吹っ飛んできた材木によって串刺にされた。

 帆はズタズタに引き裂かれて無数のロープが垂れ下がり、普段磨き抜かれていた甲板は、今やささくれ立ち、あちこちに血溜まりができていた。破壊された砲や索具、その他のよくわからないガラクタが散乱しており、そこかしこに負傷した者や物を言わなくなった死者が転がり、無事な者によって最下層甲板へとひっきりなしに運ばれていった。

 ちらりと視線を移すと、そこには広大な戦場が広がっていた。あらゆるあらゆる角度で敵味方の艦が入り乱れていた。海上にはたくさんのボートが浮かび、砲を打ち合っている艦のまわりには水柱が何本も林立していた。

 

 私は苦虫をかみつぶしたような顔をしつつ、どうして自分がこんな所にいる羽目に陥ったのか、取り敢えず現実逃避をかねてこれまでの人生を振り返ってみることにした。













 私には不思議なことに前世の記憶というものがある。・・・おいそこ、テンプレ乙とかいうんじゃない!俺だって好きで説明したい訳じゃないんだよ!


 コホン・・・さて、前世の頃の私は・・・実に、平々凡々といった人生を歩んでいたと思う・・・。少なくとも、一族が代々暗殺者の家系だったとか、目からビーム出したりするような正義の味方だったとか、別にそんな事はなかった。普通の家に生まれ、普通に成長し、普通にFラン大学生になり、とある地方都市の中堅企業に運良く潜り込んで、普通に会社員となった。で、普通に下っ端の営業職で毎日ひーこらいってた人間だから。成績も決して良い物じゃなかった。


 趣味らしい趣味も、せいぜいがニヤ動とかでゲーム実況を見るのが好きだとか、ネット小説を読みふけるとか・・・後は、エロゲとかするのが好きだったかな?まぁ、そんな感じのオタクよりの普通の社会人だったと記憶している。間違っても格闘技とかに手を出したことはない。

 


 死因だってぱっとしないもので、トラックにはねられたわけではなく、電車に刎ねられるという希に良くあるごく普通のことだった。別に人事部にいて解雇した元社員から恨まれて突き飛ばされたとか、別にそんな事はなく、大分酔っ払っててあんまり良く憶えてないんだけど、ホームに落っこちたって言うのと目の前にすごいスピードで光が迫ってきたことは鮮明に覚えている。・・・なんか思い出したら気持ち悪くなってきたな。



 記憶が戻ったのが確か7歳になったばかりのこと。普通の転生だったら赤ちゃんの時にはすでに自覚を持ってったりするものなのだけど、私の場合は酒をちょっと呑んで倒れた時という、実に締まらない覚醒だった。その時になって、ようやくここがかつて自分が生きていた世界とは全く違う世界にいたこと、生まれ変わってしまったこと、そして、自分がどういった人間なのかを理解することになる。はっきり言って遅すぎると思うんだが・・・今更なんだから仕方ない。


 私が転生したのは、昔のヨーロッパっぽい国のとある貴族の家だった。広大な領地を持ち、歴史も王国の成立期から黎明と続く由緒正しき大貴族。その次女として生を受けた。所謂TS転生って部類に入ったらしい。記憶が戻った当時は女になったってことでそれなりに葛藤した物だが、暫くすると色々とあきらめが付いた。既にこれまで生きてきた7年分の記憶を持っていたこともあって、精神的にも女性よりになっていたみたいだ。

 通常ならば、内政に口を出したりして俺tueeなんてことができるらしいのだが、残念ながら私にはそんな才能はどうやら皆無だった。取り敢えず農業をやってみたらいいらしいのだが、農業経験皆無の私はそんな知識は持っていない。何?朝顔の観察したらいいの?

 味噌?醤油?・・・大豆から作るのは知っているけれど作り方なんざ知らん。つか、そもそも大豆なんて影も形もありゃしない。

 武術?高校くらいの時にちょっと囓ったことあるけど・・・いや、あれは武術とは言えないしノーカンか?と言うか、基本戦場に出ることのない女に何期待しているんだ?

 魔法?魔法のまの字もありゃしないよ。というか、魔法なんて使えたらその時点で魔女認定で火あぶりよ?


 そんなわけで、折角いいお家柄に生まれたし、人生イージーモードだなと思っていたんだが、そうは問屋が卸さなかった。さっきも説明したとおり、私は上級貴族の生まれだ。しかも時代背景は魔法こそ無いけれど中世というか、近世といった感じの時代だった。いやだって、ベル○ラって昔の少女アニメに出てきそうな服装してたし、ヨーロッパでは育成が難しい胡椒とかの香辛料が山ほど食卓に並んでるんだもん。多分、騎士の時代じゃないんだろう。

 その時代ってな?まだまだ貴族が政治の中心なんだよ。そんな時代の貴族の子女の役目は何かって言うと、たったの一つだけ。『良家に嫁いで、そこで子供を産むこと』・・・これだけ。昔、女性は生む機械とかいってボロクソにたたかれた政治家がいたけれど、マジでそういう時代だからな?で、そういう女性に求められるのは、完璧な淑女としてのマナー。それこそ、ダンスの練習から紋章学、修辞学、テーブルマナー、挙げ句の果てには詩に対する批評その他まで色々と勉強しなきゃいけないもんだから、結構忙しい。丁度、小学生の時分から塾に行ったり習い事したりしているのと同じだ。そのくせして計算とかは教えないんだからなんだろうな?


 それも高貴なる義務の一つって事らしいし、私もそれなりに努力したんだぜ?まぁ、子供だったし、そもそも記憶も戻ってなかったし他に方法もなかったしね。まぁ、どんなに頑張ってもほめても貰えなかったけどね。というか、両親とは殆ど顔を合わせた記憶はない。基本で駆けたりしている。父者は山へ柴刈りに・・・ではなく領地や王宮へ。母者は他の貴族の家かサロンへいっているらしい。・・・ああ、両親の行き先はもう一つあったな。お互いの愛人の家だっけ?



 ・・・この時代って基本的に高貴な家の結婚って政略結婚なのよ。だからまずは爵位やらの家柄が大前提なわけ。だから、必ずしもお互いがお互いをすいているというわけではない。なので、お互いに愛人を持っていたりすると言うのがこの時代の貴族クソリティーである。だから、父者も母者も子供のことなんかあまり興味はないらしい。以前聞いてみたら頑張っても当たり前なんだと。ちなみに私の母者は正室で、上に兄貴がいるんだが、父者は他の家から側室を何人かもらっいるとか言うドスケベ野郎で、母者も母者で若い男爵と浅からぬ仲なんだとか・・・・・・訳が分からないよ!?



 そんな仮面夫婦の下に生まれたのが私というわけだ。衣食住に困らないのは良いけど、正直精神的に辛いわ。ちなみに兄貴や姉貴どもはごく普通のことと思っているらしい。・・・やるな!というかこの場合は私の頭がオカシイのか?

 いや、それだけだったら我慢はできた。食っていくには困らないからな・・・だが、この後の未来が最悪だったと言えるのかも知れない。いや、別に私はエスパーじゃないから未来視なんてできはしない。でも

私は未来を知っている・・・勘の良い奴は分かったかも知れない。そう、大体こういうのは過去や自らの知る世界への転生と相場が決まっている。私の場合は、後者だった。


 『Le Noble Amour ~炎に身を焦がして~』っていうゲームがあった。内容は、ヨーロッパな世界のとある王宮を舞台としたもので、王家の血こそ引いているものの、没落した子爵家の娘が婚約者達の有形無形の妨害を突破(物理)して王太子を初めとするイケメン共を攻略していくとかいうよくあるシンデレラストーリー的な恋愛ゲームだった。


 男だったのによく知っているな?ああ、そりゃそうさ。だって私もプレイしたことがあるからな。何しろこのゲームの評判が『下手なエロゲよりエロい乙女ゲー』というものだ。なにしろこのゲームは有名なエロゲ会社が作成したものなのだが、それだけあって作り込みがすごいのだ。エロいシーンの!

 主人公と攻略対象なイケメンとのシーンもそうなのだが、中でも見所が、主人公に対して妨害を仕掛けてきた王太子の婚約者だった侯爵令嬢を初めとする所謂悪役令嬢達が攻略対象から主人公をいじめたと言うことで断罪された後のエロシーンである。


 ある者は修道院に入った先で司祭のオッサンから犯されたり、またある者は家を放り出されて山賊に犯されたり・・・取り敢えずそんな感じの陵辱シーンが滅茶苦茶多いのだ。流石は、元々名高い陵辱ゲーを数多く世に送り出した会社だけはある。

 その中でも裏の主人公とすら称されるほどの評判のキャラクターが王太子の婚約者であったエルフィーヌという侯爵令嬢だ。金髪立てロールな美少女で、勝ち気が強くて「オーッホッホ」と高笑いするといういかにもお嬢様なお嬢様である。ゲームにおけるラスボス的存在であり、妨害の仕方も半端ではない。

 これまでの令嬢が水をぶっかけたり、礼儀に対してケチ付けるとか言う子供じみていたものだったのに対して、このお嬢様のやり方はなかなかぶっ飛んでいた。遠距離から狙撃して主人公の脳天をぶち抜こうとするわ、暗殺のために特殊部隊を送り込んでくるわ、婚約破棄の場でピストルぶっぱなしてシャンデリアを落として主人公を王太子諸共圧殺しようとするわ、最終的には反乱軍を率いて王宮を炎上させるわ、ガチでしたよ本当。何度バッドエンドになったことか・・・

 ただし、その分彼女の末路には力をいれられており、10以上のルートがある。その大半が処刑エンドで、反乱や王族の暗殺未遂と言うことでギロチンで首チョンパされたり、魔女呼ばわりされて火炙りになったり。そのルートも直前に牢屋で兵士達から美味しく戴かれるシーンがある・・・とまぁ、こんな感じの救いのない終わり方をする。バッドエンドでもルートによっては処刑されるし・・・救いがあると言われたのが、難易度が一番高い逆ハーエンドで、他の攻略対象の婚約者達と一緒に纏めて修道院にぶち込まれて司祭その他から陵辱を受けて孕まされた挙げ句全員でアヘ顔Wピースをキメるルートだったりするものだから、お世辞にも救われたとは言えない。

 そんなゲームな訳だから、本来のターゲットだった女性の顧客からは殆ど買って貰えず、男性顧客からの注文が殺到するとか言うなんかよく分からないことになってたりする。ちなみに私もその一人だった。いや、流石に生首がゴロンと転がったり血がブシャーッと飛び出したりするグロシーンは飛ばしたけれど、その他のエロシーンには本当にお世話になりましたよ・・・いやマジで。

 なお、あまりに馬鹿売れしたため、製作会社は第二弾の開発を決定している。ちなみにそれは純粋な男性向けエロゲにするらしい。



 では、もうそろそろ私の名前を紹介しよう。エルフィーヌ・ド・ラ・ルシエール。ルシエール侯爵家の次女で、このゲームで断罪される王太子の婚約者だよクソッタレ!それが分かったのが記憶が戻って半年後のこと。王太子と初めて顔を合わせたときのことだった。なにしろゲームで同じ名前だったし、偶然ってあるもんなんだなぁ・・・と思いながら会ってみたら本当に瓜二つのそっくりさんでしたよ・・・。ちなみにそいつが私にあった瞬間なんて言ったと思う?

「貴様が俺の婚約者か、もう少し期待していたんだが・・・まぁ、いい。女よけに使ってやる」・・・第一声がそれだぞ?

 普通、婚約者に対して駆ける声ではないわな。そういう奴だから、正直、一緒にいたいとは思えない奴だったな。ゲームでも俺様系だったし、わかり合える気が全くないわコレ・・・何?四六時中こんな奴と一緒にいなきゃいけないの?そりゃ愛人の一人も持ちたくなるわな


 ネットに転がっている悪役令嬢ものならば基本そのチート能力を発揮して最終的に広いと恋に狂った王太子をザマぁするものらしいんだが・・・魔法もない、格闘技能もない、農業経験もありゃしない元オッサンに何を期待しているんだ?ついでに、しがらみその他で雁字搦めな上に家族とかの関係で貴族社会というものに辟易していたと言うこともあって、このままやっていける気は全くなかった。

 

 そして、8歳になるちょっと前に、私は一人で家出することにした。それが大体10年くらい前のこと。ちゃんと『貴族でいるのに疲れました。探さないでください』って置き手紙も書いたから多分、完璧だったと思う。

 







 それから1ヶ月くらいかな?あちこちさまよい歩いた挙げ句、空腹で死にそうになっていたところを丁度、東方の植民地に行くって言う船の船長で船員を募集していたオッサンと出会い、何とか船員として雇ってもらうことができたんだ。同情を買うために親は両方とも死んじまって、借金抱えていくところがないって嘘付いたんだけどな・・・で、一番下っ端の船員・・・所謂、火薬運びとして働くことになった。名前も男風にエルリック・ロワルって名乗ってな。


 で、船に乗ったはいいが・・・うん、すぐに時分の考えの甘さを呪ったよ。船酔いは勿論していたんだが・・・この時代の船は帆船なんだが・・・そこでの仕事は基本4時間ごとの1日計12時間労働なんだ。で、甲板を掃除したり、帆を張ったり畳んだりするためにいくつものロープを引っ張ったり緩めたり、帆桁を回すためにキャップスタンって言うのを10人くらいで回したりとひたすら体力仕事だった。・・・休憩時間中にも無数に雑用がある。例えば古いロープをほぐしてまだ使えるところを集めてより合わせて新しいロープを作ったり、帆布を繕ったり・・・そんなわけだから余計なこと考える暇なんて無く、船員達からトロイとか鈍くさいとか怒られたり、お世辞にも上手いとは言えない料理を腹の中に放り込んで、フラフラになってハンモックに転がり込んで眠る・・・そんな風に過ごす毎日にだった。途中で降ろしてくれと頼んだところで降ろされた先は言葉もマトモに通じない外国となった以上は我慢して働くしかなかった。


 それでも、1ヶ月もしたらその生活には慣れたな。最初の頃は船酔いでまるで使い物にならなかったけれど、2~3日もすればすっかり慣れてしまってな。一月後にはロープの結び方も憶えてマストに登るようにはなっていた。高いところは怖かったんだけど何回か登るウチになれてしまった。


 3ヶ月もすると給料が上がった。どういう訳か分からないんだけれど、船乗り達がバタバタと倒れてな。同じく火薬運びをやっていた少年水夫達も病気かかって倒れていった。不思議なことに病気になった奴は皆歯茎がぐらぐらになっていた。私はどういった訳か病気にはならなかった。変わったことと言えば、腹減ってたまらなかったから鼠を食ってたくらいだけど・・・で、船員がたりなくなった上に、マストでの仕事ができていたこともあって、ケロッとしていた私は水夫に昇格させて貰えたんだ。ちなみにその後、そう言えば、ビタミンが不足してたら病気になりやすいって言うのを思い出して、船長に頼んでレモンを大量に仕入れてもらったんだけど、その後は同じ病気を起こす人はいなかった・・・よかった。

 

 そうこうする内に出港から8ヶ月後、船は東方にたどり着いた。私が乗ってきた船は、このまま貨物を積み込んで元の港に帰るんだそうな。半年以上暮らしたと言うこともあってそれなりに愛着はあったものの、故国に帰って連れ戻されるなんて事はいやだったので、船長に頭を下げて船員を止めさせてもらうことにした。その時、給料って事で銀貨の入った袋をもらった。後で見たら一般的な熟練水夫と同じくらいの給料だった。ありがとうございます船長、貴方のことは忘れないと思います。






 こうして、船長達と別れた私はこの海域を中心に活動する近海貿易の商船を何隻か渡り歩いていった。この頃にはマスト登りとかの腕もそれなりになっていたこともあって普通の水夫として雇ってくれていた。やっぱりアレだ。手に職持っていたら強い。その内に、航海術のやり方も勉強するようになった。現代ならば商船学校で習うものなんだけれど、この世界にはそんなものはなく、航海士に弟子入りするしか方法はなかった。航海士になったら給料も段違いになるし、何より格好良い!風と方角を読んで船を指揮するなんて最高じゃないか!

 

 と言うわけで、私は少ない休み時間を利用して航海士に弟子入りして方位測量などの航海術を学んでいった。こっちに来てから2年後、私は何とか一人前の航海士として認めて貰えるようになった。そうしてまた私は船から船を渡り歩く生活を続けた。航海士になると生活にもあまり困らなくなったし、いつしか故国での状況なんて興味を持たなくなってしまった。実際問題、この辺りまで実家の手が及んでくるとは考えにくかったし、なによりも今の生活に満足していた。怖いのは海軍の軍艦からの強制徴募と嵐、そして海賊くらいのものだ。

 

 

 こうして、色んな経験を積んだ私だったのだが、東方にやってきてから5年後、私がある船で航海士をやっていたときのことだ。その船の所属国で戦争が勃発したらしく、本国に帰還しないといけなくなってしまった。ちなみにその国は私の故国の隣国だった。幸いにも故国は中立だったため、私が船を降ろされることこそ無かったが、本国まで航海士として乗ることにになった。さすがに6年ほどもたったんだ。多分大丈夫だろうという思いもあった。その後、船は何度か敵の襲撃を受けつつも他の船と協力して撃退することができた。ただ、無傷というわけではなく、嵐や戦闘で失われた船もあった。


 そして、ようやく私達は本国に着く手前で敵の艦隊と出会ってしまった。一応、護衛艦隊とは合流できていたんだけれど、敵の方が数も多かったし、船も大型のものが多かった。そしてなによりも、こちらは途中襲撃を受けつつの長期の航海で疲弊している上に、護衛の軍艦がいるとは言え、武装商船を中心にしたこっちの艦隊よりも敵の方が指揮系統もしっかりしていたし、大砲の数も多かった・・・と言うわけで、ボコボコにされました☆


 私の船は一応、他の船に比べて大砲が多かったから護衛艦隊に編入されていたこともあって、戦闘に参加したんだけれど、途中で弾切れを起こしちゃったんだよね。というか、私達と一緒に東方からやってきた船の殆どは弾切れを起こして戦列を離脱せざるをえなかった。で、そんな隙を敵が逃すわけもなく、全力で追撃されたんだよね。私達は取り敢えず船団からこぼれた船を守りつつ、護衛の主力部隊から離れて、手近な港へと向かった。私の生まれた故国の港だったけれど、そんな事を考える暇なんて私にはなかった。なんとか数十隻の船と一緒に港に逃げ込めたのは良かったんだけど、案の定港は封鎖されてしまった。私達は港の総督に現状の説明に向かったんだけれど・・・港の総督は・・・私の家の二番目の兄貴だった。







 取り敢えず他人の振りしてしらばっくれたらなんとかなるかな?と思ったんだけど、別にそんな事はなかった。現実は非情だったんだよクソッ! あの野郎、私を見たとたん部屋に監禁した挙げ句に親父達に連絡しやがった・・・もう7年近くたってるんだからもう縁は切れただろ!とかいった感じのことを言ったのだが問答無用で実家に連れ戻されました。

 

 こうして、家にドナドナされた私を待っていたのは両親だった。母者からは家の恥とかなんかヒステリックなことを言われて、父者からは王太子との婚約がおじゃんになったとか言われた・・・ちなみにこの時まで時分が王太子との婚約者だったことを完全に忘れてました!というか、あのクソガキとの婚約無くなったのか・・・じゃぁこの家にいる意味私には無くないか?ということで親子の縁切ってどうぞと提案したんだけれど、行き先は修道院でしたよ!まさかの司祭ENDですか!?



 


 と言うことでめでたく司祭ENDが決まった私は早速山の中の修道院にぶち込まれることになり、数日後司祭達が手を出しに来たのだけれども・・・その、普通に返り討ちにできました。こちとら7年近く船に乗ってたんだ。海賊や敵の海軍からの襲撃を受けたことだってあるし、酒場で乱闘をやったこともある。山ん中でやらかした貴族の子女をつまみ食いしているようなモヤシに負けるわけがない。ちなみに、度数の高い酒をのまして酔わそうとしていたようだが、船で普通にラムや椰子酒をストレートで呑んでたから全然酔えなかった・・・で、むかつくので取り敢えず瓶で相手の頭をこづいて脳振騰起こさせた後、お返しにとケツと口に酒を注いでやったら全員見事にぶっ倒れやがったので、ロープで亀甲結びに縛って礼拝堂に放置しておいてあげた。全裸で。・・・それから数ヶ月後、仲良くなった修道女と酒盛りしてたら血相変えた父者と兄貴がやってきた。 



 何事かと思ったら海を挟んだ国と戦争が勃発して緒戦で海軍が壊滅してしまって士官不足だからお前も軍艦に乗れって開口一番に言われた。戦争が勃発したのは知ってたけどそんな事になっているとは知らなかったが・・・何?数ヶ月前に家の恥部扱いしてぽいしたのに突然必要だからって軍艦に乗れですか?手のひら返すの早すぎませんかねぇ?


え?戦争に負けたらウチが新世界の植民地に持っている砂糖プランテーションの利権がなくなる?


父者か兄貴がが傭兵雇って守りに行ったらどうですかね?と言うか私はそもそも商船乗りですよ?そりゃ砲戦の指揮は執ったことありますけど、正直他のベテランに任せた方が良いですよ?


え?国の慣例で士官は貴族しかダメ?後うちにも兵役あるから?知らんし。


この戦争が終わったら、荘園くれてやる?もう私に干渉しない?ん~だったら悪くないですねぇ。正直修道女としての暮らしも飽き飽きしてたし船にも乗れるんですよね?・・・・・・ならばよし!




 ・・・大体こんな感じで私は今、戦列艦テルミドール号で士官をやっている。当たり前かも知れないが一番最後任です!・・・なんというか、我ながら無茶苦茶な人生だと思う。

 しかし・・・戦況を見る限り圧倒的に味方は不利だと言えた。そもそも官邸数は敵の方が多かったし、現在進行形で味方の艦隊は乱戦の最中であり、とてもじゃないが他の艦艇の救援を受けられる望みはない。この船もマストこそ無事ではあるけれど、ホモボロボロだ。敵の片舷斉射とそれまでの戦闘で3分の2の乗員が死傷している。そして、こっちに砲弾をぶち込んだ敵は一端こちらの射線をかわし、再度攻撃を掛けようと・・・今度は艦首砲口から砲撃を駆けるつもりらしく下手回しをしようとしている真っ最中だった。


 私は最上甲板で艦長と一緒に艦尾で戦況を見守っていた。一般的に、最後任の士官は旗艦等の信号を読んで判断する信号係で、その関係から艦長の傍らに立っていなければいけない。ちなみに上甲板はマスケット銃の標的になる事が多いこともあり、ここに配置された士官は良く死ぬことで有名だった。父者は私を抹殺しようとしているのかも知れないと邪推せざるを得なかった。

 そして、砲撃を受けたとき、案の定マスケットやらの攻撃を受けることになったのだが、その時に艦長は銃撃を受けて倒れてしまった。次席である副長は砲撃を受けるちょっと前に流れ弾を受けて下に運ばれている。

 ちなみにさっき操舵手とその周りの兵士達も纏めて吹っ飛ばされたので、現在私が傍らにいた航海長と二人して舵輪を握っていたりする。生き残りでいるはずの最先任士官待ちだ。そいつは私と一緒に乗ってきた若い士官候補生に探しに行ってもらっている。それまで私がやることは再度攻撃を掛けようと回頭しつつある敵から逃げることだ。


 て、士官候補生が戻ってきたな。あれ?一人だけ?どうしたの?・・・え?みんなさっきの砲撃で死んだ?艦長は重傷?ちょっと待てじゃぁ、生き残りの最先任士官って私か!?何?半年前まで商船の航海士だった奴に軍艦の指揮を執れって!?・・・割とマジでどうしてこうなった。







 ・・・そういう訳だから、神様よォ、もしもお空の上で見守っているんなら一言言わせてほしい。



 「私何か悪いことしましたか?」



初めての人は初めまして、そうじゃない人はお久しぶりです。

別府造船が進まないので、スランプ解消を含めてとりあえずずっと書きたいな~と思っていた悪役令嬢モノと海洋冒険小説のどっちを書こうかと友達に相談したところ「どうせなら一緒に纏めてしまったらどうや?」と言われたので書いてみたら・・・うん、こんな感じのよく分からない奇怪なゲテモノができましたよ・・・

流石に反省はしていますが、割と後悔はしてなかったりします。

強引に短編に纏めたところ、アラが酷いことになっていますし・・・もう少し推敲した方が良かったのかもしれませんが・・・取り敢えず練習用としてあげてみました。

需要とやる気が起きれば作り直して長編にするかも知れません。


一応、時代背景としては17世紀末~18世紀ごろを想定しています。丁度ルイ14世~15世くらいの頃のフランスをモデルにしていますが、欧州の勢力図は我々の知る歴史とは同じかも知れませんし、そうじゃないかも知れませんが、文化的要素としてはそれほど変化はないと思いますので、取り敢えずベルサイユのばらとかのちょっと前だと受け取ってください。

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― 新着の感想 ―
いや、コレおもしれーわ。 ぜひ長編で!
[良い点] 色々混ざってて,カオスなことになってますが,導入として惹きつけられる展開で逆にいい感じになってる気がします.(小並感) [一言] なかなか斬新な設定で読んでて楽しかったです.最後の最後に最…
[良い点] なかなか見ない切り口で、良い意味で意表を突かれました。 これはあれですね。 転生したらジャンヌ・バレ(女性初の世界周航者)だと思ってたらジャン・バールだった件、みたいな(謎)。 […
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